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香りが呼び起こす記憶に、僕はウィンクせざるを得ない

我が町湘南は、天気が良いとそこいらからお肉の焼けた香りがするものだ。皆がゆっくり時間を味わいBBQなど休日を楽しんでいる。

そんなお肉の香りと共に、僕にも香り漂う青春があったものだ。

それは、人がどう思うとも、キレイなバランスだったし、僕には香り以上に消えない思い出だ。

人の記憶と香りはリンクする。

誰が言ったのかわからないなら、僕が言ったのだろう。

それは20年以上も前、今は無き場所に可愛い子がいっぱいバイトしている焼肉屋さんがありました。

フラフラフフフの毎日を過ごしていた僕は、少しでも可愛い子に近づきたいと思い、バイトの面接に行きました。

一緒に働けばロマンス。
一緒に働けばバカンス。

当時あふれでる爽やかさと清純漂う香りを抑える事は到底無理でして。明日にでも来なさいと言われました。

気分は上々。
運気も上々。

なんなら鼻歌さえ口ずさめそうで、そのメロディは天下に名が残りそうなくらいの才能だった。残念なのは、自分の才能に気付かないでそのまま記録せずに現在まで来てしまった事だ。

意気揚々とバイト先に出向いて気付いた。
そう。渡された制服に袖を通した時に気付いたんだ。

これ厨房じゃん。
まさか、まさか。

半ば半信半疑だが、ちょっと冗談ぽく尋ねた。

「すみません。もしかして私は厨房係ですか?」

って恰幅がいい男の人に訪ねました。

「△○※◎」

お、おう。

「えっ。すみません。ちょっと何言ってるかわからないです」

「△○※◎」

Oh!日本語じゃない。

その瞬間。電光石火で辞めようかと思ったけれど、可愛い子達の視線が僕に興味を抱いていたので、意を決し、コニシたるものすぐに辞めてはならぬと続けることにした。

ならぬ堪忍するが堪忍。

必死で働くうちに、人間関係というものが見えてくる。どうやらお国はミャンマーの方々でトップに「ヤン」さん、その下に「タイ」さん。そして一番下に僕コニシの階級が存在するらしく。僕はもっぱらお皿洗う係。

これでもかと運ばれてくる食器に少しイライラしながら洗っていると、ホール女子からの視線を感じる。僕はせめてものアピールでキレイな円を描くようにお皿を洗った。

厨房から見えるホールは、それはそれは極楽かと思うくらい可愛い子達がキャッキャウフフしている。

しかもホールで他のアルバイト男子と女子で合コンとかしている話しが聞こえてくる。

なぜ。僕だけ厨房なのだ。
なぜ僕だけコニシなのだ。

NAZE。

一番階級が下の僕は、どうやらホールが見えないお皿洗いを言いつけられていた。

女の子とお話しするのは、「ヤン」さん。賄いご飯も物凄く女の子にはサービスする。

僕がたまに女の子に話し掛けられるとあからさまにイライラし、僕の分からない言語で文句を言ってくる。

そんな時に「タイ」さんがめっちゃ優しいウィンク😉を僕にしてくる。

「タイ」さんは、「ヤン」さんにいつも怒られていた。

僕は、それはやっぱり「タイ」さんと仲良くなっていく。

可愛い子が多い焼肉屋さんは、入れ替わりも激しく、後から入る可愛い子達に、私は日本人に思われていたのかいないのか、単語で話し掛けられていた。

「コニシ」「コニシ」

そりゃコニシだけども。

どこか笑われながら。

僕は、日本にいながらにして、アルバイト中、外国の方と一緒に働く時間が長く、外国で働くとこんな感じなのか。こういう扱いになるのかと、ひどく感じたのである。

そこには、可愛い可愛いと感じていた女の子を可愛いと感じる自分では、無くなっていた。

ある日「タイ」さんがひどく怒られてお店を出て行ってしまった。その日の厨房は大変で、「ヤン」さんはずっと怒鳴っているし、うまく回らなかった。

「タイ」さんていっぱい仕事してたんだなぁ。とかすごく感じた。

次の日、「タイ」さんは普通に仕事に来た。「ヤン」さんとは、話さない。言葉が通じない僕には特に支障はないが、なんとなく気まずい雰囲気を演技していた。

休憩時間に「タイ」さんから話し掛けられた。

何を言ってるかは分からない。ただ通じた。間違いなくこう言った。

「コニシ、彼女いるのか?」

私は答えた。

「いない」

「タイ」さんは、優しくウィンク😉して私に小包をくれた。

コニシ17歳。ミャンマー人の「タイ」さんより渡されたビデオテープにより、「裏」の世界に初上陸する。

裏の喜びを知った僕は、表の世界に戻るのを苦労した。

僕は「タイ」さんに感謝を伝える事にした。

ကျေးဇူးတင်ပါတယ်။ ဒါဟာ မယုံနိုင်စရာ ကမ္ဘာတစ်ခုပါပဲ။

(ありがとう。信じられない世界だった)

と。

意気揚々とバイト先に出勤した僕に待ち受けていたものは、

「タイ」さんの退社だった。

「タイ」さんの優しいウィンク😉は、もう見れなかった。

ただ私には焼き付けられていて、今でもはっきりビデオの内容と一緒に思い出す。

なんのはなしですか

キレイなバランスで世界の真実が見え、人の優しさが人を成長させるはなし。

私のウィンク😉は、ミャンマー由来🎵

お肉の香りの引力に浮かび上がる思い出を胸に、僕は今日も湘南の海を歩くフリをする。

記憶と香りは、僕の中枢に裏と表の境界線を曖昧にしてくれている。

コニシ 木ノ子愛を語る


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