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詩作品まとめ

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記事一覧

【詩】金魚

【詩】金魚

ほんのりと切った指先から
ちいさな金魚がほとばしった
赤黒赤黒とめまぐるしいうずに
どきり
としながらも
水面が静まるのを
つつましやかに
口をあけて待っていた

    *

連日の雨により
部屋をぱんぱんに満たしていた
空気
わたしは眼球をもてあそび
ぬるい泥にくるまれながら
傾斜していくわたし自身を
天井にもぐりこんで
息をひそめて見送っていた

(つとつと
とそのときだ)

つやや

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【詩】はくしのこえ

【詩】はくしのこえ

 ことばに規定されているような気がして、目を覚ました。しろい平野にはもう誰もいらない、「私」すらも。何もつむぐことはできなくて、唯一なし得たことは、つぐまれた口のなかでつややかな乳歯をあたためること。そしてただ、目の当たりにしている今を。永遠を流れてゆける時が、薄ら笑いを浮かべながら行っては来てを繰り返している。何も知らない代わりに、全てを視ている。爪のフチから透明になっていくのをお終いだなんて錯

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【詩】世界とかわいいわたしたち

【詩】世界とかわいいわたしたち

空は人の感傷のために
墜落して黄昏やすく
黒猫は不幸にまみれて
魔女に飼われることとなった
自らの肉体にさえラベルを張り
ありとあらゆるものが
標本となった
わたしたちの世界

人のまなざす瞳は
しきりに額縁を持ちより
一瞬の意味を撮りたがる
そして真実は
途端に諧謔的になってしまった

このひねくれた少年を
手放しに愛で続ける
底なしの歓心に退路はなく
それ故に誤ってしまう
わたしたちはちょ

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【詩】翡翠の少女

【詩】翡翠の少女

翡翠の少女が
長髪を涼ませる
その 川下に
一輪の花が 咲いた

私がそれを
摘み取り
彼女に見せる と
血色のよい
すべらかな舌は
一枚 また一枚
ていねい に
花弁をちぎっては
喉の奥へ しまい込む

刹那
心臓へ
頬の血潮 が
燃え移るのを
知覚 した

どくどく 

止まない
せせらぎは
驟雨の ようで
私は
血生臭い
世界の裏側 を
ざらついた感触
と ともに
垣間見た

花弁を
失く

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【詩】夏の透影

【詩】夏の透影

 

時折
人はじぶんの影を見つめている
そういうとき
人は海のにおいをまとい
どこか遠くまで行ってしまいそうな気配に
わたしはとても怖くなる

瞳のうちにうろんな火を燃やし
星を墓標として汽車に乗った少年たちがいた
あの子たちの哀切はどこから訪ね来るのか
わたしたちを通り過ぎてなお
ホームには潮騒が響いて
その風を通すのは
胸にあいた硝子窓
どうしようもなく光が透ってゆくので
わたしたちの感傷は

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【詩】折り紙

折り目をつける

生きているうちはどこかで

ひとも

はなも

そらも

どこかに折り目をつけている

天気雨に打たれている

あじさいをきみは見たか

はなが粛々と

色を変えゆくことを受け止めて

雨に打たれているのを

たえまないそらを

きみは見たか

折りたたまれて裏がえし

千代紙のように

ひるやよるを

くるりくり返しているのを

いづれきみは見るのだろう

鶴を折るような丁寧さ

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【詩】きみの落下論

ぼんやりするわたしは

あやまって卵を落とした

落とした卵を目だけはしっかり捉えていたので

「卵を焼いて食べなくちゃあ」

「今日も八時に行かなくちゃあ」

とそれら細胞の伝言遊びに

太陽は頭のてっぺんをきつきつとのぼって

わたしは頭痛のせいで

もうひとつ卵を落とした

「イカロスでなくわたしを撃てばよかったのよ」

と落ちゆくきみらはささやいていた

さようならなんて本当はないのだと

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【詩】これ、しね?

【詩】これ、しね?

この世を脱ぎ捨てる。
パジャマに着替えて眠る。
明日は烏が降る。
窓辺の幽霊に微笑む。
カーテンは終幕する。
終わりが近く。
嫌いだという感情が。
眩しくて眩しくて。
費やしたい傷跡。
交錯する月。
私追放されたの。
膿んでくれてありがとう。

【詩】「初/夏」

 

夏を迎える雲は

硝子製

ビルとビルの背景として

精緻に嵌め込まれた街の空は

空であることを流行りのミュージックによって塗りたてにされる

 

遥か / 群青へ / と

 

街灯は灯すことを辞めた

額縁の中で雨に濡れて

頭を垂れているその足元に

些末な吐息が乱反射するのを

恋人たちは好んだ

一行詩集「あめのひ」

一行詩集「あめのひ」

雨のいちばん近くにいたいから傘を差さない

 

泣いた灰色のことをペトリコールと呼ぶ

 

なみだのわけを露も知らないでいる

 

紫だちたる雲間に感情が泡立った

 

梅雨前線の輪郭を愛撫する

 

雨ざかりの僕等でした

 

とめどなく私の体を透る水色

 

申し訳程度に降った粗品のキャンディ

 

旋律が降り荒ぶ、嘯きたいのは戦慄