『色彩休暇』 #5 青緑のミニディスク

小雨が降る中、
立花と新菜を乗せたホワイトのセリカ GT-FOURは山手通りを走る。
ごっそりと剥がれ落ちた「CELICA GT-FOUR」のデカール、
ハンドルは錆び、フロントシートには一部穴が開いているが、
こんな”アンティーク”が今もなんとか走行が可能であることから、
新菜のこの車への愛着が感じられる。
他人の車であることに加え、
自動車教習所でしか扱った事のないマニュアル車の圧力が、
立花の肩を硬直させる。
MDプレイヤーに接続されたスピーカーからは、
微かなノイズ混じりでE.L.Oの「Ma ma ma Belle」が流れる。
新菜は曲に合わせて鼻歌を歌いながら、負傷した掌に包帯を巻く。
新菜をチラ見する立花。
「心配いらん、帰ったら治るて」
怪訝そうな表情の立花。
曲が流れ終わり、
ノイズ音ののち女性と少女の会話らしき音声が流れてくる。
新菜、MDを抜き取る。
「雨降ってるとなんか腹減ってこうへん?なに食べる?」
「えーーー、なにがいい?」
包帯を巻き終え、頭で腕を組んで振り向く新菜。
ちゃんぽんの店が見えてくる。
「ちゃんぽんとか?」
「ちゃうな〜」
「イタリアン?」
「もう過ぎた」
「じゃあ焼肉!」
「あ、そこ左曲がってくれん?うまい町中華あんねん」

酢豚を食べる新菜をじっと睨む立花。
「うんまっ。やっぱお姐の酢豚が一番やわ。特にこのパイナップル」
「ん?あんたも冷めんうちにはよ」
「あんたじゃない。立花」
「すまんすまん。立花ちゃんもはよお食べ~」
ん、と立花はむっとした顔で、
新菜が首にかけているコインが何枚もついたネックレスを指さす。
ほれこれ、と言ってスケッチが描かれた一枚の絵を差し出す新菜。
A4サイズの紙の中央には、鉛筆でレンチを持った人影が描かれている。
「いつ描いたの、こんなの」
「先月」
「いやでもこれ......」
「未来見えんねんうち、すごない?でもそれがいつ起こるか分からんから、こうやって絵に描いて残しとる。それがなんの未来かって事なんやけど、ひとつだけ共通点があってな。必ずDAが映ってんねん」
「へぇ〜。なんだっけそれ」
「データムエーペックスや。ほら、立花んとこの会社で出してるビヨンドグラスってあるやろ?あれは内蔵したこのコインで他人の感情を吸収して、カラーディメンションと接続することで動いとる。ただな、コインを抜き取るとエネルギーのパワーバランスが取れんくなって、それぞれの次元を繋ぐ弁が大きく開いてまう。したら大量のエネルギーが脳に注がれるらしいんや。それでコロルフォビアになった人間はDAになって、周囲の色を吸収し尽くすまで暴れ回る」
「はあ......じゃあ実原先輩もそのデータムなんとかってやつに…」
「まだ分からんけど、その先輩のネックレスが落ちてたってことは、何かしら関わってるんやろな。そもそもこれをネックレスにしてたって時点で」
「いや、先輩はさっきのやつとは関係ないから。絶対」
「そんなん分からへんやろ。でもさっきのあいつはうちが追っかけてきた黒幕張本人や。あいつは無差別にユーザーのコインを奪って、わざとDAに変えとんねん」
「でもなんでわざわざ向こうから」
「まあ、その先輩が持ってたっていうこのコインが、それだけ特別っちゅうことやろな」
「でも新菜はちゃんと触れるし、そんなにいっぱい持ってるんだったらあいつを止められるんじゃないの?」
「うちもこのグローブがないと触るのは無理やて。いつかおかんに繋がる手掛かりになるかもしれへんから持ってるだけやし。そもそも所詮、うちはこの世界のバグやから」
わざとらしく首をかしげる立花。
新菜、立花の目を直視しながら彼女の油淋鶏を一切れ頂戴する。
「あ......」
「ところで。あの時なんでコインの場所分かってん」
「あそこだけただ、光ってたから」
両肩を上げ、納得のいかない様子の新菜。
新菜の酢豚のパイナップルをつまむ立花。

#創作大賞2023 #ファンタジー小説部門

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