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能のすすめ__能楽師による能楽入門

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記事一覧

家から出来ること(能楽師編)

家から出来ること(能楽師編)

能楽師、お仕事できなくなっています。能の公演は2月末から全て中止となり、一対一の対面でするのが基本のお弟子様のお稽古も休止中(謡は結構飛沫飛ぶかも・・)

だいたい日本の伝統文化を担う能楽師というものはネット関係に大変疎く・・大事なのは2年後まで日程のついてる手帳、「再来年の○月○日、○○能楽堂でのお仕事よろしくお願いします」とお仕事の依頼があれば「わかりました ○月○日・・」と手帳に記入しますし

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長い歴史刻む総合芸術守り育てて ①

長い歴史刻む総合芸術守り育てて ①

【鎌倉朝日 2020年3月1日号 に掲載されたインタビュー記事より】

ユネスコ無形文化遺産-「観世流シテ方」とは-

 能という演劇は完全な分業制で役割が分かれています。私はシテ(主役)が持ち役です。シテ方には観世・宝生・金春・金剛・喜多と四流があります。
 能楽師の職制は、シテ方、ワキ方、囃子方(能管・小鼓・大鼓・太鼓)、狂言方に分かれています。ひとりの人間が役を兼業する事は決してありません。

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能を知ろう Vol.8

能を知ろう Vol.8

 いよいよこの連載も最後になりました。今までの記事をお読みになり、能を観てみたいと思った方のために「後悔しないチケットの買い方」で締め括りたいと思います。

 まず、能の公演には「定例会」「別会」「素人会」「薪能」「市民能」等の区分に分けられるかと思います。そこで、初めて能を観る方はとりあえず「初めて能を見たいのですが、面白いですか?」と聞いてみてください。良心的な事務所なら「この日は大丈夫、おす

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能を知ろう Vol.7

能を知ろう Vol.7

 今回は「能面」と関連します「能装束」についてお話したいと思います。能では「衣裳」と言わずに「装束」と呼びます。特別な儀式や宮中で召される衣裳を「装束」と呼ぶと辞書などでは書かれていますが、能装束は江戸時代に武士の式楽となり、将軍・大名が身につけて舞う事から、「装束」と呼ばれるようになったと言われています。

 現代において舞台衣裳は、「遠目で見てそれらしいものを、毎回役に応じて作り変える」という

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能を知ろう Vol.6

能を知ろう Vol.6

 能楽にはさまざまな魅力があります。それは、日本語の美しさを感じ取れる「謡曲」や、ふとした仕草・動きで最大限の表現をする「舞」、最高峰の染織技術によって作り出される「装束」、作者の魂がこめられた最上級の木彫「能面」など、それぞれ一冊の本では収めることのできない程に多種多様で奥深いものです。

 とくに能の代表的な特徴として、「能面」という独得の仮面を使うことが挙げられます。本来仮面とは自分以外の人

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能を知ろう Vol.5

能を知ろう Vol.5

 江戸時代において、能は武士と共に送ってきました。しかし一時は武士専用となった能楽も、江戸後期を迎えますと再び一般庶民も目にする機会が増え、能を学ぶ事が一段上の教養として扱われるようになったそうです。
大店の主や長屋の大家などが婚礼の場で小謡を一節謡えば賞賛され、宴席で余興に小謡を謡って次々に指名して違う小謡を謡い続け、続けられずに謡えない人は罰として一杯飲まねばならない、などという事もあったよう

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能を知ろう Vol.4

能を知ろう Vol.4

 徳川家は「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥」(徳川家康)の和歌に象徴されるように温厚で保守的でした。そのため、秀吉ほど能が大好きと言うわけでは無かったようですが、豊臣の遺産である能楽を切り捨てるような事はせず、「観て楽しむ」ものとして庇護し続けていました。そんな中、三代将軍家光が「参勤交代」を始めた事で能楽は大きな転換期を迎えます。

 それまで諸国に散らばっていた大名を江戸城に呼び集めた徳川家にと

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能を知ろう Vol.3

能を知ろう Vol.3

 足利氏の庇護により大きく成長した能ですが、「目新しさを追い求める」という芸能の宿命からは逃れられず、作品は変化を続けていきました。

 武士が支援者になった頃、日本は禅宗の「侘・寂」といった、静かなものが美しいという美意識がもてはやされた時代でしたので、演出的に「静的な美しさ」を求めるような作品が増えていきます。この頃に人気を博した能の作者が、義満の寵愛を受けた少年“鬼夜叉”の成長した姿、“世阿

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能を知ろう Vol.2

能を知ろう Vol.2

 第二回目の連載では能楽の成り立ちについて掘り下げていきたいと思います。
 興福寺で興行を行っていた四つの座、結崎(ゆうさき)・坂戸(さかど)・外山(とび)・円満井(えんまい)が現代の能楽シテ方(主役を務める)四流【それぞれ、観世流、金剛流、宝生流、金春流】の祖となっています。

 その一つ結崎座が私が所属している観世流のご先祖であり、その座長・観阿弥清次が教科書などに「能を大成した人」と書かれて

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