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【取材記事】見えづらい心の状態を数値化するアプリを開発 日常生活で誰もが心のケアを手軽にできる社会への一歩

スマホカメラで自律神経の状態を見える化し、心と体のコンディションを整えるアプリ「Upmind(アップマインド) 」。SNS疲れやコロナ禍のストレス環境で生じやすい心の不調を日常生活で手軽に予防できるサービスとして、2021年7月にリリースされました。これまで20万人以上が利用し、アプリストアでは4.5以上と高評価を得るなど、”日本発のマインドフルネスアプリ”としてダウンロード数NO.1*を記録。メンタルヘルスのネガティブなイメージから普及が進みにくい日本で、マインドフルネスを広く一般化するための活動に取り組んでいます。

今回はUpmind株式会社 代表取締役の箕浦慶さんに、アプリ開発の背景やサービスの魅力、今後の展望について伺いました。(*2022年11月23日時点)

【お話を伺った方】

Upmind株式会社 代表取締役・箕浦慶(みのうら・けい)さん
2015年に東京大学工学部を卒業、チームラボに入社。2016年までスマートフォンアプリのエンジニアとして開発業務に従事。2017年に米Bain&Company(戦略コンサルティングファーム、東京支社)に転職し、経営戦略の立案に従事。2021年にUpmind株式会社を設立。瞑想歴はゴア(インド)で体験してから10年以上。


■見えづらい心の状態を可視化し、改善ケアをフィードバック

mySDG編集部: まずはUpmind開発の経緯を教えてください。

箕浦さん:一つは、僕自身がマインドフルネスに強く惹かれたことです。今から10年ぐらい前、大学3年生の時に1年間大学を休学して、さまざまな国や街を巡りました。そのときにインドで瞑想のクラスに参加したことが転機になります。当時はSNSが流行り出した頃で、四六時中、スマホを通して情報が入ってくる状態でした。そんな中、瞑想によって1時間何もせず脳を休める時間をとったことで、頭の中がすごくすっきりしたんです。一日中、集中力や生産性が高まっている感覚も味わいました。そこから個人でも瞑想を定期的に行うようになります。

その後、大学を卒業して社会人になるわけですが、周りで心身の調子を崩し突然休職される方が結構多かったんです。彼らを見ていると、意図的に脳を休める「マインドフルネス」が役立つように思えて、マインドフルネスを軸にしたサービスを作ろうと思いました。

Upmindでは時間帯などに応じた瞑想やヨガのプログラムを提供
心地よい入眠を誘う音楽や朗読などの機能も搭載

mySDG編集部:開発の際に特に意識したポイントはどんな点でしょうか?

箕浦さん:コンディション改善のため、まずは自分の状態を把握した上で、状態に応じた最適なアクションを実践し、経過を見るというサイクルを回していくヘルスケアサービスを構想していました。加えて心の健康にもアプローチできるサービスを作りたいと思っていたのですが、当初は難しさを感じていました。というのも、開発にあたって周りの友人にインタビューする中で、心の健康は身体の健康のように数値化しにくい分、とっかかりにくいという意見が多かったんです。そこから、メンタルの状態に大きな役割を果たす自律神経を心の健康の参考指標として見える化して、「自律神経の見える化」と「マインドフルネス」を組み合わせた形でサービス設計を行うことにしました。

■スマホカメラに指を置くだけで自律神経を計測。その仕組みとは?

mySDG編集部:スマートフォンのカメラの上に30秒指を置くだけで自律神経の状態を計測できるということですが、どういった仕組みなのでしょうか?

箕浦さん:計測時はスマホカメラのフラッシュをたいて、指の赤みを撮影しています。心拍を打つたびに、血流中のヘモグロビンの量が変化するので、フラッシュの光の吸収度合いが変わってくるんです。同じ指の赤みでも心拍を打つことによって色の微妙な変化が生まれるので、その色味をベースにどのように心拍を打っているかを判断し、自律神経の状態を推定しています。

mySDG編集部:心拍の打ち方の変化からどのように自律神経の状態を推定するのでしょうか?

箕浦さん:簡単に言うと心拍数が高いときは緊張している状態、低いときはリラックスしている状態を表します。この心拍数はわかりやすい指標ではありますが、もう一つ自律神経の状態と大きく相関していると言われているのが「心拍変動」と呼ばれるものです。1分間に心拍の打つ間隔は、例えば1分間に60回心拍を打つときでも1秒ごとに打っているのではなく、0.94秒後、0.7秒後、1.2秒後のような形で間隔を変えながら心拍を打っています。

その心拍を打つ間隔の変化が大きければ大きいほど、自律神経の中でもリラックス状態にあるときに働く「副交感神経」が優位で、逆に間隔の変化があまりないときは緊張状態のときに働く「交感神経」が優位であると言われています。アプリでは計測値を踏まえて自律神経のスコアを表示し、「副交感神経」と「交感神経」のバランスを見てアドバイスを行います。

mySDG編集部:自律神経の状態に基づいて、ユーザーはどのようなケアを受けられるのでしょうか?

その日の状態に合わせた改善アクションを提示

箕浦さん:Upmindは、時間帯に応じて自律神経の適切なバランスがとれるよう、アクションをレコメンドする機能を搭載しています。​具体的にはその日の状態におすすめの朝・昼・夜それぞれのアクションを具体的に提案する機能です。例えば、朝には「コップ1杯の水を飲む」、昼には「腹式呼吸を意識する」、夜には「スマホ・PCを見ない」というように、それぞれのアクションの効果や方法、ポイントについてくわしく解説しているので、かなり実践しやすくなっています。

■社会に根付くメンタルヘルスに対する抵抗感

mySDG編集部:Upmindのユーザー層について教えてください。

箕浦さん:8割以上が女性ユーザーです。一般的に女性の方が月経の周期などによって体調の変化が起きやすいので、健康に対する意識が男性よりも高いように感じています。年齢に関しては、40代が32%と最も多いのですが、20代から50代まで偏りがなく幅広い年齢層にご利用いただいています。

mySDG編集部:想像していたよりも40代50代が多い印象です。

箕浦さん:40代50代になると更年期に差し掛かってくるので、そのあたりの体調の変化を改善する目的で利用するユーザーも多くいらっしゃいます。

mySDG編集部:逆に20代以下のユーザーも決して少なくない印象です。20代以下の場合はどういったことを目的で使用されるケースが多いのでしょうか?

箕浦さん:落ち着ける時間を作りたいということで利用される方が多いように感じています。いわゆるプライベートと仕事の両立といったオンオフの切り替えみたいなところで、使っていただいている印象です。

mySDG編集部:さきほど8割が女性ユーザーとのお話がありましたが、逆に箕浦さんの周りの男性で瞑想をされる方は多くいらっしゃいますか?

箕浦さん:正直、あまりいないですね。というのも、男性の方が一般的にメンタルヘルスに対する抵抗感が女性に比べて強いように感じています。

mySDG編集部:確かに。男性は社会が求める「男らしさ」から自分の弱さと向き合うことに抵抗感を感じる傾向があるかもしれません。一方、女性は男性に比べ、自身の状態を把握して早めに手を打とうとする姿勢があるような。

箕浦さん:そうですね。とはいえ日本全体でみると、抵抗感を感じる方は一般的に多い傾向にあります。以前、弊社から企業で働いている方々に「メンタルヘルスをどのように改善したいか」をヒアリングしたところ、「サービスを使うよりもまずは自分自身で何とか改善を図りたい」という方が圧倒的に多い状況でした。最近は福利厚生の一環としてカウンセリングサービスなどを提供している会社も増えている中で、周りから何かしらのサポートを受けることへの抵抗感が根強くあるように感じています。

■ケアを求める人に届けるため、法人向けプログラムを開発

瞑想をすることで自身の平穏のみならず世界の平和につながることを願って寄付を開始

mySDG編集部:グローバル企業では瞑想を取り入れる企業も少なくありませんが、一般的な日本の企業ではまだまだ普及が進まない状況です。より一般的に広く浸透すれば、働く人たちの意識もかなり変わりそうなのですが。

箕浦さん:そうですね。実はUpmindとしても今後は法人事業にも取り組んでいく方向で、法人プログラムを開発しています。瞑想というと少しハードルが高くなってしまいますが、結局のところ実現したいのはちゃんと休むスキルを身につけることです。今後生きていく上で非常に重要だと感じていますので、組織として「心身を休める力を身につける」ためのサポートを行う法人プログラムを今後展開していく予定です。

mySDG編集部:法人向け事業ではどのようなサポートをお考えですか?

箕浦さん:現行のアプリに加えて、習慣化を目的とした4週間の集中プログラムを提供します。加えて、定期的にメンタルヘルスの研修会を開催したり、必要な方についてはカウンセリングサービスを提供したり、日常的な心の健康管理からアラートが出たときのサポートまで一気通貫して行えるプログラムを考えています。初心者の方が多いことを想定して、「そもそも瞑想とは?」というところからレクチャーするワークショップも開催します。日常の習慣化という点については、社内で使用しているチャットツールでグループチャットを作ってもらい、そこに弊社メンバーがから習慣化をサポートするメッセージや毎日30秒からでもできる簡単なストレッチ動画を送るなどして、習慣化をサポートさせていただきます。

mySDG編集部:最近は、更年期ケアや妊活サポートなどのサービスを法人向けに展開する企業が増えてきています。さまざまなヘルスケアサービスが乱立する中で、どういった点に導入課題を感じられていますか?

箕浦さん:やはり導入後の効果、いわゆるROI(Return On Investment:投資利益率)みたいなところをきちんと説明できるかどうかが大きな課題になると思います。一部の企業ではヘルスケアサービスの導入は積極的に進んでいますが、一般的に広く進まない理由としては、どれだけの効果があるのかが明確でない点が挙げられます。となると、経営者の考え方に依存し、導入する企業がある程度限られてしまう感覚があります。そのため弊社としては、サービスを導入したことで生産性にどれくらいの影響があって、改善の効果があるかというところをちゃんと効果測定して、説明できるような仕組みづくりを考えています。

mySDG編集部:法人向けに展開が進めば、個人でヘルスケアにアクセスできない人にも幅広く心身のケアを提供できるのは大きなポイントですね。

産後や育児中で自身をケアする時間をとることが難しいユーザーにもアプローチする

箕浦さん:個人で始める場合、どうしても金銭面がハードルになります。法人事業を進めることで個人が無料で使えるスキームになるので、そこが大事なポイントだと思います。日本の場合、海外と比べて医療保険制度が整っていることもあり、病気になっても病院行けばいい、くらいの感覚ですよね。そのため健康の予防にコストをかける意識が低い傾向にあるので、法人事業を進めていくことが今後の成長のための大きなドライバーになると考えています。より多くの人にリーチすることで、世間一般に休むことの重要性——休息を意識することで長期的な目線を持ち、仕事でもよりパフォーマンスが上がることなど——を広め、働くことに対する意識の変化に貢献していくことが今後の目標でもあります。

mySDG編集部:日本人は特に精神論でなんでも乗り越えようとする傾向にあるので、心や身体の状態を客観的に判断し、パフォーマンスを高めるための行動を実践していくことが必要なのかもしれません。箕浦さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


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mySDGへの取材依頼・お問い合わせは mysdg.media@bajji.life までお気軽にご連絡ください。


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