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短編小説の部屋

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主にSF(スピリチュアルファンタジー)など。
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浪の下にも都あり~安徳帝の帰還(あきつしまの龍王)#平家物語

浪の下にも都あり~安徳帝の帰還(あきつしまの龍王)#平家物語

ここは、壇ノ浦。
水平線に夕陽が沈みかけている。水面には、平氏の幟、指物、たくさんの兵士が浮かび、空も海の中も朱に染まっている。いちめんの紅。



水面から、光のあまり届かない青い青い水底。

ゆらぐ黒髪がある。その間からのぞく、小さな口からぽこり、と泡がひとつ、ふたつ。

泡は水面へと、ゆらゆらとのぼってゆく。

 その小さな口の持ち主、「トキ」は、びっくりしたようにその泡をみつめていた。

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たんぽぽ~~君に届け

たんぽぽ~~君に届け

今日も君の顔をみなかった。

夜中に起きて、朝に眠る。君は太陽が嫌いになったのだろうか。

でも人は、いつも昼間の太陽で元気になるわけではない。太陽が眩しすぎて、夜の月明かりが心を透き通らせることもある。昼間でも、眩しいときは下を向けばいい。名もない小さな花が、君を見上げて咲いているから。

体が安全な場所に留まっていても、心は長く厳しい旅の途中の時がある。それは誰にでもある。期間や、回数が違うだ

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【短編とあとがき】産土(うぶすな)さん

【短編とあとがき】産土(うぶすな)さん

産土(うぶすな)神社

産土神は、神道において、その者が生まれた土地の守護神を指す。その者を生まれる前から死んだ後まで守護する神とされており、他所に移住しても一生を通じ守護してくれると信じられている。

産土神への信仰を産土信仰という。(Wikipediaより)



      *



ぼくが5才くらいの頃のことだ。

ぼくは夕海(ゆうみ)という女の子と幼なじみだった。近所の裏山にある神社

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短編(童話)とあとがき「あきつしまの龍王」

短編(童話)とあとがき「あきつしまの龍王」

ここは、壇ノ浦(だんのうら)。

水平線に夕陽が沈みかけている。水面(みなも)には、平氏(へいし)の幟(のぼり)、指物(さしもの)、たくさんの兵士が浮かび、空も海の中も朱に染まっている。いちめんの紅(くれない)。


水面(みなも)から、光のあまり届かない青い青い水底(みなそこ)。

ゆらぐ黒髪がある。その間からのぞく、小さな口からぽこり、と泡がひとつ、ふたつ。

泡は水面へと、ゆらゆらとのぼっ

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短編とあとがき「水底の書」

─ 海行ゆかば 水漬く屍(かばね)
山行ゆかば 草生す屍(かばね) ─
( 万葉集:大伴家持)


ああ、暗い。


月のない夜だった。

山の奥にある、深い沼の底。

腰から下が水底の泥に埋もれて、
上半身はゆらゆらと揺れていた。

揺れるたびに少しずつ肉がはがれ、泥水に溶けてゆく。

指先から、はらり、はらりと
爪が剥がれる。


コロ

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