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短編集

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5,000文字~30000文字程度の,1話完結作品集.ファンタジー・ホラー色強いです。マガジン表紙画像は、柴桜様『いろがらあそび6』作品No.44をお借りしています⇒https:…
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#現代

花の香りに誘われて

花の香りに誘われて

――世の中には「自分さえ知っていればいいこと」もあるの――

ある日、押入れの奥に見つけた文箱。
「都忘れ」の香りを閉じ込めた小さな箱の中には、
今は亡き祖母の「秘め事」が仕舞い込まれていた。

短い溜め息のような,他愛無い短編ですが、よろしければお付き合いを。

1 ――拝啓  秋立つとは申せ、残暑厳しき折から、いかがお過ごしでしょうか。――

 そんな古風な書き出しで始まる祖母の手紙を見つけた

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虚ろな星が瞬いて

虚ろな星が瞬いて

「お祭り、案内して欲しいな」
美女と評判の担任教師から言われた思いがけない一言に心をかき乱され、俺は何も言えずにその場から逃げ出した。
そして夏休み、思いがけない場所で出合った彼女に、思いを打ち明けるが……?
一筋縄ではいかない、最初の一口だけちょっと甘くて、あとはとっても苦い青春譚。

1 ――何かをしたい者は手段を見つけ、何もしたくない者は言い訳を見つける――
 そんな諺がどこかの国にあったな

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残り時間の数え方

「あと5分もある」
 そんな呟きが隣から聞こえて、チラリとそちらを見やった。上品なラベンダー色のワンピースをまとった女性が、ポットから自分のカップへお茶を注いでいる。
 平日の昼下がりの喫茶店には、商談中のサラリーマンや、一目でフリーランスのライターか何かと分かる若い男、そして自分と、一つ空けた隣の一人用のテーブル席にいるその女性しかいなかった。
――どうせ子供のいない有閑マダムだろう。優雅なご身

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花守人の憂鬱

花守人の憂鬱

――花守人(はなもりびと)の瑠璃(るり)は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。
 彼女の仕事のうち、いちばん重要で、いちばん時間を割かなければならなかったのは、“待つこと”だった。――
 久しぶりに、短編をひとつ書き上げましたので、お届けします。
よろしければ、お付き合いを。

 ★ 本編 ★

 花守人(はなもりびと)の瑠璃(るり)は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。ま

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短編3.イテュスの竪琴(後)

短編3.イテュスの竪琴(後)

夏休み、父親の実家へとやってきた少女・初音。
大学生の従姉から、この土地に伝わる伝説と、数年に一度おこる神隠しの話を聞いた夜、神隠しにあう。
迷いこんだ洞窟の中で、少女はお山の過去と、亡き母の秘密とを垣間見る。

少しホラー風味の,現代ファンタジー作品後編です.
お時間ありましたら,是非お付き合いをお願いします.

 ずいぶんと長い間、初音は膝に顔を埋めたまま、じっとしていた。そのうちに、蜂が飛び

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短編3.イテュスの竪琴(前)

短編3.イテュスの竪琴(前)

夏休み、父親の実家へとやってきた少女・初音。
大学生の従姉から、この土地に伝わる伝説と、数年に一度おこる神隠しの話を聞いた夜、神隠しにあう。
迷いこんだ洞窟の中で、少女はお山の過去と、亡き母の秘密とを垣間見る。

少しホラー風味の,現代ファンタジー作品前編です.
お時間ありましたら,是非お付き合いをお願いします.

 初音はふと、目を覚ました。何の前触れもなく、ぽつりぽつりと雨が降り出すように。薄

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短編2. ねずみたちの眠り唄

短編2. ねずみたちの眠り唄

——「ねずみに気をつけて」この母の言葉の本当の意味に気がついたとき、少女はひとつの決断を下した——

過去の作品第二弾です。よろしければお付き合いを。

 その日は朝から、ぱらぱらと雨が降っていた。雨はその勢いを増しながら日中も降り続き、夕方、小夜が小学校から帰る頃には、すっかり土砂降りになっていた。
「小夜」
 母が玄関から小夜の名を呼んだ時、小夜は居間の畳の上に寝そべって、見るとも無しにテレ

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