見出し画像

ロンドンの小劇場で1ヶ月インターンをしてみて感じたこと、考えたこと

舞台が大好きで、舞台制作に携わるお仕事がしたくて、ロンドンを留学先に選び、小劇場で placement (無給インターン) を始めました。
初出勤から約1ヶ月。振り返ります。

ぶつかった壁たち

私以外みんなネイティブ。
舞台用語も知らない。
指示も掴みきれないし察するのも難しい。
要領が全く掴めない。
英語での接客の仕方もわからない。
ネイティブの複数人の雑談に入れない。
初週は結構メンタルやられました。

英語も堪能でなければ舞台業界での経験もない私をなぜ取ってくれたんだろう、「こいつ使えないなぁ」って思われてるかな、

それでも、人間だんだんと慣れるものですね。
勤務やご飯会で顔を合わせるうちに、みんなが英語力や経験値で人を判断していないことに気が付いて、引け目や抵抗がなくなりました。
初めに感じていた部外者感が薄れ、この劇場が自分の居場所になっていくのを肌身で感じる日々。
わからないことを聞いたり、他の人がやっている作業に首を突っ込んだり、できるように。
その結果、最近はSNS運用の担当になりました。劇場の各SNSアカウントの投稿内容を考え、画像を編集し、予約投稿しています。
みんなが優しくて温かいとわかった今は、自分から話しかけられるし複数人の会話にも入って行ける。
全部、初出勤のときには想像もしていなかったこと。
人に恵まれたことが絶対的最大要因なのは一目瞭然ですが、人間の環境適応能力というものを切実に体感しました。

「働く」文化の違い

上下関係という概念がない。
上司にあたるポジションの人とも友達のように話すし、プロダクションのディレクターさんやマネージャーさんも自分のお茶を淹れるついでに私たちの分も淹れてくれる。キャストさんとも手を振り合う仲。
敬語がない英語だからこそ可能などこまでも対等な関係性。
新人に対する気遣いもなく、お陰で新人が新人ぽくないので任される仕事も大きいし成長スピードが早く、昇り詰めて抜けていくのも早い。
「外資系ってこういう企業文化だよね」って言われるもの、そのまんまです。

そのフラットさはお客様との関係性にも適応されます。
私は日本でも劇場の接客業務に就いたことがあるのですが、両国で劇場接客をして気づいたこと。「良い接客」の定義が全く違う。
日本では、お客様は神様。丁寧な言葉遣いで、無礼や失礼がないように、お客様の気持ちを害さないように。案内係はお客様に尽くす義務があり、そこには明らかな立場の違いと壁がある。姿勢や所作から教育され、汎用性の高いマニュアルがある。この徹底したホスピタリティが日本人の美徳であり、強みであり、そのような人々によって作られる質の高い空間は世界でも高く評価されるものだと思います。
他方、イギリスでは、お客様も対等な存在。あくまで、劇場でお仕事をしていて劇場のことをよく知っている・サービスを提供する権利がある人と、その劇場にお金を払って観劇に来た人、という関係性。お客様から雑談や冗談を振られ、友達のように会話します。お客様の前でも普通に案内係同士で雑談や業務の会話をします。終演後はこっちから「どうだった?」って聞きます。壁を作らずにお客様と仲良くなるのが、上手な接客。
どっちが優れているとかではなく、それぞれの国で受け入れられる接客文化がこれだけ違うということ。日本の接客方法はイギリス人からしたら簡素でつまらないだろうなあと思うし、他方でイギリスの接客方法は日本人からしたら無礼に当たるんだろうなあとも思う。面白いですよね。

ロンドンの小劇場の役割

ブロードウェイの小劇場はトライアウト的な役割を持つものが多いですが、ロンドンはそうでもないです。小劇場で幕が開いた演目が大きくなって、大劇場で上演される作品に育つことは、あまりない。
その分、小劇場の特徴や良さを活かした、新しい作品が多く上演されます。大劇場の演目はたいていロングラン (短くて3ヶ月、長いと何十年も) なのに対し、私の劇場では毎月演目が変わります。 大抵、世界初演、ヨーロッパ初演、イギリス初演、の作品。先日は一夜限定で、劇場主催の新人脚本コンペで選ばれた作品の朗読劇が上演されました。
小さな劇場で、この上ない至近距離でキャストさんの熱量を、制作陣の作品に注ぐ愛を、感じられる演目たち、私はとても好きです。

ロンドンの小劇場は borough と言われる地域 (区、的な?) との結び付きも強い。
劇場がある borough の住人向けの割引チケットがあったり、Borough からの補助金に劇場が支えられていたり。
近くに住んでいる老夫婦が仲良さげに訪れる様子が微笑ましく、いかに舞台が人々の生活に近しい存在なのかを感じます。夫婦で観劇して感想を語り合える世界線いいなあ、なかなか日本ではないですよね。

ロンドンの小劇場で働く人たち

大好きな同僚のみんなを紹介するコーナーです。

私と同じ placement をしているのは、10人くらい。入れ替わり激しいです。
・アメリカからの留学生で、プログラムの一環で働いている人
・役者業に並行して裏方経験を積みたくて働いている人
・既に舞台関連の学位を持っており、制作経験もある人
・セットデザイナーになりたいんです!な人
・ただ単に舞台が好きな人
など。
年齢層は20代前半、既に大学は卒業しており別のバイトと掛け持ちしながら舞台業界就職を目指して働いている人が多いです。

劇場管理者、general manager さん。
4年間くらい務めていた方が、最近「やりかけのマスター (大学院) に集中したい」と辞めてしまいました。劇場教育に関心があるようで、今後はマスターと並行してフリーランスで複数のプロジェクトに携わるようです。
お仕事を引き継いだのが、数ヶ月間 assistant general manager としてお仕事をしていた、イタリアとイギリスのハーフの女の子。イタリアの大学院でマネジメントを学んでおり、数ヶ月間の実務経験が必要なんだそう。6月には帰国するみたいです。次の general manager さんは誰になるのでしょう!

みんな、日本の舞台業界のことに興味を持って違いを聞いてくれたり、イギリスの舞台業界のことを教えてくれたり、私のためになりそうな人に繋げてくれたり、私の今後の進路についてアドバイスをくれたり。
「舞台業界就職を若者が目指しやすい環境を作る」を体現しています。

ちなみに、前述の通りロンドンの大劇場と小劇場は結構違うので、商業としての舞台に関心があって大きな作品を運営したい人は大手制作会社や大劇場就職へ、アートとしての舞台に関心があって自らの手で作品を生み出したい・制作したい人はフリーランスで小劇場でお仕事を、する印象です。

終わりに

こんな感じで、驚きと学びの連続の日々です。
普通の留学生活や、普通のアルバイトとは、一味違う経験。
何かに興味を持ったり何かをやりたいと思ったときに動き出しやすく、その1歩を予想以上に大きなものにしてくれる人と機会が揃った街。
ロンドンを留学先に選んで本当に良かったです。
帰国までの1ヶ月半、更に多くのことを吸収できるよう頑張ります。
現場からは以上です。

※見出し画像は『Ski History UK』HPより
https://www.history.com/topics/european-history/london-england

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?