見出し画像

【連載小説】聖ポトロの彷徨(第13回)

33日目

ようやく「ロヌーヌ遺構」の袂まで辿り着いた。この距離からだと、遠くから見た時よりもずっと大きく感じられる。

この感覚を他の何かに例えるのは難しいが、世界最大級と名高いマカロニ型の半海上人工都市「タウファアハウ」の外観を初めて目にしたときの驚きに似ているかもしれない。いや、眼前のこれは、もちろんあれほど壮大なものでも広大なものでもないのだが、一つの巨大な人工物、という点において両者のインパクトは似ている。ゆえに、初めてOIUのウルルを目にした時とは、また違った種類の感動である。

しかし、これほどまでに不思議で完璧な形状をした人口建造物を、私はかつて見たことがない。
現在は横倒しになっていることも手伝って、下から見上げる限りはまるで、巨大な船の残骸といった印象を受けるが、ぱっと見ただけでは、これが何であるのか全く分からない。
また、現在も健在の根底部においても同様で、中に入れるような遺構は全く残されておらず、本当にただ幾何学的な形状をした金属塊と言える。前任者時代には、触れるだけで出現する入り口や、内部の空洞になっている部分、地下深くにある古代ハイテクの遺産など、さまざまな施設が内蔵されていたようだが、それらがどうなっているか、残念ながら入り口のない現在では知る術も無い。
だが、遺構表面の傷一つないなめらかさ(一部錆びてしみになっている部分はあるが)、その造形の美しさは、地球に現存するどんな芸術作品よりもすばらしいと私は感じた。いや、これらは私個人の感性だ、本来なら記録に残すまでもないことなのかもしれない。

私はこの遺構の一部でも機能しているところがないか、遺跡をぐるりと周りながらコムログを当てて一通り調査したが、今日の調査では目立った収穫はなかった。さらに、前任者は遺跡に触れた途端入り口が出現した、と記述していたこともあって、私も遺跡の周辺をぺたぺたと汚れた手で触れてみたのだが、全く変化は起こらなかった。

折れた遺跡の断面は、表面同様に金属質で、内部構造などは見当たらない。表面にはランダムに凹凸があり、要は遺構上部に何らかの原因で一定の力が加わったことにより、しなりきれずに折れてしまった、といった印象である。もしかしたら特筆すべき原因があるのかも知れないが、そこまでは手持ちの機器では調査不能である。

・・・悔しいかな、この言葉を今まで何度吐き出したことか。

遺跡の周辺を調査をしながら二周ほどしたら、もうすっかり夜になってしまっていた。今日はこの巨大な芸術作品に背中をもたせて眠るとしよう。前任者よろしく何か『夢のおつげ』があるのかもしれない。いや、それもおそらく、遺跡の崩壊と共に機能不全に陥っているだろうが。

・・・あと3日だ。・・・いや、よそう。

【記録終了】

《OIU:オセアニアン企業連合国(コムログによる自動注釈)》



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)