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能を知ろう Vol.8

 いよいよこの連載も最後になりました。今までの記事をお読みになり、能を観てみたいと思った方のために「後悔しないチケットの買い方」で締め括りたいと思います。

 まず、能の公演には「定例会」「別会」「素人会」「薪能」「市民能」等の区分に分けられるかと思います。そこで、初めて能を観る方はとりあえず「初めて能を見たいのですが、面白いですか?」と聞いてみてください。良心的な事務所なら「この日は大丈夫、おすすめできます。」「この曲はご無理かと存じます。」等と応えてくれるはずです。

 観世流には現行曲という普通に上演できる曲が二百十番ありますが、初めての方が楽しめるとなると四,五十番程度かなと思います。後の曲は、舞台上がほぼ静止状態で上演時間がとても長い、人によっては「お仕置き」と捉えられてしまうような「大曲」になります。「能を観ながら眠るのは無上の贅沢」とも言い伝えられていますので、リラックス目的でも宜しいかも知れませんが…。

 「定例会」は毎月ごとに決まった週・曜日で催されることの多い、「一門の会」や「同人会」といった「能楽団体主催の会」や、「能楽堂運営団体主催の会」です。特徴としましては、玄人の勉強会的な要素が強く、お客様の半数以上が能を習っているいわゆる「御弟子様」で占められます。本来の「観る人=演る人」の図式が成り立つ公演のため、面白さやわかりやすさは二の次の番組が多くなります。

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 「別会」は定例会の他に、折り目節目や何か「大きな曲」をやる場合に催されることの多い会です。特徴としましては、料金も高めで上演時間も長い、いわゆる「大曲」が多い番組が組まれます。見得を張って高額なチケットをお求めになられると、このような「別会」に巡り会い、後悔をすることになられると思います。選曲としましても、「習物」と言われます、私達玄人でも師匠のお許しが無ければ勝手に上演出来ない、「特別な曲」を披露することの多い会となっております。演者の出演料も高めとなり、普段とは別の大きな会場を借りるなど、コストも嵩むため高額となり、曲自体も「謡」を聴かせるための曲や、凝った難解な内容のことが多いため、初心者では辛いと思います。ですが、中には「大掛かりな道具が必要」「演者が普段よりもかなり多い」という理由で別会をあてられる曲もございます。そういった曲は初心者の方でも楽しめますのでまずは「聞いてみる」ことが大事かと存じます。

 お薦めは各能楽堂が「普及事業」として行う解説付きで能・狂言一番ずつの公演や、公共施設が自主公演として行う「市民能」です。各会が工夫を凝らしパンフレットやイヤホンガイド・VRゴーグルの試験導入しているところもあります。

18.03.12 能知会_137

 特に、手前味噌ですが、能の普及に50年来取り組んできた私ども鎌倉能舞台の公演では、毎回違ったテーマに添った「解説」・ポピュラーな「狂言」と「能」を一番ずつ・「質疑応答」という2時間ほどの公演により、若い世代・初めて能を見る人にも能楽の魅力を伝えております。さらに近年、わかりやすい現代語訳と英訳の字幕を演能の最中に映し出す試み=「字幕e能®」を始めました。日本人にも外国人にも想像力豊かに、日本の歴史の場面を奏でる能を、現代演劇&日本古来のミュージカルのように楽しんで頂けるようになり、より一層能が身近なものと感じていただけるように工夫を重ねております。最初の一歩におすすめできます。

 また「薪能」は野外という開放的な雰囲気で幽玄の世界に浸れる希有な空間です。月明かりの下で虫の音を聞きながら能を観るのも贅沢な体験です。
 ぜひ、「食わず嫌い」をなさらずに一度は能楽堂に足をお運び頂けたらと存じます。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

(「神社新報」連載 こもれび 1-8 より)

公益財団法人鎌倉能舞台  http://www.nohbutai.com/

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