むるめ辞典
■灰汁
[読]あく
灰の汁
[例文]
祖父は足の痺れが取れなくて病院に行き、椎間板ヘルニアだと診断された。
彼の逞しい生命力を包み込んだような激しい気質は痛みに追いやられて次第に影を潜めていった。
青白く血の気が失せた顔には皺が深く刻まれた。身体の痛みの引いた後にどんなにこすってみても取れなかった。
声は日に日に小さくなった。これはあとで元に戻ったが、かつての自信を含ませた響きは取り戻せなかった。
神経に打ち込まれた注射が脊髄を通って彼の短気を長く伸ばしたと信じた妻はその注射をもっと打って貰えばいいのにと心の中で思った。
そういうわけでいっときの痛みから解放される可能性のある手術の説明を受けたときにも祖母は首を縦に振らなかった。彼ができるだけ長い間、痛みに打ちひしがれていればいいのにと思っていた。
足の痺れも腰の痛みもなかなか取れなかった祖父の人としての灰汁は驚くほどあっさりと取れていった。祖母は最初こそ、その変化に喜んだが後になってみると拍子抜けする日々になんの味わいも感じなかった。
サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。