セカンドホームに帰る。新しい日常のかたち
新しいかたち・場所で「集まって住む」「つながって住む」ことで、より豊かに暮らすための「新しい住まいのかたち」を構想するMUJI VILLAGE プロジェクト。
今回は、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をテーマに、人と自然が共生する社会の実現を目指すライフスタイルブランド『SANU』を立ち上げたおふたりにお話をうかがいます。自然とともに生きることで、彼らの目指す新しい日常とは。
本間 貴裕(写真中央)
株式会社Sanuファウンダー兼ブランドディレクター
ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japan創業・同代表取締役を経て、Sanuを立ち上げる。
福島 弦(写真右)
株式会社Sanu CEO
McKinsey & Company、ラグビーワールドカップ2019組織委員会などを経て、Sanuを立ち上げる。
川内 浩司(写真左)
株式会社MUJI HOUSE取締役/「無印良品の家」住空間事業部開発部長/一級建築士。
今回のお話の舞台「SANU 2nd Home」
株式会社Sanuが提供するセカンドホーム・サブスクリプションサービス『SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)』。月額5.5万円のサブスク方式で、自然のなかの“第二の家”に、一滞在あたり最大4泊できるサービスだ。
現在、白樺湖・八ヶ岳・山中湖の国内3拠点19棟を展開。2022年春~初夏にかけて累計7拠点50棟を展開予定。初期会員枠は完売し、現在ウエイティング登録を受付中。写真は、2022年3月4日にオープンした新規拠点『SANU 2nd Home – 山中湖 1st』。
自然を好きになれば、きっと守ろうとする
川内:
本日は、お忙しいなか時間をとっていただきありがとうございます。
MUJI HOUSEでは、まだ妄想段階ですがMUJI VILLAGEというプロジェクトを進めています。
「家は住宅地に建てるもの」という常識は、これからはどんどんなくなっていくだろうと考えていて、いままで見向きもされなかったようなところに、ひとりで住むには大変だけど、同じ価値観をもった仲間が集まって村になれば、いろいろできるのではないかということを思っています。
そうなると、これまで無印良品の家では、建物・上物だけしか扱っていなかったけれども、土地も含めてどう使うのかということを考えて実践したいというのがMUJI VILLAGEプロジェクトです。
川内:
そこで今回は、新しい暮らしを創造する先駆者であるおふたりにいろいろとお話をうかがいたいとオフィスにお邪魔しました。
まずは、SANUを立ち上げるきっかけとか思いのところからお話いただけますか。
本間さん(以下、敬称略):
ふたつありまして、ひとつは僕ら自身のWANT、欲求みたいなものです。
僕らふたりは、どっちも山の近くで山と遊びながら育ったんですけど、東京に来て十数年働くなかで、自分自身がもっと自然のなかに行きたいという気持ちが強くなったというのが大きいです。
本間:
ふたつめは、社会的に良いもの、影響力のあるものをやりたいということです。どう自然環境と共存していくかというのは、僕らの世代は避けて通れないということを考えたときに、我々は何ができるのかを考えて出てきたのが、僕たちSANUのコンセプト「Live with nature. / 自然と共に生きる。」です。
自然とともに生き、自然を好きになれば、きっと大切にする。自然を好きになってもらって、自然を大切にする具体的なアクションを提案するというのがぜんぶSANUであり、いちばん最初の思いの部分です。
福島さん(以下、敬称略):
時代ごとに地球規模で向き合うべきテーマというか課題があると思っていて、これまでの20~30年は、テクノロジーとインターネットの力を通じてすべての人のフェアネスを保つということがテーマでしたが、これからの30年は人類が自然とどう向き合うかだと考えています。
それを事業としてどうとらえるべきかという思考のもとに、やりたいことを決めるというのが根源にあります。
福島:
また、自分が実感をもって良いと思えるものを事業としたいという思いがあります。
僕自身の人生をつくったのは「ラグビー」と「自然」というふたつのことで、きわめて体感的にその良さを学んできたので、それであれば堂々と世の中に対して良さを提案できる自然というテーマを生業にしようという思いです。
それが固まってからは、彼(本間)は個人的な体験から、僕はマクロの視点から、このセカンドホームというひとつの切り口を見つけていったという感じです。
とはいえ、セカンドホーム事業の立ち上げまでには2年かかりました。
ふつうはまず事業モデルがあるんだと思いますが、僕らは「自然をテーマにやる」ということだけを決めたところからのスタートで、そこからはもう「何やろうかヒロ、うんうんうん」とやりながらで、ちょうど新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の大流行と重なった時期でもあり、結構辛かったですね。
本間:
事業モデルから考えてないからね。これなら儲かりそうだからこれをやろう、じゃないから。
自然を壊し続けることのない「日常」のために
川内:
コロナのころに構想を練り始めたということは、まだ2年くらいしか経っていないということですよね。
本間:
株式会社Sanuの創業は、2019年11月です。2020年4月に最初の緊急事態宣言があり、2020年6月に、SANUというブランド名とセカンドホームという事業を決定しました。起業から2年、事業決定から1年半というところですね。
これまでの生活様式に、くさびを打ちたいというのが当初から話していたことです。
コロナの大流行によって、地方移住も増え、都市生活を見直すきっかけにもなった。日本の自然に目が向いた時期でもありました。
悲惨な状況においても、この点は十分にポジティブにとらえられるものだと思っていて、状況がおさまったらまたもと通りになってしまったのではもとも子もない。
人間の消費行動自体が、自然を壊し続けるものじゃなくするというのに思考をめぐらすとか、そういう体験をするためには、はやめに日常のライフスタイルにまで落とし込んであげないと戻ってしまう。
そうなる前に情報発信しようというのはありました。
自然のなかに馴染むセカンドホーム『SANU CABIN』
川内:
僕らは家づくりをやっているので、SANUの建築にも興味津々です。
SANUのセカンドホームはキャビンという建物ということですが、どの拠点の棟もすべて同じものなんですか。
福島:
そうです。『SANU CABIN』は、基本的な考え方としてホテルじゃなくホームをつくっています。
「行く場所」というより「自然のなかに帰る場所」と考えると、何か新しい刺激を与えるというよりは、ドアを開けたときの心地良さや帰ってきた安心感、情報を少なくすることで外の自然に対して感覚が開いていくこととか、そういうことを意識して同じものをつくっています。
福島:
料理できるスペースなど「生活を営める」という最低限の機能性。
Wi-Fiが通っていてZoomミーティングができるスペースもあり、そこで「仕事をできる」ということ。
それらを含めて、これからの21世紀的な自然の楽しみ方という、僕らなりの楽しみ方をかたちにしたものです。
福島:
ただ2,000棟つくっても同じものをつくるのかというとそうではなくて、プロダクトをつくっているという考え方で、利用者の方のフィードバックもいただきながらバージョンアップして更新していくということを行っていきます。
川内:
当然、環境負荷の小さいものでということですよね。
キャビンの建築設計・施工は構造的にも興味深い。自然のなかでなじむというのが、すぐわかります。でも老婆心ながら、建設費コストが高くつくのでは。
福島:
一般的に平屋を建てるよりは高いですが、イニシャルだけでなく、長期的に見て収支が合えば良いと考えています。
SANU CABINは、環境に配慮した国産木材100%の建物です。樹齢50~60年という伐採適期の木材を活用し、建てるたびに山に植林をすることで、SANU CABINが広がれば広がるだけ森が豊かになっていくということもやっていきたい。
部材を交換しながら長期的に維持管理できる設計とし、建築プロセスにおいても土壌を含め自然環境への負荷を最小化した工法で、建築・開発を行います。
川内:
自然に触れ合うとしたら、いちばん触れ合うのはテントだろうと思いますが、なぜセカンドホームだったのでしょうか。
本間:
自然のなかの美しさ快適さと言いつつも、同時に不快さとか人間にとってしんどい状況というのは生まれやすいというのもまた真で、建物が人を守ってくれる安心感が自然に行くハードルを下げると考えています。
地に足がついた建物を建てることは、遠回りに見えるかもしれないけれどもそっちのほうが自然を好きになる人を増やせるというふうに思っています。
川内:
自然だからこそちゃんとしたシェルターがほしいということですよね。そういうことで裾野が広がる。あったかい部屋から雪を見るのは最高ですもんね。
「別荘」ではない、日常のなかにあるセカンドホーム
川内:
その建物にかけるコストは、SANU 2nd Homeの価格設定にかかわってきますよね? この価格設定は、どんな人たちが集まってくるかを左右するという意味ですごく大事だと思うのですが、5.5万円/月というのがものすごい微妙だなと(笑)。ある程度余裕がないといけないけれど、ラグジュアリーというところでもない。
福島:
サブスク金額は、相当練りました。建設費よりも前に、プライシングから入っています。
5.5万円は大きな金額ですが、子どものいる家族が家族会議して、こういうライフスタイルをしようと踏み込む金額ぎりぎりのラインだと思っています。
ちゃんと話し合って、決心してから利用するというコミットがあるほうが良いと考えました。
本間:
現状SANUというブランドは、ここからラグジュアリーにも安い方にも振れる位置にいると思っています。
もうちょっと価格帯を下げて10~15平米の薪ストーブとベッドだけがある、ちっちゃいキャビンというのもありうる世界だと思っていて、それによってよりさまざまなゲストがSANUを利用してくれるようになったら嬉しいです。
セカンドホームが「別荘」と訳されるところから文化を変えて、ラグジュアリーじゃなくて小さくていいから自然のなかに入って、都市生活につかれたときとかに気軽にふらっと行けるところを目指したいです。
僕らは、セカンドホーム・サブスク事業者ではありません。
現状、結果的にそういう見え方をしているだけで、そもそもやりたいことは自然に通う生活様式をつくるということなので、そのためには何をパッケージングして、何を削るか。
その優先順位を決めて、限られたリソースをつっこんでいく。10年、20年スパンで、どうやっていくかというところだと思っています。
余白を楽しむ、セカンドホームでの過ごし方
川内:
現在利用されている方は、どのようにSANU CABINの時間を過ごされていますか。
福島:
まわりのスキー場へ行くなど週末ファミリータイプ的に楽しんでいる方もいれば、4泊フルにキャビンに籠ってたまった仕事をかたづけるというような方もいらっしゃいます。
キャビン内にはソムリエがセレクトしたワインやキャビンごとに選書された本などがあり、みなさん思い思いに楽しんでいます。
プロジェクターで投影して、映画を観ている人も多いです。ふだんなら観ないような作品を選んだりして、ファーストホームからちょっと離れてインスピレーションを得たいという感覚を持っている気がします。
福島:
あとは寒いなかでも、みんな焚火をしていますね。マイナス8℃とかでもやってる(笑) 焚火台を置いていて、有料ですが薪もあります。持ち込みも可能です。
福島:
旅行となると工程を決めるけれど、セカンドホームだからこそ、そうじゃない余白の時間がSANUにはある。何かをしなくてはいけないわけではありません。
本間:
家族とスキーに行くと効果てきめんですね。
僕には8歳と5歳の子どもがいて、あいつらとスキー旅行に行くとHPがゼロになる。家族まるごと夕方にはくたくたになるんですが、SANUなら自然で遊ぶスキーが日常生活に組み込まれる。
長距離運転せずに、遊んでそのまま近くのセカンドホームに帰れるという感覚で、気軽に子どもたちも連れて行きやすくなります。
余裕のあるなかで自然と遊ぶと、見え方も変わってきます。
SANUとMUJI VILLAGEのこれから
川内:
さてこの先。最終的にどうしていきたいと思っているのか。いま頭のなかには、どんなことがあるんでしょうか。
福島:
ファーストホームをデザインしていくということと、自然のなかでなにをやってもらうかをデザインするソフトデザインのふたつです。
川内:
ファーストホームとは意外です。
無印良品の家は、私たちは都市部でふつうに暮らす人たちに、少しでも良い家をという発想でやってきましたが、MUJI VILLAGEは、いままで住もうと思ってなかったところにファーストホームを持とうよという発想です。
それは決してボリューム的には多くないかもしれないけれど、まさにSANUさんと同じで少しずつ少しずつそういう人たちが広がっていくと、どんどん広がっていくだろうなと言う発想で考えています。
いまのSANUさんは自然のなかのセカンドホームですよね。自然のなかのファーストホームというのは、それを売るということなんですか?
福島:
サブスクで気に入った人が、所有の方が理に適うから買っちゃいましたという自然なかたちを考えています。セカンドホームの比重が高くなっていって、ファーストホームになるという流れです。
本間:
セカンドホーム・サブスクから始めたけど、繰り返し通ううちに好きなところを見つけた。そこにコミットするために家を買うというのはすごくハッピーなことだと思っていて、それならば買う提案を僕たちもできればという背景があります。
川内:
買った人は、いつもそこにいるわけじゃなかったら誰かに貸したりもできますね。そうすると、その貸した収益で購入費の負担を減らすことができます。
本間:
都市のマンションにも同じことが言えて、30%をセカンドホームで過ごすとしたら、その30%分はマンションが空くので、そこを誰かに使ってもらう。
そうすると、都市のレジデンスもかたちが変わるはずで、かたちが変わるとレイアウトも変わるし運用もかわる。地味に見えて、がらっと世の中の生活様式を変えられそうだなと思っています。
川内:
ハコがいろいろあって、みんなで行ったり来たりするんですよね。
MUJI VILLAGEで「仲間」と言っているのは、「同じ価値観をもっている人」と定義していて、そこにあるものがいいねと思う人たちが自然に集まるという発想です。
いまのところMUJI VILLAGEのハードがどうなるかぜんぜんわからないけど、少なくともSANUさんを利用しようと思われている方たちとの親和性はあるかなと思います。
SANUのキャビンを使ってもいいし、MUJI VILLAGEが空いているときは使っていい。もし都市部でも無印良品の家に住んでいるとしたら、そこも使っていいよというような、行って来いができそうです。
みたいなこと、あり得ます?
本間:
いいですね。SANU✕MUJI HOUSE。あり得ると思います。むしろ光栄です。
僕たちがどこまでオリジナルでいくかというのはこれから考えていくことだけど、大前提としてプレーヤー同士が協力すべきだと思っていて、共同でマーケットをつくり育てて、シェアできた方が良い。そうできれば、うれしいですね。
川内:
いつか一緒になにかできる日がくれば、うれしいですね。
本日は、ありがとうございました。