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働かないアリに意義がある

【読書記録】
長谷川英祐さんの『働かないアリに意義がある』を読んだ。

アリは、交尾・産卵を担う女王アリと、不妊でコロニー維持の労働を担う働きアリから構成されている。

働きアリのように自身では繁殖せず、血縁者に対して利他的に尽くす不妊カーストをもつ昆虫を「真社会性昆虫」という。

働きアリも女王アリも兵隊アリも、みな女。完全なる女系社会だ。

私は、2年ものあいだ社会的な労働をせず、卵を生むこともせず、今年になってようやく重い腰を上げて働き始めた「見習い働きナース」である。

ナースの世界は、アリと同じく女系社会といっていいかもしれない。

幸い、1月から働き始めた病院コロニーの女王ナースも、同僚の働きナースたちもとても親切で、コロニーの中ではまだまだ厄介者に近い私に、働きナースマニュアルを使って優しく掟を教えてくれる。

ありがたい話だ。

ちょっと怖い兵隊ジムインもいるけど、積極的に学びたい姿勢と感謝の気持ちを示すことで、少しずついい関係が築けている…と思っている。

そうだ、これだ。
忘れかけていたけど、これが社会に属して働くということなんだ…

6月からは「フルタイム正職員働きナース」に昇格が決まった。

がんばれ、私。

なんてことを考えながら、真社会性昆虫であるアリの世界に想いを馳せた。

働きアリのなかには、働いてばかりいるアリ、ほとんど働かないアリがいるという。

私達が普段地上で見ているアリは、そもそも外に「働きに出ている」アリ。

もちろん100%みんな働いているし、それだけを見たら「アリってなんて働き者なんでしょう!」と感心してしまう。

しかし、実は巣の中のアリの7割は働かず、何もしていないことが実証されている。

案外アリは働き者ではないのだ。

外ではいい顔して、あたかも働いているように見せ、家ではグダグダ何もしていない私と同じではないか!

…って、そのアリたちは、ただただ怠けて働かないサボリーマンなのだろうか?

否。そんな単純なものではないらしい。

この世の中、突発的に生じる予測不可能な仕事は、いつ何時どれくらいの規模で生じるのか決まってはいない。

すべての個体が一斉に働くのは、一見効率が良さそうに見えても、手の空いた個体(私みたいなの)がいないと、「そのとき」が来たときに対応できない。

「働かない働きアリ」は、怠けてコロニーの効率をさげる存在ではなく、「働く働きアリ」が疲労や何らかの理由で働けなくなったときに、重い腰を上げて働き始める

短い時間であっても、中断するとコロニーに致命的なダメージを与える仕事(卵の世話など)が存在する以上、「働かない働きアリ」は、コロニーが存在するためには極めて重要な存在だといえる。

全員が一斉に働いて、一斉に疲れて動けなくなること、それはコロニーの滅亡を意味する。

つまり、「働かない働きアリ」は、「働きたくないから働かない」わけではない。
みんな働く意欲はもっており、状況が整えば立派に働くことができる。

腰を上げるタイミングが違うだけなのだ。

刻々と変わる状況に対応して組織を動かすための「余力」として、規格外のメンバーをたくさん抱え込む一見効率の低いシステムをあえて採用しているのが、アリの社会。

つまりは、様々な個性が集まっていないと組織はうまく回らないということ。

はい、今、ワタクシとってもいいこと言いましたよ。

…正確に言うと、これらの内容はこの本に全部書いてあるし、もっともっと面白いことがいっぱい載ってます。

もう一つ、興味深く勇気をもらえる内容をご紹介しますと…

ある実験では、餌を見つけたアリの出すフェロモンを100%正確に追尾するエリート集団よりも、フェロモンを嗅ぎ間違えて別ルートをフラフラ行ってしまう「うっかりさん」がいる集団のほうが、餌持ち帰りの効率がアップするとの結果が出ている。

うっかり別の道を辿っているうちに、偶然近道を発見するかららしい。

つまり、お利口な個体ばかりがいるよりも、ある程度おバカな個体がいるほうが組織としてはうまくいく、ということなのだ。

「おバカでいてもいいんだよ。」

そんなふうに、背中をそっと押してくれた気がした。

ある意味人間よりも人間味があって、人間よりもお互いを認め合い、協働しつつも干渉せず、自らのやるべきことに忠実に生きている彼ら。

太古の昔から種を保存し、コロニーを守り、発展させ続けているアリたちに、「新米働きナース」として尊敬の念を抱いた。

アリは凄い。

そう、アリはとても凄い。

アリを知り、アリの世界を─いや、アリそのものを味わう。

そしてそこから自分たち人間を知る。

私も私のできることを、できるタイミングで、おバカにやり続けよう。

それでいいのだ。

※ちなみに、(種類によるけど)オスは交尾するためだけに存在し、用が住むと食べ物を与えられず野垂れ死にする個体もいるらしい。

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