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【連載終了】聖ポトロの彷徨

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『前任者の書』に記されし楽園「サバラバ」にやってきた一人の科学者が、なぜか無人の荒野と化したサバラバの謎に迫ります。容赦なく照り付ける灼熱の太陽、じわじわと迫る飢えの危機を超えた… もっと読む
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聖ポトロの彷徨・あとがき

聖ポトロの彷徨・あとがき

親愛なる皆様、長編小説『聖ポトロの彷徨』に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
(^~^ )

いやもうね、正直、最後の二回は、もうホント、載っけるの、すごく辛くて。
(T~T )

結末がアレだから、というのもありますし、それに、これを載っけてしまうと、もう小説のストックがなくなってしまうし、だから、楽しみに読んでくださっていた皆様に申し訳ないなぁと思ってしまったり。

しばらく

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第1回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第1回)

1日目

「前任者」の本とは大分違う。いや、全然違うと言った方がいいだろうか。意識がはっきりするまでに時間がかかった点は同じだが、それ以外は全く違うと言っていい。

今は転送が完了して7~8時間といったところだろう(地球時間でだが)。

完了当初は、本当に景色を見るのもままならないほどのめまいと吐き気と苦痛で、転送そのものが成功したのか否かも解らない状態だった。しかし時間と共に意識がはっきりす

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第2回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第2回)

3日目

コムログの充電に2日もかかった。
太陽光線の吸収率が予想以上に悪く、通常なら地球時間で4時間程度で済む充電に、思いもよらない時間がかかってしまった。

理由は不明だが、光量そのものは十分あるはずなので、太陽光線に充電を妨げる何かが含まれているか、あるいは必要な何かが不足しているか、のどちらかだろう。

だがしかし、手持ちの観測機器がこのコムログ程度では、確かめるすべなどありはしないので

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第3回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第3回)

7日目

禿山をいくつか越えた先に、建物の残っている集落を発見した。もしかしたら、誰か住んでいるかもしれない。これから探索を開始する。

【記録中断】

【記録再開】

困難な状況下、たった一人で過ごしてきたせいで、少々精神的にも参っていたのだろう、誰でもいいから、とにかく誰かとコミュニケーションをとりたい、と心から願っていた私は、我を忘れて斜面を転がるように滑り降り、集落へと一目散に駆けて行っ

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第4回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第4回)

10日目

こちらの時間にも、だいぶ慣れてきた。惑星間の日差、つまり1日の長さが違うということが、これほどまでに体力と精神力を消耗させるものだとは、と正直驚いている。

私も仕事柄、海外へはよく行くほうだし、時差の違いによる感覚の変化にはずいぶん慣れたつもりでいたため、日差も時差と同じようなもので、さほど体には影響しないだろうと考えていたのだ。
だが、1日が1時間45分ほど長いというだけで、活動

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第5回)

13日目

コムログに大きな反応があった。なにやら大きな都市の跡のようだった。私は圧縮水分を口に放り込むと、半ば駆け足になってその場所を目指した。

前任者の本に描かれていた一番大きな都市は「城塞都市ゼビル」と呼ばれる場所だったはずだ。ここがおそらくそうに違いない。

だが、ある程度予想していた通り、都市は完全に廃墟と化していた。

巨大だったはずの石造りの門はぼろぼろに崩れ、形状から推測する

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第6回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第6回)

15日目

前回の発見を契機(けいき)に、私は根気強く、都市の中を探索した。都市には面白い遺跡がたくさんあったが、任務に直接結びつきそうな発見は、先日の落書き以外には、特に見つからなかった。

都市の北側、噴水広場(先日の広場を私はそう名づけた)から北へ少し進んだ場所にあるのは、おそらく行政の中心だった建物だろう。
前任者の本にあった通り、豪華な王宮やお城の跡などはこの街には見当たらず、どちら

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第7回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第7回)

17日目

果てしない荒野を、とぼとぼとひたすら歩いた。

どこまで行っても全く同じ景色が広がっている・・・地球よりも少し濃い青の空、ぎらぎらと照りつける太陽、赤茶色の乾燥した大地。

だが、夜になってしまえば、昼の暑さは少しずつ和らぎ、そして美しい星空が見えてくる。
星座については残念ながら門外漢なので、どのあたりが地球なのかとか、どの星が地球から見た何座のどれだとかいうことは全く分からないが

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第8回)

26日目

どうにか平静を保ててはいるが、以前から薄々感づいていた問題がついに表面化しつつある。それは、ずばり食糧問題である。

圧縮水分が圧倒的に足りない。
そもそも、起こらないはずの「いざという時」の為の装備であった為、任務完了までの3ヶ月間まるまるの分は、携行しなかった。まず使うこともあるまいと誰もが思っていたのだろう。私も出発前にはざっとしか数を数えなかったし、そもそも1個も必要ないと

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第9回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第9回)

27日目

ここのところ、発見する集落の跡に建造物が残っている場所はまれだ。井戸の跡すらないような場所ばかりに出会う。

しかし集落の跡が点在する数を考えると、やはりかつてこの土地に、たくさんの人が暮らしていたことだけは、確かなようだ。

だが、彼らは死体一つ残さずに、一体何処へ消えてしまったのか。これだけ崩壊が進んでいるということは、人がいなくなった後に、相当の時間が経

うわあああぁぁぁ!

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第10回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第10回)

27日目(再)

夜になって、ようやく地震はひと段落したようだが、たびたび起こる余震に未だ予断を許さない状態が続いている。

地震というものは、地球ではせいぜい数分間程度のものであるはずだ。しかし、今日体験した地震は私が知りうる限り最大の地震であった。

最初に激しく地面が縦揺れし、それからしばらく後に大きな横揺れが起こるのが地震というものの特徴なのだが、今回の地震は一体なんだったのか。いき

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第11回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第11回)

28日目

地震に警戒しながら探索を進めることにする。

ここから先、山がちな地形が多いようだが、前任者の本にある記述と照らし合わせると、もしかするとこれは人工知能ロヌーヌのある、山奥の場所が近いことを示しているのかもしれない。
山がちと言っても、もちろん植物の生い茂った緑濃き山並みではなく、土と砂と石のハゲ山ばかりなのだが。

そういったハゲ山をいくつか越えることができたところで、もうあたり

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第12回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第12回)

32日目

なんということだ・・・ああ、なんということだ。

この光景を初めて目にした時の私の気持ちを、どうやって説明しよう。
映画などであれば、激しく泣き叫んだり、ひざを折って地面に倒れ伏したりすれば観客に伝わるのかもしれないが、あいにくこれは現実に起こっている事態であるし、また私がそういった醜態を実行したところで、誰も見てはくれないし、記録にも残らない。
この時の気持ちを巧く言葉に変換する

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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第13回)

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第13回)

33日目

ようやく「ロヌーヌ遺構」の袂まで辿り着いた。この距離からだと、遠くから見た時よりもずっと大きく感じられる。

この感覚を他の何かに例えるのは難しいが、世界最大級と名高いマカロニ型の半海上人工都市「タウファアハウ」の外観を初めて目にしたときの驚きに似ているかもしれない。いや、眼前のこれは、もちろんあれほど壮大なものでも広大なものでもないのだが、一つの巨大な人工物、という点において両者の

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