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お花を摘みにきたの

私はこう見えて、花が好きだ。
といっても花の名前に詳しいわけでも、花を上手に生けられるわけでもない。ただ気に入った花を買っては、お気に入りの花瓶に飾る程度だが、それでも独身の頃から部屋に花を欠かしたことは無かった。

今の時代、ブリザードフラワーやハーバリウムなど、手をかけなくても生き生きとした美しい花を飾ることはできるが、私はやっぱり生花が一番好きである。

毎日水をかえないといけないが、手間をかけるからこそ愛情が湧く。
いつかは枯れてしまうが、だからこそ命あるものは美しい。

まぁそんなライトな花好きだった私だが、出産してからあまり花を買わなくなった。色々な意味で、花に費やす余裕が無くなったからだ。

しかし娘が2歳を過ぎた頃から、花に興味を持ち始めた。
「どのお花にしようかなぁ。」
店頭で色とりどりに咲く花を見て、ワクワクしながら選ぶ娘。その中で1つ、自分が選んだ花を買って帰る。私が花瓶に入れて飾ってやると、「きれい!」と目を輝かせて喜ぶ。

花屋だけではない。娘は散歩に行っては、色々な花を摘んで帰ってくる。初めて花を摘んできたのは、私が風邪で寝ている時だった。

「お母さんのために取ってきたよ。」
小さな手でギュっと握り締められた花はヨレヨレになっていたが、娘はキラキラした笑顔で嬉しそうに渡してくれた。

「わぁ!ありがとう!お母さん嬉しい!」
ぐったりした花を受け取り花瓶に飾ると、1時間も経たないうちに元気を取り戻す。なんと力強く、なんと健気なことよ。その生命力に驚かされた。そして誰かを思い、誰かのために摘んだ花は、何て人を元気にしてくれるのだろうと思った。
私が喜んだことが嬉しかったらしく、この日以来、娘は出かけるたびに花を持って帰った。

先日、娘と散歩をしていたら、いつものように花を摘み始めた。
河原には土筆が顔を出し、菜の花が所々に咲いている。
「春だなぁ。」
私も一緒に摘んでみた。
花を摘むなんて、何年振りだろう。
子供の頃は、私もよく花を摘んだ。しかし大人になってからは、花は『買うもの』になっていた。

花を摘むって、なんか楽しい。
久々に味わう感覚だった。

私はふと、独身時代に連れて頂いた高級料亭を思い出した。料理の器に飾られた葉っぱがとてもお洒落だったので尋ねてみたところ、
「この葉は全部、私が見つけたものなんです。」
と答えが返ってきた。
その料理人さんは、毎朝、器や料理に合いそうな葉っぱを探しに公園へ出かけるとのことだった。
私はビックリした。これほどの高級料亭なら、さぞかし高級な葉っぱ(そんなものがあるかは知らないが)を買っているのかと思いきや、拾ってきた葉っぱを使っていたのだ。そしてその葉っぱが、実に粋で素晴らしかった。

葉っぱを拾ったり、花を摘んだりすることなど、どうってことないことだ。でも、そこには大人になると忘れてしまいがちな大事な感覚がある気がした。いつしか『花は買うもの』と思うようになっていた私だが、娘のおかげでそれを思い出させてもらった。

娘と一緒に摘んだ菜の花は、今日もテーブルを明るく彩ってくれている。
また娘と一緒に、花を摘みに行こう。

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