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ブドウの穂木と台木:種類と選び方


初回である今回は接ぎ木についてのお話。

ワイン、ブドウに関係した仕事をしている人はもちろんフィロキセラによって現代のブドウの木が接ぎ木をせざるを得なくなっていることはご存知だと思う。

Viticulturistの方はその種類や、どうそれを使っていくかということをご存知だと思うが、ワインをサービスする仕事をしている人の中には知らない人も多いのではないかと思う。

本稿は畑のプロの方にも意味のあるものであると思うので、ぜひ見ていってほしい。



・接ぎ木の台木3種

まずブドウに品種があるように台木にも品種がある。
有名で一般的に普及しているオリジナルの品種はVitis.Riparia, Vitis.Ruspestris, Vitis.Berlandieriの3種類で各々特徴がある。

Vitis.Riparia

Riverからその名前が来ており、根が浅いため、水源に近いところでうまく育つ。台木としては樹勢が強くない。

Vitis.Rupestris

Ripariaとは対照的に乾燥に強く、根も深い。樹勢も強い。

Vitis.Berlandieri

Caに強い耐性を持つ。こちらも樹勢は強い。


・品種とクローン

ではさらに突っ込んで交配品種を見てみよう。
サービス業の方はサラッとそういうものなのかと読んでいってもらえればと思う。

Riparia×Rupestris
Riparia×Berlandieri
Rupestris×Berlandieri
Belrandieri×Vinifera

4パターンの交配が主で、おのおの数種類の品種があり、その特徴も様々だ。
以下がそれをまとめた図になる(黒字が元の種で、赤字が交配品種)。

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特徴として対フィロキセラはもちろんのこと、樹勢、耐乾、耐湿、根の深さなど。
それ以外にも穂木との相性や、Ca耐性といったものがある。
ブドウの穂木の品種にクローンがあることは一般的にも比較的知られているが、実は台木の方にもクローンがあり、こちらはウイルス耐性や、さらに細かい穂木の品種との相性に関わってくる。
5BBはCabernet Sauvignonとの相性があまりよくないという中で、5BBのこのクローンは比較的相性がいいといったもので、これは水や養分の輸送に大きく関わってくるのでここが苗木業者の腕の見せ所なのかもしれない。

この辺りの情報は以下のサイトを参照すると詳しい情報が出てくる。


・利用法と考え方

要はどういったことに気をつけて台木を選ぶかというところだ。
選び方としてはワインスタイルから選ぶパターンと環境条件から選ぶパターンがある。
いずれも行き着くところは同じなのだが、ワインから入ると穂木、ブドウ品種とクローンをまず選んでから始まる。
その品種の成熟速度とワインのスタイルを考えて台木を選んでいこう。

例えば
日本でメルローを植えるとしよう。
その時考えるべきはメルローの特徴。
熟すのは比較的遅め、穂木としての樹勢は中庸で実の付きはいいが、乾燥や春先の霜によるダメージ、花振いに気を付けなければならないなど。

日本は乾燥には程遠い気候で、基本的には多雨で肥沃な土壌が多いので(実際には土壌は多様なのである程度特徴を反映させた方がいいです)、樹勢の強さを比較的弱める台木を使いたいところ。

また秋の雨が多いことが実にも大きく影響すると考えられるので、なるべく雨に降られる前に早く収穫できるように樹勢はlowの方から選ぶ。

PureなRipariaは樹勢がlowで、Merlotとの相性も良いので悪くないのではないだろうか。

環境から選ぶ場合は基本的には環境のポテンシャルを最大限に発揮できる方法を考える。

例えばすごく深いところまで根をはれる環境で肥沃さ、水が豊富にあれば、収量をしっかり確保しつつ、ある程度のクオリティも確保するという戦略がいいだろうということで樹勢は強すぎないものを選びつつ、しっかりと下の方まで根を張れるV.Ru×V.Riあたりを選び、その上でそれに穂木との相性がよく、気温などの気候条件に合う品種を選んでいくのがいいだろう。

そのとき樹勢(収量、収穫期、土壌の肥沃度と降雨量、土壌の深さ)、栽培品種、病気抵抗性といったものが選択のファクターになるだろう。もちろん20-30年スパンの選択なので気候変動やトレンドなども押さえておきたい。

また環境要因ベースの場合、どうしても避けられない条件というのもある場合がある。
例えばCa含量が多い、Na含量が多いといった土壌の場合だ。
こういった土壌ではそれらの塩に耐性を持つ台木の中から選ぶことになる。

・台木利用の抱える課題

台木の利用はフィロキセラ禍のないところでも最近では盛んだ。
樹勢のコントロールや収穫時期の調節に効果があるからだ。
収穫時期をコントロールするのには2つ理由があって、1つは病気を避けるため、もう1つは収穫を円滑に進めるためである。
というのも収穫期に区画ごとで成長度に差があるために同時に収穫できないということになれば、手間の面でもロスになる上、その後の天候によってはかなりのダメージを受けかねない。

そういった台木利用だが、現状の日本では苗木不足が深刻だと言われている。
苗木とは接ぎ木が施され、植えれば1年目の木として成長を始めれるような状態になっている木である。
その苗木の輸入はウイルスの伝播を防ぐためにかなり慎重に行われなければならず、日本のワイナリーの増加に対して供給が追い付いていないと言われている。
最近のニュースでフランスの苗木の検査をパスしたものの輸入というのが認められるという話が出たと言われているが、その検査の甘さに懸念を示している栽培家もいるというのが事実だ。

日本できちんと苗木を生産できるような状態にしようにも、日本ワインバブルがいつまで続くのかという懸念がぬぐい切れずなかなか進んでいないのが現状だろう。

台木利用を強調はするもののこの問題はなかなか根深く、一朝一夕には解決しないだろう。
今後の輸入や検疫の動向にも注視していきたい。

・未来のかたち

ここでは何を書きたいかというと、線虫について。有名なのはXiphinema .Indexという線虫で、彼がGFLV(Grape vine fan-leaf virus)を伝播している。

線虫はブドウの木のウイルスの運び屋として頑張っておられるので、これを何とかしていこうということで使われているのがMuscadinia.Rutondifoliaという種との交配品種。

これはまだまだ未完の技術で、実際はウイルスの侵入を遅らせはするものの、耐性があるとは言えず、ブドウのクオリティなども全く既存の台木には遠く及ばない。

一方でこういった台木を開発しているヨーロッパより、規制的に新しいものが導入がしやすいのが日本などの新興国の強みなので、ぜひこういった新技術はどんどん輸入して改良を加えていければいいと思う。

・まとめ

-台木は土壌に適応するだけでなく、栽培管理を容易にする
-台木にもクローンがある。
-見るべきは土壌、樹勢、収量、収穫時期、穂木との相性


またフィロキセラ禍については以下のサイトに日本語でかなり詳しくまとめられているので、一度通読していただければと思います。



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