むるめ辞典
■進化
[読]しんか
進む化学
[例文]
その国道はトラックの排気ガスや工場の黒煙が太陽に徐々に焼かれながらアスファルトをはね返り周辺いっぱいに淀んでいた。
信号を左折して山道に入る。麓にはゴルフの練習場と野球用のコートがあった。勾配が急になってくると、道はクネクネと曲がりそこで視界に入るのは、白い岩肌が剥き出しにされた崖と海に沈もうとする金色の太陽だった。
山の中腹には病院があった。この町の鉄工所の名前を冠した病院で、堅苦しい院名とは違い、間口の広い採光のしっかりした柔和な感じのする病院だった。
お客はトラックの排気ガスや工場の黒煙に充てられて体調を悪くした人であったり、工場で働く人の飛び込みの救急だった。
そういうわけで客足が絶えなくて繁忙した病院は、拡大を続けるたびに山を削った。駐車場を広げるために新しい崖ができた。整形外科の名医を呼び寄せて病院はどんどん大きくなっていった。
その頃には国道のガードレールはもう真っ黒に変色していて、歩道に人の影はなかった。
木の枝も真っ黒に染められて、気の毒な蛾は鳥に見つかりやすくなってしまった。捕食されて数が随分減った頃、突然変異として黒い蛾が生まれ、いつしかこのあたりには黒い蛾しか生息しなくなった。
サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。