北川 俊 / shun kitagawa

MEME Editor

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最近の記事

エッセイコンペに出し損ねた文章

#あの選択をしたから 留学で得たもの: ・英語 ・おもちゃ ・夢を語り合える国を越えた友人 ・一度に家族、パートナー、お金を失って養った精神 ・新興宗教やってるやつの見分け方 留学で失ったもの: ・お金 ・自分を棚に上げて子ども扱いしてくるヲタク ・トランクの中におもちゃスペースを確保するための衣服 (2018年12月10日投稿 自身のInstagram ストーリーズより) なにかを得れば、なにかを失う。 「お前はどちらを選ぶのか」 全ての出来事が、示し合わせたかのよ

    • 『色彩休暇』 最終話 モノクロの輪郭

      切間ひとつない曇天の県道。 新菜の母が運転するセリカの助手席で絵を描いている新菜。 新菜が母の顔を覗くと同時に色彩休暇が起こり、 その瞬間運転席側に車が追突。 エアバッグが作動し、新菜の絵が外に放り出される。 新菜の視界が暗闇に包まれる。 辺り一面モノクロの世界、一本の道路の上で寝そべる新菜の母。 その背後では、大きな炎を上げて軽トラックが炎上している。 逆さに転がったセリカの助手席に、 シートベルトひとつで宙吊りにされている新菜を発見する立花。 立花は新菜を固定していたシ

      • 『色彩休暇』 #8 群青のカラートップ

        「一度も使ったことなかったですけど、無くなったら無くなったでなんかちょっと寂しいかもですね」 学校教育での水泳の授業が正式に廃止になって以降、 4年間の放置を経てようやくプールの取り壊しの話が持ち上がった。 使用されることのなかったプールの底には、 地球の表面にコンクリートの突起を積み上げる人間のごとく、 我が物顔でひたすらに生しまくった苔が広がっている。 「まあいいんじゃない?あっても臭いだけだし」 プール一面に広がった緑の隙間を縫うように覗いた群青色の表面が、 夕日を反

        • 『色彩休暇』 #7 白銀の瞳孔

          財布も定期券も持っていなかったのに、 どうやって家に帰ったかすら覚えていない。 自分が帰宅したことをやっと自覚したのは、シャワーの水に流される、 わずかな血が脚を伝っていくのを眺めている時だった。 私は濡れた髪のまま、眼帯を薬局のビニール袋から取り出す。 実原先輩との再会と別れ、あの空間で起こった全てが現実であることは、 玄関を開けるまでずっと握りしめていた このフィルムロールが証明している。 ガコン。 一瞬にして私は、足元も見えぬほどの暗闇に包まれた。 部屋を唯一照らしてい

        エッセイコンペに出し損ねた文章

          『色彩休暇』 #6 漆黒のバブル

          私と新菜は駐車場に車を止め、 ただ黙々と静寂が馴染みきった住宅街を進む。 住みやすそうな場所だね、家までは歩いてどのくらいなの、など、 この沈黙を埋める他愛もない話題を振ることはできたはずだ。 しかし彼女の綺麗に伸び切った背中は、 そんな沈黙など微塵も気にも留めていないように見えた。 中野駅から程近い住宅街に位置する3階建てのマンション。 キッチンが備え付けられた廊下を抜けた先にある6畳ほどの洋室。 よくあるタイプの間取りだが、そこには所狭しと様々な年代の機械部品などの”ジャ

          『色彩休暇』 #6 漆黒のバブル

          『色彩休暇』 #5 青緑のミニディスク

          小雨が降る中、 立花と新菜を乗せたホワイトのセリカ GT-FOURは山手通りを走る。 ごっそりと剥がれ落ちた「CELICA GT-FOUR」のデカール、 ハンドルは錆び、フロントシートには一部穴が開いているが、 こんな”アンティーク”が今もなんとか走行が可能であることから、 新菜のこの車への愛着が感じられる。 他人の車であることに加え、 自動車教習所でしか扱った事のないマニュアル車の圧力が、 立花の肩を硬直させる。 MDプレイヤーに接続されたスピーカーからは、 微かなノイズ混

          『色彩休暇』 #5 青緑のミニディスク

          『色彩休暇』 #4 RE-COLORED

          AIに人間が仕事を奪われるかもしれないという恐怖は、 もう何十年も前からフィクションによって散々と描かれてきた。 自分の仕事が取って代わられ得るものなのか、十分に考える時間はあったはずだ。しかし、ここ近年の技術革新と大衆化のスピードに追いつけない隣のデスクに座る上司という立場のこの男性は、ソーシャルメディアからコピペして繋ぎ合わせたかのような文章で、私に”説明”を垂れる。 人類は”分からない”に対して過剰に攻撃的になることは、歴史を振り返れば分かることだが、それをまざまざと実

          『色彩休暇』 #4 RE-COLORED

          『色彩休暇』 #3 警告色の節足動物

          立花が勤務する大手ゲーム会社「株式会社ビヨンド」。 その最上階に位置する第一開発室の中央には、内側に湾曲した8本の柱が円形に設置された装置が設置されている。 隣接した小柄な操作パネルの電源を入れ、それを起動する実原。 ネックレスを外し、パネルの中央から伸びる台座上で浮遊する。 「実原くん珍しいですね、残業ですか」 語尾が少し擦れる、低めのその声にハッとして振り向く実原。 ダークネイビーのセットアップスーツに身を包んだ男が、革靴と床との接触音をわざとらしく響かせ、近づく。 「少

          『色彩休暇』 #3 警告色の節足動物

          『色彩休暇』 #2 橙色の瞳孔

          朝起きたらまずカーテンを開けて日光を浴びましょう、なんて地上波の健康番組を流していたらよく聞くが、大通りに面したアパート2階に住んでいる私がそんなことをすれば、間抜けな寝ぼけ面を近隣住民に晒すことになってしまう。節約術やら下町紹介やら、一見庶民に受け入れられ易いように構成されたテレビ番組から流れる情報には、時折自分がそれを享受できる環境からすらも溢れていることを実感させられる。 そんな皮肉をつらつらを頭の中で考えながら朝食を食べてもシリアルの味は変わらないのだが、それでも付け

          『色彩休暇』 #2 橙色の瞳孔

          『色彩休暇』 #1 桃色のフィクション

          「君のその想像力は、いつかきっと命取りになる」 8ビットの電子音、ステンレス硬貨の摩擦音、隣のおやじの咀嚼音。 それらの騒音をいともたやすく潜り抜けて私の頭に響き続ける、 言葉の形をしたこれまた騒音。 西新宿にビルを構える本社に異動になって約半年、 退勤後に巣鴨駅の側に位置するアーケードゲーム専門ゲームセンターの地下一階でお金を溶かし、技術を得る。このなんとも単純なリスクとリターンに浸ることが、もはや私の日課となっていた。 「当然のことだよ。目の前の不条理にNOと言わないこと

          『色彩休暇』 #1 桃色のフィクション

          『架空』 あらすじ #ジャンププラス原作大賞 #連載部門

          幼少期に父親の暴力によって、見えない"糸"で空を架ける能力「架空」を発症した映画ヲタクの女子高校生シノアミ。 ある日街中でナンパ男に手を掴まれたことをきっかけに、その能力が暴走してしまう。彼女の能力とその過去について知る幼馴染のタキヤは、とある提案を持ちかける。それは、この世界のすべての害悪な男性達の"社会的去勢"だった。 #ジャンププラス原作大賞 #連載部門

          『架空』 あらすじ #ジャンププラス原作大賞 #連載部門

          『架空』〈第3話〉架空-Fictionalized Monorail-

          東京には、映画を観る以外に用はない。 ましてはわざわざ休日に人混みを浴びることは、 シノにとって生活の質を著しく低下させることだと確信している。 17:45開始という中途半端な上映スケジュールに微々たる苛立ちを覚えながらも、新宿のむさ苦しさはそれを表情筋の裏に隠すことを許さない。 自然と眉間に皺が寄り、早足になる。 「東京は空気が汚いから鼻毛が伸びる」 なんてタキヤの冗談を不意に思い出した。 目先の信号が点滅する。 「すみません、この辺でペンギン見ませんでしたか?」 白T

          『架空』〈第3話〉架空-Fictionalized Monorail-

          『架空』<第2話>内心-Inside Gossip-

          校庭に無造作に生えた雑草は、まるで地球で際限なく繁殖する我々人間のようだ。黙々とそれらをむしり取る清掃服に身を包んだ彼女らは、人間を粛清するウィルスに似ている。 「お前ら"内進"は勉強ばっかしてるから体力が足りねんだよなあ。 男子はもっと目も当てられないんだけどさ」 仁王立ちしたこの長身の中年男性は、温暖化真っ最中であることをアピールするかのようなこの炎天下でも、少しでも目の前のショートパンツ姿の女子高生達を眺めていたいかのように、こう吐き捨てていつも授業を終える。 「い

          『架空』<第2話>内心-Inside Gossip-

          『架空』<第1話>虚勢-Cut A Bluff- 

          「あ、すいません。3つ目の交差点を過ぎてすぐのビルでお願いします」 「かしこまりました」 「それで、なんだっけ。セクハラ上司の話だっけ?」 「いやいや!そこまでは...私がコミュニケーション不足だったってだけの話です。入社半年でそんなこと言えないですよ」 「キャリアなんて関係ないでしょ。環境は改善していかないと。なんでも自分のせいにするのは良くないと思うよ」 タクシーで運ばれる女性、ため息をつきながら窓から外を眺める。 「ああいう小さなビルの看板でも色々な人が関わってるって

          『架空』<第1話>虚勢-Cut A Bluff- 

          偏愛シネマアワード 2022                 

          ようこそ『偏愛シネマアワード』へ。                  受賞作は私個人の"偏愛"によって選出されます。 シネフィルでもなく、現場に関わってるわけでもない。 ただ推し俳優を眺め、推しクリエイターの思想を覗きたいがための動機で 映画を観賞しているのかもしれないという、 このグラグラな自分のスタンスを見つめ直す機会でもあり、 あくまで同じ偏愛を持った人と繋がりたいという目的で開催していました。 しかし今年からは、カルチャー摂取は、先人たちの”文化的遺伝子”を 自分

          偏愛シネマアワード 2022                 

          偏愛シネマアワード2021

          ようこそ『偏愛シネマアワード』へ。                 このアワードは、私がその年に観賞した映画の中からベストテン形式で映画作品を紹介する年末の独りよがり祭典です。 タイトルにもある通り、受賞作は私個人の"偏愛"によって選出されます。シネフィルでもなく、現場に関わってるわけでもない。ただ推し俳優を眺め、推しクリエイターの思想を覗きたいがための動機で映画を観賞しているのかもしれないという、このグラグラな自分のスタンスを見つめ直す機会でもあり、同じ偏愛を持った人と繋

          偏愛シネマアワード2021