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第13話 屋上から見た景色

僕が家族以外に初めて心を開いた人物。
名前はカズ。
僕が通っていた個別指導塾にいた。

彼のことは高1の頃から認知はしていた。
だが当時は、B-BOYのような出で立ち、躊躇なく人に話しかけるコミュ力、
常時ハイテンション。


「あ、僕とは住む世界の違う人間だ。」

そう思い、心のシャッターをしっかり閉めていた。


だが彼は持ち前のコミュ力でシャッターを開けようと
何度も話しかけてくる。

陰キャである故、NOといえない性格だった僕は
話しかけられれば応答していた。




パニック障害を発症して以降、久しぶりに塾へ行く。
違和感に気づいた彼が話しかけてくる。

「…なんかあった?」


家族以外に事情を話せていなかった。
話すわけにはいかないと思っていた。

だが、その時なぜか
「彼にだったら話してもいいかも。」
そう思い、塾の入っている古ビルの屋上へ彼を誘いだした。

僕の想定していたリアクションはこうだ。
「なんだそれ?よくわかんねえな!そんな事よりさ…」
だがその想定は見事に裏切られた。



「そんな事があったんだね。話してくれてありがとう。」


聞けば、カズも中学の頃いじめを受け鬱病を発症して以降
今も服薬中だという。
高校も転校しており、僕よりも苦労人だった。
あんな強気なファッションに身を包んで躊躇なく人に話しかける
「陽キャ」であろうヤツに
まさかそんな過去があるなんて思ってもいなかった。


後日、当時の話をすると
彼も僕のことをあまり良く思っていなかったらしい。
「顔が良くて、常におしゃれで、スカしててなんか鼻につくヤツ。」
そんな風に思っていたらしい。
人間不信由来の人見知りを「スカしてる」と見られていたのには
思わず笑ってしまった。

しかしよくそんな僕に話しかけ続けてくれたものだ。
その「図々しさ」に今は心から感謝している。



その後、どんな話をどのくらい話していたは覚えていない。
だが、その日屋上から見た景色を
僕は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

夕日ってこんなに赤かったんだな。


パニック障害発症後、灰色の世界に少しだけ色が戻った気がした。
そして、人間不信という呪いが少しずつ解かれていくことになる。


この時点ではまだ学校には通えていなかったが
また別の男とのつながりがきっかけで
学校に再び登校する日がやって来る。







「パニック障害になってしまったのですが、髪切りに行ってもいいですか。」





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