麦野菜摘

頭の中に突然降ってきた言葉、何かの後ろにひそむ物語、アートに触発されて見えた風景、など…

麦野菜摘

頭の中に突然降ってきた言葉、何かの後ろにひそむ物語、アートに触発されて見えた風景、などを書きます。 普段はニャンドゥティというパラグアイの伝統手芸でアクセサリーを作っています。 小説のようなそうでないような短編のお話が多めです。

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  • 物語

    夢の中で出会ったものや、街で聞こえた誰かの声や、本や映画や音楽から見える情景、などを拾い集めてコラージュし、お話を作っています。 ヘッダー写真撮影地:台湾・台南

  • イメージテキスト

    ライブ、舞台、ダンスなど、パフォーマンスを見た時に、頭の中に降ってきた言葉や見えた風景を書きました。 ヘッダー写真撮影地:東京・台東区

最近の記事

本の通販はじめました

文学フリマ東京37で販売した、初めての書籍「麦野菜摘短編集 シンプル・コラージュ」の通販ページができました。 このnoteのマガジン「物語」で公開している9つの短編を収録しています。 ✰蝶々を栞にして地下室で読書をする話 「アスタリスク」 ✰電話ボックスや海の上を走る電車が飛び出してくる地図を手に入れた話 「その街の地図」 ✰森に迷い込んだら、動物からカセットテープを作る芸術家に出会った話 「心象録音」 ✰届かない星に手を伸ばした普通の女の子たちの話 「CRY FO

    • 母とメキシコに行く

      母と海外旅行がしたいと思っていた。 今まで親孝行というものを、何もしてこなかったので。 結婚してなくて(一度したけど離婚)子供もおらず、そういう方面での親孝行は恐らく今後も期待できない。 私のことを好きな男性がこの世に存在しないので… 仕事バリバリやって出世できるタイプでもなく、特殊技能もなく、家事もダメだし、体力もない、気が利かない、しょっちゅう何か無くしたり落としたりしている、記憶力もない…あっダメだ悲しくなってきた… という感じで「私が親にしてあげられることがマジで

      • 【11/11(土)】文学フリマ東京37出展告知【R-03】

        「文学フリマ東京37」に出展します! *11/11(土)12〜17時(入場無料) *東京流通センター 第一展示場・第二展示場 *最寄り駅は東京モノレールの流通センター駅 *イベント詳細→ bunfree.net/event/tokyo37/ 麦野のブースは「第一展示場 R-03」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 これまでnoteに書き溜めてきたお話をまとめた短編小説集を販売します。 マガジンの「物語」にある9本全てを収録していますが、本は縦書きになるので、句読点の

        • 見知らぬ小指

          襟を立てたコートしか頼るものがない。 この冬は、誰もが、誰にも触れることができないのだ。 人類はすっかり冷えてしまった。 未知のウイルスだとか、突然変異だとか、進化論だとか言われているが、本当のところは誰にも分かっていない。 体温は「マイナス」273.15度。 それは絶対零度と同じ温度。 ある日突然、全ての人間がそうなった。 質量保存の法則がどこか壊れてしまったようで、世界中の学者が何度も実験したのだが、人類の体温はどうしても、マイナス273.15度。 熱湯をかけても、

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        • 物語
          11本
        • イメージテキスト
          8本

        記事

          「兎が二匹」という名の呪い

          ※漫画「兎が二匹」(作・山うた)のレビューです。 ネタバレあります。 「兎が二匹」特設サイト 深い呪いをかけられてしまった。 海を見る度に、ラストシーンのあのモノローグが頭をよぎる。 「いつまでも つづく」 「いつまでも いつまでも つづく」 海は永遠だ。 少なくとも人間の命に比べたら。 でも、海と同じくらい死なない人間がいたら、どうだろう? 398年生きている稲葉すずは、不老不死。 外見は永遠に20代前半で止まったまま、首を切っても全身を粉々にしても、生き返っ

          「兎が二匹」という名の呪い

          秘密協定

          ベッドは机に言った。 「役割を交換しましょうよ」 机はそれを承諾した。 それは私の知らないところで交わされた約束で、だから、私はベッドで食事をして手紙を書き、机の上に丸まり眠らなければならなくなった。 この家の主は私だと思っていたが、ベッドと机は私の思い通りにはならなかった。 この世はすべて錬金。 次の日は、書斎とバスルームが役割を交換していた。 なので私は、本から「湯」の文字を取り出して浴び、シャンプー台に並べた本を手にとって浴槽の中で読書をした。 その年のクリス

          秘密協定

          新世界ちゃん

          先輩、第ニボタンください。 そう言いかけてやめた。 本当に欲しい物を言わなければ。 先輩、心臓を見せてもらえますか。 先輩はいつも校舎より大きくて、上履きの爪先のゴムの部分とか、体育座りをした時の腰のあたりとか、そのくらいしか見えない。 先輩は、いいよ、と優しいトーンの声、それから大きな手に私を乗せて、エレベーターのようにぐぅんと一気に胸元まで連れて行った。 私の全身をくるむふかふかの手。 指先にギュッと捕まると、温かさに埋もれてしまいそうになる。 左手に私を乗せ

          新世界ちゃん

          0時のレシピ

          銀河に吸い込まれるように、煙はキッチンの窓から夜空に上ってゆく。 彼はいつも帰りが遅い。 仕事は忙しいし、睡眠も不規則だ。 だからせめて、家に帰ってきた時はきちんとした物を食べて欲しいし、向かい合って一緒に食事がしたい。 だから私は今日も料理をする。 今日は玄米粥。 深夜の帰宅だと、脂っこくて味の濃い物よりは柔らかくてホッとする物が食べたいはずだ。 玄米は消化に時間がかかるけど、彼はそんなにお腹の弱いタイプではないので、それよりは栄養をしっかりとってもらう方が大事かな

          0時のレシピ

          A Spiral Balance

          「さかちゃん、ビンゴ使って京都作ったらしいよ」 研究室で100年間の天気予報を見ていたら、よしおがそんなニュースを持ってきた。 今日のよしおは坊主頭でガタイがよく、目が蛍光黄緑に光っている。 宇宙人の司令塔みたいだ。 「なるほどね。ビンゴだったら一人でやってれば、絶対いつか自分がビンゴだもんねぇ」 「夢の中だったとしても、覚めなきゃいいわけだしね」 「さかちゃんなら向いてそうだよねぇ」 「しばらく来てないの、そういうことだったのかー」 せわしなくツーカーなやりとりは、ナリち

          A Spiral Balance

          CRY FOR THE MARS-プロトタイプ-

          できたばかりのあのファミレスに、深夜に行こうと言い出したのは、やっぱりまりんだった。 まりんはその名前とは裏腹に、海が嫌いで、好きなものはエアコンのきいた部屋で食べるアイスクリームとか、ビーズのぎっしりついた華奢なミュールとか、それで、いつも白いシャツ。 襟の形や素材が違っていたりするけれど、まりんはいつも白いシャツを着ていた。 あのファミレス?え〜国道沿いじゃん、夜だと音うるさくなーい?トラックとかのさ〜 何かというと否定から入る萌は、机に突っ伏したままそう言う。 そ

          CRY FOR THE MARS-プロトタイプ-

          プリーツ

          折り畳んで誤魔化してくれても 私には本質が見えるわ マイルドなら消毒 過剰なら炎上 この手の皮膚を焼き切って 骨を吐き出すためでしょう 冤罪じゃない魔女狩りが 規則正しく行われていて ターゲットは私みたいで そんなに水を流さないで 涙と私の見分けがつかなくなるじゃない そんなのだめなの まだ燃えていたいの だって私は可哀相なの マグマも涙も同じこと でも勢いが足りないの そんなに早く拭わないで 溢れるのが間に合わないじゃない あのね、顔が半分無いの 花を見るこ

          プリーツ

          太陽の娘

          母は完璧だった 美しい顔を持っていた 私は手足が生えていて バタバタと空気を煽った 母のようになりたかった ある日 火の粉の欠片を盗んだ それは神様になる覚悟 けれども 光は乱反射で私を焦がし 皮膚には灰が付き纏う 這い出た私は 撚り合う糸を 指先で受けとった いつしか穏やかな歩みを覚え 棘を優しく撫でさする それでも 止まりかけた心臓を この足で蹴って目覚めさせ 一瞬で崩れる王冠を 何度も何度もこの手で掲げる 引き千切る、藻掻く、踏み締める、駆け出す、

          太陽の娘

          人魚と僕は

          ファースト風土の店でもらった ケチャップの容器の赤に 君の瞳はよく似ていた 海に行くための 青いオープンカーの開いた天井は ちょうど僕の空虚のサイズ 立入禁止の夜を 黄色と黒で囲っても 簡単に飛び込んできた君を どうしても逃がせないと 思っていたけれど 君は簡単に 飛び出してしまった 誕生日もクリスマスも嫌いだった 花束も喜ばなかった それは多分 君は人魚で 触れると枯れてしまうから 僕が抱きかかえるのを嫌がって 一緒にいるなら車を買ってよ、と まっすぐな目で見つめて

          人魚と僕は

          レプリカント

          僕らは模範的なピエロじゃなかったから、工業用オイルではなくてレモネードを飲んだ。 オイルを飲んでいたやつは皆、酸化して動かなくなったよ。 別に嬉しくも悲しくもなかった。 ただ僕らは、レモネードを飲んだ。 そしていつの間にか溜まったカロリーが、僕の力になっていた。 それを気付かせてくれたのは、君だよ。 真っ白なドレスの、君。 ホログラムを撒き散らし、突然空から降ってきた雪。 僕は分かった。生きるという意味が。 時計のリズムにのって一緒に遊ぼう。 変拍子はちょっと難しい

          レプリカント

          心象録音

          遠くに見えるあの子の着ているスカートが、あまりに鮮やかな赤だったので、道に迷った。 いつもの散歩道をいつもどおりに歩いていたつもりが、なぜか見慣れない森の中にいる。 ついさっきまで陽炎が揺らめいて、アスファルトから湯気が立ち上るほど暑かったのに、森はすっかり紅葉していて、煤けた落ち葉が足元でサクサクと鳴った。 道というより、水のない大きな川の中にいるようだった。 赤や黄色、乾いた茶色が敷き詰められたその川は、どこまでも長く伸びていくと同時に、ずっと同じ場所で寝そべっていて

          心象録音

          輪廻の憂鬱

          空気を水彩絵の具にして塗ったのは、空と雲の境目の掠れたブルーグレー。 マカロンカラーの水玉がバウンドする、ギモーヴの雨降り。 少女狂気、少年はただ夏の一瞬、 晴れすぎた日の黄緑の草むらの中で 大人びて相容れない二人は最期の時だけ隣同士。 カレンダーに一房垂らした前髪が秋の日に目印の線を引く。 どの木を庭に植えても、どの鳥の声を聞いても、きっと同じようにここに来ていて、同じ壁を見ていた。 白熊、ティッシュペーパー、ピアノの鍵盤、磨いた歯、雪、花、白い物なら何でも全てし

          輪廻の憂鬱