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ローカル×ローカルvol.08 体験を、どう届ける? 〜キッチハイク代表 山本雅也さん・プロデューサー古屋達洋さんを招いて〜

「地域おこし」「地方創生」って一体どういう状態だろう?

この企画は、そんな問いを持った僕が、さまざまなローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んだことを報告するイベントです。共催は日本仕事百貨です。

このイベントをやろうと思ったきっかけは、こちらをご覧ください。

前回のvol.07では、グリーンズビジネスアドバイザーの小野裕之さんを招きました。話したテーマは「事業ってどうつくるの?」

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その時のレポートはこちらから

vol.08はキッチハイク代表の山本雅也さん、地域プロデューサーの古屋達洋さんを招きました。

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山本雅也(やまもと まさや)/キッチハイク 共同代表。東京都出身。早稲田大学卒業後、2008 年博報堂 DY メディアパートナーズ入社。退社後は、 世界各国を周って人を訪ね、一緒に食卓を囲んでごはんを食べるフィールドワークを行う。著書「キッチハイク ! 突撃 ! 世界の晩ごはん ( 集英社 )」

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古屋 達洋 (ふるや・たつひろ)/キッチハイク コミュニティアライアンス部 代表プロデューサー。早稲田大学国際教養学部卒業後、米国にてマーケティングに従事。帰国後日系メーカーにて海外部門の新規開拓を主導。2015年からキッチハイクに参画。現在は主に地域自治体との連携企画を担当。

山本さん、古屋さんに尋ねた問いは、「体験を、どう届ける?」です。


キッチハイクは、 「食べるのが好き!」という人同士で集まれるグルメアプリの会社です。

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東京を中心に、毎月500以上のごはん会(キッチハイク)が開催されています。会場はお店から個人のご自宅まで様々。彼らが掲げる理念は、「食を通じて人とつながる・暮らしをつくる」こと。

「キッチハイクはどんなふうに自分たちの理念や、体験サービスを届けているんだろう?」 。そんなことを思いながらキッチハイクのウェブサイトを見ていたら、こんな一文を見つけました。

“メッセージが社会をアップデートする時代は終わりました。今の時代、社会をアップデートするのは、圧倒的に「仕組み」です。表現やメッセージで、人の心は動きますが、身体は動きません。KitchHike は、「人を訪ねてごはんを食べる」「食を通じて人とつながる」世界を実現するため、徹底的に仕組み化していきます。”

「なるほど」と思ったのと同時に、彼らはどんな風に仕組み化をしていったのか、彼らはどんな風に事業を広げていったのか、気になりました。

私の事業「南伊豆くらし図鑑」も、規模は違えどキッチハイクと同じ “体験を届ける” サービスをしています。これからどうやって体験を仕組み化していくか考えていたので、これは絶対にお話を聞いてみたいと思いました。

一緒に学びを深めてくれる学び仲間は、静岡県富士宮「ホールアース自然学校」のスタッフ 壽榮松(そえまつ)孝介さんと秋田の酒蔵を営む、岡住修兵さんです。

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壽榮松 孝介(すえまつ こうすけ)/ ホールアース自然学校 富士山麓ジビエ所員。 京都府出身。大学卒業後、不動産デベロッパーにて再開発を担う。その後、ホールアース自然学校に転職。2020年に3月に退職。現在は高尾山麓の拠点立ち上げに携わる

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岡住修兵 /福岡県北九州市出身。秋田県の新政酒造にて4 年半、日本酒造りを学ぶ。現在は秋田県で新規の酒蔵、「稲とアガベプロジェクト」を立ち上げる。

人選は日本仕事百貨の中川さんが壽榮松さん、岡住さんは私が声をかけました。分野は違えど、それぞれ異なる体験を届ける人たちの視点もお借りします。

当日は中川さん、壽榮松さん、岡住さんと一緒にお話を伺いました。

※ここからがイベントレポートになります(2020年1月末に開催)。

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みんなでご飯を食べよう

山本 山本雅也です。今日は地域プロデューサーの古屋と二人で来ました。もともと僕は2008年に大学を卒業して、博報堂という広告会社で働いていました。

そこで5年働いた後、2013年にキッチハイクを立ち上げました。正直、2016年までは全然流行りませんでした。その3年間は、本当に絶望でしたね(笑)。

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山本 絶望は言い過ぎですね(笑)。ただ、その時は創業メンバーのお給料は払えないこともあって。今振り返ると、どうやって生きていたんだろう(笑)。

最近はお陰さまで使ってくれる方がどんどん増えていきました。今、キッチハイクはサッポロビールさんと事業提携してビールを作ったり、いろいろな地域自治体とコラボしています。

僕らキッチハイクが向き合っているテーマは一言で、「みんなでご飯を食べよう」ということなんですね。

今、「孤食」という言葉があるように、ファストフードとかコンビニとか、一人でご飯を食べることが可能になった時代だと思います。もちろん、それが悪いことではなくて。ただ、一人でご飯が食べられる時代って、ここ100年のことだと思っています。

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山本:写真はイメージですけど、人類は太古の昔から、みんなで食を共にしていたはずなんですよね 

山本 それこそ生産することと、食べることは繋がっていた。それは冷蔵技術がなかったり、流通網がなかったこともありますが、100年以上前は、誰かと一緒にしかご飯を食べることができなかったはずなんです。

僕らは、みんなでご飯を食べることが普通だった世界は、すごく豊かだったんじゃないかなと思うんです。僕らはキッチハイクでそれを取り戻したい。そんな思いでやっています。

見知らぬ人々が集って、ご飯を食べる仕組み

山本 キッチハイクを開くと、こんな風にごはん会がたくさん出てきてます。そこから自分の興味あるごはん会に参加表明して、当日を迎えます。

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山本 これが当日のキッチハイクの風景です。

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山本 料理を作る方がいて、ご飯を食べる参加者の方々がいる。ちなみにこの参加者の方々は、基本的にはじめまして。見知らぬ人々が集って、一緒にご飯を食べています。僕らはこういう機会をつくりまくっています。今は月間のべ2千人がキッチハイクに参加している状況です。

ちなみに、こちらは僕らの会社のお昼の写真です。

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山本 僕らは毎日みんなでお昼ご飯を食べます。会社の中にキッチンがあるので、簡単な賄いをつくるんです。みんなで食べることを世の中に取り戻す、普及させるうえで自社でも体現していこうと。ここが理念の発信源だったりします。

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キッチハイクのメンバー(2019年1月時点)

世界中のどんな人も、食で繋がっている

山本 そもそもなんでこのサービスを始めたのかをお話したいと思います。実は僕が27歳の時、世界中の人たちの家におじゃまして、そこで一緒にご飯をいただくという旅をやっていまして。1年半で50カ国を旅しました。若気の至りとは、恐ろしいですね(笑)。

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山本 この時の体験が自分の原体験であり、キッチハイクの原点です。なんていうか、どの家に行っても、すごく幸せだったんですよね。もちろん、はじめましてで言葉も通じない。国籍も宗教も違う人であっても、食を2、3時間共にするだけで、なんでこんなにわかりあえるんだろう、なんでこんなにお互いに尊敬が生まれるんだろうと。

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山本 さらにいうと、相手を通して、自分のことをもう一度見直すことができた。すごく不思議な体験だったんです。この経験を概念的に伝えると、五大陸が繋がった「パンゲア」のイメージです。

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パンゲア:現在の五大陸が繋がっていた時のこと 

山本 つまり世界中のどんな人も、食で繋がっている。そういうイメージを僕は旅(キッチハイク)で掴むことができたんですね。それを今、キッチハイクの事業主として普及させています。

日本に帰ってきて、本格的にキッチハイクを始めました。最初は僕が旅で体験したような「海外の人の家におじゃまして、一緒にご飯を食べる」というサービスでした。

現地の人たちの作った料理を食べながら、コミュニケーションをする。3年間英語サイトのみでやっていました。当時の様子がこんな感じです。

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山本 最終的に25カ国くらいで普及したんですね。でも、さっき「絶望」と言っちゃったんですが、暗黒の3年間でした(笑)。本当に使う人が増えませんでした。南伊豆くらし図鑑は年間利用者は120人でしたよね?

伊集院 はい、120人くらいです。

山本 僕らは2013年の月間参加者は一人、二人とか。そういうレベルでした。

伊集院 おぉ(笑)。

山本 僕は夢を持って、もちろん世界を変えたい、世界をよくしたいと思って始めたものの、月間の利用者数が二人。「えっ?」みたいな(笑)。

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伊集院 予想外だったわけですね(笑)。自分が体験したことは価値がある、これは多くの人に届けたい、しかも事業になると思ったわけですもんね。

山本 はい、だから本当に予想外でした。まさか、みたいな(笑)。でも、不思議なもので、3年もやっていたら、毎月どんどん増えてくるんですよね。二人だったものが三人になり。三人だったものが四人になり。あぁ、これは無理だと思って(笑)。このペースでは世界は変えらないというのが、最初の3年間でした。

切り口を変えていく

山本 3年経って、どうしたらもっと食で繋がるシーンを普及できるか、一度立ち戻って、真剣に考えました。

キッチハイクが届けたかったのは、「食を共にすると、初対面の人でもなんか急速に仲良くなって、繋がれる」という体験です。これをどうにかして多くの人に届けたい。そう思った時に、切り口を変えていく必要があると思いました。

それでバージョン2として「あの人の料理を食べに行こう」というテーマでリニューアルしたんです。

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山本 英語サイトから、日本語サイトに切り替えたんです。日本人をメインユーザーに変えました。例えば、日本人のお宅におじゃましてご飯を食べに行ったり、料理教室と連動していたり。その時の写真がこちらです。

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山本 こちらは今も毎月開催してくれる、ヨネばあちゃんのお宅におじゃましてご飯を食べるイベントです。さっきの海外文脈からいくとだいぶ・・・

伊集院 景色がちょっと変わってきている。

山本 そう。でも、利用者がバッと増えたんですね。

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理念を変えることなく、研ぎ澄ます

それで、これがバージョン3。現在のサイトです。

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2020年度版 キッチハイクウェブサイト

2019年からは、飲食店にもキッチハイクが普及していったんですね。例えば、代々木上原の花屋にあるクラフトビアーBARでも開催されています。

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このスライドは、キッチハイクが2013年から2020年までの変遷を辿ったものです。

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山本 こうみると、利用シーンは変化しています。ですが、キッチハイクが大事にしている「食で人を繋ぐ」という理念は変えることなく、むしろ研ぎ澄ましながら、たくさんの人に使ってもらえるように、切り口を変えています。最近は「地域」という切り口が増えました。

食を通じて、地域を知る

古屋 では、その流れで私の自己紹介を。みなさんこんばんは。キッチハイクで地域プロデューサーをやっております古屋です。私はキッチハイクとは英語バージョンの時に出会いました。

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古屋 海外にいた時にキッチハイクを知りました。すぐに連絡をとって、「このサービスは絶対に世の中を変える。絶対にこのサービスは社会に必要とされる。絶対来年は伸びているから、今すぐ参画させて欲しい」と。でも、その"来年"はなかなか来なくて(笑)。暗黒時代に入社しました。

山本 さっき話した2013年から2016年のことです(笑)。

古屋 今はお陰さまでユーザーも伸びていて。私は今、地域自治体さんとの企画・プロデュースを担当しております。先程山本から話があったように、キッチハイクはグルメアプリでもあるんですが、食と人を繋げることを大事にしています。

そう考えると、例えば料理や食材を知ることで、生産者を知ることに繋がりますよね。私は食を通じて、地域を知る、人を繋ぐ。そんな企画づくりをしています。こちらは先日、大分県豊後(ぶんご)大野市とコラボした時のものです。

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古屋 キッチハイクのユーザーさんに豊後を知ってもらうごはん会を企画しました。

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東京都内で開かれたごはん会の様子。生産者と自治体が直接足を運び、参加者に豊後の魅力を話した

古屋 その土地の食、人を知ることで、今度は現地に行ってみたくなるとか、都内のアンテナショップに立ち寄ってみるとか。結果的に地域側にとっても、いいPRになって、ユーザー側にとっても、遠い存在だった地域が心理的に身近になるきっかけになれたらと思っています。

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後日、大分豊後に訪れるツアーも企画された(2020年2月上旬に開催)

山本さんたちのもとを訪ねて、学んだこと

伊集院 ありがとうございました。では、ここで山本さん、古屋さんのもとを訪ねて、僕がグッときたこと(パンチライン)を発表したいと思います。

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※会場に来てくれた皆さんにどの話が一番聞きたいか、①グー・②チョキ・③パーで挙げてもらい、一番多く挙がったパンチラインを深めていきました。

この時は、「②再現性と熱狂をみる」でした。

伊集院 ②再現性と熱狂をみる。このお話をもう少し聞かせてください。

山本 事業をスケールアップする時、再現性は当たり前ですけど、大事ですよね。インフラに近いというか。例えば、電車やバスがいつでも走っている状態ってめちゃくちゃ大事じゃないですか。「年に2回しか走りません」って価値として弱いというか。

キッチハイクはどちらかというと、プラットフォームであり、いつでも使えるとか、いつでも手に入るとか、そういうものを目指しているんですね。Airbnb(エアビー)だったり、Uber(ウーバー)に近い形を目指しています。

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山本 なので、最初に始めたバージョン1の外国人の家を訪ねる体験は、やはり受け入れサイドの問題がありました。「毎月第二土曜の夜だったらいいよ」みたいな。南伊豆くらし図鑑もそうだと思うんですけど、毎日は受け入れてくれないじゃないですか。

伊集院 そうなんですよね。

山本 Aさんが来たときは成立したけど、Bさんが来たときは成立しない体験づくりは、なかなか仕組み化していかないんですよね。もちろん、属人性のよさもあるんです。でも、世間に届けるサイズ、影響範囲でいうと、むずかしいですよね。

熱狂を確認して、拡大させる

伊集院 もう一つの要素、「熱狂」はどんな風にみていますか?

山本 キッチハイクが飲食店で開催された時。つまりバージョン3に移行した時、すごくドキドキしたんですね。ユーザーさんはついてきてくれるだろうかって。

「みんなでご飯を食べる」体験自体は変わっていないけど、人の家におじゃまする体験から、飲食店にも広げるって、ちょっと戸惑うじゃないですか。

僕らがいくらユーザー数を増やせる構造をつくっても、そこにユーザーの熱狂がないと、ムーブメントというか、大きい文化をつくることはできないので。

だけど、うまくいくはずという見立ても当然ありました。それは、バージョン2の時に、あるユーザーさんが勝手にバージョン3(飲食店で集まる)のような使い方をしたんですよね。

それは、かなりヒントになったんです。「あ、こういうことをしたい人がいるんだ」と。それをみれたのは良かったですね。なのでユーザーさんの熱狂を確認してから、拡大させたという感じです。

伊集院 その時に工夫したことはありますか。

山本 補助線を引くことはすごく意識しますね。

伊集院 補助線を引く。

山本 例えば、何にしてもルールがあるから楽しめるわけじゃないですか。サッカーでもこういうプレーをすると楽しい、みたいな。例えばキッチハイクって参加すると、一時的なグループチャットが立ち上がるんですね。そこから自己紹介が始まったり、コミュニケーションが始まるんです。そういった補助線を引いてあげて、熱狂しやすくなるようにしています。

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参加が決まると、グループチャットが立ち上がる

山本 でも、熱狂というより、楽しみが積み上がっていくイメージですかね。

伊集院 楽しみが積み上がっていく。

山本 はい、キッチハイクはイベントサイトではなく、コミュニティなので。行けば行くほど、楽しくなるというか。自分はこの場所に何回行ったとか、料理をつくっている人ならレビューがどのくらい貯まったとか、フォロワーが何人ついたとか。そういう楽しみが可視化されていく感じです。

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他にも、参加者が撮影した写真をサイト上で共有できたり、レビューを書くことができる

山本 なんか再現性と熱量ってすごく相反するものだと思っていて。むずかしいんですよね。年に1回のイベントって、熱狂するじゃないですか。花火大会とか、お正月もそうですよね。

日常のものに熱狂を重ねていくってむずかしくて。でも、そこを何とか仕組み化するのは大事だと思っています。なので、スポーツとかゲームとか麻雀とか、そういうイメージなんです。いつやっても熱狂できるようにすることが大事です。

伊集院 熱狂を仕組み化するとき、一度プロトタイプをつくってみたり、反応を見たりしますか?

山本 はい。僕らはいきなり完成形をドンって実装することはないです。バージョン2から3に変わる時も、必ずテストで何度か試してみて、再現性が可能か、そこにユーザーさんの熱狂はあるか。その反応をちゃんとみます。時に使ってくれる方と見えないキャッチボールをしながら、よりいいものをつくろうとしています。

サイズが解決する

岡住 キッチハイクは、コアユーザーが多いですか?

山本 コアユーザーは多いですね。

岡住 普段、僕が日本酒のイベントをやっていて思うのは、いつも顔ぶれが一緒だったりするんですよ。もちろん、いつも来てくれて有り難いですけど、そういう人たちがいることによって、ライトなユーザー層を排除しているかもしれなくて。

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山本 なるほど。

岡住 コアユーザーが多いことによって、ユーザーの拡大性を排除している可能性もあるのかなと。そこらへんは、どうしていますか?

山本 そういうことはありますよね。コミュニティ論で言うと、古参が増えるほど、新しい方って入りづらくなる。例えば、スナックやBARにもいえますよね。キッチハイクもそういう時期はありました。

でもそれって規模というか、サイズが解決すると思うんです。例えば、岡住さんが主催するイベントの回数を増やしたり、1000人規模でやってみてはどうでしょう? 

キッチハイクは少ない現場だと5、6人。多い現場だと20〜30人なんですね。それが、同じ日にごはん会が幾つも開催されています。キッチハイクという大きいコミュニティの中に、さらに小さいコミュニティが無数にあるんです。だから割と回遊性があるというか。

古屋 私もコミニュティに回遊性があるかどうかは、すごく大事だと思っています。常にユーザーさんが動いていて、今日はここにいたけど、昨日は別の場所にいたり。コミュニティを池と捉えた時、その広い池の中で常連になってくれると、よりコミニティの中が生き生きするのかなと。

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古屋 山本からサイズの話がありましたけど、数が大きくなって、更に回ることによって、淀みが起こらないというか。池の中の淀みが発生することなく、常に動き続ける。それが一つのキーかなと考えています。

岡住 回遊性を高めるために、具体的にやっていることはありますか?

古屋 ニュースを作るのは大事だと思っています。例えば、さっき言ったように自治体さんとコラボしたり、いろいろなメーカーさんとコラボしたり。

例えば、石川県とコラボした時、当然ですがキッチハイクを知っている人より、石川県を知っている人の方がたくさんいらっしゃる。それによって新しい人がキッチハイクコミュニティに入ってくれます。常に新しい風を外部から取り入れることはしていますね。

山本 一方でヘビーユーザーさんは新しいアイデアをどんどん出してくれるし、「もっとこうしたら?」のアイデアが、濃いですよね。もちろん、それをただ言われた通り試すのではなく、ヒントだと思ってそれを分解して、新しいユーザーを入れるためにはどうしたらいいか、応用できるかを考えます。

ポテンシャル層に届ける

壽榮松 パンチラインの③マスではなくコアな人に届けるについて伺いたいです。僕らが勤めている自然学校でいうと、コアユーザーって鹿を捌いたりとか、山奥で木を切り倒す人たちなんですね(笑)。ちょっと、濃すぎますよね。

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壽榮松 でも、僕はみんながそこまでにならなくとも、例えば、裏山で朝のランニングをするとか自然がもっと身近になるような文化を根付かせたいと思っているんです。

岡住さんと逆行する質問ですが、どうやったらコアユーザーは広がると考えていますか?

古屋 例えば極端な話、日本人全員がジビエに詳しくなったら、それは嬉しいことだと思うんです。でもそれって、いきなりはむずかしいと思うんですよね。でもなんかポテンシャル層はいると思っていて。

今までジビエ、自然には触れる機会がなかったけど、やってみたいと思う人っているはずなんです。それは食ではなくて、体験が好きな人とか。そういったポテンシャル層に届けやすいボールを投げるのが、今っぽいのかなと思います。

山本 僕らはキッチハイクの文化というか、温度感をわかってくれるコアユーザーは増えてほしいと思っています。それと同時に、たくさんの人に食で繋がる体験を届けようと思っています。だから、ちょっと身も蓋もない言い方になるかもしれませんが、最初は何だっていいと思うんです、きっかけは。

「うっかりキッチハイクを予約した」でもいいと思っていて。最初はそういうところから始まるのかな、と。ジビエにしても、害獣問題とか、食肉がどうやって流通するとか、いろいろな背景があると思うんですよね。でも、まずはそこまで知らなくても、「とりあえず食べてみよう」が、最初の入り口だと思います。

キッチハイクは、そのユーザーの入りやすさ、入口をすごくライトにして、とにかくまずは1回、半歩近づいてみてくださいと意識していますね。そこからどんどん「なんかキッチハイクって面白いかも」「食って楽しいかも」となってキッチハイクの奥行きにはまっていく。それで二度と抜け出せない、みたいな。(笑)

伊集院 いい沼ですね(笑)

山本 いい粘着性があるというか(笑)。それでつなげると、サッポロビールさんとコラボしたのは大きかったですね。実はキッチハイクって、今ではビールとかお酒をみんなで飲もうとなっていますが、ここ1年くらいの話なんです。

壽榮松 そうなんですね。

山本 それまでは、キッチハイクの文化はノンアルです。お酒を飲もうみたいな感じではなかった。そこにサッポロさんとのコラボをきっかけに、ビール好きの新しいユーザーさんがキッチハイクに入ってくれたんです。

それは僕らにとって凄く嬉しかったんですね。それまでは食に対してすごくこだわりがある人たちが中心だったんですけど、ビールって大衆の飲み物じゃないですか。一気にライトになった気がします。なので、裾野を広げるのと同時に、いろいろなコミュニティが横串になっていくのが大事だと思いますね。

伊集院 個人的に、入口をライトにたくさんつくるってお話がグッときました。今、僕がやっている南伊豆くらし図鑑は、基本的に1組限定の体験サービスなんですね。もちろん、そういう体験も大事にしながらですけど、ちょっと切り口を変えるのって、ありだなって思いました。キッチハイクがビールだったり、地域自治体とコラボして入口を広げたように。

このメンバーでいうと、例えば岡住さんは日本酒だけじゃなくて、芋焼酎を合わせたイベントを企画したら、芋焼酎のファンが日本酒を好きになるかもしれないじゃないですか。回数やサイズ感も大事だと思いますが、そういう視点が体験を広く届ける上で、すごく重要なんだなと思いました。

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※ここからは質問を受けました。

ポジティブに予定調和を外していく体験

女性 2つあります。ひとつは、キッチハイクがこれから目指すビジョンをお聞きしたいです。もうひとつが、コミュニティをつくっていく上で大切にしていることはなんですか?

山本 どれも言葉にするのはなかなか難しいですね。でも、より人の創造性だったり、人の人生がもっとポジティブに変わっていくきっかけを仕組みとしてつくりたいです。

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山本 今、世の中のすごい大きな文脈でいくと、どんどん自分になっていく、みたいな力学が働いていると思っています。

つまり、SNSで行動したことが、すぐに広告で表示される、みたいな。そういったマーケティング技術が高まり過ぎて、僕らはその予定調和を外れるような体験、出来事って、なかなかできない世の中になっています。

例えば、横丁に行って、そこでたまたま知り合った人の話がめっちゃくちゃ面白かったとか。そういうのって、今の世の中に欲っされている気がします。

だからキッチハイクがより高めていきたい、影響力を大きくしたいところは、偶然を落とす力とか、偶有性の高い人生を生み出せるサービスです。でも、それって、すごくむずかしいんですよ。

キッチハイクもウェブサービスなので、カレー好きな人に、カレーリコメンドしたら来てくれる可能性って高いじゃないですか(笑)。でも、カレー好きが集まってカレーを食べるよりも、たまにはカレーじゃないものを食べたほうが、人生って実は広がる、みたいな。

今までの自分とは違ったことをするとか、今までの自分だったら出会わなかった人と知り合う、みたいな。そういう人生の予定調和を外すことをポジティブにやりたいんですよね。何ができるのか、まだわかりませんけど、キッチハイクのサービスを使うとそういう偶有性を楽しめる、みたいなことはやりたいですね。

自分が矛盾したことを言っているとは思っています。でも矛盾を両立させるのが価値みたいな時代だと思うので。中・長期でいくと、よりそういうサービスを目指したいと思っています。

キッチハイクに来ると、ちょっといいやつになれる

山本 あと、コミュニティをつくっていく上で、大切にしていることは、ユーザーコミュニティがどんどん広がっていくことですね。

突然ですが、小説家の平野啓一郎さんが書いた『私とは何か(講談社)』に出てくる「分人」という概念をご存知でしょうか? 分人とは、個人の中に実はいくつもの自分が存在しているよねって考え方なんですね。親と話している時の自分、小学生の同級生と会ってる時の自分、みたいな。詳しい話はちょっと割愛しますね。

それで話を戻すと、僕はコミュニティ内で、いい分人が立ち上がるような補助線を引きたいと思っています。これはユーザーさんがキッチハイクをより楽しく使っていただくために必要なことだと思っています。

なぜかと言うと、事業を広げようとすると、おそらく、悪いユーザーが入ってくる可能性って上がりますよね。ネットなので、排除してもキリがない、みたいな。きっと、そんなタイミングが来るんですよ。

でも、たとえそういう悪いやつが入ってきても、キッチハイクで食卓を囲む3時間だけは、めっちゃいいやつになる、みたいな(笑)。

伊集院 キッチハイクに行くと、なぜかいい分人が立ち上がるってことか(笑)。それって運営側として、どんな補助線を引くというか、心がけをするんですか?

山本 例えば、プロフィールを書きましょうとか。挨拶はちゃんとしましょうとか。なんかテーブルマナーをつくるようなイメージです。といっても、「スープは手前から奥」みたいな堅苦しいことじゃなくて。いろいろな人とご飯を一緒に食べるのであれば、こういうふうに配慮しましょうとか。そういうコンテンツを提供するという感じですかね。

今、キッチハイクを実際に使って、楽しんでくださる方が増えてきたのは、本当に僕は嬉しくて。こういう世界になることを望んでずっとやってきたので。でも、まだまだ今の1万倍くらいの人たちにこの体験を届けたいと思っています。もうちょっと時間はかかる気がしますが、ぜひ皆さん、使ってもらえたら嬉しいです。

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※最後に、残り一つのパンチラインも紹介しておきます。

①リノベーションとイノベーションは同時進行。
これは、山本さんがバージョン1〜3までの経験を話してくれた時の言葉です。図をみせながら話してくれました。

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山本 例えばaというイノベーション(創造)が生まれたとするじゃないですか。その後に何が行われるかというと、リノベーション(改善)が起きるんですよね。a'からa''。a''からa""、みたいな。僕らの最初のウェブサイトがaだとすると、a'が「韓国語対応しました」。a''が「写真をよくしました」みたいな。でもそれって、たいした改善じゃない です。時間を使った割に利用者数は10人から12人に増えただけ、みたいな。事業を大きくしようとすれば、bにいくためのジャンプが必要だと思います。bに行くためにはリノベーションじゃなくて、ユーザーをみることだったり、アイデアの掛け合わせだと思います。なので、今自分たちがやっていることは、リノベーションなのか、イノベーションなのか。どちらに寄っているのかを意識しないと、本当はイノベーションしたいのに、永遠にリノベーションをやってしまう、みたいなことに陥ってしまいます。

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vol.9は、株式会社machimori市来広一郎さんを訪ねて学んだことを報告します。市来さんにぶつけた問いは、「まちづくりってなに?」です。それでは、また次回のローカル×ローカルで会いましょう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

vol.09はこちらから

<<ローカル×ローカル バックナンバー>>
vol.0 「はじめに」〜先輩たちを訪ねて、学んだことを報告します〜
vol.01 「人が増えるってほんとに豊かなの?神山つなぐ公社理事 西村佳哲さん
vol.02 「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版の川口瞬さん・來住友美さん
vol.03 「文化ってどうつくられる?」群言堂広報誌 三浦編集室 三浦類さん
vol.04 「好きと稼ぎを考える」 株式会社BASE TRES代表の松本潤一郎さん
vol.05 「地域のしがらみ、どう超える?」長野県塩尻市市役所職員 山田崇さん
vol.06 「いいものって、何だろう?」デザイン事務所TSUGI代表 新山直広さん
vol.07 「事業ってどうつくるの?」greenzビジネスアドバイザー 小野裕之さん
vol.08 「 体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん・プロデューサー古屋達洋さん
vol.9は、「まちづくりってなに?」株式会社machimori代表 市来広一郎さん




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