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#眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー
短編小説「駄菓子蟲を飼う」
古田美津子は更衣室でブラウスを脱いだ。
脱いで、露になった柔肌をつい隠した。
隣に古田美津子より十歳年若の後輩社員が明日より始まる三連休に、ムチムチと浮かれていた。
古田美津子の扁平な体を、後輩、野木真理が嗤ったような気がした。
「先輩の胸は扁平ですね。」と野木真理が言ったような気がした。
「でも、腰回りは重厚感がありますね。」と野木真理が言ったような気がした。
「肌には年齢の深みを感じます、そう
短編小説「ダーリン・イズ・イン・モノクローム」
全く俺はツイテない。
紡績工場に勤めるチャーリー・レッドマンは冷や汗を垂らしながら考えた。
今朝、チャーリーはいつもより半刻早く目が覚めた。
なんてツイてないんだ!とチャーリーは思った。
もっと眠っていたかったのに!
時間が出来たため、いつもなら簡素に済ませる朝食(トースト)にハードボイルドエッグを添えて、テレビを付けた。
ニュースの時間だった。ニュースキャスターがこの国は不況だ、と言った。テ
短編小説「味噌カツ幻想」
東京駅八重洲中央口から地下に降りて其処は文化文明の電燈が燦然とする地下街。
僕は春狂いの陽気に当たって一念発起し、郷里の人々が炉端で縄なう捕縛縄でも売らんかなと、花の都に上京した。東京駅に降りて先ずは昼食でもと徘徊して四半刻、数店の候補を品定めする所存。
サンドイッチとパスタとパンケーキとね、でもやっぱり一番良いのは味噌カツかもね。かりりとしたカツの衣を浸す味噌だれ。味噌だれは名古屋発祥赤味噌の豊
短編小説「イタリアンロール」
市場町から御幸町へ抜ける石畳の細道を歩いていると目の前に。
蟹、がいた。
往来を横切ろうとしている。
進んでは止まり、止まっては進む。
小さなハサミを突き上げて、横歩きしている。
その蟹と目が合った。
虹色の泡が。
くるくると回りながら風に吹かれて飛んだ。
振り向くと地蔵のような老婆が二人、ちょこんと路傍に座ってシャボン玉を吹いていた。
「こんにちは」
一人の老婆が朗らかに挨拶をした。
「
黄泉比良坂墓地太郎事件簿「かごめ」
「xxxxx!」
その日、恐山杜夫は罵詈雑言を喚き散らし、目につく墓石を片端から倒した。
「xxxxx!」
ユンボとは油圧式のパワーショベルカーのことであるが、杜夫はユンボのレバーを操って鉄腕を振りかざし、ヘヴィ級ボクサーの如くダイナマイトなブロウを墓石に見舞った。墓石は倒れ、崩れ、粉砕された。
夏の日であった。蝉が鳴いていた。土埃に塗れた黒い汗が玉となって流れた。杜夫の肺腑を輻射熱が焼いた。
「
黄泉比良坂墓地太郎事件簿「ムクリコクリの鬼」
海月くらげは今日16歳になった。
「16歳」
と海月くらげは声に出した。
「じゅうろくさい」
鏡の中の自分を覗きながらもう一度声に出した。
「ろく」の音で舌先が丸まって反り返る。そして軟体動物が新体操をするかの如く跳ねて、唇がくるりとすぼまった。
誕生日を迎えた、というだけで世界が自分が昨日よりも変わってみえる。
昨日よりも自分が大人っぽく見えるし、世界は昨日よりも明るく見える。
今朝のチョコ
少女詩集「猫と百匹のうさぎとお月様」
月下の村には百匹の、
うさぎが住んでおりました。
うさぎには黒いのやら、茶色いのやら、灰色の奴の他に、黒と白がぶちになった奴やらがおりました。
大きくてでっぷりしたうさぎがおりました。或いは小さくてころころしたのが五匹も六匹もかたまって寒さを凌いでいるようなのもおりました。耳が長かったり垂れていたり、短かったり、うさぎたちはお顔もみんな異なるのでした。
それらの沢山のうさぎは月下に夜ごと空を仰