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能を知ろう Vol.6

 能楽にはさまざまな魅力があります。それは、日本語の美しさを感じ取れる「謡曲」や、ふとした仕草・動きで最大限の表現をする「舞」、最高峰の染織技術によって作り出される「装束」、作者の魂がこめられた最上級の木彫「能面」など、それぞれ一冊の本では収めることのできない程に多種多様で奥深いものです。

 とくに能の代表的な特徴として、「能面」という独得の仮面を使うことが挙げられます。本来仮面とは自分以外の人格になるための道具として用いるもので、顔を隠すことで自らを神格化させ、恐怖の対象とするために使われます。他の仮面劇と大きく違うところは、わざと顎が出るように着用し、またそうできるように少し小ぶりに作ってあるところです。顎が動くことによりあくまで人間が演者であり、化けているわけではなく演じているように見えるという効果があると言われています。

13.05.06 能知会_047

 能は仮面劇に分類されるとも言われますが、実際に仮面を付けるのはシテ方の務めるシテ・ツレ・トモと、狂言方に限られます。海外の仮面劇のように、後ろで演奏するオ-ケストラやコ-ラスまで全員が仮面を付けることはございません。また、上記の役者でも仮面を付けるのは女性・少年・老人と、この世の者ではない神や幽霊・妖精、鬼神などの役の時に限られます。狂言方は女性役の時は面を用いず、美男鬘(びなんかずら)と呼ばれる白い布を頭に着用します。

 能面は現在、名前だけの分類で約六十種類くらいありますが、人の顔がそれぞれ違うように、同じ名前でもキツい顔、柔らかい顔など全く違う顔を持つので、実際には数多くの能面があります。

 しかし鑑賞に際しては、能面の名前にとらわれることなく、皆様が御自身のお好きな顔を想像して見て下されば良いと思っております。若い女性役の面が可愛らしい若手女優に見えても、艶やかな往年の名女優に見えても、人それぞれということです。能面の力とは素晴らしいもので。私でも能面さえ付ければ世界三大美女の「楊貴妃」にも「小野小町」にもなれますし、私が「光源氏」ですと言っても指さされずに済むわけです。

吉野静 YoshinoShizuka

 私たちが舞台でシテを舞う時に使う能面を選ぶのは、自らが演出家となって、主演俳優を選ぶことと同じ意味を持つと考えております。例へば「羽衣」のシテである天女の面を選ぶならば、小面(十代)、若女(二十代前半)、増女(二十代後半~三十代)、深井(四十歳前後)の全てから選ぶことができます。どの面を選ぶかによって装束の色目や柄が変わってきますし、自分の謡の声の調子や動きも大きく変わってきます。

 皆様が舞台を御覧になる際に能面を注意深く観察いただき、演者がどのように演出を考えているかまで思いを巡らすことができれば、より一層、能を深く理解し、楽しむ助けとなるのではないでしょうか。

公益財団法人鎌倉能舞台  http://www.nohbutai.com/


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