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旅する和歌山

和歌山県に初めて2泊3日で行ってきました。

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行く前には和歌山県に何のイメージも持っていなかった私は、何があるのかも全くわかっていませんでした。中学の同級生にわかなちゃんという子がいたなあとやたらと思いだし、その東京出身の大人しい女の子の顔が関係ないのにぼんやりと浮かぶのでした。

今度和歌山に行くと人に伝えると、大抵は白浜に行くのかと聞かれました。どこに行くのかよくわかっていなかった私は、多分違うとだけ答えていました。白浜というところがあるとも知らなかったんです。

だから成田から関空に飛んで和歌山駅を踏みしめたときには、すでに新しい土地にきたという達成感で高揚していました。もしくは前日の睡眠不足によってハイになっていただけかもしれませんが、いずれにしろ初めての場所にはどきどきするものです。

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今回最初の1泊を共にするのは、POOLOという旅人コミュニティの人たち。

それまでに会ったことがあるのは2人だけで、実ははじめましてが4人もいました。でもPOOLOなら旅慣れたオープンないい人ばかりなのは分かっていたので、行きたいと思ったときにはもう参加していました。実際に旅を終えても、この人たちと旅できてよかったなあと思います。

山へ向かう旅のはじまり

和歌山といえば白浜とあれほど聞かされていたにも関わらず、今回は山へと向かいました。

まず訪れたのは生石高原。ひたすらに続く山道とみかん農園に、本当にこっちであっているのかと疑い始めた頃、そこに着きました。

ゆっくりとお昼ご飯を食べてからの移動だったので、冬の近づく空はもう夕陽に染まり始めます。

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一面のススキばたけと、山に沈んでいく太陽。ススキのトンネルに入ると、迷路のようでとなりのトトロを思い出します。見渡す限り山が連なる風景と、その山に沈む夕日を眺めて時間を忘れました。

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山の夜に囲まれて

そしてこのキャンプは山の上の古民家宿で行われます。紀美野町の「うえみなみ」という、1日1組限定の宿でした。高原を後にしてまた車に揺られると、迷いそうな山道の向こうに目当ての宿がありました。

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暗くなってからついてしまったから景色は見えないけれど、東京より星が近い気がします。晴れてよかったと澄んだ空気を吸いこむと、今度は明るすぎるほどの月が山から昇るのを見ました。

まるまるの月が、動いていく。その下で同行者が薪を割る音を聞く。そこには私たちだけの空間がぽっかりと取り残されているようでした。宿の灯りが、火が、友人らの笑い声が、山々の暗闇の中での拠り所のように残されてしました。それぞれは街の中に当たり前に存在するものなのに、いつもよりずっとあたたかいのでした。

火を囲んで語らう場

薪を割って起こしてくれた火を囲んでのバーベキュー。火を見ていると、なんだかどっぷりと時間がたったみたいにも、幼いあの日に戻ったみたいにも感じられてしまいます。

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別に何でもないような話をしていても、一緒に火を囲む人たちと近づける気がします。静かに心の手が繋がれる、そんな夜。だからいつもより、自分にも相手にも触れ合うように、いつまでも話し込んでしまうんです。

濃いシロップのような紀州の梅酒が、ほんのりと体を温めます。その夜そこにあったすべてのものは、特別なものも素朴なものも一様に優しい味をしていました。

朝、澄んだ光に照らされる

山から、太陽がまた昇りました。私は朝が好きです。夜の揺らぎと静けさと甘えも好きだけれど、また何もかもが生まれ変わって迎えたような朝が好き。

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本当は何にも進んでいなくたって、生まれ変わっていなくたって、新しい1日はやってきました。それを降り注ぐ光が身体に叩き込んでくれます。

優しい茶がゆをいただくと、何だか自分が永遠に食べていられそうな気すらします。いつもは好きじゃないからと食べない柿も、美味しくていつまでも齧っていました。

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縁側でひとりで本を読んでいると、畑から笑い声が響いてきました。元気な数名が里芋掘りを体験させてもらっている声です。

そのうち足跡が近づいてきて、誇らしげに採れた野菜を見せてくれます。私も負けずに誇らしげに、寝そべったまま本を掲げます。そういう自由。それが許される仲間と、場所と、余裕。

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ラディッシュ食べられるよ〜と母屋から大きな声でお宿のおばさんが声をかけてくれます。外の水道でラディッシュを洗い、マヨネーズをつけて思い切って齧ってみました。

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苦いかもといわれていたけれど、みずみずしく甘い味に驚きます。採れたての野菜にかじりついたのなんて、いつぶりだろう。葉っぱも食べられると聞いたから、思い切って食べてみます。新鮮な葉特有の細かなトゲが口の中をつついて、不思議な気持ちになりました。

生きていたものをいただいている。葉っぱは少し苦くて、でもそれが余計にそのままの味だと嬉しくなりました。その朝、私はまるまるふたつのラディッシュを食べました。

想定外の崖登り

パワースポットが近くにあるということで、その日の午前はプチ登山です。とはいえ私はスカートで、汚れてもいいけれどハイキング程度の気持ちでした。

ところが途中で道を間違え、道でも何でもない斜面をよじ登ることに。みんな道だと信じて登ったのだからすごいものです。

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道があるときには誰かに先導してほしかったのに、土まみれで自分からカメムシの匂いがし始めた頃には自分でどんどん登りたくなったのだから不思議です。

踏み外したらどこまでも落ちて死ぬかもしれないと思いました。冗談ではない緊張感があるほど、そこは崖でした。

手が汚れるのもいとわずに木や地面を掴んだり、蜘蛛の巣に引っかかったり、木の上の動物の音に耳を澄ましたり。都会にいた時の自分が汗と共に洗い流されていくようでした。自分と地面の距離がこんなに近づいて一体化するかのような感覚を、しばらく忘れていました。

迷い続けて着いた山頂の清々しかったこと。人工的な杉林の先にあった原生林に感動したこと。森なんて好きじゃないと思っていた自分は、山登りの最中に削ぎ落とされていました。崖を登ったこの時間が、もしかしたら1番旅の中で楽しかったかもしれません。

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そしてまた野菜を食べる

私たちは崖登りを道だと信じていましたが、本当の道はどう見ても道の姿をしたあっけらかんとした散歩道でした。帰り道はそれを見つけ、重くなってきた足と腕を揺らしながらお昼ご飯に向かいます。

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「くらとくり」という、蔵をリノベーションして造った可愛らしいレストランです。

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契約農園の野菜をたっぷりと使ったプレート。ご飯が美味しくておかわりまでしてしまいました。

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自分の体に入っていくものをちゃんと認識することを、普段の生活では忘れているような気がします。

それは栄養とか健康を意識するだけではありません。この野菜はこんな匂いで、こんな歯触りで、こんな甘みで、こんな苦味で。そういうひとつひとつを感じずに漠然と食事をとってしまっていたなと気づきました。

自然の中で疲れた身体を休めながら食事をとる。少しずつ自分が生きている状態を自分自身で認識しやすくなっていると思えました。

至福の市立図書館

キャンプは現地解散で、私はもう1泊をひとり和歌山城近くで過ごすと決めていました。

まずはお見送りをした後、一目見て気になっていた駅直結の市立図書館へ。改修されたばかりの駅はセンスの良さが滲み出ていましたが、中でもばちばちにかましているのが図書館です。

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1階に蔦屋書店とスタバのコラボ店が入っており、図書館に足を踏み入れるとコーヒーの温かい香りがいっぱいに包んできます。

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2階へ上がると、センスの良すぎる図書館へと突入します。もちろん自習スペースなどもある図書館の機能はそのままに、居心地がとにかくいいんです。

中高生から年配の方まで、思い思いの時間を過ごしているようでした。こんな場所近くに欲しい、とじりじり羨ましさを噛み締めました。

夜の日帰り天然温泉

旅先で入る温泉は至福。そう信じている私は事前に探していた日帰り温泉に行くことを決めます。

何しろ昼間にあんなに体を酷使したんです。普通山登りしただけじゃ痛くならないはずの腕や肩まで重く張っています。ロッククライミングみたいに腕も使って登っていたので、ゆっくりとお湯に浸かるのはご飯よりも大事になっていました。

和歌山市内のフクロウの湯という温泉へ。源泉掛け流しもある天然温泉で、サウナに入ったり温泉に浸かったりを繰り返しながら気付けば1時間半も過ごしていました。

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冷たい夜の空気がほてった身体には心地よく、そのまま和歌山城を横目に歩いてホテルに帰りました。

雨の和歌山城

翌日起きると、窓の外の騒がしさと持ち前の偏頭痛で雨だと気付きます。朝ご飯をたべたいけれど、まだやっているお店もありません。飛行機の時間も迫っているのでとにかく和歌山城へ。

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平日月曜日の雨の朝、公園内を散歩するのは見渡しても老夫婦と私くらいです。

9時半和歌山市駅発の電車に乗らないと飛行機に間に合わない私は、9時開城の和歌山城に入ることは諦めていました。開城まで15分くらいだから雨宿りしててくださいねと声をかけてくれた、お土産やさんのおばあちゃんに申し訳なさを感じつつ足早に園内をまわります。

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別に期待していなかった無知な私は、その大きな石の積まれた苔むした階段と白い城壁に思った以上に感動してしまいました。そして秀吉や家康とも関係があったなんて全く知らず、歴史はこうやって降ってくるのだと改めて思いました。

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こういう庭園はとても落ち着くから、本当は時間を気にせずぼおっとしたかったな。

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色づいた紅葉をそそくさとカメラに収めながら、また来なきゃなあともう思っている自分がいました。和歌山の旅はここで唐突に幕を閉じるけれど、これは始まりにすぎないような気持ちになっていました。

旅らしい旅を、求めていた

この和歌山の旅は、今年の旅の中でおそらく1番の経験になりました。

期待値の上回り方、癒しと刺激、新たな出会い、土地の人とのつながり、食事、生を感じるということ。

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こういう旅らしい旅は久しぶりでした。自分が旅行ではない何かを潜在的に求め続けていたのだと思いました。

私は、なにかを感じることのできる旅がすごく好きです。周りのものの存在に、生きていることに、感謝できる旅が好きです。

見なければいけないものを見るのではなく、存在すら知らなかったものと偶然出逢い、新しい自分の一面を発見するような瞬間があると、その旅は忘れられないものになると思うんです。

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今回、私の感覚は自然に触れるごとに開かれていった気がします。その驚きが心地よくって、もう次の旅を求め始めている自分がいます。

そしてまた和歌山へはくると思います。久しぶりにこの感覚を思い出させてくれたメンバーにも、和歌山にも、ありがたいなあと思うんです。

47都道府県でテレワークという夢もまた膨らんできました。良い時間だったと、しみじみ振り返りながら、感じ考えたたくさんのことを今日も言葉に落としていきます。




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風の古民家「うえみなみ」

もみの木食堂 くらとくり

フクロウの湯

POOLO

ヒビコレ







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