『色彩休暇』 #1 桃色のフィクション
「君のその想像力は、いつかきっと命取りになる」
8ビットの電子音、ステンレス硬貨の摩擦音、隣のおやじの咀嚼音。
それらの騒音をいともたやすく潜り抜けて私の頭に響き続ける、
言葉の形をしたこれまた騒音。
西新宿にビルを構える本社に異動になって約半年、
退勤後に巣鴨駅の側に位置するアーケードゲーム専門ゲームセンターの地下一階でお金を溶かし、技術を得る。このなんとも単純なリスクとリターンに浸ることが、もはや私の日課となっていた。
「当然のことだよ。目の前の不条理にNOと言わないことは、それを認めることになるからね」
そんなこと物心ついた時から知っていたし、見ていたのに、
いざ抗ってみた結果が、このありさま。
この世界で最も発言権を持つ生き物、中年男性による無知の所業としか形容のできない明らかなる罪は、彼らの持ち前の声と掌の大きさで無に帰すことを、本日何枚目になるか分からない100円玉を機械に食わせながら今更ながら実感していた。筐体の上でコンビニの蕎麦を平らげた隣のおやじが、先ほどまで持っていた箸を煙草に持ち替えたところで、私は席を立った。
リズムゲーム、シューティングゲーム、シミュレーションゲーム、
そしてこの対戦型格闘ゲーム。子供の頃の私はどれにも興味が無かった。
と言うより、接点が無かった。大学生の頃に、アニメのフィギュア目的で一時期UFOキャッチャーにハマり倒した過去はあるが、大学を卒業するまで実家暮らしだった私は、家庭用ゲーム機が家にある環境で、1PLAYごとに課金が必要なアーケードゲームに魅力を感じていなかった。
筐体の上に置いた数枚の100円玉を小銭入れに滑り落とすと、タイトル画面を表示していた画面がモノクロに切り替わった。その瞬間、画面内を桃色の細長い物体がクネクネと横切った。
その進行方向へと顔を向けると、一列に陳列された筐体が、まるで連動されているかのように順にモノクロに点灯し、桃色の物体の進行をアシストした。
現象の奇妙さよりも僅かに好奇心が勝ったおかげで、私は無意識にそれを追いかけた。
気づくとそこは完全なるバックヤードで、奥に一台ぽつんと置かれた筐体が目に入った。
桃色の物体は、逃げ込むようにその画面に逃げ込んだ。そこには学校のプールと2人の人物のシルエットがドットで表示されており、
画面に手を伸ばすと、静電気がパチパチと手のひらを伝った。
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