母が歌う理由。
母(おかあ)は、舞台人だ。
物心がついたときから、歌う人だった。
おかあの専門はオペラなので、ロマンチックな歌を歌うことが多く、はじめて『アモーレ』と歌うシーンをみてわたしは驚愕した。
!!
あもーれ、とな!!
話は変わるが先日帰省をした。
妹は、どうやら彼氏ができたようで、付きあいたてほやほや、熱々のカップル。朝まで花火をしたというエピソードをぶっこんできた。まさに、アモーレ現役世代といったところか。
わたしはというと、結婚6年が経ちアモーレを少しかすったりかすらなかったり、な日々を過ごしている。
『おかあ、〇〇ちゃん(妹)彼氏と朝まで花火やて!』
とわたしがちゃかして言う。
母はいう。
『………おかあも、(父親と)花火しよかしら?』
そして父親との花火を想像した寸劇をはじめる。『あのとき、15年前の盆休みに、おどれ(お前)がいうたこと、覚えとるやろの?』と、どすが聞いた声で父親との花火をシュミレーションしていた。
花火を持つジェスチャーをしながらニヤッとしたが、完全にその姿は爆弾を持っているようだった。
舞台に立つ人というと、現実世界でもはげしく燃えるような恋をしたり、どこか浮足立っているような優雅なイメージがあるのではないだろうか。
母は、花火持って父親をガン詰めする気やったらしい。
そんな母だからわたしにとっては『おかあ、ようそんなんでアモーレ言えるな!!』なのだ。
すると彼女はいう。
『いっつも、アモーレ言うとる人はアモーレ言わんでええやろ?』
え?そうなん?
『普段アモーレがないから、舞台でアモーレを補給しとんや。』
アモーレって補給制なん?(笑)
彼女の普段はtodoが多い。スケジュールは分刻みのリアリスト。だからこそ夢を食べる。舞台上では思いっきり想像力を働かせて、恋に生き、恋に狂う女性を演じる。
そうやって、今日もおかあはアモーレを補給しながら現実世界をのっしのっしと生きているのだ。
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