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行動科学で考える人材採用~偶然を期待する採用からの脱却―「名人芸」から「科学的」へVol.5(4/4)

9.「ストレス耐性」をどのような方法で探るか

人を内観することにつながる要素、たとえば「ストレス耐性」を面接で見ることを、私はあまり勧めていません。勧めてはいませんが、多くの採用担当者からは、「ストレス耐性」を事前に見極めたいという相談を受けます。

ある大学病院から「どうしてもストレス耐性の有無や強弱を面接で判断したい」という要請を受けて、その方法論を一緒に検討したことがあります。

面接で「ストレス耐性」を見極めるうえでの参考になればと思い、そのときのことを以下にご紹介しましょう。これは、多くの企業からご相談を受けた場合にもお答えしている内容です。

その病院の話によると、国家試験を通って病院に来る最近の若い医師は、医療現場での緊張や患者さんとその家族から厳しい言葉、あるいは経験豊富な医師からのお叱りの言葉や先輩ドクターからの注意など、ちょっとしたことで傷つき、人によって突然病院を休んだり、場合によっては医師を辞めてしまうという事例が年々増えているとのことでした。

一般の企業にも同じような若者が多くなったと聞きますが、いわゆる「打たれ弱い」人たちです。これが医療現場の場合は医療ミスにつながりかねないとして、医師の受け入れ面接の際にそれをチエックしたい、というのが依頼の要旨でした。

一般に、ストレス耐性を面接で判断する際、いわゆる“圧迫面接”を行って、その反応を見るという方法をとっているという話を聞きますが、この方法は、面接官ひいてはその企業に対する応募者の印象を悪くするだけで、正しくストレス耐性を評価することは難しいでしょう。

人によって、ストレスを感じる要因がどこにあるかはまちまちです。にもかかわらず、圧迫面接は、そのときの反応の仕方・出方によって人を内観し、人間のどこにあるのかわからないストレス耐性を摘出しようという手法ですから、面接官が軽々に対処できる方法ではありません。

では、私はどのような提言をしたか。まず「ストレス耐性」という能力要件(コンピテンシー)について定義づけをし、それをもとに医療現場において「ストレス耐性がある・ない」という場合の行動事例を病院関係者の方から教えてもらい、「ストレス耐性」をキーアクション(主要行動)としてまとめました。

それを示しながら、次のように説明しました。

これらのキーアクションを繰り返しとれる人かどうか。それが判断の基準です。ですから、面接ではそこにフォーカスして行動情報を取ってください」

「そのことはよくわかりました。では、そうした情報を引きだすためには、どんな質問をしたらいいんでしょうか?」

「そうですね。たとえば学生時代にとても落ち込んだときの経験をしたことがあるなら、必要な情報が収集できるでしょう。具体的には、自分の強く希望していたことが叶えられなかったとき、学生時代に挫折感を味わった経験、親や先生などから厳しく注意を受けたり、叱られたりしたときの経験など、できるだけ多くの事例から話を引きだしてください。ただし聞きだす情報は、そのときどう感じたかではなく、どのような行動をとったか、どのように対処したか、ということです。この点はくれぐれもご留意してください」

これが私たちの推奨する「コンピテンシー面接」「行動質問」の進め方なのです。

10.コンピテンシー面接の高い信頼性

さて、このVol.5の最後に、さまざまな評価手法の信頼性についてお話ししておきたいと思います。次の表は、評価手法ごとの信頼性を数値であらわしたものです。

この表にあるデータは、「イギリス心理学協会」がまとめたもので、私たちMSCはパートナー企業であるDDI社から提供を受けました。

また、「信頼性」として示された数値の見方ですが、この数値は母集団として十分な人数を評価したとき、その評価結果と実際とが一致する確率をあらわす相関係数です。完全に一致する場合――すべての内定者に対する評価と、入社後に判明した実際の人物像が一致した場合、有り体にいえば“サプライズ社員”の流入がゼロの場合が「1」で、「0.5」以上は信頼性がかなり高いとされています。

この表で見ると、「アセスメントセンター」での評価が最も信頼性が高く、次いで「行動面接」「実技試験」「能力検査」の順です。そして、最も信頼性の低い評価手法が「従来方式の面接」となっていますが、これはこれまでご紹介してきた「思いこみ・決めつけ」評価がまかり通っている面接方法だと考えてください。

「アセスメントセンター」というのは、先にも少し紹介しましたが、主に管理職になる人の適性を評価したり、さらには次世代リーダーの候補者がリーダーたるべき能力を備えもっているかを評価・選別するための審査方法(その機能を担う組織や施設もあらわす)のことです。

私たちMSCのアセスメントセンターでは、中でも特にエグゼクティブの審査を行う場合、役員室と同様の個室を設けて対象者にはその準備された個室に入ってもらい、そこで役員が遭遇するさまざまな課題を与えてその解決に取り組んでもらうという、一種の役員疑似体験を実施しています。

アセスメントの期間は1~2日。そこにおける評価対象者の言動をすべてモニターし、その行動情報に基づいて複数のアセスメントの専門家が評価するわけです。いわば評価のプロが観察した大量の行動情報をもとに審査するわけですから、その信頼性が高いのは当然といえるでしょう。

表にある「行動面接」というのは、本マガジンでいう「コンピテンシー面接」のことです。なお「実技試験」は、たとえば経理実務やパソコンのスキルチェック、ここにある「能力検査」は知能・知力のテストだとイメージしてください。

いずれにしろ、ここでご理解願いたいのは、「アセスメントセンター」にしろ「行動面接」にしろ、そして「実技試験」をも含めて、対象者の「行動事実」を評価のための情報とする手法は高い信頼性をもっているという事実です。そして、その対極にある「従来方式の面接」が最もあてにならない(偶然の成功はあっても、それは賭けに類する)という事実も、ここで再確認していただきたいと思います。

まさに、「コンピテンシー面接」は、ビジネスにおいて重要な採用を、「偶然」に頼るのではなく、「科学的」に転換するものであり、採用精度を高めることにつながります。この転換が“サプライズ社員”による浸蝕から組織を守り、組織の活性を維持し続けるための採用方法、採用戦略見直しの方向性なのです。

11.転職という行動は繰り返されるのか?

話が少しそれますが、人事部門の方からよく質問されることですので、ここで触れておきたいと思います。

採用担当者が中途採用で懸念することの一つは、転職回数の多い応募者に対する「行動は繰り返される」なのです。ことに社員の離職率の高い会社では、このことに気をつかうのは当然といえば当然でしょう。

にもかかわらず、面接の場でそれを確認するための質問は、「なぜ会社を辞めたのですか」といった観念的質問(理由を質す質問)に終始しているのが現状のようです。

面接官の一人として中途採用の面接に立ち会ったある役員(副社長)の方が、こんなことをこぼしていらっしゃいました。

「応募者の中に、転職をたくさんしている男性かいたんです。履歴書を見ると、だいたい1年半くらいで会社を変わっていましたね。でも、即戦力を期待するということでは履歴の内容自体はとてもいいし、人柄もいい。もちろん転職の理由を尋ねましたが、これといって本人の責に帰すようなことは見あたりませんでした。

でも、転職の多さはずっと引っかかっていたので、面接の最後のほうではっきりと「ずいぶん会社を移っているようですが、ウチに入社した場合は大丈夫ですか?』と聞いてみたんです。すると、力強い声で『大丈夫です。ここが最後だと思っています』と。この言葉にほだされてというか、信用して採用したんですが、1年ももたずに辞めましたよ。しかも、担当した仕事を途中でほっぽりだして」

転職ということについては、けっして「転職の多い人を採用するのはよくない」といっているわけではありません。転職にはそれぞれ相応の理由があるものですし、先の役員の言葉にもあったように、本人の責に帰せられない事由も多々あるわけです。

重要なことは、こうした場合「転職の理由」だけを尋ねるのではなく、やはり「転職に至ったプロセスやそれまでの行動」こそ聞きだすべきだ、ということにほかなりません。

たとえば転職の理由が「部門の統廃合による専門能力発揮の場の縮小」(会社側の理由)や「部門の上司に自分の意見が受け容れられなかった」(自分の側の理由)であったとして、そうした現実の改善や打開のためにどのような努力をしたか、あるいはしなかったのか、ということを面接では尋ねるべきでしょう。

その回答の中にこそ、応募者の行動特性が浮かび上がってくるはずです。そして「繰り返される」のは、けっして転職という現象自体ではなく、転職に至ったその人の行動特性なのです。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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