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[小説]人肉食が当たり前のどこかの世界
「あのー、すいません、アカチの漬物ってまだあります?」
がやがやとした店内で背筋を伸ばして店員に声をかけると、白くてなまめかしい首をぐりんと回して、つやっとした黄色の猫目が振り返った。
「ごめんなさい、もう今日は無いんですよ」
申し訳なさそうに3つ目の腕をうねうねさせて、店員が謝る。あらら、と私は残念な心持ちで席に向き直ると、友人に「アカチって何なの?」と聞かれた。
「知らない?人間の幼児
[小説]僕らは皆、生きていく
◯PART-S 彼女の場合
はっ、はっ、はっ。
夜、暗闇の中眠れなくなる。布団を頭までかぶり、震えてうずくまる。フラッシュバック。お前なんかいらない。いらない。怒号のような声が頭の中を飛び交う。
指先まで冷え切った手でスマホを掴んだ。
12月18日、火曜日、2:33。
浩輔とセンパイのグループLINEを開く。一番最後の投稿は、日曜に3人で行ったラーメン屋の写真。少し心が弛緩する。
ためらいな
[小説]それぞれのかたち-TYPE A
私の彼氏は恋愛体質だ。
彼-洸(こう)-が恋に落ちると、すぐにわかる。
1.「ワー」とか「やったー」とか、急にうるさくなる
2.服装の雰囲気が少し変わる
3.新しい趣味が増える
4.会話の中に、好きな人の名前が頻出する
…等々。
いま好きな人は、どうやら「SNSの相互フォロワーの、"いちじく"さん」らしい。
洸はスマホを手放さなくなり、「いちじくさんから返事きた!」「いちじ
[小説]色情、浮ついた心、あるいは愛。
左にスワイプして、NOPE、NOPE、NOPE、NOPE…。
男たちのたくさんの顔写真と短いプロフィール文章を見て、その作業を繰り返す。
どれもこれもピンとこない。彼らの精一杯に"盛った"写真も、文章も、見飽きてしまった。
もう、マッチングアプリなんてやめてしまおうか。
だけど止めたら、私はどこで男を探せば良いのかーーと、憂鬱になりかけたところで、スワイプする手を止めた。
「32歳、会社員、