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ローカル×ローカルvol.01 「人が増えるってほんとに豊かなことなの?」神山つなぐ公社 理事西村佳哲さんを招いて

こんにちは。南伊豆新聞編集長の伊集院です。

この企画はローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、学んできたことを報告するイベントです。共催は求人サイト『日本仕事百貨』です。

このイベントをやろうと思った詳細は、こちらをご覧ください。

第1回目のローカル×ローカルは、徳島県神山町で活動されている先輩、西村佳哲さんを訪ねて、学んだことを報告しました。

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西村佳哲さん
つくる・書く・教える、大きく3つの分野で働いている。開発的な仕事を頼まれることが多い。神山と東京の2拠点生活、あと出張でところどころ。新刊『一緒に冒険をする』(弘文堂・2018)。

西村さんに尋ねたことは、「人が増えるって、本当に豊かなの?」。

人が増えること=豊かな(いい)ことなのだろうか?

1年間、僕は南伊豆の魅力を発信していくなかで、ちょっとグラついてしまったんです。

例えば、町で大きなイベントがあったら、たった1日でいろんな人がお金を落としてくれます。宿泊、飲食業だって潤います。

それに比べて自分がやっていること(南伊豆の魅力を発信すること)って・・・

ささやかすぎる。さらに言えば、数字にも見えづらい。

なんだかんだ、観光客がドッと来たほうが町にとって、いいのかな?(笑)

イベントをどんどんやって、お客さんをたくさん集める方向に舵を切った方がいいのかな?

でも・・・やっぱり、こうも思ったんです。

移住者も、観光客も、“どんな風に増えていくか”が重要な気がすると。

そんなモヤモヤを抱えていた時に、西村さんが思い浮かびました。

西村さんは神山町の人たちと一般社団法人『神山つなぐ公社』を立ち上げ、子育てや住宅など約20のプロジェクトの舵取りに関わっています。

例えば、地元の高校生と大工さんが一緒になって集合住宅を作る『大埜地(おのじ)の集合住宅プロジェクト』や、一人暮らしの高齢者宅に高校生が訪ねて草木の手入れなどのお手伝いをする『孫の手プロジェクト』だったり。

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▲大埜地(おのじ)の集合住宅プロジェクト/孫の手プロジェクト▼

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たぶん、西村さんたちは「年間来訪者〇〇万人を目指します」「移住者〇〇人増加を目指しています」とか、そういう動きをしていない。

だけど、着実に神山に関わる人たちが増えている印象だったんです。

一体、西村さんたちはどんなことをしているのだろう。

神山には2泊3日滞在。最終日に西村さんにお話を伺いました。

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西村さんと僕

また、このイベントでは別のローカルで奮闘する学び仲間も呼んでいます。第1回は、鳥取県八頭(やず)町にあるコミュニティ複合施設『隼Lab.』マネージャーの諸岡若葉さんです。

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諸岡若葉(もろおか わかば)/宮崎県宮崎市出身。都内の大学を卒業後、岡山県西粟倉村のローカルベンチャーに就職。約2年間勤めた後、鳥取県八頭町にある隼Lab.を運営する(株)シーセブンハヤブサに転職。隼にちようマーケットをはじめとする企画や、施設全体の運営に携わる。

イベントでは、僕が西村さんを訪ねて学んだことを下敷きに、日本仕事百貨の中川くん、学び仲間の諸岡さんと進めていきました。

※ここからがイベントレポートになります。

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伊集院:では西村さん。西村さんが神山でどんなことをされているのか、自己紹介も含めてお願いします。

人が育っていく機会になるように、あの手この手でやっています

西村さん:はい。こんばんは、西村です。今から12年くらい前に、徳島県神山町の『グリーンバレー』というNPOからウェブサイト制作の相談がきて。それで2泊3日で行ってみたんですね。受ける、受けないも行ってみて考えます、みたいな。

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西村 こんな感じの中山間地のまちです。山手線の内側3つ分くらい。その中に今は人口が5100人くらいかな。東京出張で役場の人と窓の外をぼーっと見ているとタワーマンションがズドーン、ズドーンと建っていて「神山町はあれ1本分だね」、みたいな(笑)。

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西村 ウェブサイトの仕事をしてからは、1年に1、2回神山に遊びに行くようになったんです。それからだんだん神山の人と仲良くなって、4年半くらい前に家を借りて移り住むようになりました。でも東京が実家なので、今は6割くらい神山にいて、2割が東京、2割が出張先です。

神山に移った頃は「何していくのかな、俺」みたいな感じだったんです(笑)。その時は東京でやっていた仕事をしていました。もともと書く仕事はどこだってできるし、ワークショップとか大学の授業があれば行くので。そしたら役場の人から「町役場のウェブサイトを作り直したい」と声をかけてくれて。

住民アンケートを取るの、やめましょう

西村 それが2014年でいわゆる第二次安倍内閣の地方創生というやつです。全国の自治体1400ちょっとが一斉に企画書というか戦略資料を書くタイミングだった。それも一緒にやってもらえないかと相談を受けて、2週間くらい悩んでやることにしたんです。

それから神山町の創生戦略が始まって、町長さんたちにこんなやり方で進めましょうという提案をするんだけど、僕がその時にいくつか提案したことがあって。

まず1つが住民アンケートを取るのを止めましょうと言いました。役場の人たちって、新しい戦略や政策とかを考える時って住民アンケートを取りたがるというか。取るのが普通と思うみたいなんだけど。

アンケートという手法は、今あるものを改良、改善するとかは得意なんだけど、ゼロから何かをつくるというか、まだみんなが見たことないものをつくることには全然向いていない。下手にアンケートなんか取ったら、それにすごく拘束されるし、それは止めましょうと。

会議の進め方を変えましょう

西村 それから町議会方式で進めるのは止めましょうと提案したのね。「地方創生 町議会」でGoogle画像検索すると、今も毎年のように、地方創生ということで、こういうのがいっぱいある。

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生々しいのでイラストにします

西村 でも、これをやっちゃったら、もうお終いだなと思っていて。どういうことかというと、まず男ばかり入っている。それからだいたいみんな歳がいっている人ばかり。あの人を呼んでおけば、こっち方面が大丈夫という人が来る。なんというか・・・ある領域の利権を背負ってくる。

利権というか、これまで培ってきた世界というものを。その人たちが圧倒的に何かを変えていこうとは、言わないです。

それから会議の進め方が良くない。「お手元の資料をご覧ください」と言って、発話する機会がちょっとあるだけで、「その件は次回までに事務局で意見を求めておきます」と計3回で何かが決まってしまう。そういうのをやったらもうお終いだから止めましょうと提案しました。それで神山町はどんなやり方をしたかというと、こんな感じ。

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西村 30人くらいの人がいるんだけど、半分が40代以下の役場の人。半分が40代以下の住民。男女半々。移り住んで来た人も、もともとの人も半々くらい。それでこうやってアイランド型になっていって、誰かが20分くらい自分が勉強してきたことや考えてきたことを話したら、10、15分くらい今の論点についてやいのやいのって。そんなスタイルでやっていったんですよ。

まず、お互いがよく見える状態に

西村 これをやるといいのはね、発話自体が多いので、みんながそのことについてどんな感じか、なんとなくお互いに知っていく感じがある。この人はこの話になると興奮するとか。この人は凄いやりたいとか言っているけど、それほどでもなさそうとか(笑)。みんなの情報が挙がってくるのね。

この中からいいアイデアも出て欲しかったし、実際に何かやっていこうって人が生まれるとよかったんだけど、まずはお互いがよく見える状態にならないといけない。

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西村 こういう時間があれば、もし仮にこれで終わっても、住民参加の中で何かやろうした時に、役場のあの人に相談してみようとか、こういう話がきたらあの人に声かけてみようとか、そういうことが起こり得る。今、地方自治体の役場って本当に人数が減らされていて、町に出ていく余裕がない。

それでワーキンググループという形式で、若手で官も民も男女混合で勉強会から始めて、「これから神山町がこうなっていけばいい」って話をいきなりしなかった。

みんながフラットな感じで始まっていけるような形の勉強会をやって、それについてみんながワイワイ喋るみたいな感じで、言葉にする機会を大切にしていったんですね。

地方創生という名前を使いたくなかった

西村 この中で僕は、「一般社団法人の地域公社を作らないか」という住民アンケートを提案しました。役場でも純民間でもなく、その間にもう一個歯車を入れるような感じで『神山つなぐ公社』という地域公社を作って『まちを将来世代に繋ぐプロジェクト』という名前を付けて進めています。

歯車

西村 「まちを将来世代に繋ぐプロジェクト」という名前を付けたのは、地方創生という名前を使いたくなかったから。なんでかって言うと、例えば内閣府が倒れたり、いろいろな諸事情が変わったら一気に覆ってしまいそうだし、10年、20年くらいやらないといけない取り組みだろうと思ったので、独自の名前にしたほうがいい。それと、“まちを将来世代に繋ぐ”というのが結構マジックワードで。

将来世代だとミートするところがある

西村 南伊豆町が高齢化率44%って聞いたけど、神山も50%か51%くらいなんです。そうすると、これからのことを長期的に考えたいのだけど、長期的に考えられる人の割合が、まず少ない。それから神山って結構オープンで、さっき言ったグリーンバレーがやってきた30年くらいの活動があるから、移り住んで来ている人に非常にオープン。

だけど、それでも移り住んで来た人と、地元で育った人というのは、なんか軽い何かがあるのね。でも、将来世代というところでは関係ない。移り住んでここで生まれた子どもたちも、将来世代だとミートするんですよね。

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西村 他の町を見ていて、上の世代の人たちがこれまでやってきたことだとか、自分たちが大事にしてきたことが、轍にはまってニッチもサッチもいかなくなっているのを見ていたので。将来世代というところでちょっと視点を変えていかなくては、というのが一つ。あとね、「まちを将来世代に繋ぐプロジェクト」という名前なんですけど。

例えば、「まちを将来世代に繋ぐ集合住宅」と「まちを将来世代に繋がない集合住宅」があるとしたら、どうなの? みたいなことを、いちいちみんなで話したんですよ。

そこから動き出したプロジェクトの1個をご紹介すると、今は大埜地(おのじ)地区の集合住宅を開発しています。

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西村 神山町って町域が広いから学校、幼稚園に行くと子どもがいっぱいいるけど、家に帰ると同世代の密度が低い。だからどうしてもゲームとかDVDにいっちゃう状態になる。だから、ある年齢層の子どもたちが集まって、新しい兄弟関係をつくりながら住まえる集合住宅をつくろうと。

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まちの一つひとつの仕事を、人が育つ機会になるように

西村 で、こういう集合住宅を作ろうとすると、これまでの神山町のやり方だと一気に作ろうとするんです。でも、これをいっぺんに全部作れる工務店が町内にもうないから、自然と徳島市とかに仕事が流れていく。

大きな公共工事が町外に流れるということは、お金も何億円と町外に流れ出るし、ここに木はいっぱいあるのに、木材も町外から入って来ることになる。

それから町に住んでいる若い大工さんが、自分たちの技術継承をしていく機会も失われてしまう。仕事って人が育つ機会だから、集合住宅を買い物にしてはいけないよね、ということで、1年に2棟ずつ建てています。

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西村 それでテラスハウス型という長屋式の建物にしています。それにしたのは神山町にある工務店で建てられる1個のサイズがあれくらいなんですよ。4年間かけると全部建てられて、技術継承とかも始められる。町の外にお金が出ていかない。

それで面白いのは、この住宅地って最終的に植栽がいろいろ入ってくるんですね。これも普通は町外にある園芸市場に苗を買いに行くのね。でもここでは神山に農業高校があるんだけど、その高校生たちと一緒に山に入って、植栽の種を採ってきて育てています。60種類くらいかな。

その種を拾って苗にして育てて、その中から選んで、去年の秋に最初の植え付けをしたんです。だから町の公共工事に高校生たちが関わっているのね。受注されて。

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西村 すごくいいなと思うのは、この子たちは自分たちの拾ってきた種から、町の景観が生まれるという経験をする。つまり、僕らは公共工事を買い物にしないで、人が育つ機会にしていこうと、あの手この手でと思っているんです。

例えば、集合住宅を作ることで大工も育つし、それから町の発注担当者も苦労するけど勉強することになる。この高校生たちもそう。今20個くらいのプロジェクトが動いているので、それを1個ずつやっています。

数字じゃなくて、その中身


西村 それで目指すところは何かと言うと、僕が神山町に12年前くらいに行った時に、グリーンバレーの大南さんという人に会って、この人面白いなと思って付き合いが始まったんだけど。大南さんがこんなふうに言ったんですよ。

「神山町は本当に過疎化が進んでいるし、この後もどんどん人口は減っていく。この過疎を止めることは多分できない。日本全体で人口が減っていく時に、神山町だけ人口が増えていくなんておそらく有り得ない。じゃあ、どうするのって話をみんながするんだけど、そうじゃなくて。何人というその数字じゃなくて、その数字の中身のほうが大事なんだ」と。

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西村 そう言うと身も蓋もないというか(笑)。でも、本当にその通りだなと思ったんですよ。例えば、将来3000人に町がなるとしますよね。でもその3000人がどういう風に構成されているかが、余程大事だと。何してくれるんですか?みたいな人たちなのか、頼まれもしないのに自分で勝手に始められる人たちなのか。それで、そのためには人が育っていないとダメなのね。

だから多様な人がいて、その人たちの間にいい関係があって、それに何かちょっとこう、やってみよう文化があるというか。だから町の公共のプロジェクトをただつくるとか、ただやるのではなくて、その中で人が育つ仕組みにしていくというのをやっているところです。

僕が西村さんのもとを訪ねて、学んだこと

伊集院 西村さん、ありがとうございました。僕が西村さんのもとを訪ねたとき、ちょっと相談したことがあって。

「例えばマラソン大会をやったら一夜にして何千人と呼べてしまう。関係人口をつくるより、やっぱり観光客を集めたほうがいいじゃないか」って。そしたら「そもそも、それとこれを比べるのは別だよ」って話してくれて。

僕はその言葉にけっこう救われたというか。観光客を呼び込む以外の視点もやっぱりあるなと思いました。諸岡さん、中川さんはどう感じましたか?

諸岡 今私が働いている隼Lab.は、鳥取県八頭(やず)町という地域にあります。地域内にある「隼駅」は名前が同じということで、SUZUKIが製造している「隼」というバイクのライダーたちの聖地としても知られています。普段から隼ライダーが来てくださっていますし、年に一度は全国から2000台近くの隼が集まるイベントも開催されています。

一方で私が隼Lab.で開催しているのは、月に一回の隼にちようマーケットです。出店数は毎回10店舗前後で、数千人規模の大型のイベントに比べればとても小さな賑わいです。

でも、出店者の方々もマーケットをきっかけに八頭町に来てくださったり、お客さんはマーケットついでに町内の別の場所にも遊びに行ってくださったりしています。

年に一度数千人の人が来てくださることによって得られることもありますし、月に一度小さな賑わいづくりを継続することによって得られるものもあります。数と、数ではない部分と、どちらが良いかと比べるのは難しく感じますね。

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中川 僕が生まれ育ったのは千葉県柏市で、東京近郊のベッドタウンです。父も東京の会社に勤めていましたし、近くに大きいショッピングモールがあって。ちょっと行けば田んぼとか畑は広がっていたりするんですけど、ローカルという意識はあまりなくて。

そういうバックグラウンドを持った僕が求人という取材を通して、全国の村とか町に足を運ぶ機会もあって。それで僕らがその町の魅力を伝えたいと思った時に、特に役場の方はまずパンフレットみたいなものを持ってきて、嬉しそうに花火大会の話とかマラソン大会の話をしてくれるんです。

たしかにわかりやすいから僕も反応するんですけど、そこなのかなみたいな感覚は、勝手なよそ者として持っているところはあって。

それよりは地域の集落の中で10人ちょっとしかやっていない盆踊りがあってさとか、その人自身の昔の記憶も辿りながら聞くとか。そっちの方が実は価値があるのではないかって。

なんか、ただお祭りとかそういうのを紹介してもらっても、そこに乗っかってくるストーリーがない感じがして。

花火はどこでもあげられる感じがすると思うんですよね。さっきの神山の高校の話は、神山町の地域資源に恵まれた部分ももちろんあると思うんですけど、「あの町じゃないとできない」ってことじゃない気がするんですよね。

そこにどういう発想を持ち込むかというか、町ならではのストーリーをつくっていく、見出していくかがすごく大事なんじゃないかなと思いました。

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伊集院 西村さん、ここで僕が西村さんのもとを訪ねて学んだことというか、グッときたところ。3つパンチラインを話していきたいなと思って。先ほど西村さんが話してくれたことと重なるところもあるんですが、こんな感じです。

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なんとなく通っていた人たちが、いつの間にか町の空気をつくる側に変わっていく

伊集院 僕が西村さんを訪ねて学んだことの一つに「①どういうエフェクト(効果)を持った人が来るか」って話をもっと聞きたくて。僕が訪ねたときに、建築家の石川さんという方と神山町との関わり方を例に話してくれましたよね。その時の話をちょっと共有してもらえませんか?

西村 石川さんという建築家の方がいて、神山に何度か訪ねて来ているんですよね。最初はまあ面白そうだなという感じで来ていたんですけど、だんだんメンバーシップが変化していった。今、石川さんの旦那さんは神山町にあるCafé on y va(カフェ オニヴァ)のオーナーたちとサウナを作っているんですよ。この間完成したの。

ただなんとなく通っていた人たちが、いつの間にかメンバーになって、町の空気をつくる側に変わっていく。まあ、面白いですよね。どういうエフェクトを持った人が来るかに関して言うと、消費者がたくさん来てもしょうがないというか。

伊集院 消費者が来てもしょうがない。

西村 身も蓋もない言い方だけど、ゴミが増えるだけ(笑)。

伊集院 えっと(笑)、もう少しそれは。

西村 お客さんが来ることが、もちろん悪いことではないですよ。だけどお客さんといっても種類があるじゃない。ただ1日ドライブして道の駅に寄って、というよりも泊まってくれる方がずっといいわけですよ。具体的に地域に落ちていくお金の量も全然違うし、更にその関係が生まれる接点がものすごく増えるという。

そういう町のいろいろな時間を体験してもらえる。少なくともただの観光客だったとしても、宿泊してくれる人の方がいい。海外ではだいたい観光客を訪問者数でカウントせず、宿泊者数でカウントするけど、日本って訪問者数でカウントしがち。

それはなんか間違っている気がしますね。それで、②焚き火の話をしちゃっていいですか? この話をするのは、最初のどういうエフェクトを持った人が来るんだという話を・・・俺、本当にしたかな(笑)。

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伊集院 えぇー!

西村 まあ、したんだろうな(笑)。では、人を利用価値で見るのは非常に良くないので、こういう人が来るといいなとか、こういう人が来たら地域にとっていいんだという、そういう目線を僕たちは持ちたくない。でも、ただ消費に来る人と、なんかこう生活できるとか一緒に何かを共有できるとか、場合によってはつくり出せる人が来るかでは、大きいですよね。

焚火の話

西村 それで焚き火の話で言うと、グリーンバレーで最初に「イン神山」というウェブサイトを作ったんですよ。それで2年前にリニューアルしたんだけど、そのどっちの時も焚き火モデルなんですね。

焚き火モデルって何かというと、自分たちがこんなに魅力的だからどうぞ来てくださいとか、“楽しそう”なものはやんない。本当に楽しいという状態をどうつくるか。それが漏れていきたいという考え方なんです。

だからイン神山では、みんなが町の中で今日こんなことがあったとかが書いてある。例えば、縫製が上手な藤本さんが僕の自転車のサドルカバーを直してくれたとか。こんなに幸せなんだと。その記事を書いたのは僕です。

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ー『イン神山』ウェブサイトより引用


西村 なんというのかな、あまり外に向かって情報発信しようという気を持たないようにしている。本当に楽しんでいたら、楽しそうな所に人は集まってくるわけで。それを楽しそうにして来てもらうよりは、本当に楽しんでいるほうが手っ取り早いし、健全だよね。

だから、例えば森の中で、旅をしていたら焚き火があって。人影が見えたら何だろうという感じで行くじゃない。美味しそうな匂いとかしてさ。そこで楽しそうにいる人たちがいて、笑っていたらさ、へえみたいな。それで誰かが入ってきたら「どうぞ座りませんか」って。

こういう感じがウェブサイトでもやったらいいし、それから町の状態としてもそういう感じでやるのが一番いいよねっていう考え方なんです。

自分たちを、大きくみせない


西村 神山はそういう感じのほうが好きだったり、あるいは「千客万来楽しいぞ!」みたいなことを言うのが恥ずかしくてできない人が多いのね。そこに僕は救われていて。その正直さというのは、『アーティスト・イン・レジデンス』から始まっている感じがあるんだよね。

このプログラムは海外から2人、国内から1人のアーティストが8月末から11月まで神山で滞在して、何かをつくって帰っていくというもので神山町は去年で20周年目。でも、神山町の予算は100万円くらいなんです。

あるところではアーティスト・イン・レジデンスは年間予算1億ですから、桁が全然違う。だから大南さんたちは最初の頃、無料ブログを使って海外に情報を発信していました。

そこにどういうことを書いたかというと、「潤沢な制作予算とかスタジオとか、そういう環境が欲しい人は他に行ってください。でも日本の片田舎で、そこに住んでいる人と何かを一緒に作っていく。そういう滞在を楽しみたい人にとって、ここはすごくいい所だと思うからどうぞ来てください」って。

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ー神山アーティスト・イン・レジデンスfacebookページより引用


西村 例えば、大南さんが昔土建屋の仕事だったから、何かコンクリートとか木材が欲しかったらドサッと渡せたり。アーティストが何かを作っているとドアの外におにぎりが置いてあったりね。

それで近所のおばあちゃんとだんだん仲良くなって、みたいな。なんか等身大というか、自分たちを大きく見せないというか、それをずっとやってきている。自分たちも楽しんでいて、それがちょっと外に漏れるくらいがいいよねって。

楽しそうにするより、楽しんだ方がいい

伊集院 焚き火の話でいうと、僕が西村さんのもとを訪ねた時、西村さんの企画で「旅のひとの話と雑談」っていうイベントページが立ち上がっていたんですよね。僕はもう一人の知り合いと一緒に来ていたんですが、僕ら二人の話をみんなで聞く会みたいなイベントができていて(笑)。だからいきなり神山に着いたら、いろいろな人と繋がる機会があって。

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その時の告知バナー


西村 10人くらいかな。

伊集院 10人くらいでしたね。次の日は神山でちょっとしたイベントがあったのでそこに遊びに行ったら「昨日はお世話になりました」って声をかけてくれて、立ち話もして。SNSでもつながって。なんかいきなり関係性ができちゃったというか。これはすごい初めての体験で。こういう旅の関わり方もあるんだと思って面白かったですね。あれはまさに焚き火じゃないですけど、西村さんは席を開けて用意していたんだなって思いました。

諸岡 焚き火の話で思い出したんですけど、友人が主催する『曇天野外』というイベントがあるのですが、私的にはそれがすごく面白いし、魅せ方はとても軽やかなんですけど、実はなかなか意味の深い企画だなと思っていて。内容は、音楽あり、ご飯やお酒の出店あり、海辺で開催されるいわゆる野外フェスなんです。面白いのは、「晴天中止の野外フェス」というコンセプトです。

鳥取は山陰で、曇天の日が多い気候なんです。私含め鳥取県民の多くがそれをネガティブに捉えていると思うんですが、この曇天野外というイベントは「曇天を楽しもう」という、かなり開き直った考え方の上に成り立っているんですね。普通、野外イベントの前は「とにかく晴れてくれ」って願うのに、曇天野外に限っては「とにかく曇って」と願うという(笑)。

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諸岡 昨年が初開催で私はいち参加者として楽しみにしていたんですけど、いつのまにかすっかり巻き込まれてしまって、開催が近づいて来たら「来週も曇りますように!」と投稿していました。

何より主催者たちが“曇天”を面白がって楽しんでいたからこそ、周りも巻き込まれていったし、結果として“曇天”がネガティブからポジティブに逆転した時に「これこそ鳥取かも!」みたいな感情も生まれました。それこそ、西村さんが話してくれた「楽しそうにするより、楽しんだ方がいい」という話と重なるなと思いました。

中川 僕が地域で、という文面を1回置いておいて話すと、何かこう思い当たるフシがあって。僕、歌うんですよ(笑)。4人〜7人のゴスペルチームを組んでいて、学生の頃はストリートに出てやってみようと何の関心もない人に向けて歌ったこともあります。

必死にこっちを向いてくれよと歌うんですけど、全然向いてくれないっていう経験をして。今は地域に通いながら歌うことをやっていたりするんですね。

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中川 例えば、被災地に行って商業施設のオープン記念で歌います、みたいな。その中で、自然と人が寄ってきてしまう瞬間があって。一番は何かというと、飲み会というか、ちょっと楽しくなってきて、誰かが歌うんですよね。それが漏れ出てくるんです、声が。

誰かがやると、やり始めてしまって、そこでだんだん盛り上がっていく。それをやっていると、例えばご飯屋さんだったら、おばちゃんが声をかけてきて、「お兄ちゃん何やっているの?」みたいな話になって。

じゃあ、ちょっとやってよみたいな感じで、舞台みたいなところに送り出されて、ワーみたいな。でも僕らもうその時点で楽しいという感じが出来上がってしまっているので、まぁ楽しいんですね。そこで他のお客さんも楽しいみたいな輪ができて。

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中川 僕は歌を通じて感じることが多くて。なんかそれを思い出しました。でも、けっこうそれが漏れ出るというのは、生半可なことではないというか。「楽しいぜ」というのを、つくろうとしてつくれないところもあって。

こういったイベントもそうですけど、広報をどうやってするとか、ウェブサイトでイベントページを作って予約制にしなきゃ、とか。そうなってくるとだんだんこう、僕らがガチガチに決めたところに参加してくださいというイベントをつくるのか、ただたくさんの人が来てほしいのか、10人しか来ないけど濃いイベントをやりたいのか、とか。

なんかそれを僕は歌ではできるんだけど、歌ではない形で。とりあえず歌うことでいいのかな(笑)。でもそれをいろいろな形で実現していく。それはローカルに限らず、そういう場所にこそ人って集まるし、自分が行きたい場所だなと、お話を聞いて思いました。

より生きている方に、人は近づいていく

伊集院 西村さん、熱量が続くような焚き火の仕方ってなんですかね。気をつけていることってありますか?

西村 町のことも、中川さんがさっきおっしゃったように、つい歌が始まるような。時間のことも全く同じですよね。結局人間の活動だから。それで私たちに等しくある予見が何かというと、生きているということで。まだ死んでいない。

ここには2つの選択肢があって、より生きているものと、よりデッドなものを感じるものがあったら、より生きているほうに自然と関心を向けるし、注目するし、そっちに近づいていくと思うんだよね。そういう状況をどんな風につくっていくか、だけだと思う。

上手にできているとか、そういうことじゃないんだよね。声が出ているとか、出ていないとかではなくて、なんか命を感じているものの方に反応していくというか、命の反応。だから下手に上手く作り込んで、逆にその命が抑圧されてしまうというか。そうすると本末転倒だよね。

だからイベントとかでも、その真逆にあるところからやるとか。その空間サイズに合った、これくらいの人数でやるとすごくいいポイントにまとめられるよね、という予感が持てるとか。命中心主義。命中心主義でいうと、皆さんずっと聞きっ放しなんで、これでいいのかなというのは、気になっている。皆さんの命の状態を。

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「これまで話を聞いてどう思った?」という感想をシェア。会場の皆さん、命を吹き返した

伊集院 では、最後にそれぞれ今日の感想を話して、この場をしめたいと思います。

諸岡 自分なりに腑に落ちたのは、西村さんが話してくださった、「楽しそうにやるよりも、楽しむ方が手っ取り早いし健全」という話です。普段色々と企画するときも、最初は自分も楽しいと思ってやっていたはずなのに、「いい企画にしなきゃ」「楽しませなきゃ」となってしまい、自分自身が楽しめていないことに気づくことが多々あります。

なんか、中川さんの歌みたいに、純粋に自分が好きな歌を歌ったらよかったんだと、改めて根本として大事にすべきことに気づける機会になりました。

中川 僕は東京に住んでいるし、最初はどういう立ち位置でいようかと思っていたんですけど。お話していくうちに、さっきの歌の話でもそうですけど、全部一緒だなという感覚を最終的に得られたのが今日の収穫というか、よかった。

その感覚は今気づいたのではなくて、ちょこちょこ感じていて。やはり歌っている瞬間だったりするんですけど。それで地方創生の話をしようとなると、その話に結びつけて自分も話さなきゃ、考えなきゃとする自分に気づけました。なんか、もっと自信を持ってそういう土俵で楽しんで、もっと気楽に話していきたいという気持ちになりました。

西村 中川さんにとって、歌というのは面白いよね。それをすごく感じたのが嬉しそうだね。なんだろう、自分がしみじみと知っている良さというか、この中の良さというのはすごい知っているんだということが、みんなにあると思うんだよね。それが何か日向ぼっこみたいなものでも、至福みたいなものを本当に自分は知っているなという。

そのすごい自分がよく知っている、他愛のないと言えば他愛のない、でも本当に自分はその良さを知っているという。そこが起点になれば、ほとんどの仕事はできる気がするんだよね。楽しそうだなと思って聞いていました。

伊集院 自分が南伊豆でこれからやっていく中で、どんな関わり方をすればいいかなって思っていたんですが、中川君だったら歌だったり、こう溢れ出るもの。僕だったら・・・何だろう。今は、僕を通じて南伊豆に来てくれた人が地元の人と仲良くなって、楽しんで、繋がる瞬間かな。

例えば、僕のいないところで参加者の人からメールが届いて「〇〇さんと一緒にサバを釣ったよー」って地元の人と写真が送られてきた時とか、めちゃくちゃテンションが上がります。

純粋に自分の気持ちが喜んでいる瞬間があって。僕は人と人をつなげる、関わるというか、いい感じに出会ってもらう、みたいな。今はそういうことをやっていけばいいんだって、再確認できた時間でした。ありがとうございました。

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次のローカル×ローカルvol2のレポートはこちらから

vol.2は出版と宿を営む真鶴出版の川口瞬さん、來住(きし)友美さんを訪ねて学んだことを報告します。二人にぶつけた問いは、「効率化って、本当にいいの?」です。それでは、また次回のローカル×ローカルで会いましょう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ローカル×ローカル バックナンバー
vol.0「はじめに」〜先輩たちを訪ねて、学んだことを報告します〜
vol.01「人が増えるってほんとに豊かなの?神山つなぐ公社理事 西村佳哲さん
vol.02「効率化ってほんとにいいの?」真鶴出版 川口瞬さん・來住友美さん
vol.03「文化ってどうつくられる?」群言堂広報誌 三浦編集室 三浦類さん
vol.04「好きと稼ぎを考える」 株式会社BASE TRES代表 松本潤一郎さん
vol.05「地域のしがらみ、どう超える?」長野県塩尻市市役所職員 山田崇さん
vol.06「いいものって、何だろう?」福井県鯖江市TSUGI代表 新山直広さん
vol.07「事業ってどうつくるの?」greenzビジネスアドバイザー 小野裕之さん
vol.08「体験を、どう届ける?」キッチハイク代表 山本雅也さん/プロデューサー 古屋達洋さん




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