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The Chieftains に惹かれるのは

 アイルランド音楽のバンド、The Chieftains。今年結成55周年を迎えた彼らは、現在日本ツアー中で、最近、新聞やテレビにかなり取り上げられている。まあ、グラミー賞を6回もとっているんだから、当然と言えば当然なんだけれど。

 彼らのライブを見たのは、これが二回目。前回来日した2012年に、たまたまテレビで見て、ライブに行くことに決めて、観てきたら、ファンになっていた。

 イギリスに住んでいたとき、アイルランドにも旅行に行った。夜にアイリッシュパブで、ビールを飲みながら聞いた、アイリッシュミュージックの演奏。アイルランドでは、音楽が、お酒を飲むことのように自然なことなんだ、と感じた。The Chieftains の演奏は、日本で聞いているにも関わらず、あのパブでの演奏を、アイルランドへの旅行を、雰囲気ごと思い出させた。(表題のと、下の写真は、アイルランド旅行のときに、アイリッシュパブで撮った演奏の写真。)

 何が、The Chieftains を魅力的にするのか。一つには、アイルランド音楽、その根底にある「アイルランド」という世界観があるんじゃないか、と思っている。

 「世界観」、というのは、ぼんやりした概念で、たぶん一人一人がイメージする言葉の範囲が違う。分かりやすい「世界観」の理解として、株式会社コルクの、世界観の考え方を引いてみたい。

 コルクという、クリエイターのエージェント業をやっている会社がある。彼らは、「世界観」を頭の中に持っている人を、クリエイターと呼んでいる。「世界観」とは、何か。例えばある漫画の作品がある。その漫画、物語は、クリエイターの頭の中の世界観の、一部でしかない、とコルクは言う。コルクという会社は、その世界観を、物語という形だけではなく、物語が進行している世界の他の部分を、現実に持ってこようとしている。例えば、商品。その世界にある机、椅子、洋服、なんかを、現実の世界に持ってきて、商品にする。例えば、場。その世界の中の場を、現実の世界に再現する。分かりやすいのが、彼らがエージェントをしている小山宙哉さんの『宇宙兄弟』。以前、『宇宙兄弟』の中に出てくるヘアピンが売られていたし、作中で扱われている難病ALSの、治療法を見つけるための「せりか基金」(せりか、は、登場人物の名前)を立ち上げている。それから、『宇宙兄弟』の世界観を実体験できるリアル脱出ゲームもある。

 これが世界観、だとすると、「アイルランド」という世界観とは、どういうものか。

 それは、妖精の国と言われたり、ケルト神話がファンタジー小説、漫画、ゲームに多く引かれたり、それから音楽だったり、そういう文化たちに通底している、雰囲気。エンヤの曲。レプラコーン。ドルイド。少しイメージが湧く人も、いると思う。

 世界中の文化の神話同士が共通点を持つように、人間の根底に働きかけるものが、たぶん、アイルランドの世界観にはあるんだと思う。ゲームの中の、妖精の世界は、妙に懐かしい。

 The Chieftains のライブは、観客を、そういうアイルランドの世界観の中に、引き入れる。彼らは、舞台上で、伝統楽器を奏でる。民謡を歌う。アイリッシュダンスを踊る。55年間リーダーを務め続けるパディ・モローニは、観客に、家でパーティが開かれているような気分になって欲しいと言っていた。その通りに、まず彼ら自身が、自然体。一曲終わるごとに、パディは、Lovely. とか、Beautiful. とか、本当に楽しそうに、言う。彼らの雰囲気、アイルランドに、引きこまれる。

 それから、彼らのライブには、ゲストが多く登場する。今回は、シンガーソングライターの矢野顕子、それから和太鼓奏者の林英哲、他にも何組かをゲストに招いていた。アイルランド音楽ではない、彼らの音楽を奏でるゲストは、でも、アイリッシュミュージックと、非常に共鳴する。観客も、自分はアイルランド人ではないけれど、ゲストを媒介として、引きこまれるのかも知れない。

 極めつけは、The Chieftainsが必ずライブのラストにやる、遊び心たっぷりの曲。定番の?アイリッシュミュージックの合間に、ゲストを含めた一人一人のソロを入れ込む。一人一人が、楽しそうに、主人公をやる。たぶん、あのソロは、素人でも初心者でも、中級者でも上級者でも、プロでも、入れてもらえばとても楽しく演奏させてくれるんだと思う。そういう、全てを迎え入れる楽しむ雰囲気が、ライブを通じて保たれている。

 明日、明後日が、彼らの日本ツアーの最後の公演。まだ、チケットを買えるみたい。

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