見出し画像

ビルケナウ

ゲルハルト・リヒターの"ビルケナウ"を見た.
リヒターは以前から好きで作品集をたまに眺めるが, ビルケナウは実物を見てみたいとかねてから思っていたところ, 東京では行けなくて無念だったのが, 豊田市美術館で見ることができました.  https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/gr_2022-23/ 

"ビルケナウ"は2014年に描かれた作品で, ある写真を下敷きに制作されている. 
1944年にアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所内でユダヤ人の労務者が命の危険を冒して撮影したと言われる4枚の写真だ. それは野原に死体を並べ焼却している様子を隠し撮りしたものなど, 見るに堪えない悲惨な歴史的出来事を伝える写真である. ドイツ人であるリヒターは, 宿命的にアウシュビッツやナチズムに向かい合ってきたが, 彼がそうした写真を作品のためのモチーフとしてどう扱うのか, というかそもそも扱うことができるのか, そうした葛藤がそのまま作品になったのがビルケナウだと思う.
図録にあったビルケナウの制作過程を見ると, その葛藤がそのまま表れていて興味深い. 描き始めは, リヒターの代名詞のようなフォトペインティングで悲惨な光景を写実的に描きつつあるように見えるが, 途中で一転して, 絵の全体が肌色で塗られ, 引っ掻いた跡のような痕跡が見える. そのあたりで, 下絵となった死体の像などはほとんど見えなくなっている.. その後, 赤, 緑, 黒, 白がスキージのようなもの?で重層的に擦り付けられているようだ. 当然ながら実際に見ても下絵は全くわからない. もしかしたら, タイトルがビルケナウでなければ, 誰もこの絵の下にアウシュビッツの悲惨な光景が描かれているなんて思いもよらないだろう. 

でも, リヒターの"ビルケナウ"を知りそして見た後に, ではアウシュビッツという真悪の出来事をどう描くのかと問われれば, 逆に, この重層的に不可視になっているということ以外に描きようがあったのかという気すらしてくる.
ある種の発明的なほどの冴えも感じるし, 絵は絵として凄まじい強度があった. 

午前中に行ったからか空いてて, 大好きなAbstract Picture(GR778-4)を数分の間じっくり眺めることができたのは幸せでした. 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?