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街の本屋が、人生を変えた

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これはノンフィクションの、人生を変えたお話



あのとき工事中だった場所


昔から、言葉集めだけは熱心にやってきた。

私は、いい言葉はいい人生を作るって信じていて、これまで何にお金をかけてきたかと尋ねられたら、迷わず『言葉』だと答える。

そんな私には、人生を変えてくれた場所がある。当時一人暮らしをしていた街に、新しくできた大きなT-site。その中にある、蔦屋書店。

確か大学2年生の終わりくらいにできたのかな。受験生だった私が入試を受けるために地元の和歌山から大阪にはるばるやってきたときは、まだ工事中だった。

大学に入学した後も相変わらず工事中で、友達とその場所を通るたびに、一体この建物いつ出来上がるんだろうね〜って笑ってた。後にその場所は、私の生き方や、価値観を創ってくれた。

世界中のどこを探しても、これ以上のパワースポットはないと思う。グランドキャニオンも、ラスベガスの煌びやかな夜景も見たけど、T-siteの夜のライトアップには叶わない。(私的に)

アルバイト終わりに電車に揺られ、ヘトヘトになって帰ってきた夜も、この建物を見れば元気が出たし、その灯りに吸い込まれて、スタバで甘いココアを飲みながら読書をしたものだった。

気が付いたらホタル(閉店のBGM)が流れてくるのもしょっちゅうで、スタバの雰囲気イケメンなお兄さんに、あの....そろそろ閉まります.....。と声をかけられ、慌てて小さなアパートに帰ったのだった。


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それ以来、私の生活の中心にはいつだって本があった。大きな空間はまるで宇宙で、星の数の本が散らばっていて、いつしかそこで宝探しをすることが日常になっていた。

その場所は同時に、私の駆け込み寺でもあった。

悲しいときにたまたま手に取った本が、処方箋になったり、迷ったときに開いた一章が、一歩を踏み出す着火剤となったことも多々あった。

誰かが長年かけて見つけた知恵や知識を、毎日のように摂取していると、新しい価値観が立て続けにインストールされ、考え方にバリエーションが増していった。言葉には、人生を豊かにする力があるって気付き始めたのもこの頃だ。


私は、大好きな最寄りの蔦屋書店に約1年間通わなかった時期がある。アメリカに留学したときだ。もうこればかりはどうしようもない。けれどもすっかり街に本屋を探す癖が付いたのか、キャンパスからバスで15分くらいにあるウォールマートの裏に小さな書店を見つけて、通ったりもした。でも何だか違う......。当時私はホームシックにはならなかったけど、本ムシックにはなったね。




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ただいま


帰国後、真っ先に向かった場所は言うまでもない。

何も変わっていない、本の世界。

アメリカでは課題地獄な毎日だったけど、無事単位も取り終えてすっかり暇になって、ほぼ毎日蔦屋書店にいた。1日の大半をそこで過ごし、友達には”あそこに行けば必ずいる人”と思われていた。住民並みに滞在していたから、小さなアパートの方が、第二の家になってしまったかも。

そんな私も、ついに大学を卒業。勤務先は、電車で1時間のところにある、心斎橋だった。私は結局、社会人になってもその街に残った。その街には、いつでもアクセスできる、大切な場所があったから。

クタクタになりながら帰ってくると、相変わらず綺麗な灯りがあって、相変わらず建物の中に吸い込まれていったのだ。

エッセイばかり読んでいた私は、いつしかワークスタイルや、ライフスタイルのコーナーを徘徊するようになっていた。手に取る本によって悩みが分かる。当時の私の最大の悩みは、仕事だった。毎日毎日、お金ではなく違和感ばかり貯まっていく感じがする。愛せる仕事に、一刻も早く出会いたいと思っていた。


当時たまたま、ナカムラクニオさんという方の本がフェア台に並んでいて、手に取ってみると少し心が楽になった。そしたらなんと、彼がもうすぐT-siteの上の階でワークショップを開くということをチラシで発見。

慌ててカウンターに行って「あの...参加したいんですが...。」って言った。彼のワークショップの日は、数少ない休みの日だったのだ。


彼は陽気で優しい人だった。質問コーナーの時間に勇気を振り絞って手を挙げて、好きなことを見つけるにはどうすればいいですか?って尋ねた。

そしたら彼は、うーんそれは色々やってみてやっと出会うもんだね〜って言ったと思う。答えを拾ったも同然なのに、その時の私はもっと近道がないかなぁ...なんて思っていた。

彼はワークショップの終わりに、手作りのポストカードをみんなに配ってくれた。好きなものを選んでよかったから、インパクトのある緑の背景の、ネコの絵を選んだ。彼は、ああそれはね、実は最後に書いたやつなんだって、笑っていた。



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クリス


おもしろいことに、蔦屋書店には忘れられない縁も転がっていた。これはもう、語るしかないだろう。アメリカ人の、ちょっと変わった、クリスとの出会いのこと。


昼下がりに、友達が受験する企業の英語面接の練習をしていたとき、クリスはカウンター席の向かいの席に座っていた。英語が聞こえたからなのか、話しかけてきて、いつのまにか3人で英語面接の練習をしていた。その後LINEを交換して、彼も蔦屋書店のヘビーユーザーであることが判明。

私は仕事がお休みの日に、クリスと書店で再会を果たした。

色んな話をするなかで彼はふと、仕事はどう?って、聞いた。嫌いだよ〜って笑う私に、彼は怪訝そうな顔をして、嫌いなのに何故続ける?と聞いた。

私は、すぐに辞めたら次の就職先を見つけるのが難しいからとか、親に合わせる顔がないとか、色んな理由を並べた。

それを黙って聞いた後彼はカタコトの日本語を一旦止めて、ok...と前置きした。




YOU decide your life. Not other people. Try to find what you love and just do it. Don’t waste your time.(自分の人生は他の人ではなく、君が決めなくちゃいけない。大好きなことを見つけて、それをやりなよ。時間を無駄にするな。)





まさか最近本屋で偶然出会ったアメリカ人に、説教を喰らうなんて思ってもみなかった。

その後何が起こったかというと、私はなぜかボロボロと泣いていた。私、普段は泣かないけど、一度泣くと長いのだ。クリスは動揺。しばらくして私が落ち着いたころ、外の空気を吸いに行こうって言った。


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時計台のある、小さな広場は人が行き交っていて、ゆったりとした時間が流れていた。たまたまティッシュを配っているお姉さんがいて、彼はそれを受け取ると、私にたくさん与えてくれた。

その後、ねえ見てよ?このティッシュに英語の先生の求人書いてあるよ?君できるんじゃない?ほら、探そうとすれば仕事は見つかるんだよ!って言った。あまりの楽観的さに、私は泣きつつも笑ってしまった。

クリスは、やりたいことを見つけて、日本で叶えようとしている外国人だった。


それからは仕事終わりに蔦屋書店で一杯デカフェのコーヒーを飲んで、一緒に帰るようになった。(たまたま帰り道が同じだった)

生暖かい夜風を浴びながら、彼とは、こんなことがやりたい、あんなことがやりたいとたくさん語った。英語の発音が違うと、治るまで治してくれた。

そんなクリスと会ったのは数回だけ。彼は、遠くの街に引っ越してしまい、いつしか連絡も取らなくなった。



彼と出会わなかったら、私は勇気が出ず、今日も同じ場所で働いていたかもしれない。それくらい、強烈で、パッと現れて、踏み出す勇気をくれた人だった。

その後私が会社を辞め、好きな仕事とやらを見つけるために4つの仕事を掛け持ちし、カナダに来たことを、彼は知らない。

そして、掛け持ちの1つが、私たちが出会った蔦屋書店だったことも。

本の1冊くらい、プレゼントしてあげたらよかった。


お節介で優しい、ちょっぴり変なアメリカ人だった。




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書店員


そう、私は大好きだった蔦屋書店で、ついに店員にまでなってしまったのだ。お客さんとしても、店員としても、その空間を謳歌した。


ホテルの仕事に行く前の午前6時から10時までの間働いた。控えめに言って、凄く楽しかった。

どこに何があるかなんて、全部分かっている。お客さんに本の位置を尋ねられたときも、すぐに答えられた。(何てったって、住んでるからね!)

朝のメンバーは、ベテランの主婦の方が多かった。皆優しくて、小娘みたいな私と仲良くしてくれた。ある人は、北浜にあるカレーを今度一緒に食べに行こうよって誘ってくれた。

また、朝にはコンシェルジュと呼ばれるその分野のエキスパートがたくさんいて、その人たちと交流できたのもよかった。例えば、デザインコーナー担当の人が、グラフィックデザイナーだったり、旅行コーナーの人が、生粋のバックパッカーだったりするのだ。

また、そこでは誰よりも早く本日入荷の本に触れられ、どの位置にどの本を配置すればより売れるかを考えたりもした。お客さんとして足を運んだとき、自分が本を並べた棚に人がいるのを見ると、無性に嬉しくなったりした。

普段寄り付かないコーナーを掃除するときには、まんまと新しい本に惹かれ、メモした。次の職場に向かうまで30分時間があったから、スタバでカフェラテ買って、勤務中に惹かれた本を読んだ。

あとは、英語がものすごく役に立ったことも嬉しかった。外大出身で、留学をして、ホテルで働いていたら、周りが英語を話せるのはわりと珍しくないけど、ここでは重宝された。この店舗には海外からやってくるお客様も多く、韓国人のバイヤーがやってきたときには付き添って不動産にまつわる良書を一緒に探したりもした。

マネージャーの方に、英語バッチあげるから制服につけなよ!って言われたけど、残念ながらその直後にカナダ行きのビザが取れたので、受け取れなかった。(めっちゃほしかった...)このときに、自分の持ってるスキルを活かせる環境というよりも、重宝される環境を選んだ方がありがたがられるかもなんて思ったりした。


半年くらいの書店員生活は、充実していた。


そして、ハイライトは何と言っても、はあちゅうさんに会えたことだろう。はあちゅうさんがプロデュースする手帳のイベントがたまたま私の最寄りの蔦屋書店で開催されることになったのだ。

私は彼女の大ファンで、何度も彼女が書いたエッセイに心奪われ、救われてきた。カナダにいる今も、Kindleで読んでるくらいだ。そんな彼女を目の前で拝み、サインまで貰うことができた。

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人生が変わった場所


振り返ると、受験生の時に工事中だった場所は、人生が変わった場所になっていた。

この場所でたくさんの言葉を拾い、心動かされ、一歩を踏み出してきた。

それはいつしか、私の夢になったんだよ。


今度は自分が誰かのために

心を動かすような、一歩を踏み出すお手伝いをするような、そんな文章を書きたい。

本を出したい。


そしていつかそれが本屋で並んで、それを手に取った誰かの人生を動かせたら、こんなにも幸せなことってないと思うんだよね。




おしまい


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蔦屋書店の中にあったスタバにも同じくらい通っていて、いつ話したのか忘れてしまったけど、最終出勤日にこんなメッセージが書かれてあった。結構前に、何気なく話したことを覚えててくれてたなんて。やっぱりスタバはすごいや。

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