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コンビテンシー面接の活用術Vol.9(2/4)

4.新卒採用でも「個を生かした配属」が可能

一方、マスで採用してそのあと配属先を決める新卒者採用の場合、面接で確認するコンピテンシーは会社全体に共通する能力要件ですから、そこで得られたコンピテンシー情報(さまざまな能力要件にかかわる情報)がただちに配属先選定に役立つことはありません。ただし、次のような活用は大いに考えていいでしょう。

たとえば、配属先候補の中から「配属すべきでない部署」あるいは「組み合わせるべきでない上司」を消去するのに役立てるのです。


またたとえば、統合会議で確認できたコンピテンシーから判断すると、Cさんは会社の必須コンピテンシーである「目標を達成するためにとことん頑張る」に合致した強い行動特性をもっていて、そのほかの能力要件も高いレベルで満たしていることから、将来のリーダーとして期待できる人材だとしましょう。他方、誰に対しても自己主張をわりと強めに行ってきたという明確な行動事実も確認されています

さて、Cさんの初任配属先として複数の部門が考えられますが、その中の一つ営業部は古くからある商品の販売部門。当該商品を旧来のルートに旧来のやり方で流通させ、毎年収支トントンの事業を続けているところです。したがってCさんを配属しても「とことん頑張る」に足るだけの高い目標を設定することができません。したがって候補から消去します。

また、他の事業部も候補部門に挙げられますが、その中の○○課には古参のワンマン課長がいるため、自己主張の強いCさんを配属すれば上司と衝突するのは必至です。ですから○○課も消去。さらに△△部も~という理由でCさんがつぶされかねません。したがって却下……。

というように、Cさんのコンピテンシーや行動特性が面接・評価を通じてきちんと把握されていれば、それと相容れない配属先を特定し、そこには配属しない、という判断ができるわけです。

もちろん、消去法のためだけに役立つということではありません。あらかじめ配属先を決めていない新入社員であっても、たとえばDさんの「営業職としてのある特定のコンピテンシー」が秀でていることがわかれば、商品特性や営業スタイルから見て、Dさんの能力や行動様式が最も生かせる営業部門に配属するのが、本人および組織にとっていいことなのはいうまでもありません

このように、マスで採用しても「個の特性を生かした配属ができる」ことが、「コンピテンシー面接」のよさだといえるでしょう。「元気で明るくてやる気もありそうだから、とりあえず採っておこう」ということではないのですから、計画性をもって採用~研修~配属が行えるのです。

現に採用後の新入社員に対して、一人ひとりにあわせた研修プラン・教育プランを立案して実施している会社もあります。

5.部下の評価も「印象・主観・中庸」が主流?

さて、会社の中で「コンピテンシー面接」あるいは「コンピテンシーを活用した人材評価」の考え方や手法が最も広く活用されているのは、採用を除くと「人事考課」においてでしょう(「面接」だけにかぎるわけではないので以下「コンピテンシー評価」ということにします)。とはいえ、これをとり入れている会社は、日本企業全体の中ではまだまだ少数派かもしれません。

ただ、目標管理制度を実施しているほとんどの企業では、期末の報告書に「目標・達成度合い(%)・その理由」を書かせるだけでなく、「目標達成のための行動事実」を具体的に記すよう指示しています。目標管理制度を評価に連動させるには、業績結果だけではなく行動事実(プロセス)の記載が必要であることに、企業は早くから認識していたといえるでしょう。

もちろん、私たちが提唱するコンピテンシー評価を用いなくても、多くの企業は合理性や納得性の高い方法をそれぞれ工夫して人事考課を進めています。

ここで、コンピテンシー評価を活用するメリットを考えると、「マネージャーは、今まで以上に部下の仕事ぶり(行動)を意識して観察するようになる」、「部下への関心が高まり、部下のプロフィールを把握しようとする」ということになります。

私が、コンピテンシーをマネージャーの有効なツールとして活用していただきたいと特に思うのは、部下に対する上司の印象評価や主観評価を見聞きしたときです

印象評価や主観がどのようなものかは、ここで私がいちいち説明しなくても、企業組織に属している方ならおわかりでしょう。まだまだこうした評価が、日本企業では主流だといえます。

印象評価や主観以外にも、いわゆる「中庸評価」を改善する必要を感じます。5段階評価でいえば「とりあえず、3」という評価、といったらいいでしょうか。

こうした評価をしてしまう理由には、「当たり障りがないから」というケースと「部下に嫌われたくないから」というケースの二つがあるようです。

後者は「本当は2なんだけど、2にして理由を聞かれたら答えるのが面倒だし、自分はこの程度にしか評価されていなかったのかって、A(部下)の機嫌を悪くするのはイヤだ」という心理によるようです。こうした評価では、「本当は3」が4になり、「本当は4」が5になりというぐあいに、評点のインフレが起きてしまうでしょう。

こうしたインフレ評価は、ふさわしくない人材の昇進昇格につながる一方、上司の好き嫌いで低い評価をもらった部下は、その会社における人生が変わるなど、個人・組織双方にとって大きなマイナスを生みます。これでは何のために多大の労力を費やして評価制度をつくり、また上司は貴重な時問を割いて評価しているのかがわかりません。

6.部下の育成・指導に活用する

人事考課を行う目的(その評価結果の用途)は、昇進昇格(または降格)、給与査定、ボーナス査定などですが(多くの企業では現在、ボーナスの査定を人事考課とは切り離し業績評価に基づいて行っていますが)、このとき忘れてはならないのは「部下の育成・指導」という観点です。

上司が部下の人事考課を行うとき、かつては1年間(または半年間)の部下の働きぶりを思い出しながら評価していましたが、これでは結局、印象評価や主観評価になりがちで、ハロー効果の弊害も否めません。ですから現在では大多数の企業が、評価をする前に期首に掲げた目標に沿って、上司が部下からヒアリングする方法をとっています。

このとき上司が、行動質問を主とした「コンピテンシー面接」の手法をつかって部下の行動事実を引き出すようにすれば、そこから得られた行動情報が人事考課に、そして今後の育成・指導にも役立つわけです。そして、もちろん、部下自身は自分の仕事のやり方をじっくりと振り返ることができるでしょう。

たとえば、「この目標が達成できたのは、新規のA社に猛烈なアタックをかけたからです」という部下からの説明に対し、「そのアタックで効果的だった行動だったと君が思っているものを、具体的にいくつか教えてくれる?」というような質問になるでしょうか。

そして、そこで収集した行動情報から、

○部下にはどのような行動特性があるか。
○その行動特性にあらわれた能力の中で伸ばすべきものは何で、改善すべきは何か。

ということが把握できます。上司はそのうえでフィードバック、アドバイスを与え、部下の能力開発につなげていくというのが、コンピテンシー評価を活用した育成・指導の基本的な考え方です。実際、こうした方法を実践し、成果に結びつけている企業が何社もあります。

ことに現在は地方営業所などに所長(管理職)を置かず、本社からのいわば遠隔操作で営業担当者が動くシステムをとっている会社が増えています。この場合、本社にいる組織上の上司は、営業所からあがってくるアップデートな数字で業績は見えても、部下の実際の動きはなかなか見えません。

こういう上司と部下とのあいだでこそ、インタビュー(コンピテンシー面接)を定期的に行っていただきたいと思います。実際の行動は見ていないけれど、インタビュー時の行動質問によって部下の行動特性は手に取るようにわかる。それがコンピテンシー評価の優れた利点といえるでしょう。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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🔵会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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