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お昼寝の次くらいに文章を書くことが好き。自分をお菓子に例えるとマシュマロ。来世は人魚に…

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お昼寝の次くらいに文章を書くことが好き。自分をお菓子に例えるとマシュマロ。来世は人魚になってフォークで髪を梳かしたい。サイコパステストを受けると何故か高確率でサイコパス解答を引き当ててしまう平和主義。不定期でも更新するのが目標。

最近の記事

お人好しな依頼⑭【エピローグ】

 ウメカが僕たちの事務所を訪ねてきたのはそれから少ししたときのことだった。やたらと急いでいるらしく、ドアから顔を覗かせると挨拶もそこそこに口早に話し始めた。 「下にタクシーを待たせてるんです。だからあまり長居はできないわ。でも、ひと言お礼を言いたくて」 「どこか行くんですか?」 「ええ。拠点をフランスに移そうと思いまして。この足で空港に向かうところなんです」 「そんな急に?」 ルイくんが驚きの声をあげた。 「有名人だった兄の死に私の元恋人が関わってるとなれば、メディアからした

    • お人好しな依頼⑬【不幸者の幸い(3/3)】

      「ひとつだけどうしてもわからないことがあります」 「何でしょう?」 「どうして僕たちだったんですか? 他にも探偵はたくさんいるでしょうに。それにたとえチサトさんの初恋の人は見抜けても、アタルさんの犯行には気づかなかったかもしれないのに。そのときはアタルさんに遺産を全て渡す可能性だってあったんですよ」 「……そうね、これは正直言って賭けでした。でも私には勝算がある賭けだったわ。是枝さんを選んだ理由ね。まずひとつめは、近くに私を見守ってくれる協力者が欲しかったの。アタルはなりふり

      • お人好しな依頼⑫【不幸者の幸い(2/3)】

        「え? どうしてオスカー・ワイルドを例に出したんです? 何か理由があるんですか?」 「ワイルドは同性愛者であることが原因で投獄された経歴を持つ人物だ。同じように周りから色眼鏡で見られたことがあるだろうチサトさんを、ウメカさんはワイルドと重ねて見せた。ウメカさんからしてみたら、チサトさんの言葉を聞いて僕がどんな推理をするかわからない。ひょっとしたら昔の恋人である、あの三人の誰かを『この人が初恋の人です!』と自信満々に言い放つかもしれない。だからこそ先にある程度導く必要があったん

        • お人好しな依頼⑪【不幸者の幸い(1/3)】

           「いやあ、しかし無事解決して良かったですね」 ルイくんがこの言葉を口にするのは一体何度目だろう。あれから数日間、僕たちはまるで大冒険を終えたかのような充実感を胸に暮らしていた。不倫の証拠を撮る仕事でもなく、有閑マダムの猫ちゃんを探す仕事でもない、なんと殺人事件の犯人逮捕に一役買ったのだ。久しぶりに世間様の役に立った気がしないでもない。しかし僕にはまだいくつか気になる点がある。僕の心の中を読んだかのように、ルイくんは声をかけてきた。 「ウメカさん、大丈夫ですかね? 様子を見に

        お人好しな依頼⑭【エピローグ】

          お人好しな依頼⑩【結論としては(2/2)】

          「答えたくありませんか? それなら質問を変えましょうか。一月二十七日、あなたはチサトさんと原代山に行ったんじゃないですか?」 「い、一体何言ってるんですか」 「行ってないんですか? おかしいな。チサトさんの日記に書いてあったんですよ。アタルさんと会う予定だ、自分は殺されるかもしれない、ってね」 「何の話ですか? そんなことどこに書いてあるんですか。オレが見る限りそんな……」 アタルは口をつぐんだ。それ以上喋ったらボロが出ると思ったのだろうか。 「……そんなこと書いてなかったか

          お人好しな依頼⑩【結論としては(2/2)】

          お人好しな依頼⑨【結論としては(1/2)】

           「一体何だって言うんですか」 車を走らせ始めると、ルイくんが戸惑いの表情で僕に問いかけた。しかし今は頭が驚くほどの勢いで回転している。説明したいが考えを言語化するのももどかしい。 「あとで説明する」 ひと言だけ答えると、ルイくんはそれ以上追及してこなかった。  ウメカの家に着くと何度もインターホンを鳴らした。なかなか出てこない。まさか僕の依頼人に何かあったわけじゃないだろうな。嫌な想像に駆り立てられ、慌てて「ウメカさん!」と叫びながらドアをドンドン叩いた。少しすると鍵が開

          お人好しな依頼⑨【結論としては(1/2)】

          お人好しな依頼⑧【探偵たちの考察】

           それから数日かけて、僕たちはウメカから手渡された資料に何度も目を通した。 「先輩どうですか? 何か手がかりはありました?」 「いや……全くだね。今回の依頼は本当に難しいよ。ホテルから出てきた不倫カップルをスマホでパシャパシャ撮るだけじゃダメかねえ、僕の仕事……」 僕は眉間を押さえながら天を仰いだ。まったく考えがまとまらない。というか、ある一定のところから進まない。 「コーヒー淹れましょうね」 「ありがとう」 今日だけで何杯のコーヒーを飲んだだろう。なんだか随分と疲れた。眼鏡

          お人好しな依頼⑧【探偵たちの考察】

          お人好しな依頼⑦【相田トモカ】

           僕たちが最後に訪れたのは、高校の時に付き合っていたらしい相田トモカの家だった。 「『週刊ゴーイング』の岩倉と申します。本日はよろしくお願いします」 この偽名も板についてきた感じがするが、使用するのは今回で最後。そう考えると少しだけ寂しい。三泊四日の海外旅行で現地通貨に慣れたころに帰国しなければいけない感覚と似ている。日常に戻ってしまえば最早どうでもいいことになるのだか、その瞬間だけはほんのちょっぴりセンチメンタルな気分になるのだ。 「ご丁寧にどうも。おかけください」 和やか

          お人好しな依頼⑦【相田トモカ】

          お人好しな依頼⑥【八島ナオ】

           「センリくんねー。山の事故でしょ? 残念だったよね。これからもっと活躍しただろうに……。ファンの方も悲しいだろうね」 僕たちが二人目の候補として家を訪れた八島ナオは、すでに結婚して幼い子どもがいる女性だった。資料としてもらった写真には正にギャルといった出立ちで写っていたが、今となっては見る影もない。外見は年相応の落ち着いた印象の女性に見える。資料を見ていなかったら「昔ギャルだったんですよ」と言われても、にわかには信じられないだろう。 「センリくん?」 聞き慣れない僕が聞き返

          お人好しな依頼⑥【八島ナオ】

          お人好しな依頼⑤【前園ヒカル】

           「業界屈指のロマンティストとして知られた作家・藍澤チサトさんの急逝を悼んで、元恋人の方に匿名でインタビューさせていただきたい」と申し込んだ結果、チサトとお付き合いをしていたらしい三人ともからオーケーをもらうことができた。いったい誰が読んでるんだと訊きたくなるようなしみったれた週刊誌なら思いつきそうな企画だろう。企画としては三流どころか五流の補欠くらいだ。しかしこう言っちゃあ悪いが、こんな安っぽい企画にホイホイと二つ返事で協力する方もどうかと思ってしまう。とはいえ今回ばかりは

          お人好しな依頼⑤【前園ヒカル】

          お人好しな依頼④【聞き込みの前に】

           事務所に着くとルイくんが僕に小声で話してきた。 「先輩、ぶっちゃけウメカさんのことどう思います?」 正直なところ、僕は少し見直した。ルイくんもウメカのちょっとした違和感に気づいているのだろう。探偵としての感覚が鍛えられつつあるのかもしれない。ここはルイくんの口から違和感について語らせたいので、ざっくりとした感想に留めることにしてみよう。 「うーん……まあ、うまく言えないけど……ミステリアスな人ではあるよね。ルイくんはどう思う?」 「美人ですよね。でもハッキリ言って対象外です

          お人好しな依頼④【聞き込みの前に】

          お人好しな依頼③【仕事場への来訪】

           自宅を兼ねているウメカの仕事場は、小綺麗に片付けられていた。家事全般をアタルがやっているなら、掃除もアタルの役割なのだろうか。 「いま資料を出しますから、そちらでおかけになって」 ウメカが指し示した先のソファを見て、思わずたじろいだ。僕は革のソファは苦手だ。肌にペタリと張り付くあの感覚がどうにも好きになれないし、独特の匂いがすることもある。しかも手入れも大変だ。別に経済的に手が届かないからと妬んでいるわけでは決してない。とはいえ「苦手だから」と勧めを無視して突っ立っているわ

          お人好しな依頼③【仕事場への来訪】

          お人好しな依頼②【依頼人、来る】

           「今日はシャツを半袖にすべきだったな」 「いや、たぶん夜は冷えますよ。難しい季節ですよね」 「日本の季節はいつだって僕には難しいよ。一年中同じ格好でいられないもんかねえ」 いつものように他愛ない会話をしていると、事務所のドアをノックする音がした。ルイくんがすぐに「はい」と応答してくれて、僕もしぶしぶドアの方を見る。遠慮がちにドアが開かれると、そこに立っていたのは一組の男女だった。男女での来訪者は珍しく、僕は思わず何度か瞬きしてしまった。 「失礼します。突然押しかけてしまって

          お人好しな依頼②【依頼人、来る】

          お人好しな依頼①【プロローグ】

           『……次のニュースです。また山の事故です。原代山にて男性の遺体が発見されました。調べによると亡くなったのは作家の藍澤チサトさんと見られています。警察ではさらに詳しい状況を調べるとともに……』 「藍澤チサト?」 テレビのニュースに驚いたルイくんが大きな声をあげた。 「……誰?」 「知らないんですか? 割と人気のある小説家ですよ」 「いや、知らない」 「デビュー作の『春告草』は超有名でしょ。映画化もされたし。オレ、映画館で三回観てちゃんと三回泣きましたよ。あとは『五月雨のあと

          お人好しな依頼①【プロローグ】