【「口鍼」ということ】
博心堂鍼灸院の、いんちょです。
むかし、患者さんの手首の脈をとって、全身の状態を把握する「脈状診」という手法を学びに、あるお勉強会に10年ほどお邪魔していました。
そんな脈をとるお勉強会でしたが、「口鍼も大事」ということが、ある時話題に上りました。
「口鍼」とは、要するに鍼灸師さんの話術ですね。
このときは、漠然とした話だったのですが、僕の中ではずっと心に引っかかっていた。
というのも、臨床の現場で場数を踏んでいるころでもあったので、脈をとって張りを当てるという手法だけの学びに、何か不足を感じてもいたのでしょうね。
もともと、単独で易理などの学びを鍼灸学生のころからしていたので、こうしたちょっとしたきっかけも、何か臨床の幅を広げるのに役立つんじゃないかなぁというインスピレーションがありました。
とはいえ、「口鍼」に関する文献などなにもない。
心理学やベッドサイドの患者さんとの話術、コミュニケーション術などは、医療機関や研究者がすでにたずさわっているというところ。
僕の求める「口鍼」というやつは、そんな既存の学問や医療から学ばせてもらうのもお門違いだなぁと思いました。
東洋医学をベースにした鍼灸臨床に役立つ患者さんとの話術、コミュニケーション術。
漠然としたイメージは、こんなところから深めていくきっかけを持ったわけです。
そもそも「口鍼」で届くものは、患者さんのどんなところか。
鍼は「気の分」、お灸は「血の分」という使い分けがあります。
古くは9つの鍼を使い分けて、体の様々な深さや目的に合わせた道具の使い分けもあったのですが、現代の意志法に抵触してしまうこともあるので、古典の知識をそのまま現代に転用できるわけではない。
「口鍼」の使い方。
そんなことを、10年ほど在籍していたお勉強会から離れてから、あらためて自ら研究を深めようかなぁと思い始めました。
自分ひとりの時間を伸び伸び過ごす中で、日々の臨床と照らし合わせながら、易理の学びを深めます。
そもそも、言葉とは何か。
意志や考えや感情を伝えるための、人が発明した英知です。
そんなわけで、言葉の力が一番届くのは、ひとの思考や感情面。
東洋医学では「七神七情」といって、人の心理面を言い分けた用語などがあります。
この「七神七情」の乱れや衰えに対して、言葉の鍼である「口鍼」が活用できるのではないか、と思いつくわけです。
最初は僕の方から「口鍼」を施すのではなく、患者さんの話し方に五感を集中させるところから始まりました。
五感を集中させるためには、集中させるべき焦点が必要です。
人の呼吸や気分や機嫌の現れやすい「話し方」に焦点を当てることで、患者さんの「七神七情」の状態を探りやすいことにたどり着いたのは、比較的簡単でした。
もともと自分の五感しか使えないという「しばり」が鍼灸師さんにはありますから、できることを割り切れば、いつも問答している患者さんの「話し方」に五感を集中させることは、とても自然なこと。
人の話し方は「七神七情」が率直に反映されている。
「声の相」というやつは、人相や手相と同じように「ココロ風水」を素直に反映してくれている。
人の話し方でメンタルをうかがい知ることができるわけです。
でも、それを東洋医学の書物から紐解くのは、ちょっと難しかったですね。
そこで役に立ったのが、占いの知識。
占術は人の日常の「困った」ということに対して、問答しながら問題を解決していく。
場合によっては、解決策を見いだせない問答だけでも、クライアントさんのココロは晴れ晴れする。
これ、「口鍼」です。
人の話し方からメンタルの総合情報を受け取り、「七神七情の風水=ココロ風水」を見立てる。
感覚的なことですが、西洋のタロットカードなどの占術を学ぶことで、東洋医学に結びつける論理化することが、僕の中で腑に落ちました。
イベントなどでタロットカードを用いた占い鑑定の機会を数年経験する中で、感覚だけでなく「ココロ風水」を論理化しながら、技術として再現できるように工夫を進めてこられたのは、幸いでしたね。
いまではそんな「口鍼」を、当たり前のように自分のスキルとして用いています。
10年以上前に、ちょっとひっかかったものを、ほおっておかなかったのも、そんな幸いの一つ。
これからもそんな小さな気付きを、大きく育てていくことができらな、なんて思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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