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CRY FOR THE MARS-プロトタイプ-

できたばかりのあのファミレスに、深夜に行こうと言い出したのは、やっぱりまりんだった。

まりんはその名前とは裏腹に、海が嫌いで、好きなものはエアコンのきいた部屋で食べるアイスクリームとか、ビーズのぎっしりついた華奢なミュールとか、それで、いつも白いシャツ。
襟の形や素材が違っていたりするけれど、まりんはいつも白いシャツを着ていた。

あのファミレス?え〜国道沿いじゃん、夜だと音うるさくなーい?トラックとかのさ〜
何かというと否定から入る萌は、机に突っ伏したままそう言う。

そんなん何回も通らないでしょ、絶対こっちの声のがデカイって
外したメガネを服の裾で拭きながら、リカコが答える。

美弥は何も言わない。
いつものように長い黒髪を風に揺らしているだけ。
これは美弥の、賛成の合図。

何で真夜中なの、まりんはなんか、いっつもそうだよね
ランチやディナーじゃ普通でしょ、真夜中だから面白いんじゃない
いいじゃんパフェ食おうよ
あ、あれだ!今月から始まったやつ!
そーそれ、苺のめっちゃのってるやつ!
なんだ、結局それじゃんね〜
深夜なら全員行けるしねー
いや待って、リカコ確か、バイトは?
あ、そう、火曜はダメ、夜勤バイトの日だからー
そしたら明後日は?5日?
ん、大丈夫
おっけ〜
りょうかーい
美弥は?
美弥、行けるよ
んじゃケッテー

いつもそうやって遊んでいた。

大学ニ年生、20歳の夏。
私たちは、普通の普通の、女子大生だった、と思う。
ただ一人、まりんを除いて。

私たちは全員上京組で、大学の近くで一人暮らしで、だから大抵誰かの家に集まって、だらだらお菓子をつまんで、適当に昼寝して、そうめんを大量に茹でて余らせたり、昔のアニメを一気見したり、そういう夏休みを過ごしていた。

日差し。窓際。濃い影。立ちくらみ。
カランと鳴るグラスの中の、溶けかけたアイスティーの氷。
白く伸びた腕と足は、いつまでたっても日焼けをする気配がない。

リカコはよく働くよねぇ〜
いや普通だよ、むしろ少ないくらいでしょ、夏休みなのに週3なんて
この中じゃダントツよ
あんたらがおかしいんだよ!どーやって暮らしてんの、バイトもしないで
え、仕送り…
仕送り…
仕送り…
ちくしょー!
あれ、美弥もバイトしてなかったっけ?
ああ、うん…
バイトってあれでしょ?モデル、美容室だっけ、ネイルサロンだっけ
まあ、時々だけど…
いいなぁ〜美弥は可愛いからそういうのできて〜
何言ってんだ、萌がもし美弥くらい可愛かったとして、ほんとーにモデルのバイトなんかやるか?
…やらないかも…それすらめんどくさい…
ほらな、そこだよ
何言ってんの!?美弥だって美弥じゃなくたって、みーんなすっごい可愛いわよおー!
出た、まりんのうちら大好き発言
なんなんだ、その博愛主義は
ちょっとキモいよ〜

汗。水シャワー。首筋にまとわりつく、髪の毛の裏側の熱。目の奥に溜まった血液。
クラクラしそうな夏。

私たちは全員、なぜか歩くのが好きだった。
といってもハイキングではなくて、街の中の徒歩1時間程度、3〜4kmくらいなら歩いて遊びにいける範囲でしょ、という認識でいる、ということだ。
あのファミレスだってまりんの家から30分はあったけれど、バスや自転車で行こうとは誰も言い出さなかった。
都会っ子のまりんも、口数の少ない美弥も、心配性の萌も、面倒見のいいリカコも。
それで仲良くなったのかもしれない。
同じ大学の子達は皆、歩き続ける私たちに苦言を呈し、ついてこられなかった。
そのうち何となく、このメンバーで集まるようになったのだ。

あり合わせを掻き集めた午前0時。
ね、その秘密、ちょっと頂戴。
だーめ、だって夜空は、宇宙と繋がってるんだよ。
誰が聞いてるか分かんないじゃん。

あれ、意外と混んでる
できたばっかだからかなぁ
あっつ〜、真夜中でもまだこんな暑いの〜
どれ?まりんが食べたいってやつ
苺のパフェ!あーでも待って、パンケーキもいいなー!
萌どうすんの?
んー、サラダうどんかなぁ〜
ヘルシーだねぇ
ね、まりん、半分こしない?私、パンケーキ頼むから
する!やったね!
えーと、皆決まった?
ごめんまだ…
何と何で迷ってんの?
メンチカツかハンバーグ…
つよ!
この時間に攻めるね、美弥
えっじゃあ、私も唐揚げ頼もうかな…
いいんだよ対抗しなくて
でもあったら食べるっしょ?
そりゃね〜

とはいえ、日中は暑い。
歩くのは苦にならなくても、暑いのは苦だ。
出掛けるのは夕方以降にしたい、昼間はなるべく涼しい部屋でのんべんだらりとしていたい、と、誰も口には出さなくても、雰囲気で分かる。
そういうところが、不思議と気が合った。

リカコのアパートに集まることが特に多かった。
料理ができるのがリカコだけ、ということもあったが、部屋自体がなんだか居心地がよかったのだ。
アパートは狭い路地の裏側にあり、木造とコンクリートの入り混じったようなちぐはぐな建物で、あちこちに修復の跡が残っていたが、造りは頑丈そうだった。
部屋はリカコらしくきちんと片付けられていて、冷蔵庫には作り置きのおかず、そしてあの、ドアを開けると真っ先に出迎えてくれる、一面の大きな窓。
まりんはそこから見える夕陽を気に入っていた。

ねえ、夕暮れ、キレイね…
え?ああ、この部屋、窓だけはデカイからね
真正面じゃん、太陽
すっご、部屋の中真っ赤!
そーなの、西日が凄くてさ!今の時期とか暑くて最悪だよ!
だから家賃安いとか?
それもある
これさすがにちょっとキツイもんね〜
えー、こんなに素敵な夕暮れなら、遠くからだって見に来たいのに…
まりんがまーた変なこと言ってるよー
確かにキレイだけどね、こんなに暑くなきゃね
カーテンもうちょっと開けとく?
うん、だって、こんなに眩しいもの…

眩しさを、目を閉じないで受け止める。
まりんはそういう子だった。

夏休みは順調に楽しかったが、一度、美弥が体調を崩してお見舞いに行ったことがある。
美弥はあまり自分のことを話さないし、会話にもなかなか入ってこないが、聞けばなんでも答えるし、無愛想だとか不機嫌だとか、そういう感じはしなかった。

美弥、具合大丈夫ー?入るよー?
うぇっ、何この部屋?!
あ…みんな…
ちょっとちょっと、どーしたのこれ?!
ゴミだらけ!ひっでぇ!
ペットボトル!コンビニ弁当!レトルト!ばっかじゃん!
あ…何か…どうするのかよく分かんなくて…
捨てるんだよっ!ゴミはっ!
こんな部屋にいたらもっと具合悪くなっちゃうよ〜!
いやー!これは凄いわ、壮観だわー!片付けちゃうの勿体ないわー!
まりん何言ってんの!
捨てていいんだよね、美弥?
…うん、いい…ごめん、美弥、そういうのできなくて…
だいじょぶだいじょぶ、とりあえず纏めよう
寝てなよ美弥、ちょっとうるさいかもだけど
病院行ったの?熱中症とかじゃないんでしょ〜?
…うん、違う…ただの夏風邪だって…
てかエアコンも点けてないじゃん!
いやまずリモコンどこだって話!
あ、あったわリモコン
はやっ
まりん目ェよすぎ
あとね、お粥作ってきたからさ
え…?
あんま好きじゃないか?
ううん、違う…嬉しい、ありがとう…
冷蔵庫入れとくよ、レンジオッケーのタッパーに入ってるから
リカコのお粥美味しいんだよね〜
萌にもまた作ってやるから

誰かのところへ行って、誰かのところへ帰る。
玄関に置き去りにされたサンダルのラインストーンが、人知れず輝き続ける。
あの頃の私たちは、こんな日々は多分もう来ないと、うっすら感づいていたのだと思う。

だから、というわけじゃないけれど、夏休みの課題は当然終わらなかった。

で、どれがどこまで出来てんの?
出来てるってゆーか、出来てないってゆーか!
美弥は?
大体出来てない…
あと何?
数理造形…
ねー、フィボナッチ数列の数式ってなに〜?
まったくわからん
経済学よりマシだよ
やったわね、一年の時
あれ全然分かんなかった…
明日から授業って噂、ほんと?
嘘だ〜嘘だって言って〜
寝るな萌!まだ終わってないぞ美術史!明日の2限だぞ!
ほんとに終わる〜?これ
誰かいないの、この中に、夏休みの宿題は7月中に全部やっちゃってたみたいなのは
いるわけないじゃん
だから今こうなってるんだって
リカコが終わってないのは意外だよね
でも、あとちょっとよ
まりんはやれば早いのにやらないんだよな
だって皆とやりたかったんだものー!
いやいや!そんなとこ合わせる必要ないから!

まりんはいつもサラリと、少しだけ言いにくい愛情を口にする。
その素直さが新鮮でこそばゆくて、少しだけ羨ましかった。

終わらないでいてほしかった夏が終わって、大学は後期が始まる。

肌に跳ね返る光がだんだんと和らいでくる頃、少し躊躇いながら長袖を着る。
ホットコーヒー。虫の声。ニットのワンピース。
花壇の花はゆっくりと、色の数を減らしてゆく。
季節の風が揺らす音を聞くことなく、いつまでもそこにいたかった。

暑いと涼しいが三日おきに入れ替わるような時期に、萌が、いいものがあるから家に来ないかと誘ってきた日があった。
萌は自分から何かをするというより、人から言われたことに(ぶーぶー文句を言いながらも)ついていくタイプなので、これはちょっと珍しかった。

なに萌、いいものって?
あっ、すんごいアイスの匂いする!
え~!何で言っちゃうのまりん~!そうだよ、アイス!めちゃくちゃあるの!
マジで?!なになに?
バニラ!カシス!ラムレーズン!ピスタチオ!どれにする!
ピスタチオ!
うおっどうした美弥、声デケェ
目がマジだよ
だって、ピスタチオだもん!だって!
分かった、今年の美弥の誕生日には死ぬほどピスタチオアイス食わせてやろう
いつなの、誕生日
12月25日
え!クリスマスじゃん!
こたつでアイスだわね、これは!
え〜絶対お腹壊しそう…
萌の誕生日じゃないから安心しな
まりんどれにするの?
じゃ、カシスもらうね
どうしたん、このアイス?こんないっぱい
こないだ親が来てさ、買ってってくれた
え、石川から?
そー、弟が再来年受験で、大学とか住むとこの下見とかで
来年じゃなくて?再来年?
そー
めっちゃ気合入ってるじゃん
萌の受験ん時、ほとんど親放置だったみたいなこと言ってなかったか?
それはやっぱ、弟は男の子だからさ、そっちがメインなわけよ
だって、萌だって受験の大変さは一緒でしょう?
田舎はね〜そういうもんなの、女子に人権はないんだわ〜
ほー、世知辛いなぁ
好きで女子に生まれたんじゃないのにね~
楽しいけどねぇ、女子
まぁね、男子だって楽しいんだろうけどねぇ
そりゃね、男子だって大変なこともあるんだろうしねぇ
どっちもどっちか
喧嘩両成敗ってやつ?
なんかちょっと違うな…

諦めたことすら忘れた。
世界から消えた言葉だって永遠。
コンプレックスは不変。
目の前は、不必要な大海原、歩けない大草原。

学園祭の時期になったが、私たちは誰もサークルに所属していなかったので、騒がしい学内の雰囲気はどこ吹く風だった。
当日は皆で出店をまわって、伝統の味らしい塩焼きそば、留学生の小籠包、わたあめ、たこ焼き、フランクフルト。

あ、ケチャップついちゃった!
まりんの服いっつも白だから目立つよね〜
洗ってきなよ
大丈夫よ、水道遠いし
シミになっちゃうよ
そーんなの、シミ抜き洗剤でイッパツでしょ!
あ、聞いたことある、ケチャップのシミは食器洗いの洗剤でいいんだって
え~マジで?便利!
なるほどそうだよね、食べ物なんだから

流れる雲を追いかける気なんかなくて、足元を見つめていた。
大人達は若さを称賛するけれど、本当は何を称えたいのか分からない。
背中の羽根よりスニーカーが欲しかった。
秋は
空が
遠くて
高くて
手が
届きそうにない。

大学が始まると、それぞれ予定が合わないことも多くなってくる。
そのうち、家主がいなくても勝手に集まるようになった。

ただいまー
おかえりリカコー!
バイトおつかれ〜
そっちあけてー
何見てんの?映画?
金ロー、金ロー
まりんが見たいって
今日なに?
マーズ・アタック!
あー聞いたことあるな、だいぶ昔のやつじゃない?
ティムバートン、だよね確か
火星人ってこんなんなのかな〜
いや絶対違うだろ
最後どうなるの?これ
今見てんのにオチ聞くの?
いいねー、秋の夜長の映画
文学っぽい!頭よさそう!
絶対頭よくないぞ、その発言は

つい夜更しになるので、しょっちゅう夜食を買いにコンビニへ行った。
最初はそれすら非日常のイベントで、でも、そのうち日常になった。

大学の周りは、中華屋、定食屋、ラーメン屋などがたくさんあって、食べるのには困らなかったが、そういう店が閉まるのを待ちかまえていたかのように、日付変更線をまたぐ頃にそろそろと出かけるのが常だった。
眠りにつくはずの深夜にひときわ輝くコンビニの光が、羽虫を誘うように私たちの隙間を照らす。

ルールを知らないふりが通用する最後の時間。
一人きりだった36度6分の手のひらを、冷えた空気を挟んで、触れない距離に流れる37度2分が受け止めている。
手袋はそっと外した。

えっまりん何してんの?
え?カップ麺にお湯入れてるの
なんで今?!
食べながら帰ろうと思って!
家まで5分だぞ?!待てないか?!
待てないわよー!寒いし、今お腹空いてんだもん!
美弥ー、そんな急がなくていいよー、まりんが時間かかるわこれ
めっちゃチリトマトの匂いする〜
器用だな、食べながら歩けるか?フツー
いやーカップ麺は凄いわよね!人類の知識と技術の集合体!素晴らしいわ!
まりんの考え方の方がなんかもう凄いわ
これが真夜中のハイテンションじゃなくてデフォルトなんだからな
リカコなに買ったの?
コーヒー
だけ?
賄い食べてきたし
それ夕方の話でしょ?
でもいいな〜賄い、そういうの聞くとちょっとバイトしたくなる〜
萌、賄い食べていいのは働いたヤツだけだからな

そんなわけで、1限の授業にはしょっちゅう遅刻した。
萌はいつも眠そうなタレ目を更に下がらせて、来年は絶対に3限からしかとらない、と言い張っていた。

早すぎる夕闇。
急げ急げとまくし立てるように、夜は昼に食い込んでゆく。
初めて感じる焦燥感。地面に吸い取られた体温。どんなセーターを着ても、どうしても冷たい手足。
冬が迫っていた。

12月31日は美弥の家で過ごすことになった。
美弥の家が一番、寺に近かったからだ。
初詣。
深夜に出歩くのはもう慣れていたけれど、この日はやっぱりちょっと違う。
暦が変わる瞬間に同じ線の上にいることで、私たちは結構わりと、特別なんじゃないかと思っていた。

こ、これでも頑張って片付けたんだよ…皆が来るからさ…
うんうん、頑張ったよ!美弥!
机の上に物が置ける!マジ進歩!
あれ凄かったよね、初めて皆で美弥んち来た時
覚えてる、超大掃除した~!
それこそ年末ばりにな!
まりんめっちゃテンション高かったよね?あん時
だってあんなに散らかってる部屋って初めてだったもの!滅多に見られないじゃない?!
まりんやめてあげて、もう美弥のヒットポイントはゼロよ
年越し蕎麦これ、そっち置いて
わー!さっすがリカコ!ありがとー!
年越しだねぇ、来年もよろしくねぇ〜
蕎麦のびるぞ、萌
もうのびてるね
蕎麦より萌がのびてるね
ねー!お蕎麦すっごい美味しいわよー!
リカコいないと生きてけないようちら〜
いや重いわ
だって料理できるし、めっちゃしっかりしてるしさ
リカコ結婚して〜
はぁ?何言ってんだバカ萌
すげー、今年最後の!プロポーズ!やばいウケる、腹いたー!
ど、どうした美弥
笑いすぎじゃない?
誰だ、こんなに飲ませたの
そんなないよ、ワイン一杯だけだよ!
こんなだと思わなかったな
最初はミステリアスな美少女だと思ってたのにね
部屋めっちゃ汚いし
ね、いつ行く?初詣!
0時回ったらすぐ出るでいいんじゃん?
美弥どうしよ?
や、歩けないでしょこれ、面白すぎるわ
紅白終わったし
てかもう寝てんじゃん
んじゃうちらも寝ようかぁ
そうだね
そうね
ちょっとそっちつめて〜こたつはみ出そう〜
おやすみ
おやすみ
また来年

引き出しに仕舞った悲しい宝物を、取り出せるのはいつの日か。
期待を持たずに明日に向かう。
いつだって幕は、開けるのも閉めるのも、思うようにはいかない。
だから今はただ、隣で息だけしていよう。

新年が明けてしばらくたった頃、地球と火星が接近するというニュースを聞いた。
公転の周期がずれているのが理由で、地球と火星が物凄く近くなる日が大体2年と2ヶ月ごとに来るらしい。
それが次は今年の4月なのだと、点けっぱなしのテレビが言っていた。

あれ、ちょっと前にも火星が近付いてくるみたいなのなかった?
あったあった
今言ってたじゃん、2年2ヶ月ごとだって
じゃ、そろそろ私、こっちに来て2年2ヶ月ってことだわ
まりんよく覚えてんねー
前回の火星最接近の時だったから、覚えてるの
えーと、じゃ高3の2月に東京来たってこと?
高校まだあったんじゃないの?
なんかね、大丈夫だったのよ
まあ2月なら、ほぼ授業しないみたいなとこもあるよね
高校時代とかすんごい昔のことみたいでヤバいよ〜
なんかあっという間だよねー

大学が春休みに入る直前の教室で、同じ学部の子達が旅行に行くと話しているのをふと耳にした。
あまり他人に影響されることのないマイペースな学生生活を送ってきた私たちだったが、この時は全員の気持ちがぐっとそっちに傾いた。

ね、うちらも旅行行かない?春休み
温泉?スキー?
スキーとかないな、誰が満足に滑れんの、この中で
なんか全員ダメそ〜!
ダメそーっていうか、明らかにダメだろ
リカコは、バイトは?大丈夫?
うん、早めに言えば休みはとれるから
あったかいとこ行かない?沖縄とかさ
海!いいねー
やだぁ、それなら都内でマリオットとかグランドプリンス泊まりに行こうよー
まりんほんと海嫌いだな
だあって、ただ広がってるだけの海なんか見るより、キレイなホテルで美味しいもん食べて夜景見る方がいいでしょ?
極端だなー

海は見たくないの。
それより高層ビル、電車、真夜中を照らす街灯とか、そっちの方がよっぽど素晴らしいわ。
これを作れるようになるまでに、人間は頑張って努力して、たくさんのことを学んで進化して、こんなに色々なものを生み出して。
海なんて、何もしないで弱々しく身を任せているだけじゃない。

わあ、まりん、それ環境保護団体とかに絶対言っちゃダメなやつ…
刺されるぞ、シンプルに
でもなんか分かるなぁ〜、うちの地元めっちゃ田舎でほーんと何にもないもん、コンビニも20分歩かないとないもん
まあ、ずっと住んでるとねぇ
そ、たまに旅行とかならさ、いいんだけど
あれ、まりん地元どこだっけ?
あー、地元ってないのよ、親の都合であちこち行ってたから
そーなんだ
美弥は?地元
美弥、埼玉
なんだ全然東京じゃん
でも熊谷だよ
どこ?熊谷って
あれじゃん、夏超暑いとこ
そう、そこ
あ、まりん、新幹線乗ってみたいって言ってなかった?
あ!乗りたい!乗ったことないの!あと飛行機も!
飛行機だとちょっと話が大きくなるからー、今回は新幹線にしない?
新幹線ってどこ通ってるっけ?
なんだっけ、北陸まで開通したんじゃなかった?
そしたらそっちにするか?
北陸ってどの辺?
マジで言ってんの?萌

あっちに喧々こっちに諤々とした結果、富山の宇奈月温泉に行くことに決まった。
黒部宇奈月温泉駅、というダイレクトな新幹線の駅名が私たちに分かりやすく響いたのだった。

新幹線やホテルを予約したのは、もちろんリカコだ。
東京からの新幹線の通常料金は2万円ちょっとらしいが、早割とか往復割引だか何だかを使って1万7千円くらいになったし、ホテルも三つ星なのに随分安いプランを見つけてきてくれた。

3月下旬のよく晴れた日、東京駅を11:24発、黒部宇奈月温泉駅に13:44着のはくたか561号。

天気よくてよかったー
ね、あっちも寒くないといいね
だいじょぶだよ〜、うちの地元そんな寒くないもん
そっか、萌んとこ隣だもんね
どこが北陸だかこないだ分かったからな
まりんその赤いコート可愛い〜
へへ、新しく買っちゃった!
もう冬も終わるのに?
だって皆と旅行だもの、嬉しくって!
めちゃくちゃ浮かれてんな
あれ、美弥のバッグも見たことないね?
うん…買っちゃった…
えー!なにそれ!
うちらが楽しみにしてないみたいじゃない?!
いやまりんと美弥がヤバいんだって
私だってめっちゃおやつ持ってきたからね!
何を競ってんだ

東京駅20番ホームから出発の北陸新幹線。
はしゃぐまりんの鞄から落ちたリップを、美弥が慌てて拾って手渡す。

北陸新幹線ってどっち?
こっちって書いてある!
えっ、こっちにもこっちって書いてあるよ!
どっちがどっち?
どっちでもいいんじゃないの?
そんなことある?
ね〜!駅弁あるよ!
これ知ってる!崎陽軒だ!
富山ならやっぱます寿司じゃない?
どれにしよ〜迷う〜

人で溢れる店内の隙間に入り込み、色とりどりの膨大な情報から自分の好きなものを選び取る。
いつまでたっても決まらない萌に、そろそろ時間だとリカコが視線を送った。
こんなに人がいるのに、私たちをナビゲートできるのは私たちだけだった。

よかった乗れた〜間に合った〜
けっこー空いてるね
指定席じゃなくてもよかったかもなー
ね!窓際じゃんけんしよ〜!
いやいいよ、萌座りな
新幹線の席って向かい合わせじゃなかった?
いや、回転できるんだよ確か
あっ動いた!すごーい!
お茶ってどうしたっけ?
あ、美弥持ってる
さんきゅー!
リカコのお弁当なに?
やきとり…どこの?国技館?
そんなのあった?
普通にあったよ
うっそぉ〜
まりんは?
これ!だるま弁当!
群馬じゃん
どこ行くんだって、もはや

駅名も読めず通り過ぎるプラットホーム。
突然飛び込んで、いつ途切れるのか分からないトンネル。
体験したことのなかった風景が、現れては消えてゆく。

スピードに不安になったら、服の裾を掴んでも、いいのかもしれない。
誰かの服の裾を。

黒部宇奈月温泉駅から、富山地方鉄道の新黒部駅に乗り換えて、宇奈月温泉駅までは特急で20分。
乗り換え改札に少し迷って、ホームの端まで歩き回って、息を弾ませて電車を待った。

新幹線乗ったの2年ぶりだったな〜
前は?あ、上京してきた時?
そー、リカコは?
修学旅行以来かな
どこだった?修学旅行
それがさ、どっちも京都・奈良
マジ?中学も高校も?
そうなんだよ、ルートもほっとんど一緒だった!
うわ、何か損した感じすんね
美弥はどこ?
北海道と沖縄
それめっちゃいい〜!
でもだから、京都行ったことなくて…
あーそっか、そうなるのか
まりんは?
あー、行ってないのよ、転校が多くて
そーなんだ
確かに、修学旅行って春に行くとこと秋に行くとことあるもんね
あ、それで新幹線も飛行機も乗ってないんだ
そうそう

宇奈月温泉駅は、小さな駅だった。
毎日を過ごしていた街からこんなに離れた場所まで、地面は変わらずにずっと続いていた。
東京と同じ快晴だったが、山々の上に広がる空の色は、何度も塗り重ねたような濃い青。
初めて本当の青空を見たような気がした。

着いたぞー!富山ー!
わーこっちも晴れてる!
案外すぐだったね〜
喋ってたら一瞬だよね
見て!噴水!
これって温泉かね?
そうじゃない?温泉の匂いするもの!
まりんよく分かんね、そんなの
ね〜!ベンチが電車の形してる〜!
雪ちょっとだけ残ってるね
やっぱ東京よりは寒いよねー

ホテルは駅のすぐ近くで、遠目にもはっきり分かるコントラストの、えんじ色の屋根とオフホワイトの壁。
広々としたロビーは、動き出しそうなほど大きいエントランスの生け花も、組木細工のような壁から洩れる光も、磨き上げられたテーブルも、同じだけ重要な役割で空間を彩っている。
チェックインの間も何だか落ち着かず、目が合っただけでそわそわした。
3月でこんなに暖かくてカラッと晴れるのは珍しいんですよ、と教えてもらい、ラッキーだったねと笑いながら鍵を受け取った。

通された部屋は和室。
リカコの部屋だって畳で大きな窓という条件は同じなのに、固い生地の座椅子も、上品な茶器も、窓から見える風景も、すべてが違っていた。

部屋めっちゃ広いんだけど〜!
景色最高じゃん!
なんか大っきい橋ある!あの赤いやつ!
あれ、2つない?
ほんとだ、なんでだろ?
えーとね、山彦橋ってやつだ、片方は遊歩道になってるんだって
もう片方は?
そっちは電車の線路だけ
2つあるならどっちか無くなっても安心だね!
そういうことじゃないと思うぞ
遊歩道って、歩けるってこと?
あっダメだ、今の時期閉まってるって!
えーっなんでーっ
降雪により冬期は閉鎖、って書いてある…
雪か〜
例年は降ってるってことだね
今日はこんなに晴れてるのにー

気を許すと弾けてしまいそうな表面張力から距離をとり、秘密裏にどうにか宥めようとする。

もう、冬は、終わるのだから。

夕食、ビュッフェなんでしょ?
お寿司もお肉もあるのヤバーい!
美弥のなに?カレーとラーメン?
う、うん…
でも美味しそう、それ!
それブラックラーメンとか書いてあったやつじゃない?
じゃ、ご当地グルメだ!
待ってハントンライスあるんだけど〜!
なにそれ?
石川のやつだよ!
萌のとこの?
じゃ、それにしようかな
え〜大して美味しいもんじゃないよ〜
私、蟹とってくるわ!
デカ!丸ごとじゃん!
皆で食べよう、これは
剥くの難しいよ〜リカコやって〜
あれ、ワインもあるみたいだね
美弥、今日はやめとこう、なっ?

石川出身の萌は、あちこちで何かを目ざとく見つけては、あっこれ知ってる、を繰り返していた。
露天風呂は午前1時まで入れるということなので、まず先に夕食、その後にゆっくり温泉。

棚湯になっている露天風呂からは、さっきの赤い橋が見えるはずだったが、光の届かない山間の暗闇は、星空だけを映していた。
宇宙にぷっかり浮かぶように、私たちは柔らかく温かい水の中をいつまでも漂い続けた。
このまま眠りこけてしまって、目が覚めなくてもいいと思った。

やーいいお湯だったわー
テレビ点ける?
うわ、懐かしー!見てたこれ〜!
東京じゃやってないねーこの番組
リカコも見てみなよ、知らない人ばっかで面白いよ
えー待って、メガネどこ置いたっけな
リカコってそんな視力悪いの?
悪い悪い、なーんも分かんない
わ、ほんとだ、度キッツ
このタオル誰の?干しちゃっていい?
あ、美弥の!ごめん!
え、わざわざ持ってきたの?
ないと思って…
ホテルだよ~、あるってタオルくらい!
そういうもんなんだ…
一つ学んだね、美弥!
次また皆でどっか行く時まで忘れないように!
待って待ってまりん、なんなのそのお菓子
ねるねるねるねじゃん!
しかもデラックス
どういう基準でそのチョイス?
なんか楽しそうだったから!
楽しすぎるでしょ
皆でやるしかなくない、こんなん

今私が幸せなのは、きっと誰かが嘘をついているからだ。
錆びついた服を着た無表情のマネキンは蜃気楼。
暴きたい、暴きたくない、騙されていたい、本当であってほしい、矛盾でいるのが等身大。

朝ご飯も凄いねー!
あ~イクラめちゃめちゃ美味しい~
今日どうしようか、これから
帰りの新幹線って午後だよね?
美術館とかカフェとか、昨日大体行っちゃったもんね
あ、ちょっと行った山の方に自然公園があるって
山登りとかキツくない〜?
や、見た感じ道は整備されてるっぽい
歩けるの?
今調べたら、片道1時間半くらいだった
ならちょうどいいかもね
せっかく今日も晴れてるし
ま、他にやることもないしねぇ
こんだけ食べたから、ちょっとくらい歩かないとだよね
チェックアウト10時だっけか?
荷物は預かってもらえるんじゃない?

隅々まで清潔な部屋、食べたことのない豪勢な料理、優しく透きとおった温泉、そして晴れ渡る空は、私たちを浮かれさせるのに充分だった。
それで自然公園のことも富山の気候のことも、ほとんど調べずに出かけてしまったのがいけなかった。

ここから真っ直ぐ?
一本道だからラクショーっぽいね
やっぱ景色いいねぇ!
最後、展望台があるんだっけ
や、平和の像があるらしい
それ長崎とか広島なんじゃないの?
あちこちで平和祈ってるんだよ多分

調子よく歩みを進めていたその裏側で、天気は私たちに黙ってこっそり進路変更していたようだった。
山の天気は変わりやすいというけれど、雨の気配すらなく突然猛吹雪になったのは、いくらなんでも予想外だった。

雪?!
え、雪降るなんて予報あった?
いや、てか、誰か予報見てた?
…見てない…
…見てない…
これちょっとヤバくない?
いきなりこんな強い雪っておかしくない?
これダメだ、帰ろう!

唐突に変わってしまった空模様に焦って足早になるけれど、山に入って40分以上はたっていたのでそう簡単に戻れるはずもない。
道はぬかるみ、水が溜まり、じわりじわりと足を濡らす。
余裕の表情で降り積もってゆく雪とは真逆に、私たちは騒がしく不服を撒き散らした。

なんなの、あんなに晴れてたじゃんさっきまで!
寒い…
寒いってか、痛い…耳とれそう…
びっちゃびちゃだよ、も~!
迷ってるわけじゃないよね?
それは大丈夫
あれ…ねぇ…まりん、いなくない…?
え?ほんとだ!
えーっ?!嘘でしょ〜?!
一本道だから、はぐれるわけないんだけど…

この時ばかりは皆、少しだけ、まりんの自由さに苛ついていたと思う。
面倒なことしてくれちゃって、という気持ちで、渋々もと来た道を戻っていった。

ふと、その途中に小さな脇道があるのに気が付いた。
肩ほどまで高く生い茂った枯れ草に雪がかぶさり、その入口を巧妙に隠しているので、かなり注意深く見ないと分からない。
最後尾を歩いていたまりんは、私たちの背中を見送ってこの道を行ったのだろうか。
何のために?

雪はどんどん強くなり、視界のほとんどが白く埋まってゆく。

脇道を辿っていくと、突然、一面が開けた空き地のような場所に出た。
そこは、山の上だとはにわかに信じられないほど広く、南極の氷の大地とか、どこまでも続く塩湖とか、そういう非現実な世界を思わせた。

白いこと、それ以外に取り柄のない空と地面の間に入り込んだ境目の上に見えたのは、まりんのあの、赤いコート。

呆れるほどに平たい空と地面が、上下からのっぺりと地球を覆い、地平線を細く押し潰そうとしている。
それをホリゾントのように背負い、赤いコートを着たまりんが、吹きつける雪の中に立ちすくんでいる。
その赤はあまりに鮮やかで、生まれる場所を間違えてしまった心臓のようだった。
どこまで画角を引いても何も映らない、ひたすらに広い風景の中で、目を見開いたまりんの頬はかすかに震えている。
氷のナイフを薄く突き立てるほどに冷たい、まりんの背筋と横顔。
こちらを見ない横顔。

真っ赤なコートから導火線が繋がって、やがて髪まで激しく燃えさかる。
まりんは怒っている。
声を出さず、まばたきもせず。
怒りが行き場をなくして、まりんの中で渦巻いている。

まりんはひどく孤独だ。
だって私たちは、誰一人、今そのコートのポケットに突っ込まれたまりんの手が、固く結ばれているのか、柔らかく開いているのか、それすら分からないのだから。

ねえまりん、怒ってるの?
怒ってるわ、自分の無力さにも、これからの未来にも、それから、あなたたちにも
私たち?
そう

あなたたちが、こんなに…もっとずるくて、ひねくれてて、浅ましくて、そういう人たちだったら、私だってもっと…こんなに…

こんなに?

苦しまなくてすんだかもしれないのに。

まりん、何言ってるの、聞こえないよ
風が強すぎて
雪が邪魔して
空が重すぎて
聞こえないよ、まりん


あのまま火星に残っていたら、どうなっていたかしら。

最後に友達を作って、いい思い出を作って、何も知らないふりしたまま地球の上で、火星に飲み込まれたらそれで納得できると思っていたの。

でも今は悔しい。
私は何もできない。
あなたたちにこれからのことを告げるのも、未来を変えることも。

私が火星にへばりついていたアメーバだった頃は、友達はいなくて、いえ、同じようなアメーバは周りに何億体もいて、全員心も体も繋がっていて同じことを考えているんだけど、私だけ、反骨分子っていうのかな、皆に絶対気付かれないように、一番深いところでひっそりと、少しだけ違うことを考えていたの。
ずっと隠している違和感、それが私の正体だった。

だから、地球の人間っていうのは、お互いの心が通じ合っていなくて、それなのに笑い合ったり泣き合ったり、嫉妬したり憎んだりするってことを他のアメーバの心から読みとって知った時に、とても興味深いなって思ったの。
アメーバは一体で完全体だし、何億体いても一体と同じだから、そういう発想がまず無いのよね。

火星ってね、アメーバに覆われて、死にかけている星なの。
実はそうなの。
45億年くらい前なんだけど、アメーバは住める星を探して宇宙を彷徨っていて、火星に辿り着いたのよ。
前に住んでいた星がね、寿命がきて、滅びちゃったの。

その頃の火星はまだできたばっかりで、豊かな星だったわ。
しっとりとした土は分厚くて、木々もよく繁っていて、色んな生物もいて、ちょっと今の地球に似てて。
それからやっぱり今の地球みたいに、大半が海に覆われていたわ。
前にいた星でも海はあったから、アメーバはまず海を飲み込んだのね。
海は大きくて強いから、ちょっとくらい寄生しても大丈夫でしょ、とりあえず、って感じで。
ほんとよ、最初は、端っこにちょっとお邪魔しただけだったの。

まさか海があんなに弱いなんて、思いもしなかったのよ。
ほんの少しの海へのダメージが、全体に広がって、そしたら土も木もだんだん衰えて、生物もどんどんいなくなって、それで気付いたらもう…

10億年くらいで、海から何からすっかり無くなっちゃったの。
アメーバだってびっくりしたわ。
星にとって一番大事なものが、こんなにあっさり死んじゃうの?って。
何かを守っているならもっと強くなきゃいけないと思うんだけど、海は一度も抵抗しないで、素直に食べられていくだけだったのよ。
前に住んでいた銀河では、海っていうのはとても強くて、一番最後まで生き残って星を守っていたんだもの。
太陽系って不思議ね。
海がこんなにか弱いなんて。

それで、アメーバが火星の何もかもを食い尽くした、っていう形になっちゃったの。
だからやっぱり、海のことはちょっと怖いっていうか申し訳ないっていうか、素直には見られないわよね。

だってね、火星の海と地球の海は、実は共鳴していたの。
地球の海は太陽や月の引力に影響を受けているっていうけど、火星だってすぐ隣の惑星だもの。
引き合っていてもおかしくないでしょう?

もし火星の海がアメーバを恨んでたんだとしたら、その気持ちが地球の海にも伝わってるかもしれないじゃない。
だから、なるべくなら顔合わせたくないなぁっていうか。
謝りたいとも思うんだけど、謝られてもしょうがないんですけどーって言われちゃったらそれまでだし。

あ、私は比較的若いアメーバだから、この辺は後から聞いたのよ。
アメーバは皆同じ意識で繋がってるから、生まれた瞬間にこの世のすべてを知るんだけどね。

それでね、アメーバだって困ったのよ。
火星は内部までスカスカで、自分の重みで崩れそうになっちゃったもんだから、仕方なくアメーバが骨組みになったの。
それで何とか持ちこたえたんだけど、やっぱり水が無いといつかはダメになるのよね。

でも、またすぐ宇宙に出て別の住処を探すのも面倒くさいし、ひとまず火星にいたの。
滅ぼしちゃった責任もあるしね。
アメーバは乾燥すると殻を出して閉じこもるから、しばらくは水が無くても平気なのよ。
それで35億年くらい、アメーバは火星のふりをしてたの。

殻はそこそこ長持ちしたんだけど、なにせ資源が無いもんだから、細胞分裂しかできなくなっちゃって。
一応生きてはいけるけど、細胞分裂ばっかりだとじわじわ衰退してっちゃうの。
他の材料を取り込まないで自分だけで増えてるから、半分冬眠してるようなもんなのよね。
それで、やっぱりそろそろ水が欲しいってなったの。

全員一致で、一瞬で決まったの。
地球を飲み込みにいこうって。
火星から一番近い、水の星を乗っ取ろうって。
そうよね、皆、同じアメーバなんだから。
同じことを考えているんだから。
でも。

でもね。

地球が消えちゃうって、私、嫌だなぁって思ったの。
だって火星から見ていた地球は、とても美しかったんだもの。
2年2ヶ月ごとに近付いてくる青い星は、いつの間にか私の心を捕らえていたわ。

特に、20万年前に人類が誕生してからの地球は本当に面白かった。
戦争、虐殺、悲しいこともたくさん起こっていたけれど、産業革命、大航海時代、好奇心でキラキラしていることはそれ以上にたくさんあったわ。
人間の作り出す物にとても惹かれていたの、私。
アメーバはアメーバしか作ることができないから、自分とは違う新しい物を生み出してる人間が輝いて見えたのよね。
色んな実験を繰り返して、あれこれ工夫して、クリエイティブで恰好いいなぁって思ったの。

だけど、他のアメーバに言っても通じないのは分かってたから、何重にも何重にも薄っぺらくして、奥底に仕舞ったわ。
未だに成長の余地がある文明なんて未完成な証拠だーとか、言われるに決まってるし。
だって、自分じゃない物を作ってる地球の人間って、無駄なことしてるって思われてるんだもの。

地球で探してるレベルの法則は、宇宙じゃほとんど分かってて、どういう結果になるのか思考の中だけで完全に理解できるから、アメーバはじっとしてるばっかりなの。
人間は、まだ未知のことがいっぱいあって、この謎解きに挑戦するぞ、あれもこれも楽しむぞ、みたいな感じで、なんか見ててワクワクしたのよね。

物質って、粒子からできているでしょう?
粒子には正反対の反粒子が必ず存在するんだけど、生まれた瞬間に粒子とくっついて消えるから、この宇宙には反粒子がないの。
そりゃそうよね。
粒子は生きていて、その反対なんだから、反粒子は死を選ぶのが当たり前なのよ。

でもね、反粒子って実は、粒子と正反対ってだけじゃなくて、他にも色々違ってるの。
パッと見は確かにひたすら反対で、大体の反粒子はそれに疑問をもたないで素直に消えるんだけど、そうじゃない反粒子もいるのよ。
自分が粒子なのか、反粒子なのか、分かるまでちょっと時間のかかる物質は「反対になる相手を探している状態の、暫定・粒子」で存在してるの。
これ、地球ではまだ解明されてないやつよね。

「反対」って一対一だけど、「反対になる可能性」って一つだけじゃないでしょう?
犬の反対は猫だけ?
ご飯の反対は本当にパン?
鳥やネズミや、麺やオートミールはどうかしら?
そして、猫もパンも消えてないでしょう?
たくさんのものと共鳴しながら、自分のことを確認している最中なの、皆。

それで地球と火星も、自分の反粒子は何なのかを探しながら、ずっと自分が粒子だと思っていたわけ。

でね、反粒子って、ただ消えるんじゃなくて、粒子にエネルギーを与えるの。
だから粒子になれるのは、より強くエネルギーを必要とした方なのよ。

ボロボロの火星は、どうしても地球が欲しかった。

地球は、火星の反粒子になることが、45億年かかってやっと今、決まったの。

欲しい欲しいって全力で強く願って、火星はようやく地球という反粒子を見つけたのよ。

それはね、仕方のないことだと思うわ。
宇宙って全部そうやって成り立ってきたんだから、地球や火星だけ特別扱いするわけにはいかないもの。

だけど、私は、支配するなんて嫌だった。
誰かを攻撃するなんて嫌だった。
それなら、支配されて攻撃される方が、私はよっぽど気が楽だったわ。

だから私、地球に来たの。
火星をこっそり離れて、真夜中に。
地球と火星が一番近付く、あのタイミングを狙ってね。
宇宙空間をちょっと漂うくらいなら、アメーバの殻は問題ないの。
地球に着いたら原子の構成を、人間に変えちゃえばよかったし。
アメーバだもの、原子を調整するなんて簡単よ。
少なくとも外見はね。

アメーバは1人だけ別行動するなんて思ってもないから、誰も気付かなかった。
いえ、もしかしたら、そういうやつがいるかもって予測はされてたかもしれないわね。
でも、それが私だとは分からなかったのよ。
だってアメーバは皆同じなんだから。
雨は地面を濡らすけど、どの雨粒が最初に地上に届くかなんて分からないでしょ?

地球のどこに行くかは迷ったんだけどね、あれ面白いわね。
地面を国という単位に分けて、更に国ごとに目印の旗があるなんて、私、考えもしなかった。
地球独自の文化よね。

あ、インドとスリランカはやめとこうって決めてたわね。
ちょっと前に、流れ星の衝撃で火星から剥がれちゃったアメーバが、その辺りに落っこちたことがあったのよ。
その時は雨になって降り注いだんだけど、他のアメーバが行ったことがあるところって、なーんか、ねえ。

それで日本の旗がね、真っ白の中にまぁるい赤が浮かんでいたから、それでここにしようって決めたの。
死んでしまいそうな赤を包んでくれる白が、ここにはあるのかなって思って。

本当はね、人間になるのは少し不安だったの。
火星から見てるだけだと、大局は分かってもディテールは不明でしょ。
無機物になって地球に来るっていう手もあったけど、でもそれじゃつまんないじゃない?
心配はあるけどせっかくなんだし、ミクロな場所から人間を体験してみたいって思ったの。

正解だったわ。
あなたたちに会えたんだもの。

あなたたちのことを知ってから地球に来たんじゃなくて、地球に来てからあなたたちと出会ったの。
その順番だったから、私はあなたたちのことをこんなに、好きになったのよ。

あなたたちはとても健全だわ。
自分の両腕の範囲で精一杯、目の前にあるものを見つめようとして。
笑っていようと一生懸命で。
私もそうなりたかったの、憧れてたの。
誰かと思い合うってことに。

地球の空って青いでしょ。
でも火星の空はずっと赤いの。
だから夕暮れも逆なのよ。
火星の夕暮れは、地平線がゆっくり青く滲んでいくの。
あなたたちが知ったら、驚くでしょうね。
私、地球で見てみたかったの。
火星とは違う、青い空と赤い夕暮れを。
あの部屋から見た夕暮れは、信じられないくらい美しかったわ。

だけど、怖いの。

あの赤い星の赤い空が、どうしても頭から離れないの。
見渡す限りの赤い大地が、私を連れ戻そうとしている気がするの。
怖いけど懐かしくて、見たいけど見たくなくて、私は火星とどう接するのが正しいのか、どんどん分からなくなっていくの。

火星にいても偽物、地球にいても偽物、どこにいても最後までは馴染めなくて、でも一緒にいたくて、一緒に何かをしたかったの。

私はもしかしたら、アメーバからどうにか逃れたほんの欠片の、本当の火星の意識が植え付けられていて、ゆっくりと芽吹いて生まれたのかもしれない。
本当の火星は地球を飲み込みたくなんかなくて、でもそばにいたくて、だから私、こんなに地球に惹かれるのかもしれない。

火星は必死なの、もう生きられない星だから、どうしようもなくて選んだ道なの。
それだって分かってるの。
それは火星の意志なのか、アメーバの意志なのか、火星を丸ごと飲み込んだアメーバは、どこまでが火星でどこまでがアメーバなのか、もう分からないの。

地球と火星が衝突したら、アメーバが地球を飲み込むまでは、たった15秒なの。
何も気付かず、地球も人間も無くなるの。
そしてアメーバになるの。
私と、私達と、同じ。

もう一度アメーバに飲み込まれたら、それは生まれ直すということだから、私が私でいられる保証がないの。
いいえ、ほとんど確実に、私はいなくなるの。
いいえ、全部が私になるの。
でもまた別の私が、どこかで生まれるかもしれないの。
それは確率で、完全には分からないの。

分からないっていうことが、こんなに心をかき乱すなんて、知らなかった。
私が私じゃなくなるなんて、何ともないと思ってたのに。

火星は無力だわ。
海は消滅したの。
だから私の名前は、まりん。
火星が欲しがる地球と同じ名前なの。

だから私、最後の瞬間は、あなたたちとは一緒にいられないわ。
火星に飲み込まれてアメーバになっていくあなたたちを、別々の顔をして笑ったり呆れたりするあなたたちがいなくなってしまう瞬間を、見たくないの。

何故救えないの、救うってなんなの、あなたたちを、地球を、火星を、何もできないのに、どうして生まれてきてしまったの、何もできないのに。
生まれてきたのは何故なの。
何か意味があるの。
この宇宙にとって、あなたたちにとって、あなたにとって、何か意味があるの、私が生まれてきたことは。
何故なの。意味があるの。何故なの。何故なの。


−−−−まりん、何言ってるの、聞こえないよ
風が強すぎて
雪が邪魔して
空が重すぎて
聞こえないよ、まりん−−−−


東京に戻ってからも、これまでと同じように過ごしていたつもりだけれど、まりんは時々どこかおかしかった。
妙に落ち着きがなく、ボーッとしているというか、切なそうな目で私たちを見て、ちょっと困ったような顔をする瞬間がある。
どうしていいのか分からなくて、私たちは気付かないふりを続けた。

まりん、もうすぐ春だよ
桜が咲いたら、行こうよ、お花見
デパ地下でさ、色々買ってこうよ
ね、まりん

そうね、きっとね

そう言ってまりんは、寂しそうに笑うだけだった。

4月、新学期が始まって、大学は一年で一番慌ただしくなる。
私たちは三年生になった。
サークルの勧誘、新入生のスーツ、新しいものが生まれるのと同時に、桜の花はあっけなく散り散りになってゆく。
まだ咲いていて、と、どんなに願っても。

その日もいつも通りの一日になるはずだった。

お昼過ぎ、どの授業をとろうか相談するためにカフェテリアに集まっていると、最接近するはずの火星が公転の軌道を大きく外れて異様なスピードで地球に向かってきている、このままでは衝突する、というニュースが流れた。

あの日、リカコの部屋のテレビで見た、あの火星のことだ。

え、何それ、と学生達がどよめいたのも束の間、カフェテリアの大きなテレビ画面はすぐに砂嵐になり、やがて何も映らなくなった。

その後、しばらくはインターネットやラジオから、火星が地球に衝突して粉々に砕け散る、という情報がひっきりなしに流れていた。
でもそれもほんの数十分のことで、まずインターネットが使えなくなり、そのうち電話もGPSも通じなくなった。

電気と電波が止まった。
風はどこからも吹かず、空には雲一つなかった。
ガスは出ているのに火は着かず、水道をひねっても水は出ない。
車も電車も動かなくなった。
すべての音がどこかへ消えていった。
災害、というにはあまりに静かすぎた。
それまで身の回りにあって、生活を形作っていた物は一つ残らず、突然シャットダウンしてしまった。
何もかもが自分の役割を放棄した中で、人間だけが戸惑いながらも動いていた。

避難勧告が出て、学内にいる学生は全員、多目的ホールに集まるようにとのことだった。
それも、本当にそうだったのか、今となっては分からない。
放送設備も使えないので、多目的ホールへ集まれ!と叫んでいる人があちこちにいるから行ってみた、という程度に過ぎなかった。

多目的ホールは地下なので、それ大丈夫なの?電気も点かないのに?という囁きもあちこちから聞こえたが、地震でも富士山の噴火でもないこの災害にどう対応すべきかなんて、教授や学長だって分かるはずもない。
とりあえず、学内の全員が集まれるほど大きい場所は多目的ホールしかなかった。
冷静に考えれば、地球が木っ端微塵になるという時に一塊に集まっても特に意味がないのだが、その時はこうする他ないと思っていた。

倍々ゲームで集まる人数、見知った顔も見慣れない顔も、老若男女いる中で、私たちは当然のようにすぐそばで固まっていた。
世界が壊れてしまうというなら、ずっと一緒にいるつもりだった。
なのに。
時計も動かないのではっきりとは分からないが、多目的ホールに入って4時間ほどたった頃、まりんだけがいつの間にかいなくなっていたのに最初に気付いたのは、誰だっただろうか。

ねえ、まりんどこ行ったの
知らない、分かんない
やだよ、まりんだけいないの
私だってやだよ
私も
美弥もやだ
しょうがねえなーあいつ
カフェテリアに戻ったのかな
学校から出ちゃったとか?
ねえ…もしかして、海浜公園じゃない?
あの、海から飛行機見えるとこ?
まりん海嫌いじゃん!
いや、あり得るな、そういうとこあるだろあいつ
分かる、飛行機見てみたいって言ってたもんね
飛ばないよ!こんな時に!
でも滑走路に止まってるのが見えるんだよ、あそこ
行ったことある?海浜公園
1回だけ
こっからどんくらいかかる?
歩いたら2時間かかるよぉっ
よし、チャリぱくろう
そしたら1時間しないくらい?
いいの〜それ〜?
まりんがいないんだよ、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?!
道分かる?
大体分かる!
急ごう

これから何がどうなるのかまだよく分かっていない、という雑然とした人波を掻いくぐり、私たちはなんとか外に出た。
鍵をかけていない自転車は、幸い自転車置き場からすぐに見つかった。
名前も知らない持ち主に、ちょっと借ります、と心の中で謝ってからハンドルを握る。
ひらりとサドルにまたがったら、もう、一秒だって惜しかった。

早く、早く。
もっとペダルを。
鼓動が人生最大級に早い。
空気は、ざわついてるなんてもんじゃない。
ドラッグストアの看板も、ガードレールも、道路に放り出されたタンクローリーも、すべてが一瞬で二倍に膨らんで、次の瞬間には元通りになっているような、知っているのに一度も見たことのないものに、世界が加速度的に変わっていく。
目の前のすべての風景がガサガサと音を立てて、どんどん雑になるのが分かる。
今大切なのは、まりんだけだ。

ね、どの辺まで来てる?
方向は合ってると思う、さっきモノレールの線路見えたし
痛っ
どしたの、美弥?
手ぇ切っちゃった…
あちゃ、この電柱の金具か
けっこー深いよ!血ィ出てる!
誰かバンソーコー持ってない?
いい、大丈夫、それよりまりん探しに行こ
そうだな
後でちゃんと消毒しよ
生き残ったらね…
笑えねー!
いや、笑ってんな!美弥!
リカコもだよ〜!
萌だって!

海が見える公園まで、あと少し。
飛んでいないはずの飛行機が、滑走路への道を教えてくれている気がする。
吹いていないはずの海風が、背中をグッと押してくれている気がする。

すべてが幻のように気のせいで、全部思い込みかもしれなくて、でも、あの日もあの時も、まりんが一緒にいたことは嘘じゃない。

これまでもこの先も、もう二度とこんな日は来ない。
二度と来ない今日を、全力で笑っていた。

そして私たちは、約束もしていなかった海岸に着く。

ねぇ!海なにこれ!ぜんっぜん波ないじゃん!
こんなん見たことないよ!こわー!
まりんこんなとこにいるの?!
分からん!
ねー!何でこんなことしてんのうちら!死ぬかもしんないのに!
アハハ、も〜なんか面白くなってきた〜!
怖すぎて怖くなーい!
まりーん、どこだー!

これが地球の海、初めて見たわ。
共鳴していたはずなのに、火星の海とは違うのね。
この海は、何を考えてるのか全然分からない。
昔のことだから、火星の海のことは忘れちゃった?
今、嬉しい?悲しい?それとも寂しい?
もっと早く来ればよかったかしら。
あんなこと言ってごめんなさいね。
私が怖がってただけなの。
もうすぐ全部いなくなるから、ちょっとだけここにいさせてね。

ああ、飛行機。
乗ってみたかったな。
大気圏を突き破って地球に来た時の、あのドキドキするような光景を、もう一度見たかった。
いいえ、でも、いいの。
これだけ地球で過ごせて、充分幸せだったわ。
ああ、もうすぐ日が暮れる…

でも、なにかしら、何も問題はないはずなのに…
あの子たちに気付かれないように、うまく抜け出してきたはずなのに…
髪の毛の一本だけが、どこかで引っかかってほつれているような…

遠くから微かに赤い匂いがする、これは…血?
誰の?
いいえ、この匂いは…私の知っているあの子の…

海と溶け合い境界線の消えた雲のない空。

立入禁止のチェーンの向こう、突き出たテトラポッドの上で、夕陽を浴びて振り返る、白いシャツ。

まりんが私たちに気付いたのと、
私たちがまりんに気付いたのと、
それはきっと天文学的なレベルで同時で、コンマ0.01秒だってずれていなかったはずだ。

赤い血と、白いシャツ。

あなたたち…何して…

いた!あそこ!
オイッ、何やってんだ!
やだぁ、危ないよ!そんなとこ立ってちゃ!
早く!こっち!
まりん!
まりん!
まりん!
まりん!

名前を呼んでくれるの、あなたたち。
まりんという、私の名前を。
あと15秒で消える、本物になりたかった偽物の名前を。

量子は誰かに観測されて、初めてどの道を進むのか決めるんですって。
あなたたちが名前を呼んでくれたから、私は最後までまりんになれた。
ありがとう、そばにいてくれて。


この日、夕陽は、太陽じゃなくて火星。

空と海を染める赤に乗って、粒と波が、同時に押し寄せてくる。


飲み込まれた、私はもう
まりんだったのか
美弥だったのか
萌だったのか
リカコだったのか
それとも、それとももう一人別の…誰か…
ああもう、思い出せない、思い出す必要がない、だってもう皆同じだもの、
いつまでも眠っていられるわ、春はもう来ない、
優しい繭に包まれて、これからはもう、ずっと一緒だね


耐えきれないからこその優しさって
あるのかもね
あったのかもね
私たち皆、あなたが好きだよ
バラードじゃなくてもいいから
いつか聞かせて
声を














※このお話は、エレクトロニックバンド・アムリタスのメンバービジュアルイラストからインスパイアを得て書いたものです。
アムリタスのメンバー様には許可をいただいております(本当にありがとうございます)。
「イラストによる外見のイメージ」のみをお借りしており、メンバー様の性格・思考などをなぞらえたものではありません。

アムリタスTwitter→https://twitter.com/amritas_jp?lang=ja
公式HP→https://amritas.jp/
















ヘッダー写真撮影地:東京・大田区

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