見出し画像

第7話 プレイステーション

僕の家庭は祖父の代から会社をしており、両親もそこで働いている。
毎週金曜日、僕はその会社に顔を出していた。
外では鼻つまみ者の僕だが、ここにいるときは社員さんのみんなが可愛がってくれた。
社長の息子だから、という理由もあるかもしれない。
だが孤独を紛らわすのには十分な待遇だった。

ここで僕は、スギタ君という男性の社員さんに出会う。
当時うちの会社で最年少の爽やかな青年だった。

スギタ君は仕事中なのにも関わらず、いつも僕の話を傾聴してくれた。
勿論、学校を何度も脱走していることも知っている。
普通の大人なら叱ってくるはずの話を、スギタ君は笑い飛ばしてくれた。
「すごいなあ、やるじゃん。」
スギタ君と話している時間だけは、"生きること"が許されたような気がする。

スギタ君は柔道をやっていた。
小学生時代にいじめを受けており、自分を守るために強くなりたかったらしい。
こんな優しい人を誰がいじめるんだと、憤りを感じていたのを今でも覚えている。


その後も、僕は学校を逃げ出した。何度も何度も。
その度にM山から「躾」を受けた。
だが洗脳を受けずに自我を保つには、立ち止まるわけにはいかなかった。


2年1組になって半年が過ぎた頃、スギタ君は言った。

「いとそ、プレステ欲しくないか。」

驚きのあまり、耳を疑った。
聞こえてはいたが、咀嚼するまでに5秒ほどかかった。
「そりゃ欲しいよ。けど買ってもらえないんだ。」
「じゃあ、3年生になるまで学校を抜け出さないって約束できるか。」
「うん、約束する。もう逃げない。」
「よし、約束な。お父さんお母さんには秘密だぞ。」

僕は逃げなかった。「躾」にも負けなかった。
M山も途中で僕に飽きたのか、別のやつがターゲットになっていた。






だがその年の秋、その約束は永遠に叶わぬものとなる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?