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人間

人間は

交わる

あちらこちらで

ひっそりと 次々と せかせかと 

交わるために あれやこれや理由をつけて

寂しさを埋め合う

それだけの生き物

救い

首はいつもくらい穴の底を覗いており

気がつくと自分もその底に吸い込まれる

そこは誰も居なくて光は遠く頭上に小さく見える

どこからか冷たい風が吹くそこは静かだ

誰も傷つけには来ないし 傷つけることもない

登ろうという気持ちは起きない

あらゆる種類の欲望や愛着を導入しようと試みるが

ここに来る道々に落としている

しばし座り込んで目を閉じる

目を閉じた時にしか感じられない光がある 

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去年の夏の事

去年の夏の事

去年の夏のこと

虻が部屋に入ってきた
虻は次女の首筋を噛み 僕の脛にもとまった
僕は普段は虫を殺さない
払いのける

しかしその日 僕は殺した
殺さなくてもよかった
部屋から追い出してやれば済んだ
しかし 面倒だった
殺してしまった方が手っ取り早いと思った
バチン!と窓ガラスに止まった虻を叩いた
虻は一撃で死に絶え 床にポトリと落ちた
その瞬間 
2歳の息子が僕のもとに走り寄ってきて 
僕を叩い

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なにものにも

なにものにも

「俺」と言っては強くなり

「私」と言って賢くなる

「僕」と言っては愛されて

「自分」と言って一人立つ

病気になると分かる

私になり 俺になり 僕になり 自分になり

脱出を図る

枕元のスマホに手を伸ばし

何物かになろうとする人間がひとり

布団の中にいる

写真:直井保彦

帰る場所(2017年3月25日)

帰る場所(2017年3月25日)

寄り道をした

子どもたちと屋上から夕陽を見た

その時 その時間の中に 幼い自分の姿を見た

幼いころ 祖父は僕を線路沿いまで連れて行き 

電車が通るのを見せてくれた

僕は電車が見たかったのだろうか

そういう記憶はない

しかし 僕は祖父から言われれば いつも見に行ったように思う

そして その時間は 帰る場所のように

心の隅にあったように思う

幼稚園の帰り道

「屋上に行きたい」

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詩の紹介(2017年4月12日)

詩の紹介(2017年4月12日)

球根  塔和子

埋められた球根は

土と水と太陽にいざなわれて

のっぴきならないばくはつを遂げる

私はいま

私をとりまいている

土の手ざわり

水の手ざわり

陽のてざわりをたしかめたしかめ

土の中にある球根

全部をかけて

花になるのを息をひそめて待つもの

どんなに

気をもんでももまなくても

来るだろうその日

私は

うまく咲くことが出来るか出来ないか

いらざる知恵にさい

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黒い点(2017年5月18日 )

黒い点(2017年5月18日 )

黒い点を見ている

あれはゴミだろうか

何かのシミだろうか

僕は横を通り過ぎる

糸くずの固まったものだ

拾う事は出来る

さっと拾ってゴミ箱に入れることは

何の造作もないことだ

だけど なぜか それができない

視界に入れながら

何度もそこを行きすぎる

ここは大浴場の脱衣所で

僕は清掃員

それを拾う事は 僕の仕事で

何の造作もないことだ

だけど なぜか それができない

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鳴き方を知っている(2017年7月17日)

鳴き方を知っている(2017年7月17日)

頭が痛い。

せっかくの休日を、一日寝て過ごした。

もう2~3週間、ぐずぐずと体調が悪い。

昨日はなんとか持ち堪えたが、今日はダメだった。

目覚めの瞬間に、ダメなのが分かった。

気がダメなのだ。

先週、九州は豪雨で、大きな被害があった。

朝、テレビをつけると、床下浸水の映像が流れていた。

「あ、やばい」そう思って、チャンネルを変えたが、どこのチャンネルもそのニュースで、涙を止めるのに

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それだけ(2017年11月5日)

それだけ(2017年11月5日)

いつも玄関先でやる七輪を、今日は、道路側に出してみた。
通り掛かりの人が、話していったり、炭を持ってきてくれたり、芋を持ってきてくれたり。
たくさん笑顔が通っていった。
子どもたちが、芋をくれたご近所さんの家に、お返しを届けたいと言い出し、届けに行った。
七輪を道路側に出すだけ。
それだけ。

鬼になる

「鬼になる気はあるの?」

唐突に言われ 僕は箸を置いた。

平和な朝食中に苦難はやってきたのだ。

人生には鬼にならなければならん時もあるのだろうと 腹を括り、妻を見据えた。

「何があった」

そう聞くと。

「ゆいが節分の豆まき楽しみにしてるの」と言うのだ。

そこで私は、心を鬼にして

「人に豆を投げつけるとは何ごとだ」

と応えたのだ。

そうまでして

そうまでして自分を守らなければならないのだ

在日だ、安部だと絶対悪を作り上げてまで

レイプを告発した勇気ある女性を誹謗中傷してまで

そうまでして自分を肯定しなければ、自分が社会の中の意味ある一人だと思えないのだ

結婚できない自分

社会的地位が低い自分

本当はどんな自分でもいいはずなのに

みじめな思いをしなければならないのは、社会の底を流れるみんなの意識だから

女性専用車両に反対して

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優しさの行方-娘の入院-

ミキの入院。病院に泊まっている。

エアコンの無い家から来たので、病院なのに凍死しそうだ。

同室のおばあちゃんは、86歳。1人ぼっち。

ミキのことを、いい子だ、いい子だと何度も言う。ミキの不安を和らげてくれる。

ミキは耳の手術前で、あまり聞こえてないはずだが、おばあちゃんの話にうなずいたりしている。

やさしい子だ。

僕も、おばあちゃんの苦労話を、じっくり聞いてみたりする。

夜中、廊下で

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