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「シャポシュニコワは、いつも哀しい瞳をしていた」Vol.3

~ラジオドラマ風、ボーダーレスなSTORY~
Vol.3 Memories of Once on That Days

#創作大賞2023 #恋愛小説部門

Vol.3

 眼を覚ました時、すでに陽差しは高い所から照らしていた。おもわず、左手を眼前にかざす。

 静かな浜辺だ。
 日本人が集まる繁華街からは遠く、南九州にさえ育たない、背の高い木々。

 「冬」という季節が、ない。
 タイフーンに似た嵐は、季節の変わり目にやって来るけど、「雪」を観たかったらハワイか、少し緯度が北方のアジアに戻らないと、冬らしい景色などない。
 湯船に浸かるのが好きな私も、ここサイパンに居ると、シャワーのみ。

 今日も、クヒナさんの料理を食べに、ランチに行こう。
 そしてベンさんに訊きたい事が、ある。昨日渡された、あの手紙のこと。


 アラフォーで結婚する前、私は川崎に住んでいた。
 都内の本社と、横浜の管轄店舗数軒を行き来する生活をしていた。いわゆる、アパレルのエリア・マネージャーという職種だ。
 川崎市は、都内と横浜市に挟まれた地点に在り、生活圏で何でも事足りる都市でもあるから、永らく暮らせたのだ。

 入籍後、夫婦暮らしを始めても、生活パターンは変わらない。というか、会社での自身のポジションをその後に残してからでないと、結婚はしたくはなかった。
 〈Wインカム・NOキッズ〉というライフスタイルは、高校生の頃から憧れてもいたが、その肝心のパートナーと住む地域だけが、全くの誤算なのだった。

 元カレと別れを告げてから、4年近く経った頃。
 昔から知っているBFと、ひょんなことから付き合い始めた。短いけれど、とても幸せ感を味わえた数年で、その幸せな時間の感触だけが、今も残っている。
 以前の元カレとの想い出と云ったら、辛い思いしか記憶に残っていない。


 元カレに対する恋愛感情に比べたら、全く、色気よりも友人や同志の居心地好さばかり優先するような感覚しかないのに、やたらに幸せ感じる毎日で、そんな自分も好きに成れていた。
 仕事運も相乗効果で、上昇気流に乗って行った。

 後にも先にも唯一無二な感情の、幸せ感。
 通常は恋心から始まり愛情へと展開していくのが恋愛のセオリーだとすれば、これは恋愛や恋人同士では、ない。そう感じていた。

 あえて言葉で表現するなら、『何やっても憎めない年下の男に、最初っから愛着や信頼があって、その人に時たま恋心が沸いて来る』という感覚だ。
 でも常々は、居心地好くて飾らない仲良し。そんな感じだ。
 恋人というには女心に浸れず、かと言って、セフレというには人間性に信頼を持ちすぎているのだ。

 他人様がなんておっしゃろうと、案外この仲良しぶりが幸せな時間だったのだ。

 

にもかかわらず、私はその全てを保留にしたまま、実家に戻らなくてはならなくなった。

 睡眠不足で不眠症にかかり、身体も壊して、総務人事課が緊急連絡したが最後、強制的に関西の実家へ連れ戻された。
 確かに体重も1年で10㎏も減っていて体力は落ちていたが、人事課は2週間有給休暇で様子をみましょう、と告げていた。その矢先の両親の上京で、全くUターンなど意に反していた。

 血の繋がらない母と、病気がちな妹と、4人で再び暮らすのは、イヤだ。だが父にとっては家族は4名なのだ。
 父の運転で首都高速から、やっとこさっとこやって来た。
 都内の道路初心者の父が首都高速に乗るなんて、ぐったり眠っている場合ではなかった。

 新幹線で来れば〈新横浜〉からすぐ私の自宅に辿り着けるのに!
 ガソリン使って首都高上がるなんて、考えが甘い!

 と、即断憤慨できるほど思考回路は正常だったが、迎えに行く体力も失くしていたのだ。

 運動不足で体が疲れない上に、ストレスで神経が高ぶったままで眠れなくなっていた。神経過敏で衰弱。
 眠れないまま朝が来て、そのまま横浜へ出勤する日々。
 連絡を受けて、慌てて夜通しやって来る老いた両親も、余計に心配事を増やす。

 そんなこんなでBFに連絡も出来ないまま、両親に逆らえずに実家に帰ってしまった。。。


 
 知人の紹介で地元の「フツーの」サラリーマンとお見合い結婚みたいな形で、長かった独身生活は終わりを告げた。

 ハネムーンとも云えない二人旅は、入籍の数年後に配偶者と1週間。それがこのサイパン島での最初の滞在だったのだ。そして2度目は5年前。半年以上住み着いていた。

 今回の、3度目のサイパン島は片道切符で、独り旅。
 いつ来ても、ベン&クヒナさんご夫婦は、変わらない。


 幸せな時間の感触をくれたBFは、その後も逢ってはいる。
 いや、同棲しているような毎日が、突然遮断されて別人と結婚して離婚したインターバルを除けば、今も昔もBFとは仲良し。

 イヤイヤ。仲良しな二人を遮断したのは、あの元カレだけかもしれない。

「あの結婚歴って、NOカウントにしても好い❓」
私が訊くと、それに答えずBFは嘆く。
「俺がサァ、40歳になってやっとこさ迎えに行ったらサ、ミサキの住んでたマンションが、更地に成ってたんだよー!
跡形もなく居なくなってて、浦島太郎よりも大沢誉志幸よりも『そして僕は途方に暮れる。。。』だったんだぞ!?」

 

 で。
 今日は、5年前までを、断捨離できた。
 明日からも、順々にさかのぼって整理しよう。

 何もかもが削げ落ちた時、私には何が残っているんだろう。。。❓
 このサイパン島で、何を見つけるんだろう。。。

 とりあえず、オンライン英会話教室を開こうかな♪♪
 日本語教師でも、やってみようかな♬


ーーー to be continued.

 

ーーー梗概ーーー
 ラジオドラマのシナリオ風に、綴ってみました。サイパン現地での会話は、同時通訳的に和訳も付記しています。
 街中では多言語が氾濫。宗教や民族文化でも、男女間でも年齢や環境でも、個々に多種多様でボーダーレスな社会性。
 現地滞在生活の中で回想を繰り返し、恋愛観結婚観や家族の在り方が嚙み合わない婚姻によって、真実の人生のパートナーを見失っていたと気づく。
 ラストに『謎のMESSAGE』が腑に落ち、永らくの呪縛『シャポシュニコワ』も思い出さなくなっていた。
 二人きりのSWEETS物語ではなく、社会とは切り離せない生活の現実として、読後に何か葛藤や思索が解ければ清々しくって嬉しいです。
                      ーーー 了 ーーー


Vol.1➡ https://note.com/namorada0707/n/nd32fd6393900

Vol.2➡ https://note.com/namorada0707/n/n49eacd3e4506

Vol.4➡ https://note.com/namorada0707/n/n0b0b17845d9d

Vol.5➡ https://note.com/namorada0707/n/n589900b4fe22


Vol.6➡ https://note.com/namorada0707/n/nb99c3e44241c


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