【詩】夏の透影
時折
人はじぶんの影を見つめている
そういうとき
人は海のにおいをまとい
どこか遠くまで行ってしまいそうな気配に
わたしはとても怖くなる
瞳のうちにうろんな火を燃やし
星を墓標として汽車に乗った少年たちがいた
あの子たちの哀切はどこから訪ね来るのか
わたしたちを通り過ぎてなお
ホームには潮騒が響いて
その風を通すのは
胸にあいた硝子窓
どうしようもなく光が透ってゆくので
わたしたちの感傷は
夏の汗となり背筋を滑り落ちる
出発を告げる汽笛は
朝陽にやわらぐもの
夜の別れをやわらいで
同時にもよおされてゆく懐古
若さの波濤ゆえに
少女は影を見つめず
終わりを知らない物語は
時折
生きるのが見苦しくなる
駅舎のすべてが海をまとっている
白という文字が骨を指すように
波打ち際にまた人々が遠ざかる
(夢を見ていたようだ)
のぼる陽が波に溺れないように
そうして終わる夏を埋葬して
わたしは手のひらに
あたらしい切符をにぎる
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