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きょうから実践できる「科学的評価」の極意―このマガジンを読むとあなたの「人材観」が変わる!Vol.1(2/2)
3.採用における五つの問題点
さて、採用面接の現場に目を向けると、はたして「ヒト 」を採用するということについて、関係者の方々がどれだけの責任感や問題意識をもっているかということに疑問を感ぜずにはおれません。
長年MSCにおいて、ヒューマンアセスメント(人の能力診断、特に管理職の方々の診断) に携わり、「ヒトの能力を観る」仕事をしてきた者として、企業価値創出の原動力である「ヒト」の採用において、面接官の主観や個別の人材観・価値観が合否判定を左右しているように思えるのです。
私が担当しているクライアントの実例をご紹介しましよう。
数年前に採用プロセス全体を見直すプロジェクトにコンサルタントとして入り、人材像の設計から最後のフィルターである採用面接まで携わったときのことです。
すべての仕組みができあがった最終段階として、実際にその仕組みを運用する面接官の方たちに面接官トレーニングを実施しました。当初は、参加した面接官によって、求める人材像は食い違っていましたし、重要と考える採用要件の優先順位づけも面接官によってずれていました。実際の面接実習では、思いっきの質問や意図・目的か明確でない質問が連発され、面接後の合否決定に至っては、「会社として」ではなく、「自分の部下として誰がよいか」という視点で議論しているありさまです。
しかし、研修を進めるにつれて、面接官のみなさんの顔つきが変わってきました。
「今までの面接で、応募者の何を見ていたのだろう」「面接の仕方で、まで変わるとは思っていなかった。目から、つろことはこのことだ」との意見があちこちから挙がりました。
このほかに、採用について違った角度から見た問題点を提示しておきます。
採用についてご相談を受けたあるクライアント企業では、新卒の採用コストが内定者一人あたり100万円だったとのことです。 いろいろと話をお聞きしてみると、広告、会社説明会などすべてにおいてコンサルタント会社を入れ、採用面接のプロセスも設計されていました。 いかにして優秀な人材を確保しようとしているかがわかります。
しかし、そのクライアントでは、そうやって採用した優秀な学生か1年以内に想像以上に多く退職してしまったのです。
もちろん、採用担当者のショックは相当なものでした。それだけコストをかけたにもかかわらず、新卒社員が辞めてしまった大きな理由は、「思っていた仕事と違う」「入社後のギャップが大きい、ということだったのです。
その企業として「本当に欲しい人材はどんな人材か」「自分たちの企業はどんな特徴があるのか」ということをしっかりと分析できていなかったため、学生とのミスマッチを生んだことが問題だったのです。
採用のコンサルテーションの依頼にいらっしゃった企業の一つから、次のような相談を受けたことがあります。
「採用した学生にはある程度満足しています。しかし、ぜいたくな悩みかもしれませんが、不採用にした学生の中に、私たちの会社にマッチするもっと優秀な人材がいたんではないかと不安に思うんです」
たしかに、ぜいたくな悩みだと思う読者の方もいらっしやるかもしれませんが、先ほどと同様に、求める人材像や評価・判定基準が明確でないことが、この相談からはうかがえます。
よい人材を採用できないと悩んでいらっしゃる経営者や人事担当者のみなさんには、「本当に採れない」とあきらめる前に、「応募者を的確に見極めないまま、採用すべき人材を見落としているのではないか」と、もう一度次のことをよく考えてみてほしいのです。
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「企業にとって本当に必要とする〈人材〉を明確にすることができているか?」ということ。
そして、最後に人材をフィルターにかける「面接」で、「面接官が組織にとって〈求める人材〉を理解し、求める要件を見極めることができているか」ということを。
採用にまつわるさまざまなコンサルテーションと、実際の採用面接の現場に同席した私自身の経験から、採用の問題点を挙げてみました。
①求める人材像を検討するときに、自社の事業戦略と人事戦略、そしてカルチャーなどに合致した内容にまで落とし込まれていない。
②採用面接にかかわる各面接官のあいだで、あるいは面接官と統括部門(人事部門)とのあいだで、求める人材やその人材を必要とする背景なとの共通認識か形成されていない。
③それぞれの能力要件で、応募者のどのような行動特性を確認すへきか、それか十分に認識されないまま面接か進められている
④能力要件の評価・判断の基礎となる情報を、応募者から引きだすための適切な質問ができていない
⑤以上の結果、目的や意図が不明瞭な質問によって貴重な面接時間が費やされ、面接官の個々人の価値観や好き嫌いに基づいて評価・選考か行われている傾向が強い。
以上の5点です。
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「優秀な人材を獲得する」という目的はあっても、 「優秀な人材」という人物像があいまいなまま、母集団形成、絞込み、面接、 そして合否決定が進められているのが現状ではないでしょうか。
また、面接官を務める方たちも、 かなり恣意的に、あるいは個人的経験に基づいて、応募者から情報収集し、 それに基づく判断・評価を行っていることが多いように思われます。
なぜAさんを合格にしてBさんを不合格にしたのか、 その理由をきちんと説明することができないまま、なんとなく面接官同士で合意が形成され、その下で合否決定が行われているわけです。
少し極端ですが、 ありがちな例を挙げれば、「AさんはBさんよりもまじめそうだし、粘りもありそうだから、きっと営業で力を発揮してくれるんではないかと思う」「ええ、私もそのように感じました」というふうに。
あるいは、「Aさんが部屋に入ってきた瞬間から、オーラのようなものを感じましたよね」「それに比べて、 さんには華がなくて地味ですよね」「では、Aさんということにしましよう」というふうに。
このようにして、本来であれば採用すべきでない人たちーーー企業が成長・発展していくうえで 「本当に必要な人材」から離した人たちが、少なからず入社してくる可能性があります。
違う会社に行けば成功したかもしれないのに、自社の事業特性やカルチャーと適合できず、その結果、組織の活力をスポイルし、採用された応募者自身も不幸になっているのではないか、というのが私の提起したい問題なのです。
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4.面接で「ヒト」を見極めるための「科学的評価法」
ここで、あらためて本マガジンの趣意を述べておきます。企業の採用活動や採用面接の場における、先に述べたような現状の問題を抜本的に改め、 一貫性のある体系的なアプローチで、「採用のミスマッチ」を最小化する。そして、企業の将来を担うに足る「人材」を確実に獲得するにはどうしたらいいかーーーーこうした問題意識が起点にあり本マガジンを執筆しました。
とりわけ私は、 MSCにおいて、「ヒト」の能力を診断アセスメント(人材評価)する仕事に携わってきました。人材アセスメントの仕事をしながら、「ヒト」を見る、あるいは評価するということは、とても難しくまた怖いことでもあると痛感しています。
本マガジンでは、面接官と応募者が最も密な接点をもつ採用面接における「科学的評価法」を、その基本からわかりやすく説明するよう努めました。ここでいう「科学的」にヒトを評価するとは、評価対象者から具体的な行動データを収集し、そのサンプル行動を分類・整理して評価するということです。
この手法は、私たちMSCが、大手精密機器メーカーや自動車メーカーをはじめとするクラィアント企業の幹部候補の方たちを対象に、経営幹部としての適性を審査するときなどにも活用されており、私たちMSCのバートナーであるDDI社(※)で開発されたものです。私自身もこのメソッドを活用して、 グローバルに活躍するCEOのインタビューを実施するなど、さまざまなコンサルテーションを行っています。
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5.重要だが基本はシンプル、原理は明解
本マガジンで扱う「科学的評価法」は、面接において応募者の人物像を浮き彫りにする切れ味鋭い「武器」となり、 その方法・ノウハウは、採用面接の場だけでなく、数多くのビジネスの場面で幅広く活用することができます。
たとえば、社内でのハイボテンシャル人材の見極めや部下の評価においても役立っツールとなります。
その考え方のべースとなっている基本コンセプトはとてもシンプルです。ひと言でいうと、「応募者の行動事実にフォーカスする」こと。 これだけです。
詳しくは本マガジンの全般にわたって説明しますが、 この考え方の根底にあるのは、「行動は繰り返される」「行動はごまかせない」ということーーー言い換えれば、「人は同種の行動を繰り返し行う」「考え方いくらでも応募者が脚色できるが、行動事実を何度も脚色することは困難である」という、人間行動学(HumanBehavio)によって実証された事実なのです。
考え方がシンプルで、そのべースとなる原理またきわめて明解。「きょうから実践できると銘打ったのも、決して大仰な形容ではありません。しかもビジネス場面での応用範囲が広いのもその大きな特長です。
ですから、経営者や人事ご担当者のみならず、部下を持った管理職の方、広くはヒトと組織の活性化による会社の繁栄を願う多くの方々、あるいはヒトという不可思議で理解が難しい存在に興味をもっている方にも、ぜひ本マガジンを読んでいただきたいと思います。
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本マガジンを通読し、人物評価(ヒトの能力を見極める)にかかわるシンプルかつ明解な基本原理を理解していただければ、きっと今までの「面接のあり方」や「人材観」が変わるのではないでしようか。「ヒトを評価することは、責任か重くとても奥か深くて難しいことだ。
しかし、ヒトを観るための正しい方法論を身につけると、ヒトを見誤るリスクは最小化できる」というように。
願わくは、他者を評価するときにおいて、相手の短所ばかりでなく長所も同時に見いだしていただきたい。 そしてその両方のバランスの中で、 採用面接であれば今後の育成にも着眼した合否判定をくだしていただきたい。 そのように考えています。
では、 Vol.2において、 一般に行われている採用面接の現状とその問題点をご紹介することから、 本マガジンをはじめたいと思います。
🔵おすすめソリューション
DDI社は、人的資源の活用・育成・。パフォーマンスマネジメント分野における世界最大規模のタレントマネジメント・エキスパート。1970年の設立以来、人材分野の先駆者としてあらゆる業種、業界におけるリーディングカンパニーのエグゼクティプやリーダーの能力開発・採用、昇進昇格に変革をもたらす支援をしている。
3つの専門分野(人材の選抜および評価・リーダーシップ能力開発・後継者管理)において、21カ国語のプログラム、世界26カ国に42拠点を通じてグローバルに事業を展開している。
DDI社の研究開発投資は、業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決している。MSCは、DDI社と1973年に技術・業務提携を結び、DDI社の各種プログラムやサービスの日本への導入を一手に引き受けてきた。
近年、様々な分野においてグローハルな競争が加速する中、グローバル人材の育成に力を入れる企業が増えており、MSCとDDI社は長年のパートナーシップを活かして、グローバル企業のHR部門に対して、両社のコンサルタントが協働し、人材開発のソリューションを提供している。
また、米国のHRDトレンドに応じた各種最先端のDDI社プログラムやテクノロジーを日本企業にも導入し提供している。
【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。
お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。
人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント