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ローカル×ローカルvol.02「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版の川口瞬さん・來住友美さんを招いて

「地域おこし」「地方創生」って一体どういう状態だろう?

この企画は、そんな問いを持った僕が、さまざまなローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んだことを報告するイベントです。共催は日本仕事百貨です。

このイベントをやろうと思った詳細は、こちらをご覧ください。

vol.01では、徳島県神山町から西村佳哲さんを招いて「人が増えるってほんとに豊かなことなの?」というテーマでお話を伺いました。

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その時のレポートはこちら

vol.02は泊まれる出版社『真鶴出版』の川口瞬さん・來住(きし)友美さんを招きました。

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川口 瞬(かわぐち・しゅん)/大学卒業後、IT企業に勤めながらインディペンデントマガジン『WYP』を発行。“働く”をテーマにインド、日本、デンマークの若者の仕事観を取材。2015年4月から來住さんと神奈川県真鶴町へ移住。
來住 友美(きし・ともみ)/大学卒業後、2年間青年海外協力隊でタイ南部に日本語教師として派遣される。その後フィリピン・バギオの環境NGOにおいてゲストハウスの運営を行う


二人に尋ねた問いは、「効率化って、本当にいいの?」です。

今はネットさえあれば、たくさんの人に情報を広く発信できる時代だと思います。

そのこと自体、決してわるいとは思わないけど、一概に広く届けることっていいことなのかと思ったんです。メディアに紹介されることも含めて。

いかに多くの人に拡散されるか、バズるか。

でも、こう思います。もし効率的に一気に呼び込もうとしても、意図しない形で広がるかもしれない。ただ一方で多くの人に拡散すれば、その場所に光があたり、お金が生まれる可能性もある。

僕自身、この辺のバランスというか。これからやっていく上で、どう広げていくか、誰にどう届けていくか、ちょっと悩んでいました。

その時に、真鶴出版を思い浮かびました。

真鶴出版は真鶴の情報を発信しながら、実際に来てくれた人を宿へ受け入れる「泊まれる出版社」。宿泊ゲストには1〜2時間一緒に町を案内する「町歩き」をつけているのが特徴です。

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実際に僕も宿泊させてもらいました。

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真鶴出版に宿泊できるのは最大2組まで。翌日僕が参加した町歩きツアーは、真鶴の何気ない道の歴史を話してくれたり、地元の人と立ち話をしたり。とても丁寧にガイドしてくれました。

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來住さんが2時間かけて真鶴案内をしてくれた

真鶴出版がやっていることって、一つひとつとても地道だし、出版も宿もやるし、なんだかもっと効率的に稼げそうな気がするなぁと思ったんです。真逆の道をいっているというか。いわゆる大勢の人に向けて広く発信しようとしているわけではないけど、着実に真鶴という町の魅力を深く、広く届けているような気がしました。

それでお二人のもとを訪ねたんです。

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学び仲間は、富山県南砺市城端にある、絹織物業、㈱松井機業の6代目見習いの増田渉さん。増田さんは織物・養蚕業の他にも、さかなクンならぬ「ヤサイくん」として、畑の楽しさや野菜のおいしさを伝える活動をされています。

学び仲間の人選は、日本仕事百貨の中川晃輔さん。中川くんによると、増田さんの一見非効率な動きが、結果的に多くの人を惹きつけているのでは? と思い、このテーマなら増田さんだと思ったそうです。

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増田 渉(ますだ・わたる)
大学卒業後、飛騨の旅行会社に就職。飛騨の野菜のおいしさに感動し、パーマカルチャーを学びに渡豪。帰国後は、飛騨に戻り乳酸菌を利用した堆肥の製造販売会社に就職。畑の楽しさをもっと多くの人に伝えたいという想いから、オールセルフプロデュースの「月刊MASUDA」を発行。2018年に富山県南砺市城端にある、創業143年の絹織物業、㈱松井機業の6代目見習いを紹介され婿入り。現在は開墾しながら、織物業・養蚕に励む。

当日は中川さん、増田さんと一緒にお話を伺いました。

※ここからがイベントレポートになります。

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伊集院 それでは、川口さん、來住さん。自己紹介も含めてよろしくお願いします。

お互いプロセスは全然違うけど、地方に向いていた

川口 真鶴出版の川口と申します。夫婦でやっています。僕は大学まで出版社のベンチャーでインターンをしていました。そこで出版をかじったというか、興味を持ったんです。その後IT系の企業に勤めながら自費出版でトラベルマガジンを作っていて。副業という感じで4年間やっておりました。

その中であらためて出版って面白いなと思い始めて。そろそろ将来どうしようかなと思っていた時に、ちょうど妻の來住がフィリピンに行くことになって。これはちょうどいいタイミングだなと思って会社を辞めてフィリピンに英語留学に行きました。それから2人で2015年に真鶴に行ったという流れです。

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來住 私は神奈川県横浜生まれなんですけど、大学時代にフィリピンの山岳民族の村にホームステイする活動をしていました。もともと私は海外への憧れがめちゃめちゃあって、自分の周りの完成された世界から出たいと思いがすごく強かったんです。それで行けるならと、特に理由もなくそのサークルに入ったんです。

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來住 その時に出会った山岳民族の生活に衝撃を受けて。なんでこんなに幸せそうに暮らしているんだろうと。それでもっと海外のことを知りたいと思って青年海外協力隊に応募して日本語講師として2年間タイに派遣されました。その頃に海外の人と日本人を繋ぐ仕事をしていきたいと思うようになって。

任期を終えてからは、フィリピンのバギオという地方都市に行きました。大学の先輩がNGOとゲストハウスを運営していて、その先輩を訪ねたんです。私がNGOの形態にもゲストハウスにもすごく興味があったのでそこで働かせてもらって。そこでノウハウを学んで真鶴に移ったという感じです。

ゲストハウスの写真

バギオでゲストハウスをしていた頃

川口 なんで真鶴町というか、地方に行ったかというと、僕の周りで東京からちょっと離れるみたいな人が増え始めていて。フィリピンにいた時もそういう人が多いなと感じていて。なんとなく直感で「これから地方って面白くなりそうだ」と思ったんです。

もう一つが、出版関係の人たちは東京にいることが多かったので、みんながいないところに行きたいなと。あとは自分で仕事を始めるなら生活費が安い方がいいと思って地方を検討し始めました。

來住 私は全然違うことを考えていました(笑)。私はゲストハウスをやりたいというのがすごく頭にあって。ただバギオでゲストハウスの運営をしていた時はすごく忙しかったんです。ゆっくりお客さんと全然話せなくて。

ゲストが一、二組だった時はゆっくり話せたんです。その時は時間を共有できてすごく良かった。だからゲストハウス をやるなら観光地とか東京じゃない方がいいなと思ったんです。

なんか忙しすぎて私がやりたい人と人を繋げたりとか、地域を繋げたりすることができないかもしれないと。もうちょっと人の流れがゆっくりなところがいいなと思った時に、なんか地方かなと思って。そうしたら、川口の思考も地方だったんです。

川口 偶然ですね。

來住 お互いプロセスは全然違うんですけど、じゃあ地方だねとなって。それで川口の友人で写真家のMOTOKOさんという方がいるんですけど。その方はちょうど10年くらい前からいろんな地方に入って写真を撮る活動をされていたので、お話を聞いてみようと。たしか、フィリピンから東京に帰る2週間くらい前に今の状況をスカイプで話したら「真鶴よ、真鶴に行きなさい」と言われたんだよね。

川口 お告げがありました(笑)。

來住 プロセスはめっちゃすっ飛ばしているんですけど、フィリピンから帰ってきた翌日に真鶴に行ったんです。

私たちの思う真鶴のいいところ

川口 それで真鶴町なんですけど、先端が三ツ石と呼ばれる景勝地になっていて。その手前にお林と呼ばれる森があります。港町なので入り江側に人は住んでいて、今も朝、魚市場が毎日開かれています。

ちなみに、真鶴という名前は上から見た時に鶴が翼を広げた形に見えるから真鶴と呼ばれるようになりました。真鶴町は海岸沿いに高い建物がほとんどないんですね。これは高い建物が建てられない町の条例『美の基準』があって、こういった風景が残されています。

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川口 あとは関東で唯一海を眺めながら森林浴ができるという、観光協会が推しているものです。あとは石材業があって、高級墓石になるんですけど、天皇家とか徳川家に献上していた小松石と呼ばれる石が採れます。7月には貴船祭という一年で一番盛り上がるお祭りもあります。

ただ、僕らが思う真鶴の魅力は、ちょっと違っていまして。ひとつは背戸(せと)道。真鶴では車が通れないほどの路地を背戸道と呼んでいます。それがたくさんあって、ここを歩くのが楽しいんです。

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川口 もうひとつはコミュニティ。真鶴は歩いて回れる小さな半島になっているのですごく人との距離が近い。ご飯を買いに行ったら誰かと世間話をするようなコミュニティが残っています。

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コンセプトは、泊まれる出版社

川口 それで、真鶴出版は何をやっているかというと、出版と宿です。例えば、真鶴町から依頼を受けて移住促進パンフレットを作らせてもらっています。あとは『やさしいひもの』という本を販売したり。これは干物引換券付きの本になっていて、真鶴の干物屋さんに来てくれると干物がもらえます。他にも自治体の広報物を町民向けにわかりやすくしたり、チラシを作ったりしています。

やさしいひもの表紙-1-700x490

來住 宿に関しては、最初の2年間は別の物件を借りて、自分たちも住みながら1部屋を貸し出す形態でやっていました。それで2017年にその宿はたたんで、2018年6月に新しくオープンさせました。目の前の民家が偶然空いていたので、そこをリノベーションしたんです。

そこには川口が先ほど話した小松石を使ったり、地元の作家さんにテーブルを作ってもらったりと、地元の方々にすごく協力してもらいました。設計をお願いしたのは、トミトアーキテクチャというユニットです。

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來住 この宿の特徴が、町歩きをお付けしているところです。最初の頃は、町歩きは1時間だったんですけど、2時間になったんだよね。楽しくて。私が案内するんですけど。

川口 すごい時は4時間くらい帰ってこない(笑)。

來住 これを始めたきっかけは、初めて来た人にとってたぶん真鶴町の良さというのが、わかりにくいんですよね。例えば、温泉とか観覧車があるとかだったらいいんですけど。私たちの思う真鶴のいいところは、真鶴の暮らし。

例えば背戸道だったり、人が優しかったりとか、そういうところなので。たぶん来てくれた人に「じゃあ行ってみてください」と言っても、なかなか良さは伝わらないかもと思って。それが心配で私もついていったのが始まりです。毎回来る人たちにやっていったら、定番化しました。今では初めて泊まる人には必須で町歩きをさせてもらっています。

私たちにとっての効率化とは何か?

來住 効率って、何かの目的を達するための最短手段だと思うんです。それで私たちの目的って、真鶴出版の発信だったり、来てくださった方が真鶴を体験して、「こんな暮らし方があったんだ」とか「こんな働き方があったんだ」と新しい気付きとか視点を持つと、選択肢が広がるというか、生きるのって少し楽になるじゃないですか。

こんな風に生きている人もいたなと思ってもらえたらいいなと。それをちゃんとお届けするには、このスタイルがすごく自分たちには効率的なんじゃないかなと思ってやっています。

川口 普通は効率化というと、お金を稼ぐためにいかに効率を良くするかってことだと思うんですけど。僕らの場合、家族が食べていけるくらい稼げたらいいなと思っていて、そこの効率化を目指していないというか。真鶴出版の活動はそういう感じです。

真鶴出版を訪ねて、学んだこと

伊集院 ここで僕が二人を訪ねて、事前にお話を聞いて、グッと来たところ、3つのパンチラインです。

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※会場に来てくれた皆さんにどの話が一番聞きたいか手を挙げてもらい、一番多く挙がったパンチラインを深めていきました。この時は、②伝えたいのは、真鶴の魅力ではなく、その手前という話でした。

伝えたいのは、真鶴の魅力ではなく、その手前

伊集院 では、②についてもう少し聞かせてください。たしか僕が「真鶴の魅力を発信する時に大事にしていることはなんですか?」と聞いた時に、來住さんがこの話をしてくれたんですよね。

來住 そうですね。さっき話したことと重なってしまうんですけど、私たちがやりたいことって、真鶴の魅力をとにかく発信して、町を盛り上げたいというのより、来てくれた一人ひとりに選択肢を増やしてもらいたい。もちろん、私たちや真鶴で過ごした時間を通して「今の私たちの生活のほうが良かったわ」と思ってもらっても全然いいんですけど、ちょっと幸せ度を上げてもらうというか。

伊集院 幸せ度とは?

來住 人によって違うとは思うんですけど。私の場合は、今やっていることは自分のフィリピンでの体験に基づいていて。私はそれまで日本で生活していて、漠然となんか頭の中でこれから進んでいく道というか、レールが全部決まっているように感じがして。何かの歯車になっていくんだなって。

うまく言えないんですけど、未来が暗かったんですよね。だけど、フィリピンに行ったらいろんな考え方をしてもいいんだって、なんか自分で未来はつくっていけると思ったんですね。その時に自分の未来を肯定できたというか、それで幸せ度が上がったと思ったので。なんかそういう体験をしてもらいたいなと。

川口 僕らは地域を盛り上げるNPOの方とか地域おこし協力隊の方とはちょっと違っていると思っていて。そういった方々は地域を盛り上げることが最終目的にあると思うんですけど、僕らの強みというか、違いは最終目的がそこじゃなくていいところ。

結果的に町も盛り上がったらいいと思うんですけど、僕らの場合はいろんな選択肢があるよってことだったり、僕らが思う地方の面白さを伝えたりとか、そういうことができたらいいなと思っています。

選択肢があることを知っているから、移住できた

中川 真鶴はMOTOKOさんっていう神のお告げがあって行ったわけじゃないですか(笑)。それは、すんなり受け入れられたんですか?

來住 私たちは地方に関して、何も情報を持っていなかったので、とりあえず行ってみるかという感じです。実際、住む場所を何箇所か回ったんですけど、結果的にご縁を感じて真鶴に帰ってきた。神のお告げはきっかけだよね。

川口 それこそ僕らは神山町にも行きましたし、本当にどこもいい場所だと思いました。決め手というと、一番縁を感じたのが真鶴だった。

來住 ちょうど真鶴町の方から「お試し暮らしをしてみない?」とお声を掛けていただいて。特に予定がなかったので、じゃあやってみますと。そこでなんか、いいたらい回しにあって(笑)。

伊集院 いい、たらい回し?

來住 最初に役場関係の方たちにお会いするじゃないですか。そうすると、若い人が来たらしいよって、どんどんいろんな人を紹介してくれて。そういうのが止まらなくて。2週間が終わる頃には、道を歩いたら知り合いがいるという。なんかすごくご縁を感じて。こんな感じで繋がっていけるなら、暮らせそうだなと。

川口 どこでも良かったのかもしれないんですよね。そういうことが起きてしまったというのが大事であって。

來住 あと私たちの場合、移住というと「お墓を建てるんですか?」とか、聞かれることもあるんですけど、そんな決断は今できないと思ったんです。だから、なんかダメだったり、嫌になったら実家に帰らせてもらおうとか、東京で仕事を見つけて、アルバイトでもいいという逃げ道を持って移住したというか。なんか、よくないかもしれないんですけど。

川口 たぶん、真鶴の前に僕らはフィリピンに行ったこともすごく良くて。そこで僕は「あぁ、ここでも生きられるな」と思ったんですね。そういう選択肢が一個あることもすごく良くて。さっきの話じゃないですけど、選択肢があったのでちょっとダメだったら、別の場所に行こうくらいの軽い感じでいいのかなと。でも、いつの間にか僕らが町の魅力を伝える側になっているのは面白いなと思っています。

フィリピンにいた頃の写真

2人がフィリピンにいた頃の写真

まずは、自分たちがどうやったら幸せになれるか

増田 僕が飛騨で農業をやっていた頃、家賃が2ヶ月くらい滞納になってすごく大変だったことがあって(笑)。自分の心に余裕がなかった時期があるんです。なんていうか、人って自分が幸せじゃないと人に幸せを伝えられないというか。

例えばですけど、真鶴に来てもらって、「ここを見てください」とか「この人とこの人を繋げたい」とかって、気持ちの余裕があるからできるのかなと思うんです。そういう気持ちの余裕ってどこから持ってくるのか、どこが原石になっているのか聞きたいです。

來住 気持ちの余裕は、ないです(笑)。今、必死過ぎるので。去年子どもが生まれたんですけど、その時期に子育てとリノベーションとクラウドファンディングをやっていたので。でも、もう回ってしまっている歯車なので、なんとか乗り切るしかなくて。宿の場合は、本当に来てくれるお客さんが凄い嬉しそうに来てくださるんですよ。伊集院さんも、凄いキラキラした目で来てくれて。

伊集院 はい、楽しかったです(笑)

來住 あとは、結構地方で活動されている方が、仕事というか視察のような感じで泊まってくださるんです。そういった方たちが最後の町歩きを終えた時に「すごく良かった」と言ってくれて。そういうことが日々の原動力ですね。

川口 本当に課題ですね、余裕を持つのは。結構気をつけているのは、まずは自分たちがどうやったら幸せになれるかを考えて、それであわよくばというか、地域も一緒に元気になったらいいなと思っていますね。

増田 あともうひとつ。僕がその大変だった時にやっぱり助けてくれるのが地域の人たちでもあって。だからこそというか、いつでもそこから逃げられるスタンスとはいえ、関係が深くなると僕もそうでしたけど。もう本当に骨を埋めるだろみたいに、いろいろな人が来ると思うんです。二人はどう距離感を取っているんですか?

來住 真鶴は外から来る人とか2拠点とか、そういう方が凄く多いんですね。なので真鶴に骨を埋めてくれみたいな方はあまりいなくて。結構オープンというか、距離感も程よくて、そんなにプレッシャーは感じていないですね。どうなんだろう。でも本当に離れなきゃとなったら、深刻に考えるのかもしれない。

増田 真鶴は東京からちょうどいい距離だからかな。田舎過ぎず、都会過ぎずみたいな感じもあるかもしれませんね。僕は飛騨から今の富山県の南砺(なんと)市に移る時は、「ちょっと、婿に行くことになりまして」と、いろいろな人に言って出ていきました。

川口 そこがなんかローカルの課題かもしれないですね。もっと気軽にみんなが移動できるようになった方がいいというか。そこで負い目を感じると、やっぱりローカルに行くのは勇気がいるのかなってなる気がします。

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※ここからは参加者から質問を受けました

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男性 今って仕事×場所で選ぶと思うんですけど、仕事×真鶴で考えた時に、良かったことと、困ったこと、悪かったことは何ですか? 

來住 良かったことは、私が思ったような感じで周りに受け入れられていることです。あとは来てくださるゲストが本当に皆さんいい人たちばかりで。そのゲストの方と繋がって、また面白いことができたりとか。この前も韓国からゲストが来てくれたんですけど、「真鶴出版の出版物を韓国語にしたい」と言ってくれて、韓国語版が出たんです。9月には韓国に行くんです。彼らが呼んでくれて。

そういうのがなんか面白いし、いいところですね。もしかしたら真鶴が一個フィルターになっているんですよ。わからないですけど、有名な観光地だったらその分いろいろな人が来るじゃないですか、そこをめがけて。だけど真鶴って本当に動機がないと来ないというか(笑)。悪いところは・・・なんだろう。

川口 真鶴に限った話ではないんですけど、もともと僕らは真鶴に何も縁がなかったので、やはり子育てをする時に、自分たちの親がそばにいないので大変かなと思うことはあります。とはいえ、実家は横浜なのでそこまで遠くないんですけど。

伊集院 他にはありますか?

女性 今、富山でゲストハウスの立ち上げに関わっています。でも、私とそこのオーナーは富山の魅力を発信したいわけではなくて。真鶴さんのようにその手前にあるコンセプトがあるんです。だけど、やはり外から見ると「富山の発信がしたいんでしょ?」と思われて、私的には違うんだよなと。真鶴さんはどうやって伝えたりとか、届けているのか、聞きたいです。

來住 私たちは、真鶴の魅力を発信していると見られてもいいかなと思っていて。なんか見られたいように見てもらったらいいなと。

川口 こういうトークイベントの時は、真鶴の魅力を発信する手前にという部分を話しているんですけど、ウェブ上でそう言っているわけでもないし。嘘をついているわけではないのですが、真鶴の良さを伝えることは特に否定はしていません。

伊集院 では、その上で発信する時に気をつけていることはありますか?

來住 嘘がないように、盛らないように気をつけています。SNSで発信しているんですけど、ちょっと私のほうが盛りがちなんですね(笑)。夜書くことが多くて。でもそういう時は冷静になって、本当のサイズにして発信することは意識しています。自分の暮らし方というか、本当に日常ですよね。なんでもない道にみかんが落ちていて良かったとか。この森の風景はなかなか見れないなとか、本当にそういう感じです。

川口 僕はあまり「移住しに来てください」と言わないように気をつけていて。本当に来てくれたら嬉しいんですけど、積極的に移住を推していません。

女性2 今、宿と何かを組み合わせて場を作ることに興味があります。どういう点で今の家を選びましたか?建物的なのか、景観を重視されたのか。

來住 今の場所にしたのは、本当に家の目の前だったというのがあって。最初は元民宿を改装しようと思っていたんです。でもなかなか見つからないので、普通の民家でいいんじゃないかと思って探してたら目の前の民家がたまたま空いていたんですよ。家って大家さんとか家の状態とか、いろんなハードルがあると思うんですけど、たまたま奇跡的にそこが全部クリアできたんです。

川口 家って結構、地方で一番むずかしいところな気がしていて。家探しで止まっている方はたくさんいると思います。やはりいい感じの不動産屋の力を借りることだと思います。僕らも今の物件を探すのに1年くらいかけていて、多分30軒くらいは見ました。

男性2 僕も神奈川県横浜市出身で、今は東京都内に住んでいます。今は社会人9年目で31歳になるのですが、地方に興味はあるんですけど、両親も東京の人なのでイメージがわかないのが正直なところです。

さっき川口さんたちがコミュニティが魅力という話がありましたが、その繋がりって魅力的だなと思うんですけど、逆に東京に住んでいるといろいろな出会いがあったりとか、いろいろな情報があったりするので、いろいろなチャンスがあるのが東京だと思っていて。

地域の繋がりのあたたかさはあるけど、逆にそういうのは広がっていかないのかなと。これから生活の拠点を地方にするのであれば、そこらへんが不安というか、実感はどうなのか聞きたいです。

川口 これは一徹さんも感じておられると思うんですけど。地方同士の繋がりというのがあって。真鶴に来てすごく広がったなと思っていて。これまで僕が東京にいた時は東京にいる同じ業界の、同じ年代の方しか繋がりが広がらなかったんです。

でも今は他の地方で頑張っている人たちと繋がりだしていて。本当に友達がどんどん増えていって。僕は「株式会社 地方」だと思っているんですけど。同じ会社の別部署の人たちみたいな感覚なんです。一徹さん、そんな感じしないですか?

伊集院 本当にそうだなと思って。同じように頑張っている人たちの声が、割とSNSがあるからすぐ身近にあって。東京で働いた時と違うコミュニティができたという感覚があります。

川口 なんか連帯感みたいのがあって。やはり同じような問題を抱えていますし。東京とは違う、もちろん地元のコミュニティというのもあるんですけど、そこだけじゃなくて地方同士というのもあるのと思います。

來住 私が意外だったのは、東京の企業さんも結構真鶴に来るんです。本当に大企業の方もいらして。なんとなくの印象ですけど、地方との関わり方というのがまだわからない方もいらして。なんかその繋ぎ役に皆さんがなっていると思うんです。

伊集院 では最後にそれぞれ話して、この場をしめたいと思います。

中川 効率という言葉で僕がイメージするのは、なるべく速くその目標値に届くように数をこなすみたいなことがあるんですけど。そうじゃなくて、なんかトータルで考えた時に、例えば年収とかじゃなくて。自分たちが本当に必要としている生活の中で、これは必要、必要じゃないという判断ができて、自分たちの形みたいなものが見えてきたら、それをどうやって満たしていこうかと考えていく。

そうすると、いわゆる効率に追われないで生きていけるのではないかと思ったのが感想で。それでたまたま今のお二人にとって満たせるのが、真鶴だった。だから、それが僕にとってどういう場所かはまだ見つけられていないんですけど、まず自分なりの形を描くところから始めようと思いました。

増田 お二人の話を聞いていて、選択肢を増やすというのはすごいいいなと思っていて。1個の視点しかないと、1個の視点で効率よく目指そうとするので、遠回りしたほうが早く行けるかもしれないというのは凄くあって。東京しか住んだことがない人が地方に行くということで、1個視点が増えるし。

今日は僕富山から来ていますけど、距離的に言えば全然効率はよくない(笑)。でも、東京に来たことで新しい視点は増えるし、こういう出会いもあるなとか、何か繋げられるなとか。だからいろいろなことに興味を持った方がうまくいくことは多いんじゃないかなと思いました。

來住 一徹さんからこのテーマをいただいた時に、ハッとして。自分たちが今までベストだと思っていた形って、全然効率を考えていなかったかもって最初に思ったんです。だけどもうちょっと考えていくと、さっき中川さんが言ってくださったような、自分たちの目的、形に対して、必死に積み上げてきたらこうなっていたんだと思いました。

川口 さっきの話と重なるんですけど、本当に地方は面白いなと思っていて。それで一徹さんや増田さんとも繋がれたし。もっと地方の面白さを伝えていけたらなと思っています。

伊集院 今日はありがとうございました。真鶴出版が生み出す唯一無二な感じがすごくいいなと思っていて。なんかお金を稼ぐことも大事ですけど、真鶴出版はおふたりの価値観を伝えているんだなと。町のためとか真鶴の魅力ではなくて、もっと手前にある、自分たちはどう生きたいか、みたいなところを突き詰めた先に何かその答えがあるんだなと思いました。

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※ここまでが当日のレポート。

最後に、残り二つのパンチラインも紹介しておきます。いずれも、真鶴出版がこれまで話してくれた、根っこの部分が見えてくると思います。

①しっかり伝わった感が自分の中でないと、いや。

これは來住さんが話してくれた言葉です。そこにはこんな思いがありました。

來住 例えば、20人が真鶴出版に宿泊に来ても、本当に満足してくれたのかわからないなと思っていて。でも2組だったら、ちゃんと繋がって喜んでくれたなぁって実感できるので、それをちゃんと積み重ねていく毎日なんです。私たちがやりたいのって、選択肢がめっちゃあるんだよってことなので。そういう思いで話した言葉です。

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③町を見る解像度が上がった

真鶴出版が最初に作った真鶴の町歩きマップ。その経緯を伺ったときに出てきた言葉です。

川口 最初の頃はどういう出版物を作ればいいのか、考えれば考えるほど何もできなくなって。まずは一枚で完結できる町歩きマップを作ろうと思いました。最初のマップは自分たちが好きなお店だけを載せた感じです。でも今思うと、お店のうわべの情報しか見てなくて。よくある美味しいお店とかおしゃれな場所とか。でも、その後も何度かマップをつくる機会があって、今つくっているマップでは、真鶴に住んでいる人のストーリーや何気ない道に隠れている歴史も紹介しています。

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來住 地元の人たちとの関わりの中で聞かせてもらった街の歴史だったり、アーティストの方が企画した街歩きのワークショップで得た気づきだったり。私たちが一つずつ経験していく中で、町を見る視点を獲得していったんです。より多面的に見られるようになったというか。それでこの話をしたと思います。


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次回のローカル×ローカルvol03は、島根県大森町にあるアパレルショップ群言堂のフリーペーパーを発行している三浦編集室編集長、三浦類さんです。伺ったテーマは、「文化ってどうつくられる?」です。ぜひ覗いてみてください。

vol.03はこちらから

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ローカル×ローカル バックナンバー
vol.0「はじめに」〜先輩たちを訪ねて、学んだことを報告します〜
vol.01「人が増えるってほんとに豊かなの?神山つなぐ公社理事 西村佳哲さん
vol.02「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版 川口瞬さん・來住友美さん
vol.03「文化ってどうつくられる?」群言堂広報誌 三浦編集室 三浦類さん
vol.04「好きと稼ぎを考える」 株式会社BASE TRES代表 松本潤一郎さん
vol.05「地域のしがらみ、どう超える?」長野県塩尻市市役所職員 山田崇さん
vol.06「いいものって、何だろう?」福井県鯖江市TSUGI代表 新山直広さん
vol.07「事業ってどうつくるの?」greenzビジネスアドバイザー 小野裕之さん
vol.08「体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん/プロデューサー 古屋達洋さん




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