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ショートストーリー【風船のふくらみ】


【風船の膨らみ】 ーぽん太とハルと ちゃーちゃんと。


僕が生まれる前からずっとママの傍にいたぽん太。
僕がママのお腹の中にいる時から
ぽん太が くぅ~んと僕とお話していてくれた。

そのぽん太の鳴き声が 今すぐ消えちゃいそうで寂しいんだ。


ぽん太がずっとご飯を残しているってママが心配してから
そんなにたっていないのに、
ぽん太はベッドでまぁーるくなって
僕がお散歩に行く前も 帰ってきてからも
そこで、じぃーっと寝ている様になった。

「ぽんた?」

話しかけるけど、
目を開けて僕を見て笑うだけ。。。

「ぽん太…ボールであそぼうか?」

なにも言わないまま ただじぃーっとしてる。
何も言われないのも寂しくて、ぽん太の目の前に顔を突き出して
待っているけど、足がぴりぴりしびれるだけで
ぽん太の目も開かない。。。
どうしていいか分からなくって、涙が出てきて
腕でごしごし涙を拭いた。

「ぽんた。。。げんきだして。。。」


僕は 思いっきり息を吸い込んだ。

まぁるくなる ぽん太のお腹に顔をつっこんで

思いっきり息をふぅーーーーーーっとふいた。

ふぅーーーーっ。
ふぅーーーーーーーっ。
ぶぶぶぅーーーーーぅっ。


***********

娘が学生時代に ずぶ濡れになって帰ってきた。
傘は持って行ったはずなのに、
髪をぐしょぐしょにして 帰宅した。
ジャケットの下から 泥だらけの子犬が顔を出すと
「お家についたよ」と玄関にできた水溜りで娘は笑った。

ぽん太はその日から うちの息子入りをした。
ぽてぽてと歩くぽん太
ごろんとお庭に寝っ転がるぽん太
ご飯の時によだれがたれちゃうぽん太

愛犬ぽんたは我が家には欠かせない大切な家族になった。
娘がお嫁に行き、ぽん太も一緒に婿入りし
孫のハルが産まれると なんちゃって父親代わりをしていたり。

そんな大事な大事なぽん太の「ぜんまい」は
カチッカチッっと音を立てていた…
誰にもどうしようも出来ない 命をつかさどるぜんまい。。。

。。。。。。

ハルが ぽん太の脇に 四つん這いになって
ふーふー ぶーぶー言っている。
ぽん太のお腹に顔をうずめて ふーーっというと
顔をあげて はぁーーーっと大口を開けて息を吸い込んで
またぽん太のお腹に顔を埋める。。。

何をやっているのだろう。。。

ハルも なんとなくぽん太との別れが近づいている事を
幼心に悟っているような気がしていた。

「ハル?何やってるの?」出来るだけ優しい声で語り掛けると

「ちゃーちゃん…」私の声に涙目で 振り返るハル。。。

「ぽんた…しんじゃうの?」

この子は ちゃんと感じているんだなぁ…。

「ぽん太はね、おじいちゃんよりも もぉーっとおじいちゃんなんだよ」

ハルは目線を落とし、床を少し眺めながらぽつっといった。。。

「風船だったらいいのに…」

「ん?風船?」

「ぽん太が風船だったら いいのにって思ったんだ。」

「ぽん太が?」ー ぽん太が風船?

こくっと頷くとハルは 私を真っすぐ見ていった。

「ぽん太が風船だったら…

    ふぅーってふくらませば元気になるでしょ?」


ハルは元気のないぽん太の風船を
一生懸命に膨らまそうとしていた。。。

それを知った時、胸がぎゅっと締め付けられた。

言葉を失って ぽん太に目をやると、
ぽん太が片目を開けて、私に”ちゃんと膨らんでるよ”と教えてくれた。。。


それから数日後…
ぽん太は家族全員に見守られる中、安らかな眠りについた。

ハルは顔をぐじゅぐじゅにしながら泣いていた。
縁側に行き、ぽん太のお散歩綱を握りしめながら、
ぽん太の名を呼んでいる…

ハルを見ている私の背中がぽぉーっと暖かくなって、
ふと振り返ると 安らかに笑うぽん太が そこにいた。

「うん、ぽん太。ちゃんと伝えるよ」

そっとハルのもとに近づくと
振り返り、わぁーっと私のお腹に泣きついてきた。
ぎゅっとしがみ付く小さな手が小刻みに震えていて
全部包み込んであげるように精一杯 ぎゅーっとハルを抱きしめた。

「ぽんたに いっぱいいっぱい フーフーしたのに
ぽんたのふうせん、膨らまなかったぁーーー!!」

喉の奥まで見えるくらいに大きく開かれたハルの口に
大粒の涙がわんさかと流れ込む。

「うん。いっぱいいっぱい膨らませたね。」

「元気にならなかったぁーーー!!!」

そう泣き叫ぶハルを見ていると 自分の顔もくしゃくしゃになる。
すると また 肩のあたりが ぽぉーっと暖かくなった。。。

…うん、ぽん太。

「ハル…ぽん太がね。言ってたの。」

ひくひく うっうっ とすすり泣くハルの耳元に囁いた。

「ぽん太ね、ハルに”ありがとう”っていってたよ
心の風船がね、ハルの優しさでいっぱいいっぱいに膨らんだんだって。」

すすり3回に 大きな息を1回 はぁーと吐いて

「こころ…のっ、 ふーせん?」

「うん。心の風船。」

「ハルの思っていた通りね、みんな風船でできているんだって。
その風船は 優しさや 嬉しさで膨らんで
心を元気にするんだよ

ぽん太の心は ハルがフーフーしてくれたから、パンパンに膨らんだんだって。」

「ほんと?」
鼻水と涙 なにがなんだか分からない程のびしょ濡れの顔でハルが聞いた。

「本当だよ。ぽん太、ハルが心の風船膨らましてくれたから
笑ってお空まで飛べるって言ってたよ。」

「ぽん太のお顔…ほら、笑っているでしょう?
今頃 風船もって たかぁーくたかぁーーーく お空飛んでいるはずよ。」

ぽん太の方に目をやったハルは ぽん太の名を叫び また大きな声をあげて泣いた。


うちの子になった日も どしゃぶりだったね ぽん太。
”おうちについたよ”

やっとお空のお家に着いた日は
ハルと家族の 優しい涙のどしゃぶり日和だね。

ねー ぽん太。


。。。。。。

ぽん太のお墓は私のおうちの裏庭にした。
小さな墓石にはハルが削り書いた「ぽんた」の文字が刻まれている。
今日も晴れたねぽん太…毎日ぽん太の墓石に語り掛けている。

「お母さん、麦茶~のませてぇ。暑くて死にそう」
娘はたまに ふと実家にこうして遊びに来る。
二人でお庭のベランダで座りながら ぽん太のお墓を見つめ
母娘の会話をするのが私は好きだ。

「最近疲れているんじゃない?なーんか疲れたって顔してるよ」

「ん?お母さんはなんでも分かっちゃうの?」

ふふふと笑うと 娘もくくくと笑い出す。

「ちょっと仕事でへこんじゃうことがあってね」

そういうと、娘はじっとぽん太のお墓を見つめながら、そういえばと思いついたように あっ と声を漏らすと

「そういえばさ、お母さん ハルと何か秘密事 私に隠してない?」

「んーーー、、、覚えはないけど、どうして?」

本当にハルと内緒の約束はした覚えはない。

「ハルがね、最近私のお腹に顔くっつけて ふーーーってするんだよ」
「なにしているの?って聞いたらね、
”ちゃーちゃんと ぽん太との秘密なんだ”って。
でも、すっごく嬉しそうにフーフーするの」

あっ、、、思わずにやけてしまった。

「あーーお母さん やっぱり何か知ってる!!」

「ふふふ。ハルと私とぽん太の内緒のおまじないだよ」

そういうとパタパタとハルが奥の部屋から駆け出してきた。

「ちゃーちゃん 秘密だよ!!!」

「ママに内緒なのずるいじゃない」娘はぷくっと膨れて見せる。

「ふふふ。ハルがふうーってすると どんな気持ちになった?」
問いかけてみると

「うーーーん。。。あったかくって、くすぐったくて…
笑っちゃう?」

見合わせたハルの顔が ぱぁーっと明るくなって、
ハルがおもむろに内緒話の姿勢で 私の耳にそっと呟く。

「ママの心の風船がいっぱいになったんだ!!」

二人して、うんうん言い合うと、

「もぉ ハルとお母さんだけずるぅーいってば!!!」


ケラケラ笑う私たちを 
お庭から ぽーっと暖かい光が見守っていた。




おしまい。


【あとがき】

今回はノートお友達である安部由美子さん…の、お孫さんの素敵な言葉と感性をもとに物語を作らせていただきました:)

「ちゃーちゃん」とお孫さんに呼ばれている安部さん。
「ちゃーちゃんが風船だったらいいのに…。」

子供の発想や感性は 時折大人の想像をはるかに超えて
純粋で 真っすぐで これでもかと言う程の愛が溢れています。
ちゃーちゃんのお孫さん…「はる君」の言葉は
まさしくそんなピュアな愛の塊なんだと思います:)

人の命の風船は 膨らますことが出来なくても
心の風船は 優しさや喜びでいっぱいにすることが出来る。
風船がいっぱいになったら
その風船を片手に 大空へ笑いながら飛べるのではないのかなと
そう思っています:):)
大切な家族。
愛する人たち。
大事な仲間。
道で見かけた野良猫でも、一度しか話したことがない人であっても…

お腹にふーっとしなくても、
心の風船を膨らましてあげる事は出来るんです。

誰かの風船がしぼんでいたら…

「はる君」のこの言葉を思い出して、
一歩歩み寄って 貴方の言葉や思いやり溢れる態度で
心の風船を膨らましてあげてください:)

きっと、あなたの風船が小さくなった時に、
必ず誰かが ふーーーーっと風船を膨らましてくれますから:):)


安部さん、ハル君。素敵な言葉を届けてくれて
どうも有難う:):)
これからも、二人が…そして「ママ」も一緒に
ずーっと心の風船をパンパンにしながら笑い合っていけます様に:)


安部さんは葬儀業司会の講師をされていらっしゃいます:)
ハル君も そんな安部さんの心を受け継いで優しく感性豊かなお子さんに育っているんですね:):)

そしてこの物語…もう一人のお友達…素敵なご活動をされているずうっとさんの 虹を渡るペットたち。彼女の活動の元である 「愛犬」もイメージさせていただいたんです:)

人も動物も みんなみーんな風船をもっているから。

今日もあなたの心の風船がパンパンに膨らんでいます様に:):)!!

七田苗子。




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