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ローカル×ローカルvol.05 地域のしがらみ、どう超える?〜塩尻市役所職員 山田崇さんを招いて〜

「地域おこし」「地方創生」って一体どういう状態だろう?

この企画は、そんな問いを持った僕が、さまざまなローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んだことを報告するイベントです。共催は日本仕事百貨です。

このイベントをやろうと思ったきっかけは、こちらをご覧ください。

前回のvol.04では、静岡県西伊豆と松崎に拠点をおく、(株)BASE TRES代表の松本潤一郎さんでした。話したテーマは「好き」と「稼ぎ」を考える。

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その時のレポートはこちらから

vol.05では長野県塩尻市シティプロモーション担当 山田崇さんを招きました。

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山田崇(やまだ たかし)/塩尻市役所企画政策部 地方創生推進課地方創生推進係長。空き家プロジェクトnanoda代表。信州大学の特任講師。信州移住計画3代目代表。TEDx Sakuでのトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」が話題に。地方の課題解決を民間企業と協働実施するプログラム「MICHIKARA」を運営。2019年に『日本一おかしな公務員』を出版。

山田さんに尋ねた問いは、

「地域のしがらみ、どう超える?」です。

なぜこのテーマにしたかというと・・・

僕は仕事柄、さまざまなローカルの情報をキャッチすることが多いです。

そこで聞こえてくる、ちょっと怖い話。

動いていた計画が急に頓挫したり、ストップしたり、揉めたり(笑)。

田舎に限らずですが、理由はあれど、今あるものをアップデートする時、変えようとする時、見えないしがらみ、ある気がします。

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でも僕は、いいアイデアが取り入れられる土壌って、あった方がいいと思っています。

これから僕がアイデアを形にする時、どんな風に周りの人からの理解を得ながらやっていけばいいのだろう。

誠実に向き合えばいい。

で、終わりにするのではなく、もう少し言葉の解像度を上げたい。

そこで長野県塩尻市役所職員の山田崇さんにお話を聞きたいと思いました。

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私の中で、"公務員"といったら、公平性からなかなか柔軟に動きが取りずらいイメージがあります。よくもわるくも、保守的というか。

でも、山田さんの取り組みは、「ほんとに公務員?」と思うことばかり。

例えば、自腹で空き家を借りて、プライベートな時間を使って様々なイベントを行っている「nanoda(なのだ)」プロジェクト。

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民間企業と塩尻市が一緒になって、地域課題に向き合う合宿「MICHIKARA(ミチカラ)」。

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最近はオンライン市役所「市役所をハックする」もつくっています。

そんな活動をしているうちに、本も出版。

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著書『日本一おかしな公務員』/日本経済新聞出版社から発行

これはほんの一例。

山田さんは、民間・行政の垣根を飛び越え、新しい事例をつくり、今あるものをアップデートさせている。いいと思う変化をどんどん取り入れている。

山田さんは、周りの人たちとどんな関わり方をしているのだろう? 

お話を伺いました。

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一緒に学びを深めてくれる学び仲間は、冨永 真之介さん。ちょっと変わった経歴を持つ総務省の国家公務員です。

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冨永 真之介(とみなが・しんのすけ)/東京都赤坂出身。大学在学中に1年間休学し、人口約100人の口永良部島で暮らし「自治」の2文字に取り憑かれ、公務員試験を受け続けるも落ち続ける。その間は築地の魚を売る。合格後、アフリカ人の人との向き合い方とテンションに惹かれ、4ヶ月間コンゴ民主共和国で過ごす。帰国後、総務省に入省。2019年6月まで山口県庁へ出向。

この人選は日本仕事百貨の中川晃輔さん。彼とは大学時代からの友人だそう。きっと公務員同士、楽しいコラボレーションになると思い、声をかけてくれました。

当日は中川さん、冨永さんと一緒にお話を伺いました。

※ここからがイベントレポートになります。

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目的を持たないプロジェクト

山田 こんばんは。ここ(リトルトーキョー )に初めて来た人ってどれくらいいますか? 14、15人。山田さんに会うの初めてという人は? 7人ね。よし、なるほど。山田崇です。公務員です。こういうローカル系のイベントに呼ばれるようになったのは、2012年に自分のお金で商店街の空き家を借り始めた『naoda』がきっかけです。ここは、もともと花屋さんで6年間閉まっていたところでした。

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nanoda前

山田 nanodaは「なぜそこに空き家があるのかを知る」というプロジェクトなんです。私、実家がレタス農家なんですよ。だから商店街に住んだことがないので、空き家のことってわからないんですよ。まずはここを借りて、自分が当事者になってみようと思いました。

目的を持たずにシャッターを開けて空き家にいると、自分がどんなことを思うのか、周りにどんな人がいるのか、隣の大家さんは何に困っているのか、正しく知ることを最初にやったんですね。nanodaは「○○なのだ」と言ったら、何でもやっていいというスタンスです。例えば「ワインなのだ」はこれまでに84回やりました。毎月20日はここでワインを飲む。7年間やっています。

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山田 やりたい人がいるから、ずっとやっているだけなので、何のためとか、ターゲットが誰とかじゃない。世の中に今はない、上司に言っても理解されない。でも、自分の中にある「こんなことがやってみたい!」をやってみたんです。

元ナンパ師×公務員で、面白がってもらった

山田 あと私、”元ナンパ師”でググるとトップに出てきます。

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山田 nanodaで注目されるようになって、2014年に「TEDx Saku」に出たんです。これ、びっくりなんですけど、ログミーで3万1千シェアされているんですよね。そこから年間100回くらい講演をするようになりました。この時はnanodaの取り組みと学生時代に渋谷でやっていたナンパを掛け合わせて話しました。

TEDx Sakuトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」

山田 元ナンパ師の面白い公務員がいると、また少し注目されるようなりました。それがきっかけで他にもいろんなプロジェクトに関わっています。その一つが企業と一緒に新規事業をつくる「MICHIKARA(ミチカラ)」という仕事です。これは民間企業が塩尻に来てもらって地域課題に向き合い、解決プランを立てて市長に提案するプログラムです。今年で5期目になります。リクルート、オリエンタルランド、全日空など、いろんな企業が手を挙げてくれています。宿泊費、交通費などの経費は全て相手負担なんですが、それでも塩尻に来てくれている状況です。

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MICHIKARAのメンバーと

ナンパも新規事業もn=1

山田 ナンパも、空き家を1軒借りたことも、新規事業の立ち上げもそうなんですけど、私はn=1とよく口に出すようになっていて。最初に笑顔になる一人とか、自分たちが事業をすることによって、泣いて喜ぶ人って誰なのかを、すごく特定することを大切にしています。ナンパも一人ずつ声をかけていくんですよ。みんなに来てと言っても誰も来ないので。だからというか、ここに呼んでもらえたことがとても嬉しいです。

ここにいるナカコー(中川)も、彼が大学4年の時にイベントで出会っているんだよね。卒業まであと1ヶ月なのに、彼は仕事が決まっていなかった(笑)。学び仲間の冨永くんも、彼の奥さんとは仕事で関わることがあるんだけど、こういう機会がもらえて嬉しい。あとは、今日スタッフで来てくれてる榎本さんも仕事でよく関わっていたので、こうやってまた会えて嬉しい。一徹(伊集院)、今日は呼んでくれてありがとね。

プライベートでやっていたことが仕事になった

山田 この他にも色々やっているんですけど、これが私の10年間のキャリアです。

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山田 下の部分は公務員の仕事。上の部分が土日、平日仕事が終わった後に上司に頼まれてもないけど、こんなことやってみたいなとか、自分の地域でやり始めたことです。これは、こういうことをプライベートでやっていたら、2、3年後に仕事になったという図なんです。

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山田 ここにいる全員に共通している一つが、1週間は168時間あること。私は40時間は公務員なんですけど、残りの128時間でやったことがこうなった。

例えば、nanoda、TEDで100回プライベートで講演をするようになったら、1年後にはシティプロポーションという新しい部署が市役所にできた。それでこんな風に塩尻のことを話す機会があるから結果的にプロモーション活動になっている。

空き家ばっかり借りまくってたら、空き家担当の係長になったりね。あとは市役所の若手と18時から毎月3時間ワールドカフェを50ヶ月連続やったんですよ。そしたら今度は住民と対話しながら町をどうつくっていくかという総合計画『塩尻未来会議』にも関わることになりました。

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実証実験が楽しい

山田 私の最近の動きとしては、月3,000円を払って「市役所をハックする」という仮想オンライン市役所をつくっています。ローカルが持っている課題って、塩尻市だけじゃないと思うんですよ。1741地方自治体、みんな困り始めている。私の感覚では、世の中に出てくる社会課題がローカルに早く出ていると思っていて。

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山田 そういう困っていることを、ただ視察で終わるんじゃなくて、例えば塩尻の事例、他のローカルの取り組みをオンライン上でナレッジをシェアする。あとは6ヶ月間、「マジでこんなことをやりたい」ってことを、クローズドのオンラインで話して、実証実験のプラットホームをつくっています。これがすげえ楽しくて。

今、起きていることを大事にしている

山田 私は今日、900枚くらいのスライドを3つくらい使ってDJみたいに、皆さんの関心とか反応を見ながら「ここじゃねえか」というプレゼンを出すようにしています。そうじゃないと、30分前までどんな関心が一人ひとりにあるのか、どんな人なのかって全然わからない。

誰かわからない人に向けに資料をつくったって、マジで意味ないと思っていて。だから私が最初に、どういう関心があるのかなと聞いたんです。その時に思ったことで、その場に最適なことをやる。その準備だけはできるので、こうやって毎回プレゼンをつくっています。

山田さんのもとを訪ねて、学んだこと

伊集院 ありがとうございます。では、ここで山田さんのもとを訪ねて、僕がグッときたことを発表したいと思います。

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※会場に来てくれた皆さんにどの話が一番聞きたいか、今回は山田さんの提案により同時に①グー・②チョキ・③パーで挙げてもらい、一番多く挙がったパンチラインを深めていきました。この時は、②両方がいいねと思う価値をどうつくれるかでした。

山田 私、最初は①の何が起こっても、ただのファクト(事実)を話そうと思っていたんですね。今、一番言語化してみたいことが①だった。でも意外と②が多い。どんだけ打ち合わせをしていても、目の前で起こっていることが唯一の真実で正しいんじゃないかと思っているんですよ。だから②から話すか。①と②も混ぜながら話します。

伊集院 よろしくお願いします。

山田 では、一徹が塩尻に来た時のことを例に出します。一徹とはお昼の13時に集合して、夜の0時までいたんですね。それで私は仕事が入っていたので、一徹をまず仕事場へ連れて行ったんですよ。そこでわかりやすいのが3つあって。1個は視察に来た団体の席に一徹を同席させてもらったんです。その時は先方に「南伊豆町でローカルメディアの編集長が私を取材に来ているから、密着同行させてください」と言ったんですよ。そしたら、相手方も快く承諾してくれて。

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その時の風景

山田 もう一つは文響社という、うんこ漢字ドリルを出している門川良平くんという方が来ていて。その後、一緒に登壇する相手だったんです。その時は、「僕のことを根掘り葉掘り聞きたいという南伊豆のWEBメディアの編集長が来ている」と言ったら、「その様子を聞いていたい」と言ったんです。自分と違う質問をしてくれるかもって。

それで一徹がインタビューしている時は門川くんもいてくれて。結構いい時間になって。3つ目は、地元の書店が私の出版記念イベントをやってくれたんですね。

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山田 そこでは一徹のことを「南伊豆から参加者が来たんですよ」と言ったんです。そうすると書店の人も参加者も「え!?南伊豆からわざわざ!」と。その後、何人かで飲みに行ってね。この中で起こっている事実は一個しかなくて。”南伊豆から塩尻に一徹が来た”というだけなんです。今、気づいたんですけど、相手が考える余白を残しつつ、事実を伝えるというか。相手がどう見えたらいいかなと。そんなことをしていました。

伊集院 正直、僕は山田さんにインタビューが1時間できればいいと思っていました。山田さんが忙しいのは知っていたし。そしたら山田さんの行くところに全てに同行することになって。「俺、どうやって関わっていけばいいんだろう」と不安でした(笑)。人見知りだし、場違いになるだろうと。

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伊集院 でも、行く先々がホームになった。山田さんの声掛け一つで、相手も僕に興味を持ってくれて仲良くなって。最後は友達ができて塩尻を後にするという、よくわからない旅だったんですよね。それがすごいなと思いました。相手にも僕にも気持ちよくその場を過ごしてもらうというか。これ、僕もやろうと思いました。これって、他の場所でもやったりしているんですか?

半日で空き家がきれいになった

山田 例えば「空き家をお掃除なのだ」は、みんなで空き家をお掃除するイベントです。そこでも大家さんからどう見えたらいいのかなってのは考えているかもね。空き家って、国の政策で補助金を出すとか、若者だと家賃が半額とかいろいろある。

だけど、私は空き家が埋まる数より、空き家が増えていくスピードのほうが速いと思っていて。なんでこれが起こっているんだろうな、と。結局、すごく当たり前なんだけど、30個空き家があるなら、そこには30通りの大家さんの困っていることがあるはずなんです。

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「お掃除なのだ」。大家さんとお話している様子

山田 それで、私たちはイベント会場費としてお借りしたいから、大家さんに3,000円払うんです。そのあと部屋が綺麗になったら、大家さんに来てもらって食事会をするんです。

その時に「ここはどうしてビジネスホテルになったんですか?」とか「どうして空き家になったんですか?」「この商店街ってどうなったらいいですか?」というトークイベントをやるんですよ。最後は大家さんにゲスト講師として2,000円をお支払いします。大家さんは5,000円をもらって空き家が綺麗になる。これが半日で瞬間的に起こるんですね。

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『お掃除なのだ』を終えてからの一枚。大家さんと

山田 普通は行政がアンケート調査に来るんですよ。空き家を見せてくれと。これが毎年来る。ここには”あなたの時間を奪っている”という感覚はないんです。商売人だったら、15分って大きいですよ。この感覚がほとんどない。

あとは「空き家をリノベーションしたいので内見させてください」というケース。最初は大家さんも「いいよ」と言うけど、「借りません」ってなったとするじゃないですか。それで2人目Bくん、3人目Cさんが来て、同じようなことになる。すると、4人目のDさんが来ても、大家さんはもう見せたくないですよね。

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山田 でも私たちはお掃除をすることで内見ができるんですよね。しかも同時に10人くらいで。人数が多ければ大家さんは内見も一発で済むし、綺麗になる。これまで10軒の空き家をお掃除させて頂いて、6軒活用したんです。

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山田 元書店を掃除した時、そこの大家さんは80歳のおばあちゃんだったんですね。それでお掃除が終わって、僕らがおばあちゃんに「綺麗になりましたね」と言ったら、「死んだお父さん(夫)が天国で喜んでいる」と言ったんですよ。

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山田 ここは先にお父さんが亡くなっているんですね。おばあちゃんは足が悪くて掃除ができなかった。でも、ずっと汚いままですごくお父さんに申し訳なかったと。そんな気持ちを持ちながら暮らしていたんです。その場所はイベントに参加した男の子が設計事務所として借りることになりました。

空き家問題とか、シャッター商店街って新聞やテレビで聞くけど、それって誰が問題で、誰が本当に困っているかという「n=1」を捕まえにいかないといけないと思っていて。私はその過程をプロジェクトにしていたんだなと思います。今、インターン生を受け入れているんですけど、「先入観を一旦手放すことから始めてみて」と最初に言っていますね。

あと②の補足でもう一個言いたいことがあって。我々は不動産屋のものには絶対に手を出さない。nanodaの場所も今紹介した空き家も不動産屋が生業にならないところなんです。借り手もないような駅から遠い所にある。そこでよかったなと思うのは、極論だけど「公務員の山田崇が空き家を借りたら隣の店が潰れた」みたいなことは絶対ダメだと思って。それは公務員として大切にしなければいけない、結構本質だなと思っています。

同じ視点だと、見えなくなる

中川 山田さんはこのプレゼンでも、目の前のn=1を大切にしていると思いました。さっきも僕と山田さんが出会った時のエピソードを話してくれて嬉しかったです。山田さんはそういう視点で人と接しているんだなと思いました。

でも、僕はそういう目の前のn=1で話すことって、たまに怖いと思ってしまう時もあって。例えば、「空き家問題」とか、"みんな"って言っていると、とりあえずそれっぽく聞こえることってある気がします。

山田 私はいつも「山田崇という1人:塩尻市市民6万7千人」とか、「1自治体:1741地方自治体」とか。「1人」と「集合体」を行ったり来たりする感覚があって。一人を徹底的に見ている経験が、その集合体である6万7千人を見ることになるだろうって。ある事象の逆を見ると、そこから自分の事象が見えたり。

公務員としての仕事だったり、町の総合計画だったり、そればかりを考えていても見えなくなることがあると思っていて。私は平野啓一郎さんの『私とは何か』に書いてある「分人」とか、田坂広志さんの「ヘーゲル弁証法」でいつも例えています。

止揚

伊集院 1人の市民として空き家を借りたことで、別の視点を得たってことですか?

山田 そう。私が6万7千人の1市民として1軒の空き家を借りてみた時に、公務員の仕事が見えてきた。行き来するっていうのはそういうこと。地方公務員って日本に約92万人(2019年9月時点)いるんですね。この数字って、1億2千万人という集団の中で122人の1人なんです。その122人の集団が塩尻市役所だと、560人に近くいるんですね。

その約500人が10年後の塩尻の未来を考えている。これって、本当に危ないことですよ。内側だけだと見えなくなることがある。だから外の視点もあった方がいいと私は思っていて。それでナカコーの話に戻ると、私は1人の市民だと感じているので、n=1で話すことも怖くないんです。

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山田 よくインターン生が「旅行代理店に入りたい、観光をテーマに来ました」と言うんですけど、私は「それ、コモディティ化するぞ」と話しています。観光学部に行って、観光を学んで来ましたという人ばかりが観光課を受けると、全然他と差別化ができない観光課になってしまう。

だから例えば、土木工事をやったほうがいいと話しています。同じような視点を持っている人が集まってもしょうがない。例えば、自分で絶対やらないことを選んだ方が、幅が広がったり、物事の見方が変わってくるし、ひょっとしたらそれを価値だと感じてくれる人もいるんじゃないかな。

山田崇は参加型メディア

山田 全然話が変わるけど、山田さんは参加型メディアだねって言われるんです。

中川 どういうことですか?

山田 nanodaの取り組みが一度『日本農業新聞』に載ったことがあるんですよ。朝刊にすごく大きい記事で。きっかけは野菜を提供する『朝食なのだ』を3ヶ月連続でやったから。そしたらその記者が「山田さんはレタス農家の息子でしょ。それでUターンで帰って来た。空き家を使って地産地消を進めたい人なんですね」って。それで私は「あなたがそう思ったなら、そうです」と言いました(笑)。

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『朝食なのだ』の風景

山田 私にそういう意図ってなかったけど、やっていることは事実だからね。こんな風にnanodaって目的を持っていないから、いろんな人が乗り込んでくる。よくイベントする時って「こういうイベントをやります」とプレスリリースを配るじゃないですか。でも、もし私が目的を決めていたら、彼は来ていないかもしれないし、記事が書けなかったかもしれない。私は、記者も一人ひとりだと思っていて。

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山田 ある記者は空き家をお掃除する事業だと書いて、ある人は公務員の2枚目の名刺だとか、多世代のコミュニティをつくっているんだとか。記者もいろいろな書き方をしたいんですよね。だったら本人が感じたままを書かせてあげた方が、彼にとってもいいと思った。これって、②の両方がいいっていう価値観を探すプロセスでもあって。だから私の取り組みは拡散するんだと言われました。

7年間続けられる人という与信に変わった

伊集院 今でこそnanodaの取り組みは理解されるようになったけど、以前お話を伺った時、「nanodaを始めた頃は、頭がおかしい公務員がいる」と周りに言われていたとおっしゃってましたね(笑)。

山田 そうです。最初はnanodaって「シオジリング」というアートイベントだったんです。高校生と大学生で目的を持たずに2日間空き家を1軒借りてみる。すると何が起こるのかを3ヶ月間記録して、これをインスタレーションと言い張ろうと。そこで空き家にいながら、自分のアイデアを「○○なのだ」といって何でもやってみたんです。

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山田 最初はnanodaを掃除することから始めたんですよ。あとは「ファミコンなのだ」とか、「空き家でキャンプなのだ」とか。極めつけは「ワンカップキャンドルナイトなのだ」。これはすげえ怒られた。だからと言って3ヶ月で止めてしまうと、これが事実で終わってしまうんです。

ただ変なことをやり始めた公務員がいたとか、格好、髪型も変とかで。でも5、6年経ってくると、7年間続けられる人だという与信に変わったし、「これまでに合計460回以上のイベントを7年半やっています」と話せる事実をウェブサイトに残して公開している。これをやっていない人は多いんじゃないかな。

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最初の頃のイベント。オープニングパーティnanoda(2012年5月)

山田 私は量が一定量に達すると、質が劇的に変化すると思っているんです。一個ずつは大したことないけど、自分の関心でちょっとやってみる。その繰り返し。今となっては、私が主催するイベントってほとんどない。だけど、誰かが来るんですよ。やりたい人がいるという事実があれば、それでいいんです。

例えば、今日のイベントに来てくれた人が3人だったとしても、その事実が起こったということに向き合う機会だ、くらいの。無理に増やす理由ってなんなのかなって。例えば会場費が3万円で、ワインを20人分買って来ちゃったら、こっち側で割り勘すればいい。それが①の何が起こってもただのファクト(事実)として見るということかな。その時どうなったかを、ちゃんと観察しています。あとはそれをアーカイブにして公開しています。

新しいことは、大抵理解してもらえない

冨永 でも実際、山田さんが何かイベントとか新しいことをやろうと時、足かせというか、外部からの制御みたいなものはあるんですか? 私も外に出て色々やりたいと思っているのですが、いわゆるしがらみがあるんです。

山田 あるね。だけどこれは私の場合だけど、反対とか足かせはそれはそれでよくてね(笑)。なんでかって言うと、米スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授が提唱した「イノベーター理論」ってのがあるんだけど、たぶん私はイノベーターでありたいと思っているんですね。

基本的に私がやることは、100人いたら98人は「よくわからない」と言ってくれないと新しくない。つまり私がやる意味はない。そういう判断基準を持っています。だから新規事業で「お前すげえ」と言われると、レイトマジョリティ なのでやらないと判断する。

上司が「なんでやるの? よくわからない」と言ったら、これはやった方がいいなと思う。やりたい人がいるという事実が正しい。私は市役所の中でできないことはnanodaとかプライベートでまずはこっそり事例をつくっています(笑)。

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イノベータ理論:新しい発想や技術を元に登場した商品やサービスなどの市場普及に関する理論のこと

自分が60歳になった時、みんな年下

山田 もう一つが、だいたい一番偉い上司って58歳くらいなんですよ。でも、マジで2年でいなくなるんですよ。だから若い人たちには、「もし自分が60歳になった時はみんな年下だし、上の世代はだいだい死んでるよ」って言っています(笑)。その時のことを想像して仕事するなら、挑戦しておいたほうがいいし、上司に反対されたから止めるって思考なら「もしお前が60歳になってもそうするの? 」って問いますね。

そこで起きた事実をどうみるか

山田 あとね、①の何が起こってもただのファクト(事実)の続きで話すと、ジョアンナ・ホープの『アクティブホープ』という本があるんですが、これが自分にとって大きくて。この人はもう90歳のおばあちゃんなんですが、そのお弟子さんが海士町でワークショップをやっていて。それに参加した経験を話したいな。

そこで言ってたのが、人って「悲しい」「怒り」「怖れ」「無力感」という4つのネガティブなものがあるけど、そこには裏側があると。例えば、悲しいの裏側には「愛」が隠れている。例えば猫が死んだ、愛しいとかね。

怒りの裏には「正義」がある。どうしても許せない、こうあったらいいとか。怖れの裏には「勇気」。怖れがあるということは「新しい挑戦」がある。無力感の裏には「可能性」が隠れている。何もする気がないのは、その延長線上じゃない所に移るための踊り場という考え方。その思考が自分にインストールされているんです。

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島根県海士町  写真(日本仕事百貨)

山田 だから例えば、地域の人がすげえ怒ってくる時に、「このおじいちゃんの正義」は何だろうと見るようになった。もし悲しいと言ってくる人がいたら、「何を愛しているのかな」と。一緒にやろうよと言った時、どうしても動かない同僚や部下がいたら、「彼はどんな新しい可能性を感じているのかな」と。

こういう視点を得てから、人との接し方、感じ方が変わってきて。それまでの私は「何が間違っているんだ!」とか、自分の考えが理解されないことが辛いと思っていたんです。でも、なぜその人がそう思うのか、その裏側に興味を持って接するようになりました。

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冨永 他所の人が地域で明らかに意義があることをやっていたとして。もしそれをやっているのが気に食わない場合、きっと反対する人たちって圧倒的な地域への愛ですよね。自分が生まれ育った所だから、どうしても自分がやりたいとか、自分が関わっていることで理解したいとか。そういうものって、裏を返せば愛情なのかもしれないですね。

山田 そうだね。だから何か頓挫したり、ストップすることがあっても、今、目の前で起こってしまったことは事実だし、唯一無二なわけ。だからまずその事実を正しく見ること。それで何か手を加えた時に変化が起こる。それは小さい方がよくて、あまり準備すると時間がかかるし、途中で違うなと思っても、もう止まらなくなっていることもある。なんかよく言うのは・・・ペンある?

※山田さんが会場の真ん中に白いペンを置きました。

山田 この黒いペンを白いペンに向けて投げます。どうなりますか?

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会場からは当たる、当たらない、わからないと意見が出ました

山田 では、投げますね。

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山田 これ、NTTドコモのスーパーイノベーターの沼田尚志さんから教えてもらった考え方なんですが、この「投げたら、当たる、当たらない」議論がすごく地域に多い。

それで、結果は”白いペンの30センチ手前で落ちて、当たらず。そしてワンバウンドして2回目が落ちて、30センチ滑ってあの形になった”という事実。当たった、当たらなかっただけじゃなくて、起きた事象の観察をもっと地域でやればいいんじゃないかと、すごくわかってきた。

私の場合はnanodaを借りる選択肢があって、何かをやってみた。すると塩尻という集合体が少し見えてきた。だから、何かをやってみたいという種火があったら、それを信じてちょっと行動したり、ちょっと声に出してみたり、世の中に表現してみることで見えてくるものがあった。

だから、一徹も同じように何度もペンを投げていいし、起きた事象をみて、違ったことをやり始めてもいい。小さなことでもそこから見える景色が、今の私みたいに最初の場所と変わってくるかもしれない。そんなことを思いましたね。

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※ここからは質疑応答を受けました。

失敗という事実も量によって、質が変化する

男性 山田さんって「やりたかったらやってみたらいい」というマインドだと思うんですけど。やってみて、これは意味がなかったと思う時はありましたか?

山田 どこでシャッターを押すかだと思っていて。やってみて意味がなかったものはあるんだけど、それに応える意味があるのかなと。私は、未来が過去をつくるという感覚なんです。過去って変えられないけど、あの時の大失敗があったから今ここに立てている。逆に聞きたいのは、「やってみた中で、あれ失敗だなと思ったことはありますか?」という質問をなぜしたのかに私はすごく関心があって。

男性 山田さんなら、たとえ一回失敗したと思っても、「振り返ればそんなことはなかった」と返ってくると思いました。だから逆にそれでも、今見ても失敗だったと思えることってあったのかなと。

山田 あるね。先ほど挙げた、MICHIKARAというプロジェクトで例を出すとね。塩尻市で課題を民間にオープンしてプロジェクトをつくって、市長に提案するんですけど、予算化ができなかったものもあるんです。要するにプロジェクトをやったけど公開されなかったという事実が起こるんですよ。ある意味、失敗なんです。

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山田 このグレーの部分は、挑戦したけどまだ実装までに至っていないものです。

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山田 でも、今は何が起こっているかというと、ベンチャー企業から「民間と塩尻市ができなかった地域課題を公開してほしい」と依頼を受けています。なぜなら、どこかの企業がテクノロジーで解決すれば、日本初だからその企業はお金になる。

たぶんね、やればできるものって、塩尻がやらなくても誰かが解決していたと思うんです。5期目になってわかってきたことですが、これも量が一定量に達すると、その失敗の質が転嫁してきたという感覚があります。そこで起きた事実をどう捉えるかだと思います。

最後に、残り一つのパンチラインも紹介しておきます。

③解決策を知ってる人を知ってます

これは、「地域課題を見つけた際、山田さんはどういう風に解決していくんですか?」と聞いたときに答えてくれた話です。「当事者になることも大事だけど・・・」と前置きしたうえで話してくれました。

山田 単純に解決策を知っている人と出会うだけで物事が解決することがある。それで言うと私は公務員の中で圧倒的に解決策を知っている方だと思う。それができているのは、これまでいろんなところに自分で足を運んでるし、誰かが私を訪ねてくれるから。例えば先日、青森の講演会に呼ばれたんです。でも、シティープロモーションなら非効率だし、東京に行くべきだよね(笑)。でも、向こうが私のスケジュールを早く抑えてくれたという事実がある。何か運命を感じてしまうというか、自分で選択しない選択をつくってくれた。そこから新しい視野だったり気づきがあるんじゃないかなって。自分の知っている世の中だけで、自分の居心地のいい選択だけをしていれば、とても狭いなと思っていて。それでこの話をしました。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

vol.6は、福井県鯖江市のデザイン事務所『TSUGI』の代表、新山直広さんを訪ねて学んだことを報告します。新山さんにぶつけた問いは、「いいものってなんだろう?」です。それでは、また次回のローカル×ローカルで会いましょう。

vol.06はこちらから

ローカル×ローカル バックナンバー
vol.0「はじめに」〜先輩たちを訪ねて、学んだことを報告します〜
vol.01「人が増えるってほんとに豊かなの?神山つなぐ公社理事 西村佳哲さん
vol.02「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版 川口瞬さん・來住友美さん
vol.03「文化ってどうつくられる?」群言堂広報誌 三浦編集室 三浦類さん
vol.04「好きと稼ぎを考える」 株式会社BASE TRES代表 松本潤一郎さん
vol.05「地域のしがらみ、どう超える?」長野県塩尻市市役所職員 山田崇さん
vol.06「いいものって、何だろう?」福井県鯖江市TSUGI代表 新山直広さん
vol.07「事業ってどうつくるの?」greenzビジネスアドバイザー 小野裕之さん
vol.08「体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん/プロデューサー 古屋達洋さん





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