【小説試し読み】五輪選手にカノジョを寝取られたので、『ジムギルド』の美乳トレーナーと鍛えた筋肉で配信型ダンジョン〈U.D.D.〉を完全制覇します! ~Fランから始める人生やり直し脳筋攻略
概要
すべてを勝ち取れ。
鍛え上げた【最強マッスル】と天性の【無限ガッツ】で──。
小説試し読み
noteでは【プロローグ】を掲載します。
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【プロローグ】Fランクから始めるダンジョン攻略
『アンダー・ドッグ・ダンジョン』──略して〈U.D.D.〉。
たった一度の攻略で、地上では弱き者だった存在が地下世界の王となり、すべてを勝ち取るかもしれないという、魑魅魍魎はびこる深淵だ。
彼らは命を賭してまで、なにを得たいがためにその深淵へ身を投げるのか。
金か。名声か。あるいは……。
♢♢♢
「セージさん!」
11月半ば。
一人の女性らしき声が、画面の外側で叫んでいるのが聞こえる。
「配信開始まで、あと10秒です!」
東京の最果てにある、Bランクダンジョン──『オーイ・グラウンド』。
広大な草原で佇み、カメラを向けられていたのはスーツ姿の青年。
シワひとつない黒のジャケットを羽織り、ワイシャツの襟元を伸ばし、青のストライプが入ったネクタイを締めることで、小洒落た感じに着こなす。
革靴もピカピカに磨かれていて、青年は全身から、いかにも新進気鋭のサラリーマンといった雰囲気を醸し出していた。
だが、ここは高層ビルの会議室でもなければ高級ホテルのレストランでもない。
青年も、両手には真っ赤なボクシング・グローブを装着していた。
ザンッ……。
どこからともなく現れるなり、青年を取り囲んだ屈強なモンスターたち。
二足歩行をした馬面が、三頭出現する。
C級モンスター、スマイリング。
B級モンスター、ダッソウ・オトメ。
そして、『オーイ・グラウンド』を50年以上守り続けているという、神聖なる野生の馬面──A級モンスター、シルバー・イーグル。
三頭合わせて、ちまたのダンジョン攻略者たちは奴らのことを『UMA(ウーマ)トリオ』と呼んでいるらしい。
異様な光景に、スマホカメラの焦点を合わせる女性。
「3、2、1!」
女性の発したカウントダウンが、そのまま開戦の合図となる。
UMAトリオが青年へ一斉に飛びかかった。
「「「ヒヒィン!」」」
シルバー・イーグルは甲高い咆哮を浴びせつけながら首を激しくぶん回し、馬体すべてに重力を乗せて銀色のヒヅメを振り上げ、
「死(ヒ)ネェ!」
青年目掛けて、落とす。
ヒヅメは鉄板のように分厚くて重い。脳天へまともに食らえば、そのまま頭をかち割られて即死してもおかしくない凶器だ。
カツ────ン!!
地面がコンクリートみたいに鋭く鳴った。
振り下ろされたヒヅメの先に、青年の姿はない。
「「「ヒッ!?」」」
UMAトリオは揃って上空をあおぎ、刮目する。
ハードル競走にでも興じているかのごとき軽々しさで、青年が三頭の頭上を飛び越えていた。
「ご多忙のところ──」
青年は着地する。地面にではなく、スマイリングのきらめくタテガミへ。
「失礼いたします!!」
「ヒヒィンッ!?」
鈍い音がグラウンドに響く。
サッカーボールでリフティングするみたいに、青年は片膝でスマイリングの肩をどついた。ただの一撃でよろめき、倒れ伏すC級モンスター。
着地するなり、流れるままにダッソウ・オトメへ、
「この度は皆さま!」
深々と会釈する。
いや、お辞儀の要領で、勢いよくB級モンスターに頭突きをかました。
「たいへんご足労をおかけいたしましたぁ!!」
「ヒヒィンッ!?」
ヒヅメより堅い、石頭だったのだろうか。
ダッソウ・オトメも一撃であっけなく倒れる。ただの数秒で、グラウンドにて二足歩行を続けられていたのはシルバー・イーグルのみだ。
「ヒ……ヒィイィイイイイインッ!!」
シルバー・イーグルの右ストレートが迫る。
顔を上げるなり青年は、襲いくる銀色のヒヅメを難なくかわしつつ、
「差し出がましいご提案とは存じておりますがぁ!!」
ふっ、と一瞬だけ力を抜いた。
「今後とも、弊社の商品をなにとぞご贔屓いただけたらと──」
それは次に繰り出すカウンターの予備動作だ。
フェイントをかけ、馬面のあごあたりにジャブを入れる。
「願っておりますぅ!」
「ヒギッ」
「左様ですか、今回もわたくしの企画を採用していただけますかっ!」
その青年はかつて、販売業に従事するサラリーマンであった。
外回りで培ってきた営業トークと、顧客を前にして低い姿勢を取り続けながらも、最後まで己の主張を貫き通す、商売根性はダンジョンの攻略にも大いに役立っているという。
ジムギルド『筋肉三倍段』所属──セージ。
彼はダンジョン歴わずか半年、Fランクの『攻略者』だ。
「対っ! 戦っ!」
芝を力強く踏み込んで、
「ありがとうございましたぁ!!」
炸裂する、青年の右ストレート。
シルバー・イーグルの頬を直撃し、はるか後方へ巨体が吹っ飛んでいく。
草原で両足を付けていたのは青年ただ一人。
『オーイ・グラウンド』の攻略は、ネット配信が始まったわずか10秒足らずで終戦を迎えてしまう。
スーツ男の独壇場に、配信されていた動画投稿サイトではチャット欄が大盛り上がりを見せている。
:すげー
:配信が始まったと思ったら終わっていた
:風呂に入る暇もなかった(笑)
:今日のカメラマンってレナさんだよな? 攻略済んだんならはよ映して
配信の同時接続数はみるみるうちに4桁を超えていった。
アーカイブが残り、一晩も経てば動画の再生数は1万、いや10万を超えるのも夢ではなかっただろう。
「おお〜!」
カメラを持つ手は決してブらさず、しかし女性は大きな歓声をもらした。
「仕上がってますねえセージさん! あー、しまった……せっかく『オーイ・グラウンド』攻略するんなら、ファンファーレの音声素材くらいダンジョン入る前に流せば良かったなあ」
「はは、それは大袈裟でしょう」
話しかけられてようやく、セージと呼ばれた青年はカメラへ視線を向けた。
気恥ずかしそうに、グローブをはめたまま頬をかく仕草を見せる。
「重賞レースじゃあるまいに」
「大袈裟なんかじゃありませんよ〜! この攻略は〈U.D.D.〉の予選会に向けた、最終調整も兼ねてましたし。……あっ、そうだ!」
思い出したように女性が念を押す。
「UMAトリオの皆さんから、タテガミとヒヅメはきっちり回収してくださいね?」
その言葉に震え立ったのは草原に身を沈めていたモンスターたちだ。
ビクン! と倒れたまま肩を跳ねさせる。
「あー……確か、それぞれタワシとアクセサリーに加工して、地下市場で売るんでしたっけ?」
「ヒィイイ! 無慈悲(ムジヒ)ィッ!」
「ごめんなさいね、こちとらそういう商売やってますので! その代わり、お命までは取りませんので!」
モンスターたちがいくら情けない悲鳴を上げようとも、女性は戦利品を持ち帰る姿勢を崩さない。
そんな現場のやり取りに、配信のリスナーたちも次々にコメントを投下していく。
:脱サラ攻略者の無双が見れると聞いて
:これでFランクってまじ?
:まー誰でも最初はFランクだよな、最初だけはな(笑)
:ダンジョン界の大型新人キタコレ
:レナさんがいっぱい喋ってるから高評価押したわ
:今日は顔出ししないんですか、レナさん!?
「えー……というわけで!」
そんなリスナーたちの熱い要望に応えるためか、単なる偶然か。
赤茶色のポニーテールが、画面端でちらりとのぞく。
まもなくカメラの視点が反転し、健康的な肌につややかな唇、太陽よりも眩しい女性の笑顔が、青年をバックグラウンドにしてはっきりと映し出された。
:レナさん!
:レナトレーナー!
:ありがとうございますレナさん!
:一生トレーニングしますレナさん!
:朝から元気出ましたトレーナー!
コメントが雪崩のように溢れかえり、流れていく。
「〈U.D.D.〉シーズンまで、あと1ヶ月を切りました! 今回、ジムギルド『筋肉三倍段』からはこちら、セージさんが、ギルド代表として初めて予選会にエントリーします!」
女性は空いている方の手で拳を作り、マイクみたいにセージの口元へ持っていった。
「セージさん、最後に意気込みを聞かせてください!」
「はい!」
青年も晴れ晴れとした表情で、よどみなく言葉を紡いでいく。
「まだダンジョン攻略を始めてまもない不束者ではありますが、絶対に本戦へ勝ち進むという気合だけは、誰にも負けません!」
らんらんと瞳を輝かせての宣言。
「『筋肉三倍段』の看板に恥じぬ戦いを皆さんにもお見せできるよう、あと1ヶ月、レナトレーナーと二人三脚で万全のマッスル・コンディションに仕上げていきたいと思います。応援、よろしくお願いします!」
その宣言に、返ってきたリスナーたちの反応はさまざまである。
:88888888
:おーがんばれ
:脱サラ攻略者を応援します
:そろそろ誰かB6Fの壁を超えてくれ
:レナさんへの下心を匂わせたので低評価押しました
:くれぐれもトレーナーだけは攻略すんなよ
本命ダンジョンに向けた最終調整という名目もあってか、攻略のみならず生配信も10分経たずに終わる。
セージはすでに、何度か『筋肉三倍段』の公式チャンネルに出演していた。
ゆえに、ファンとして彼を応援しているリスナーもいれば、どちらかと言わずとも女性トレーナー目当てで配信を見にきており、そのついででセージへもガヤを飛ばしている、半ば野次馬も同然のリスナーもいたことだろう。
だが、ここに何気なくつどっていたリスナーたちは誰も知らない。
ダンジョン界日本最強の座を狙っているという、この「脱サラ攻略者」が、まさかつい半年ほど前。
すなわち、『攻略者』になるよりも前の、サラリーマン時代。
当時付き合っていた自分のカノジョを、スポーツ界日本最強の男に寝取られた──だなんて。
ともかく。
東京郊外で長らく鳴りを潜めてきた、一人の『負け犬(アンダードッグ)』の逆襲が、まもなく始まろうとしていた──。
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