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【小説試し読み】都市開発をナメるな創造神!



概要


“世界創造×都市開発” シミュレーション系異世界コメディ

 無知全能の神様が、新しい世界を創造するべく知識を求めて召喚した人間は、なんと四六時中「街づくりゲーム」をしている引きこもり少年だった。
果たして神様は少年とともに、自身の目指す「最高の世界」を作ることができるのか?

「地形作りから始めるぞ。お前の都市コンセプトを言ってみろ創造神」
(by少年)

(小説投稿サイト「カクヨム」作品ページより引用)


小説試し読み


noteでは【第1話】を掲載します。
この物語の続きは小説投稿サイト「カクヨム」でお楽しみください!

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【第1話】地形作りから始めるぞ。お前の都市コンセプトを言ってみろ創造神


 無の空間に降り立った私が、手始めに創造したのは『天』と『地』だ。
 しかし、天地を作ったは良いものの、この先に生むべきものが私には分からない。
 ただ、私が求めていることはひとつだけ。

『世界』を作りたい。最高の世界を。

 他の神々(やつら)を見下せるような、世界という名の至高なる芸術作品を私は作りたい。前に作った世界は散々馬鹿にされてしまったが、次こそは必ず失敗しないぞ。

 だから私が、天地の次に生むべきもの——喚ぶべきものは『人間』だ。
 とある神は人間を作るまでに六日もかかったらしいが、遅いわたわけ、初日に作れ。
 海とか魚とか星とか鳥とか、そんなものは後回しでいいんだよ。

 そして、人間は私が直に作るべきではない。
 最高の世界の作り方を知っている人間を、別の世界から連れてこれば良いのだから。
 この世界に必要なものが何か、私がこの先に生むべきものが何か。
 きっと——その人間ならば、心得ているはずだ。

 七日目まで働かなくて良いのだよ。
 初日に人間を呼び、ある程度の道具を用意してやったら後のことは知識ある人間(そいつ)に任せ、私は天地創造早々に休ませてもらう。天地以外は作らなくて良し!
 神は極限働くべからず、楽して得てこそ価値ある名声。これ、私のモットーだから。頭良いな私。はははははははは!

 そうして、私は詠唱を歌う。

 אתה לא תבגוד בי
(訳:お前は私を裏切らない)
 אני לא אוהב אותך
(訳:私はお前を愛さない)
 אתה עבדי הנצחי
(訳:お前は私の永遠の下僕だ)
 חירה טובה, החיים שלך
(訳:選択するが良い、お前の人生を)
 הדרך הנשגבת של "נשגב לה'"
(訳:「神への従属」という崇高なる道を)

 永遠に広がる大地の上で、召喚陣が展開されていく。
 ようこそアダム、私だけの下僕よ。お前の有する知識を以って、必ずや私の野望に応えてもらおうじゃないか。

 ……そして私は、この天地のみの空間で、初めて『人間』を喚んだのだ。

 その人間はどうやら少年だった。
 全身を黒服で包んだ少年が、しばらく辺りを見渡しているものだから、私は胸を張って言うわけだ。

 ——ようこそアダム、私の下僕。
 今からお前には、この地に『最高の世界』を作ってもらおうじゃないか。
 崇高なる創造神に助言するが良いぞ、この地に生むべき次なる生命(いのち)と道具を。

 すると、少年はこう返してきた。

「……コンセプトは?」

 ——コンセプト?

「都市のコンセプトは? 土地のサイズは? 初期資金は?」

 ——と、都市? サイズ?? 初期資金???

「最高の『都市(せかい)』を作るんだろ? まずはお前のコンセプトを言ってみろよ創造神」

 ……おい、少年よ。
 まず、『都市』と書いて『せかい』と読ませるのはやめないか?
 世界を作れよ、都市を作るな。国家ですらないじゃないか、ミクロ規模か!

 どうやら私が喚んだ少年は、知識の有無どころか、日頃から『都市開発ゲーム』に励んでいる、きわめて稀有な人間だったらしい。
 私が求めている通りの知識を有しているのは大変結構なことだが、ちょっと待て、コンセプトって何だ?

「何のコンセプトもなく開発を始めるような奴は素人(ビギナー)だ。神のくせにそんなことも分からないのか?」

 ——な、なんだこいつ!?
 概念(コンセプト)なんかないよ、こんな天地のみの空間で。私はただ、最高の世界を作って他の神たちに自慢したいだけだもん。

「『最高』の定義が見えてこないんだよな。人口重視か、黒字財政重視か。あるいは景観(ビジュアル)重視かで根底から都市の作り方が変わってくるんだよ」

 ——そ、そうなのか?

「他の神ってことは、近くに別の都市があるということか? もし近隣都市との交流も視野に入れてるんなら、交通網の充実は都市開発の最重要事項だと俺は早いうちに強く主張しておきたいね」

 ——……いや、都市っていうか世界なんだけど。交通網ってなんだよ、神様の移動手段は全部『魔法陣』だよ?

「まあ良い、とりあえず『地形』作りだ。この土地のサイズはどれくらいある? 一辺何マス? 拡大縮小はできるのか? 最終目標人口は何万人?」

 ……私が喚んでおいて何なんだが、この少年、返却して良いかな「元の世界」に?
 しかも、この少年が私に要求してきたのは、新たな人間や生物の創造ではなかった。海とか魚とか星とか鳥とかではないんだ。
 この無限に続いた大地を変形させるための、つまり『地形』作りのための道具として。

「『物差し(メジャー)』と『目印(マーク)』、それから地図を書くための紙と筆記具だ。土地のサイズを測って、そこから都市のコンセプトに基づいた地形の『設計図(マップ)』を組み立てていく」

 世界全体の大地を測れる物差しなど、どこの世界にも存在していない。
 目印って何だ、どんな道具で印をつけるんだ。
 そして地形の設計図って、まさか……いきなり世界地図でも作るつもりか? お前が前まで存在していた、地球の世界地図が完成するまでに、どれほど年月がかかったのかも知らないで!?

 すると少年は、わざとらしいため息を吐いて。

「お前、神様なんだろ? 都市全体を見渡すような『魔法』とかがあるんじゃないのか? ほら、今も空とか飛んでるし」

 空は飛べても、いくら神とて、創造した天地の全てを見渡せるような「視野」は有していない。
 無限に創造や召喚の魔法が使えようとも、視野ばかりは無限というわけにはいかない。
 私がそう答えてやれば、少年はこう言うのだ。

「自分の視野に収まらないような都市(せかい)なんか作ったら駄目だ。そんなにこの土地を広く創り過ぎたのなら、まずは土地サイズを縮小しろ。初めから大きな都市を作ろうとしたって、財政難か幸福度低下であっという間に解職(リコール)されるのがオチだ」

 ——少年の言葉に、私は内心どきりとしてしまった。

 私が作りたいのは、あくまでも世界。都市なんてミクロな規模に収まるつもりはない。
 だが……ああ、そうだ。少年の言う通り、かつて私は自分で作った世界を、自分の目で見通すことができなかった。
 だから私は失敗した。あの世界で私は、最高の作品を生み出すことができなかった。
 ……私には分からない、天地の先に生むべきものが。
 ただ、私が求めていることはひとつだけ。

『最高の世界』を作りたい、今度こそ。

 少年は私のコンセプトを聞くなり、満足したように頷いた。

 この少年は非常に生意気なようだが、きっと私の期待を裏切らない。
 私は少年を決して愛さないが、おそらくこの少年は愛してくれるだろう。
 私自身ではなく、私が創ったこの新たな『都市(せかい)』を。

 それで構わない、十分だ。
 ——この少年はきっと、最高の世界の作り方を知っている。

 こうして、創造した世界に新たに降り立った私の下僕なる少年は、再び「地形」作りの道具を要求してきた。
 私がある程度の土地サイズの縮小を済ませたならば、次は私が用意した物差しで土地の規模を計り、私の魔法で空を飛びながら、木の看板を差すことで地面に目印を付けていく。
「土地へのマーキングだけで三日は掛かるぞ」と、私とともに空を舞う少年が告げてくる。

 ——あれ? み、三日?
 なんか私、初日で休むどころか、めちゃくちゃこの少年に働かされてない?
 むしろ私が少年に従ってない? 従属してるの、神様(わたし)の方じゃない?

「はあ? 別の人間を喚ぶ? 駄目に決まってるだろ。神と市長は都市を完成させるまで、新しい住民(にんげん)は呼んだらいけないんだ」

 年中無休二十四時間労働だよ、と少年は言った。
 ……私は空を舞いながら、他でもない己の過労死と、この少年の「召喚前」にしていたであろう生活を、一人で心配していたのだった。



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