古森 もの

葉脈の先で息をする。|詩、短歌、絵、写真|何かあればTwitterまで。

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  • 白い部屋

    ここは、間違いだらけだった————

  • 【短編集】てのひらは、かごとして。

    古森もの のショートショート集です。

  • Twitter詩

  • よるのみずうみ。

    日々のくぼみとして、思考の記録、日記のようなもの。

  • 詩作品まとめ

最近の記事

01

 生きていくために、母を縊った。背中から生えた腕が、無意識の海に呼応した、私の強い感情がもたらした、始めての結論だった。その長い指の不思議な膂力のため、母の首は締まるに留まらず、白い壁のせいでずっと無惨に見えた。私の流すものと同じものが、彼女の身体にも流れていたということ。そんな当たり前にようやく気づき、吐き気が止まず仕方なかった。しばらくの嗚咽を、腕は石膏のように聴いていた。慰めるでも、害意をもよおすでもなく、それは茫然とただ感覚していた。

    • 月ウサギは耳で飛べるか?

       人間は、地球が欠けることを知っているのかな、とU-404は思った。打ち上げに失敗したり、金儲けに凝ったり、戦争に夢中になるうちに、彼らはすっかりわたしたちのことを忘れてしまって、音沙汰がない。ただ、果てしない暗闇に放り出された先祖たちの記憶が、時々冷たい水になって耳元に流れてくる。凸凹ばかりの地面に立っていると、それさえも愛おしく思えてくるから不思議だ。彼らはわたしたちを追放し、ここには草の一本もない。宙に投げ出され、息をすることもままならなかった同胞は、一瞬のうちに萎んで

      • 【短歌】夏であることの意味。

        空中にふゆうしている僕たちは鳥を鳥だと思わないように 雑踏のなかで寂しい貝になる、それでそれでって続きは言わない 目だけをね、覚ましてしまって僕たちは海岸線にたましいを置く けたたましいけたたましさの中にあるたましい掬い取って青いね 感情は暴力だよと君が言い、なぞらず崩しているよオリオン むささびが飛んでいる夜に吐いた嘘、今も元気にしてるだろうか 黒糖を宝石みたいに食べること羨ましくて君は罪人 うめしごと、つぶやく口の酸いとこで蛙を飼ってすこし涼しいね 植物で

        • 2023/09/02 うでのなか。

          わたしが怖がりなのには理由があって、 それが幼少期の、積み重ねられた経験であることに 違いがないのも知っている。 むしろ、知らないことを恐れるのは いつも大人の方であって、 肉体的には抱き留めても 心まで、その腕を伸ばしてくれることはなかった。 誰かを本当の意味で抱えることは、 どんなに大きくなっても、偉くなっても、 そうそう簡単に、できることではなくて。 ただ、抱き留めはしなくても 無口な壁でいることはできるんじゃないだろうか。 でも、無口でいることって、 それはそれ

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        記事

          【Twitter詩】2023/08/22

          真夏を泳いだ先でみつけた、ひとひらの。うるおうことはとめどなく、左右から叩きつける、雨。その中であなたは、お気に入りの歌をくちづさむ。すこし歪んで、調子外れの。踵が浮いて、日傘を差す。真新しい音が浮かぶたびに、舌の上でるりが割れる。ぱちり。涙は、白亜紀からやってきた、むかし馴染みの旅人です。

          【Twitter詩】2023/08/22

          【Twitter詩】2023/08/21

          名前を愛していること。形づくることの麓に、わたしたちは暮らしていて、意識を保つための硬度、それは口に含むと冷たいね。冴えざえとした、はっきりとしたものを自らの光として、血流を回している。わたしは風になる。背景としたものが、その他すべてにとっての拠り所だとしても構わない。構わないからなり得た、この体を、今静かに折り畳む。

          【Twitter詩】2023/08/21

          2023/08/29 それは、たゆまぬ行進の。

          つぶさには見えないものに直面するたびに、 自分の見ているものが、信じられなくなることがある。 それは、不安と着地するにはあまりにもおぼつかず、 吐いてしまいそうになる言葉をこらえて ようやっと、携えられるような。 体は、たゆまぬ行進だ。 意に反することが出会いの過半数を占めるのに、 狂わずにいられるのは 安易な意味と、抱きとめるような諦念を 覚えてしまったからなのか。 潰えてしまいたい夜には ラーメンでも食べにゆこう。 すこしはおなかもあったまって、 眠くなるかもしれない

          2023/08/29 それは、たゆまぬ行進の。

          【詩】金魚

          ほんのりと切った指先から ちいさな金魚がほとばしった 赤黒赤黒とめまぐるしいうずに どきり としながらも 水面が静まるのを つつましやかに 口をあけて待っていた     * 連日の雨により 部屋をぱんぱんに満たしていた 空気 わたしは眼球をもてあそび ぬるい泥にくるまれながら 傾斜していくわたし自身を 天井にもぐりこんで 息をひそめて見送っていた (つとつと とそのときだ) つややかな切っ先が 水を薙ぐ気配 たった一言も 特別ではない陽光が 偶然のように指し示

          【詩】金魚

          【詩】はくしのこえ

           ことばに規定されているような気がして、目を覚ました。しろい平野にはもう誰もいらない、「私」すらも。何もつむぐことはできなくて、唯一なし得たことは、つぐまれた口のなかでつややかな乳歯をあたためること。そしてただ、目の当たりにしている今を。永遠を流れてゆける時が、薄ら笑いを浮かべながら行っては来てを繰り返している。何も知らない代わりに、全てを視ている。爪のフチから透明になっていくのをお終いだなんて錯覚して、からだだけが次へと始まろうとしている。ただの音楽、とも捉えてしまいそうな

          【詩】はくしのこえ

          【詩】世界とかわいいわたしたち

          空は人の感傷のために 墜落して黄昏やすく 黒猫は不幸にまみれて 魔女に飼われることとなった 自らの肉体にさえラベルを張り ありとあらゆるものが 標本となった わたしたちの世界 人のまなざす瞳は しきりに額縁を持ちより 一瞬の意味を撮りたがる そして真実は 途端に諧謔的になってしまった このひねくれた少年を 手放しに愛で続ける 底なしの歓心に退路はなく それ故に誤ってしまう わたしたちはちょっとかわいい 大地は人の母となり 全てを受け入れ 鳩は託された祈りの重さに

          【詩】世界とかわいいわたしたち

          【詩】翡翠の少女

          翡翠の少女が 長髪を涼ませる その 川下に 一輪の花が 咲いた 私がそれを 摘み取り 彼女に見せる と 血色のよい すべらかな舌は 一枚 また一枚 ていねい に 花弁をちぎっては 喉の奥へ しまい込む 刹那 心臓へ 頬の血潮 が 燃え移るのを 知覚 した どくどく  と 止まない せせらぎは 驟雨の ようで 私は 血生臭い 世界の裏側 を ざらついた感触 と ともに 垣間見た 花弁を 失くした 花は熱射病 に もがき苦しみ 工場廃水 のため 白魚は溺死した だが 少

          【詩】翡翠の少女

          【詩】夏の透影

            時折 人はじぶんの影を見つめている そういうとき 人は海のにおいをまとい どこか遠くまで行ってしまいそうな気配に わたしはとても怖くなる 瞳のうちにうろんな火を燃やし 星を墓標として汽車に乗った少年たちがいた あの子たちの哀切はどこから訪ね来るのか わたしたちを通り過ぎてなお ホームには潮騒が響いて その風を通すのは 胸にあいた硝子窓 どうしようもなく光が透ってゆくので わたしたちの感傷は 夏の汗となり背筋を滑り落ちる 出発を告げる汽笛は 朝陽にやわらぐもの 夜の別

          【詩】夏の透影

          Twitter詩「ゆうのゆうれい」

            わたしの髪はゆうれいの手 さらさらと水が流れる なにかの原石を煮詰めている わたしは夕方に悲しくなる 電車も人も走り去ってしまう ゆうれいだって夜がこわいから 煮詰めた原石を川でひやしている ぱきんと割れてなにかうまれる なにか、なにか、なにが輝く? つかれてしまって猫の背すべる 電車も人も走り去ってしまう もうほとんど近くなる雨の音 わたしの影がうごめいている 街は天使にせっぷんされる

          Twitter詩「ゆうのゆうれい」

          Twitter詩「北国のはる」

            かじかむ手先をいたわって コンビニでコーヒーを買った まだしろい吐息の粒や カップのくろい水底に ふと 花が浮かぶまぼろしをみて じぶんのせっかちに苦笑う   太陽が3月にするあくびのせいで 北国はまぼろしに包まれている   お山はまだねむそうだし 道端で雪はがんこにふんばる 小鳥とにんげんたちだけが せっかちに巣をみつくろい カラスは退屈そうに ひろすぎる空を泳いでいる めぶいた花は この世の冷たさに気をうしない サボテンは何か思いついた顔で つむじに新しいとげをこさ

          Twitter詩「北国のはる」

          Twitter詩「遊魚」

          障子に透ける花焔 尾引く遊魚は濃紺の色 座敷流るる青竹の香に 童女の声染み入らむ夜 刹那震わす琴の音は 我が衣手の綾とならんや 障子に透ける花焔 帳は夜霧 世は帳 身のはかなさを抱えつつ 遊魚尾を引き空昇る 紅くれないの 唐紅 障子に透ける花焔 我が衣手には曼珠沙華 咲いてひらいた魚の鰓 【読み】 ・香(か) ・童女(わらしめ) ・鰓(えら)

          Twitter詩「遊魚」

          Twitter詩「廃色」

          俺らの汚した暗闇で近所の親父はのら犬をぼう ヒビの入った瓶底の叙情ぶってるウィスキー 白樺の枝を手折るよに乱れる性は冬に腐りて 突き立てられた月光に我ら臓物を破かれている 夜を迎える人間の野生が皿を割っており 夕陽に焼かれ膿んでいる乳房は女だけのもの 月に背かれた悔しさで俺らは今日も泣き疲れ 路地に聖歌は降り止まぬ落葉風の祈るよに

          Twitter詩「廃色」