中畑昌之 karmanstudio/LUCKYDROPS

建築家 私の小さな窓を通してみえる日常のメモ. It's in me or else it's not at all. http://karmanstudio.net/

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    最近の記事

    ビルケナウ

    ゲルハルト・リヒターの"ビルケナウ"を見た. リヒターは以前から好きで作品集をたまに眺めるが, ビルケナウは実物を見てみたいとかねてから思っていたところ, 東京では行けなくて無念だったのが, 豊田市美術館で見ることができました.  https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/gr_2022-23/  "ビルケナウ"は2014年に描かれた作品で, ある写真を下敷きに制作されている.  1944年にアウシュビッツ・ビルケナウ強制収

      • ON / Hi&Lo / Freeman

        先月, オンデザインアンドパートナーズの西田司さんが西田研究室の大学院生たちと空蝉の家を見に来てくださった. なんでも学生たちがゼミ旅行で行ってみたい建築として選んでくれたとのこと. この間も, 突然メールがあって名古屋の学生の方から中部卒業設計展の審査員の依頼をいただいた.  学生たちが私の設計したものをみて, いいなと思ってくれたのだとしたら, 何より嬉しいです. (学生たちの建築を見る目は直感的で鋭いから.) 西田研の学生たちは建築好きがダダ漏れしている感じのピュアな方

        • 中銀カプセルタワービル

          建築家のいしまるあきこさんが取り組むプロジェクト(Time Capusele)のこと. いしまるさんの仕事はものすごーく多岐にわたるので, ここではとてもまとめきれないので, それはhttp://ishimaruakiko.com/ でみていただくとして, いしまるさんのライフワークのひとつに今年惜しくも解体されてしまった中銀(なかぎん)カプセルタワービルからカプセルを救出し(響きがドラマやん!)  それを保存・活用するという活動があります. 中銀カプセルタワービルは, 故

          • 空蝉の家 / 余白

            空蝉の家がTVで放送されることになったので, 設計にあたってのテーマだった"スカスカ"について以前書いたものを再掲する. https://note.com/n_karmanstudio/n/nf3086b703a9b ついでなので, スカスカについて別の角度からもう少し触れてみたい. スカスカとは余白でもある. そして建築には余白が必要だと思う.  建築における余白について考えるにあたっては, その対となるであろう機能から話を始めるのが良いと思う.  100年ほど前のアメ

            雨月物語

            昨日は雨だったので, 積読だった雨月物語(上田秋成 1776年)を読んでいた.  ある些細な出来事がきっかけになってすっかり忘れていたことをうっすら思い出すことがある. 思い出すにつれて, 目の前の出来事と過去にあったことが混ぜこぜになったような変なダブルイメージとして感じられて, 時空がねじれたような感覚になる. もしかしたらそのきっかけがなければ二度と思い出すことは無かったであろう, 記憶のヒダにひっそり仕舞われていたことがふっと浮上してくるのだ. で, ひとたび思い出

            支持体

            少し前に日本画家の千住博さんが高野山の寺のふすま絵の制作する過程をおったドキュメンタリをみた. 何をどう描くかということと同じかあるいはそれ以上に, どんな紙の上に描くのかということについて試行錯誤を繰り返していた. 紙のハリや質感にくわえてどんな厚みで紙を漉くか, おそらくミリよりはるか下の単位での違いが重要なのだろうと思った. で, そうしてできてきた紙をわーっともみくちゃにして, そのデコボコした紙の微妙な凹凸を利用して岩肌を描いていた. 日本画の技法について良く知らな

            椅子のこと4(Phillippe Starck)

            この椅子はフィリップ・スタルクによるMastersと呼ばれる椅子です. スタルクといえば, イタリアポストモダンの代表的なデザイナーで, プロダクト・家具・建築など様々なものをデザインしています. 首都高から見える浅草のアサヒビールの社屋(上に金色の巨大なオブジェが載ったもの)を目にしたことがある人も多いでしょう. フォルムはとても独特ですが, 私はフォルムよりもこの椅子のデザインの方法論ほうにすごく興味があります. この椅子の座面は大きく3つの曲線からできています. それ

            スカスカ

            スカスカしたものをつくりたい. 物質的にスカスカしたものという意味でもあるが, もっと広くスカスカを捉えている. スカスカとは空(うつろ)でもある. 英訳するならvoidとemptyの間くらいか. 満たされていないうつろの状態であるからこそ, 何も無いのではなく, そこに何かが入り込む余白があるともいえる. それは, 来るべき何かを待っている, という期待や予感を孕んだ状態である. そうした起こりうる変化が潜在したような空間をつくりたい. 琉球諸島などの南方には御嶽(うた

            自由は死せず

            娘(小6)の面接の練習につきあった. 想定問答などしても当たることはほぼ無いから, むしろ突発的な質問に反射的に答える練習をしたいというので, なんか子どもらしからぬ割り切りだなと苦笑しつつも, じゃあ 色んな質問をどんどんしていくよ!と始めた. 「 あなたが小学生時代に頑張ったことは何ですか? 」 「 そろばん塾です. 雪の日も休まずに通いました. 昇級試験に落ちて落ち込んでしまったこともありましたが, 気持ちを立て直して, 再チャレンジして合格できたことが嬉しかったで

            椅子のこと 3 (Le Corbusier)

            この椅子は, コルビュジェ, ジャンヌレ, ペリアンのデザインによるLC1という椅子です. モダンインテリアには欠かせないとても有名な椅子で, 最近はリプロダクト品もたくさん出ているので, いろいろな場所で目にすることも多くなりました. シンプルなフレームと皮・ストリングスの張りだけで出来上がっている椅子は, 品がありつつも無骨な雰囲気がとても良いです. 大学の同級生のKの家に遊びに行ったときに, 初めてこの椅子を目にしました. Kの家自体, 某建築家が設計したもので,

            バシリカ / 十字 / アイコン

            前回の続き. 東京オリンピックでピクトグラムのことが話題になったが, 世界で最も有名なアイコン(図像)は十字架である. (この場合は, 語源のイコンになるが.)
 宗教のことには明るくないが, あらゆる時代・地域の人々の畏敬や思念を吸収し続けているその存在は単純にすごいと思う. これ以上のアイコンは無いし, この先誰かがデザインできるとも思えない.
 以前知って意外だったのは, キリスト教のごく初期から十字架(十字形)が特別視されていたわけではないようで, 初期キリスト教が普

            happybirthday / Novel prize

            今日の午後8時にノーベル文学賞が発表されるということで. ご本人としては, 「やれやれ.. そんなことどうでもいいんだよな..」という感じだとは思うのだけど, ファンとしてはね, やはり気になるんですよね. ということで, ふと今朝の家族との会話にそんな感じのフレーバーをつけてみようかと思った.  「誕生日おめでとう. 」 「ありがとう, でも嬉しいのかそうでもないのか良くわからないの. 正直言うとね.」 「わからないな. ただ喜べばいいと思うよ. 」 「だって,

            MM / 異化 / アイコン

            昔から大変お世話になっている方からサイフをいただいた. (Mさん ありがとうございます!) 説明不要の4つのステッチがブランドの特徴にもなっている. このステッチ, 元々は洋服の襟についているブランド名が記されたタグを簡単に切り離すことができるように, つまりブランド名ではなく, 品質やデザイン本位で洋服をみてもらえるようにということで始まった一種のギミックだったそうだけど(本当か?), 実際はまったく逆に, ブランドのアイデンティティとして機能し, 切り離すどころか,

            Friday night flights

            タイトルを見ると, どこかに遊びに行きそうな感じの字面になっていますが, 違います. インプット・アウトプットの話です.  平日は, 仕事に必要な資料などは見るのですが, 時間に追われてしまいがちなので何かをじっくり見て考えるということがなかなかできません. それが続くと, 右から左に流しているだけような感覚におそわれることがあるため, 金曜や土曜の夜は, 二部制というスタイルをとることが多いです. 夜に一度家に帰って, 家族と食事をしてまた事務所に戻ることを二部制と呼んで

            椅子のこと 2 (Angelo Mangiarotti)

            この椅子は, イタリア建築界の巨匠Angelo Mangiarotti (アンジェロ・マンジャロッティ)がデザインした”junior”と呼ばれる組み立て家具シリーズのひとつです. 子どもの誕生祝いとして恩師からいただいたもので, とても思い入れのある椅子です. 生産中止になっていたのですが, 2019年に「構築のリアリティ」展がイタリア文化会館に巡回した折に, 期間限定で復刻されました. 一見すると, 相欠きされた積層合板を組み合わせるだけのシンプルなつくりに見えますが,

            本棚の一角

            本棚の一角, 娘のコーナーが日に日に力強くなっている気がするが, 気のせいだろうか..OKAMOTO'Sが好きなのか? もしかしたら, もうすでに自分の中に毒を持っているのだろうか.. 岡本太郎は一般には何かと誤解されがちな人のような気もするけど, 個人的には著作が好きで何冊か読んできた. 子どもがそのまま大人になったような人という印象で, ものすごく透徹した眼をもっている. ある種の大人的なふるまいというか, 妥協や欺瞞が大嫌いでそうしたものへの軽侮と抗う意志の強さが凄ま