【リカレント教育】第2報 企業研究員のキャリア選択『社会人ドクター』

前編では、社会人博士課程に進学することを決意するに至るまでを紹介した。
【リカレント教育】第1報 企業研究員のキャリア選択『社会人ドクター』

本編では、理系の社会人博士課程とはどんなものなのか、というところから始まり、大学・研究室の選定までに私が辿った道のりを紹介する。


理系の社会人博士課程を知る


課程博士か、論文博士か

博士課程には、厳密には“課程博士”と”論文博士”がある。

課程博士:
博士前期課程を修了し、後期課程に進学する学生と同じ

論文博士:
大学の研究室に籍を置いて、外部で研究や論文執筆する
※私の主観

大学や研究室によっては、一方しか設定されていない場合があり、また、それぞれで修了要件が異なる場合がある。

例として、私が進学した大学の修了要件を記すが、これに限らない。

  • 講義単位取得

  • 投稿論文数ノルマ達成

  • 博士論文提出

  • 博士論文公聴会で発表と質疑応答(1時間程)


上記を満たし、公聴会後に教授陣による審議で必要要件を達成すれば、博士号を授与される。

なお、周囲の社会人博士課程チャレンジャーらの話によると、論文博士の場合は、上記の一部が不要であったり、別のものに代替したり、入学前の投稿済論文もノルマにカウントされたりと、これも大学によって様々なようだ。


仕事と学業の両立はどうするか

当時の私には、退職して学業に専念するという考えは無かった。

実はこの時、私は結婚を控えており、将来、子どもを持ちたいと思っていた。

そのため、収入が途絶える不安と、卒業後の年齢(次のキャリアへ進んだ場合、諸々落ち着いた頃には高齢出産が確実)を加味すると、近い将来、メリットにより得られる幸福感が薄れ、デメリットにより生成される後悔を許容できなくなると判断したからだ。

その結果、メリットもデメリットも許容できる範囲に収めるため、仕事と学業を両立することを選択した。

そこで、研究内容と時間について、複数パターンを想定し、予め上司と合意を取った。

研究内容は、業務に関わる内容(業務中に得た実験データを使って論文を執筆する)か、所属研究室のテーマか、の2パターンが考えられる。

身体の負担が少ないのは前者だが、知的財産の流出にならないように進めるため、特許による包囲網の外で、相当限られた範囲の内容しか開示できない事態が予想される。

その場合、博士論文審査で厳しい状況に追い込まれるだろう。

また、研究内容に関与する事柄が製品の一部として世の中に出る可能性もあるので、道半ばで会社側から論文発表を控えるように指示されることも、しばじばある。

この場合、投稿論文数ノルマの達成が確実に遠のく。

私は、身体の負担を少なくするため、業務に関わる内容で研究内容を設定し、予め想定できるリスクにはリカバリー策を用意した。

研究に充てる時間は、特に、会社や上司とよく話し合っておく必要がある。

業務に関わる内容の場合、休日や長期休暇を充てると休日出勤扱いになったり、残業時間を充ててやたら残業していると労基法の限度時間に足を踏み入れてしまうどころか、心身を壊しかねない。

所属研究室のテーマの場合、休日や長期休暇にプラスして年次休暇を使って、数日〜数週間、まとまった時間を大学で過ごすこともあるだろうから、会社の休暇制度を確認し、業務の調整は綿密に計画しなければならない。

私は、研究内容が業務に関わるものであったため、業務の一環として人事考課項目に含めてもらい、通常業務に支障をきたさない範囲で、業務時間内に研究活動をしてもよい、ということで合意を得た。

また、土日や長期休暇は補助的な位置付けにすることで、心身の負担を軽減できたと思う。

自分がどのスタイルでいきたいか、どのスタイルならできそうか(会社もOKしてくれるか)、事前に会社側や上司とはっきり決めておいて、それに合う大学や研究室を探すことが重要である。


修了までの年数を許容できるか

通常、修了までに3年間を要する博士課程(博士後期課程)であるが、社会人で挑む場合、特に、仕事を続けながらの場合には、そこに費やす時間と労力を別途確保する必要があるため、修了年限ギリギリの5年間を要すると覚悟しておいた方がよい、と言われる。

どうしても3年間か、スキップしてそれ未満で終えたい場合、かなり緻密に研究内容を計画し、入学前にいくつかの未発表論文を準備しておきたい。

私は、先に述べたように、プライベートの事情でがあり、なんとかして3年間で修了要件を満たしたいと考えていた。

出身大学で恩師の指導を受けられれば、研究内容の予備知識を持ち、大学や教授との匙加減も把握しているので、最短ルートでの卒業を狙う方法としては断然良いだろう。

しかし、出身大学が遠方にあったため、縁もゆかりもない大学を選ぶしかないという、一見不利な状況下にあった。

というのも、この場合、また、修士号を取得した時の専攻と異なる科を専攻した場合、博士課程進学後に追加で講義を受け、単位を取得しなければならないという事態に見舞われることがある。

そこで、出身大学で取得した単位をそのまま、博士課程修了に必要な単位としてカウントしてもらえる大学・専攻科を選択した。

さらに、投稿論文数ノルマの半分を事前準備して、残りを手元に仕込んだ段階で入学することで、できるだけ早く必要要件を満たせるようにした。

実は、ここで致命的なミスを犯してしまったのだが、それは失敗談で紹介したい。


上司とのネゴシエーションが大事

社会人で仕事以外のものに取り組む場合、どんなことでも同じだが、仕事には責任を持って取り組んだ上でチャレンジする姿勢が好ましい。

しかし、社会人であっても学生証が付与されるので、大学生に変わりない。

平日昼間の講義出席や研究室での活動など、出席しなければ単位取得が認められない場合は会社を休む必要が出てくる。

教授に交渉して会社の休日に調整したり、レポート提出等他の成果物で代用できるのであれば悩みは減るのだが、なかなかそうは言っていられない。

そこで、上司へのネゴシエーションが大事といえるのだ。

会社の制度として、社会人博士課程への進学を推奨していたり、補助金を出したりしていれば理解が得られやすいのかもしれないが、人事評価を下す上司が理解を示さないことには、どんな制度も役に立たない。

むしろ、進学後、会社での立ち回りが非常にやり辛くなる。

私の場合、入学時の上司には大変好意的に捉えられ、種々のサポートをいただくことができたが、その後の上司には全く理解を示してもらえなかっため、業務への責任感が低いと解釈されてマイナス査定を受けた。

これには、周囲の管理職らや博士号取得者らも異論を唱え、説得に尽力いただいたが、覆ることはなかった。

因みに、私と同時期に入学した方は、上司が社会人博士課程を経験しており、業務内容を調整してくれたり、各種データの提供や論文の予備査読をしてくれたりと、比較的手厚いサポートを受けていた。

この経験から、上司が理解を示すか、また、博士課程、もしくは、社会人博士課程を経験したかどうかは重要だと思う。


大学・研究室の選定


ここまでで、当時の私は、以下に示す研究内容と研究スタイルを設定していた。

  • 研究内容は業務に関わるものを選定

  • 実験や論文執筆は基本的には会社で実施

ちょうど担当業務が佳境を迎えており、連日深夜残業という状態にあったため、体力と時間を最小に抑えながら、最大のパフォーマンスを狙った結果だった。

また、定期的に研究室に伺うことを考慮して、平日の勤務後に通うことが可能な範囲で大学・研究室を選定することにした。

その結果、研究内容はピタリと合致しなかったが、上記条件を満たし、許容いただける教授に出会うことができた。

以上

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