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第11話 リア充

2012年、夏。
人生で初めて彼女が出来た。しかもその相手は自分が最も憧れていた人物。
15年間、負け組人生を歩んできた僕からしたら夢のような出来事だった。
しかしそれも束の間、僕の春は瞬く間に終わりを告げる。


中学3年生。僕は徹底的に虐められた。
「リア充」という肩書と引き換えに。
主犯格はクラスでも中心的存在のTという男。
そいつを中心にクラスの人間はたちまち僕と口を利かなくなった。
ロッカーや下駄箱はタコ殴りにされ、授業で僕があてられると冷ややかな視線を向けられる。体育での二人一組なんて勿論組めるはずもなかった。

そんな毎日を送っているなんてダサすぎて親に言えない。ほかのクラスにいる彼女にも絶対知られたくない。
「せめて彼女との時間だけでも平和に過ごしたい」そう思いながら静かに抵抗していた。


ある日、花火大会に行こうと彼女を誘う。
「K(当時彼女を好きだった男)と約束しちゃったから行けない。」
この時、虐められながらも彼女の前では平然を装っていた僕に限界が来た。
怒りの感情があふれ出てしまった。

マズいと思ったのか、彼女は謝ろうと何度も電話をかけてきた。
やめろ、これ以上僕を絶望させるな。いっその事突き放してくれ。
・・・
だが僕は、憧れの人を手放す勇気はなかった。



「僕が悪かった、ごめん。」


結局、花火大会に一緒に行くことはなかった。

その後何度も、異性絡みの揉め事が重なった。
「お前の彼女、ほかの男と手をつないでたぞ。」
「○○と毎日連絡取り合ってるらしいぞ。」
それを聞くたび、彼女を問い詰めてしまった。
こんな事なら「リア充」なんてしょうもない肩書に囚われず
切り捨ててしまえば楽になるのに。
何度もそう思ったが、どこにも居場所のない僕にそんな勇気はなかった。


ある日、虐めの主犯格であるTと仲睦まじく歩いている姿を
僕は目撃してしまう。
二人は同じ委員会(のようなもの)に属しており、活動中だったらしい。

僕を見かけたTは
「いたぞ、いちいち男関係に口出ししてくるキモいやつ。」
彼女は何も言わず、僕から目をそらす。


そうか、ここにも僕の居場所なんてとっくになかったんだ。




生きた心地のしないまま月日が流れ、その年の年末
僕は別れを告げられた。
約半年ほど付き合ったが、一緒にしたことといえば
たまに部活終わりに一緒に帰ったことだけ。
一緒に帰ったことはあったが、手は一回も繋がなかった。

たかだかその程度の恋愛関係だったが、終わるのが死ぬほど苦しかった。
それと同時にどこかで
「あぁ、これでやっと"きちんと"孤独になれる。」
そう思っている自分がいた。


付き合いが終わったことが知れ渡った頃、Tを中心としたクラスの連中が
僕と口を利くようになった。
これは後になって知ったことだが、虐めの理由はTの嫉妬だったらしい。
Tの口癖は「男だったら…」「それが男だろ」
などなど、やたら"男"に拘っていた。

そんな彼が一番女々しい行動をとっていたと思うと片腹痛い。
見事なダブルスタンダードっぷりである。


こうして、僕に対する虐めは"一旦"終わりを告げた。
この時既に人間不信という僕の核が出来上がっていた。

ここから3年弱、M山の教育により自分を卑下するのが特技となった僕は
いじりという名目の虐めを時々受けつつ過ごす。




そして高3の秋。
Xデーを迎えることになる。

そう、"ヤツ"と出会う。

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